環境汚染にもどる
t25203#ミツバチ被害状況と農薬使用規制のない改定養蜂振興法#12-08
【関連記事】記事t22602、記事t24902
記事t24902で、ネオニコチノイド系殺虫剤チアメトキサムを致死量以下投与したミツバチ群では、帰巣本能などに影響が現れたという、フランス研究グループの報告を紹介しましたが、その後、この実験を重視したフランスの農業・食糧大臣は、チアメトキサム製剤(シンジェンタ社製クルーザーOSR)処理のナタネの播種を前にした6月、同剤の認可を取り消しました。ところで、フランスでの研究が投稿されサイエンス誌の同じ号には、イギリスのホワイトホーンらのマルハナバチに対するイミダクロプリド(以下イミダ)の影響に関する研究が掲載されていました。まず、その概要を紹介しましょう。
★イギリスでの研究〜イミダクロプリドが女王蜂数を減少させる
【参考サイト】P. R. Whitehorn et al.:Neonicotinoid Pesticide Reduces Bumble Bee Colony Growth and Queen Production
マルハナバチに対するネオニコチノイド系のイミダの影響を調べるため、2つの異なる濃度のイミダ添加飼料投与群と対照群(開始時は各群24又は25コロニー)について実験が計画されました。蜂群は最初の2週間を実験室で餌を与えて飼育後、フィールドに6週間放飼され、コロニーの生育度合いを毎週観察し、8週後に、繁殖をになう女王蜂の産生数などが調べられました(Science 336,p351)。
実験結果を表1に示します。投与群1は、実際のフィールドでナタネに使用された場合の花粉や蜜に近い濃度で、投与群2はその2倍の濃度です。
表1 マルハナバチに対するイミダクロプリドの影響 (*は中央値)
実験条件 砂糖水+花粉中の 巣重量増加量* 女王蜂
イミダ濃度 5週後 8週後 産生数
対照群 (水のみ添加した) 276g 188g 13.7
イミダ投与群1 0.7μg/kg+6μg/kg 220 120 2
イミダ投与群2 1.4μg/kg+12μg/kg 176 92 1.4
コロニーごとの生育度合いの指標として、巣の重量(ハチ成虫、蜂児、ハチ蝋、蜂の餌を含む)の変化が測定され、コロニー中の女王蜂や働き蜂、雄蜂、蜂児等の数は、実験の終わりに冷凍殺虫したハチを分類して、数えられました。
巣の重量は、実験開始とともに増加し、イミダを投与した最初の2週間の増加率は、対照群も投与群も殆ど変わりがありませんでした。フィールドに開放した3週以後は、対照群が一番高く、投与群1、投与群2の順に増加率は低下しました。重量のピークはいずれも5週後で、その後、いずれの群も低下しました。表に示すように、イミダ投与群の重量の中央値は対照群と比べて、優位に少なく、さなぎの空き室も多くなっていました。
また、女王蜂の産生数は、対照群が13.7でしたが、投与群では、有意に低下し、2以下でした。これらの実験結果、特に、女王蜂の産生数が少ないことは、マルハナバチのコロニーの拡大に影響し、イミダクロプリドが蜂数を減少させることを示唆しています。
★日本でのミツバチ被害は年間8000群
【参考サイト】農水省:農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況についてと詳細情報
日本養蜂協会(旧日本養蜂はちみつ協会):Top Pageと養蜂振興法
改定法、施行について、Q&A
農水省の農薬危被害統計では、ミツバチ被害は、07年と08年は年間2件、09年5件、10年6件で、10年の場合、3、4、5月各1件と8月3件がいずれも防除期間中にミツバチが斃死したとあるだけで、農薬の種類などは不明です。
一方、日本養蜂はちみつ協会の資料によれば、農薬によると考えられるミツバチ被害は、農水省調査に比べ、ケタ違いに多く、08年は被害業者数183/被害群数1万1659、09年は業者数301/群数1万1153でした(記事t22602参照)。10、11年の都道府県別被害状況は、表2の以下のようで、被害群総数では、10年8208、11年8358群で、前2年より、約3000群減少しました。原因農薬は、明確ではありませんが、備考欄には、農薬散布対象となった作物名、ネオニコチノイド散布が報告された事例がある場合はN印、空中散布による例がある場合はH印をつけてあります。
被害群数がこの2年間合計で1000を超えた県は、栃木3293、愛媛3060、岩手1732、広島1120、鹿児島1085、岐阜1083、和歌山1050で、08−9年の2年間に約6000群の被害のあった北海道や約2000群の長崎、約1000群の三重は減少しています。
栃木では、夏場の水田でのカメムシ駆除の無人ヘリコプター空中散布(恐らくネオニコチノイド系殺虫剤)による被害が多いようです。愛媛では、10年にミカン開花時の薬剤散布で、大きな被害がでましたが、11年には、60群と減少しています。
岩手では、キュウリの散布後に被害がでています。岐阜では、3-5月の田起こし時期に、被害がでるのは、水田土壌に残留する農薬のせいではないかとか、田植え後に女王蜂に異常がみられるとの報告もあり。また、ゴルフ場の松枯れ対策の農薬の影響がみられる地区もあるようです。
鹿児島では稲や茶のほか、松くい虫対策の農薬でも被害がでています。
総じて、水稲のカメムシ駆除に夏場に使用されるネオニコチノイド系殺虫剤がミツバチ被害拡大につながっているケースが多いとの印象を受けます。
表2 2010、11年の農薬によるミツバチ被害(日本養蜂はちみつ協会資料より)
県名 10年被害状況 11年被害状況
被害業者数 被害群数 備考 被害業者数 被害群数 備考
北海道 10 ? 稲ほか 9 284 稲ほか
青 森 なし 7 457 稲、リンゴ
岩 手 16 736 稲/大豆/キュウリ 19 996 稲/キュウリ/リンゴ
/リンゴ/そば/とうもろこし
宮 城 2 22 稲 4 154 稲、/果樹/雑草駆除
秋 田 1 20 稲 1 5 稲
県名 10年被害状況 11年被害状況
山 形 なし 22 620 稲/果樹/キュウリ/ナス/畑作物
福 島 5 220 H/稲、アスパラ 2 13 モモ/リンゴ
茨 城 なし 少し
栃 木 16 1170 H/稲 42 2123 H/稲・キャベツ/ブロッコリ
群 馬 不明 なし
埼 玉 5 15 稲 なし
千 葉 6 95 HN/稲/ミカン? なし
東 京 なし なし
神奈川 なし なし
山 梨 3 13 モモ/ブドウ なし
長 野 3 178 稲 1 81 稲
静 岡 1 6 1 2 イチゴ
新 潟 若干 若干 畑作物 各地 不明
富 山 なし 1 16 不明
石 川 なし なし
福 井 なし なし
岐 阜 11 735 不明 7 348 稲/ダイコン
愛 知 なし 5 210 稲
三 重 なし なし
滋 賀 不明 不明
京 都 なし なし
大 阪 なし なし
兵 庫 7 260 稲 なし
奈 良 なし なし
和歌山 37 634 稲/イチコ/ミカン/豆 40 416 イチゴ/ミカン/ウメ/花豆/稲
鳥 取 なし 1 120 H
島 根 なし なし
岡 山 なし なし
広 島 9 100 稲 16 1020
山 口 40 68 稲 1 100 H稲
徳 島 なし なし
香 川 なし なし
愛 媛 70 3000 ミカン 1 60 ミカン
高 知 なし なし
福 岡 8 270 稲/ミカン 4 60 ミカン/稲
佐 賀 1 5 ミカン 5 45 ミカン
長 崎 1 280 稲 1 150 稲/ミカン
熊 本 6 106 ミカン/不明 なし
大 分 なし なし
宮 崎 1 20 茶 2 250 稲・日向夏
鹿児島 20 955 HN稲/茶 4 130 N
沖 縄 1 200 なし
合計 282 8208 208 8352
★農薬使用規制できない養ほう振興法
【参考サイト】S30年の国会審議議事録:国会図書館の会議議事録から、下記を検索してください。
衆・農林水産委員会(S30/06/28)、参・農林水産委員会(S30/06/30)、衆・農林水産委員会(S30/07/14)
、
衆・農林水産委員会(S30/07/20)、衆・農林水産委員会(S30/07/21)、参・農林水産委員会(S30/07/27)
本年6月の国会で、養ほう振興法の改定が決まり、来年から「養蜂振興法」として、施行されることになりました。この改定は、昨今の花粉媒介虫としてのミツバチ不足、その原因のひとつと考えられる農薬によるミツバチ被害に対処するためのものかと思われましたが、驚いたことに、農薬対策は何一つとられていません。
養ほう振興法は、1955年に公布された法律で、ミツバチの伝染病である腐蛆(フソ)病が家畜伝染病予防法で対処されていた状況を改善すべく、養蜂の立場からあらたな法律が必要であるとして、議員立法により制定されました。条文では、養蜂業者が、ミツバチの飼育状況や蜜源を追って巣箱を移動する際の転飼を都道府県知事に届出ることが義務づけられました(罰則あり)。
しかし、当初案の第五条(農薬使用の規制)で『農林大臣は、農薬の使用がみつばちに著しい被害を与えるおそれがあると認めるときは、当該農薬を使用する者に対し、その使用を制限し又はその使用の時期、方法等について必要な措置をとるべきことを命ずることができる。』となっていた条文は残りませんでした。これは、1952年に登録された有機リン剤パラチオンなどの影響でミツバチ被害が増大したため、危機感をいだいいた養蜂業者の意見をとりいれたものですが、食料増産を第一に考えた農政族議員や農水省、農薬業界らとの力関係の中で、提案議員自らが、第五条削除の修正案を出さざる得なかったためです。
このことが、今も農薬被害を生み出していることの伏線となっていると思われます。
★届け出義務はミツバチを飼う者に
今回の改定法の特徴は、第三条で、規制の網を養蜂業者から蜜蜂の飼育を行う者に拡大したことです。ただし書きで、除外条項を農水省省令で定めることになっており、たとえば、趣味で養蜂するひとが、どのような形で認められかについては、今後、議論の余地があると思われます。 一方、都道府県は、新設第八条で、養蜂業者、養蜂業者が組織する団体その他の関係者に対し、情報提供を求めることが可能になり、新設第九条で、養蜂業者を、立ち入り検査する根拠できたことになります。
農水省:「養ほう振興法施行規則の一部を改正する省令案」についての意見・情報の募集(10/04-10/17))と
当グループの意見(下記の農水省の詳細では18番となっています)
農水省のパブコメ結果:概要と詳細。養蜂振興法施行規則省令告示(11月1日官報)
改正養蜂振興法の施行に関するQ&A
★蜜源の保護・増殖に期待せざるを得ない
今回の改定論議で、1955年法案にあった農薬使用の規制の条文が復活することはありませんでした。欧米では、養蜂業者の運動がネオニコチノイド系やフィプロニルなどのミツバチに被害を与える農薬の使用規制を推し進めているのですが、日本の養蜂者は、農水省のいう対策〜農薬使用者と養蜂者の連携を密にし、農薬散布情報を共有し、巣箱を退避するという半世紀以上も前の手法〜をつづけるだけです。
ともあれ、改定法にかろうじて記載されている、第六条第二項 を農薬使用規制にうまく使えないかと思います。条文は、『国及び地方公共団体は、蜜源植物の病害虫の防除及び蜜源植物の増殖に係る活動への支援その他の蜜源植物の保護及び増殖に関し必要な施策を講ずるものとする。』ですが、蜜源や花粉の農薬汚染防止を求める根拠にならないでしょうか。
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作成:2012-10-27