環境汚染にもどる

t25401#線路用地にまくのは、農薬取締法対象外〜滋賀県 近江鉄道沿線で、除草剤による農作物被害#12-10
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【参考サイト】滋賀県:近江鉄道沿線の除草剤の飛散による被害について
       近江鉄道:Top Page路線図安全報告書(2012年)
            お知らせ(8月30日)お知らせ(9月13日)

 農薬危害防止運動中の滋賀県で、近江鉄道株式会社が、7月下旬に、線路用地除草のために散布した除草剤による水稲などの被害が発覚したのは、8月になって間もないころでした。  この事例について、滋賀県と近江鉄道に問い合わせた結果を報告します。

★3種の除草剤が散布された
【参考サイト】草野産業株式会社:Top Page
       カーリット産業株式会社:Top Page鉄道線路

 近江鉄道は、琵琶湖の東側、米原以南の彦根、近江八幡、八日市、多賀、貴生川らを結ぶ4つの路線(全線59.5km)をもつ西武鉄道系の電鉄会社です(地図省略)。

 同社は、毎年、沿線全域にわたり、線路用地の除草のため、除草剤をまいていますが、今年は、7月9日から31日に、全線、側線、駅構内の散布を行なったとのことです。草野産業(本社大阪市)という線路保守会社が受注し、実際に散布を請け負ったのは、 カーリット産業株式会社(本社群馬県渋川市)でした。同社は、爆薬や塩素系漂白剤、除草剤などの化学メーカー日本カーリットの関連会社で、近江鉄道の除草は、2008年、10年にも請け負っています。
 散布した除草剤は、
@ハービック水和剤(住友化学社製、登録番号16794号テブチウロン80.0%):270kg
Aグリホス(ケミノバイ社製、登録番号19276号グリホサートイソプロピルアミン塩41.0%):540L
B理研MCPP液剤(理研グリーン社製、登録番号15339号MCPP50.0%):215L
でした。トラックにつんだ2000Lのタンクに、これら3種の混合希釈液をいれ、道路や踏切など適切な場所に停車して、作業員が数百メートルのホースをひきまわしながら、動力噴霧器で線路用地の雑草の茎葉めがけて、100cc/m2程度を散布したということです。

★被害状況〜水稲約300ha、3.9億円
 近江鉄道に、線路沿線で、水稲の枯れが見られたとの最初の申し出があったのは、8月4日のことです。その後、お盆時期から申し出は急増、同月24日には、会社は、沿線のJAに現状を報告、27日には、県の食の安全推進室、29日に、県農政水産部へも報告しました。翌30日に、記者会見を行い、その後、テレビや新聞などのマスコミ報道となりました。
 この時点での被害申し出は77件で、同社が8月20日に採取した 土壌・稲穂・株 試料のうち、稲穂から散布した除草剤の成分のひとつテブチウロンが最大0.09ppm(玄米における基準値 0.02ppm)検出されたことから、鉄道除草剤による被害であることが、ほぼ確定し、会社も自らの非を認めました。9月13日には、線路用地より概ね100mの区域で被害を受けた農作物の収穫・出荷自粛依頼と被害を受けた地域の把握に取り組んでいるとして、被害対象地区の住所地番/作付け面積/品種等を記載した被害報告を提出するよう広報しました。
 同社は、地域別に補償についての説明会を開催していますが、毎日新聞の報道によれば、『農家から「補償する田畑の範囲の根拠は」「耕作はいつからできるのか」また、会場から「何より1年間手塩にかけ育ててきたものを失うほどつらいことはない」との悲痛な訴えもあった』そうです。
 さらに、近江鉄道は次のようなお詫びをHPに掲載しました。
  滋賀県さまをはじめ、関係機関の皆さまのご指導を受ける中で、残留基準値を
  超える農作物を流通させないことを最優先に、関係の皆さまに収穫の自粛をお
  願いさせていただいております。当社といたしましては、補償につきましても、
  誠意をもって対応させていただいく所存でございますので、ご理解賜りますよ
  うよろしくお願い申し上げます。
彦根市、東近江市、近江八幡市など、5市5町での水稲被害対象面積は、出荷自粛も含め、9月7日現在、約293haで、総補償金額は3.9億円となる見込みだそうです。

★県の玄米調査で、30m先で0.01ppm
 滋賀県が、実施した玄米77検体の残留農薬調査結果は、表−省略−のようで、線路から30mまでの7検体にテブチウロンが0.01から0.04ppm検出されました。なお、グリホサートとMCPPは分析されていません。また、線路から113mまでの水田土壌14検体の分析では、テブチウロンはすべて定量限界の0.01ppm以下であり、玄米残留値が最も高かった水田土壌(除草剤検出限界以下)を用いたコムギとカブの種の発芽試験で対照区との違いがなかったとの報告もありました。
 この水稲調査結果を踏まえ、滋賀県嘉田由紀子知事は、安全宣言ともいうべき、以下のようなコメントをしています。
@除草剤の飛散により被害を受けた農作物をほ場から持ち出して処分されたことや、テブチウロンの半減期が30日〜50日であり、散布後2ヶ月が経過し、土壌中で分解が進み、残留していなかったものと考えられ、今後、農業者は、農作物の作付けを安心して進められる。
Aこれまで作付けされていました近江鉄道沿線の農作物については、十分な安全性を考慮して、鉄道から100mの範囲まで廃棄等の処分を行い、1粒たりとも流通さない取り組みが着実に進められおり、消費者の皆様には安心して近江米をはじめとする滋賀県産の農作物をご利用いただきたい。

★農薬危害発生前の安心・安全対策を
滋賀県は、私たちの質問に対し『今回、散布された場所は農耕地ではなく、農薬取締法の適用は受けないものと認識しています。しかしながら、農作物へ被害が発生したことから、事故の報告を受けて以来、早急な原因究明と、このような事故を再び起こさないよう要請しています。今後は、農業者や消費者が一日も早く安心していただけるよう対策が必要と考えています。』とし、今後の対策として『鉄道線路での除草については、周辺へ除草剤が飛散しないよう使用方法等を見直し、特に、農耕地などに隣接する場所では除草剤に頼らない対策も含め、十分な対策を講じられたいと考えています。』と答えました。
 県がいう除草剤被害は、『近江鉄道沿線で@目視で明らかに被害(葉が黄変している)が発生しているほ場、A 被害は認められないが、近江鉄道と接しているほ場』などで、安心・安全は、農作物被害の事後処理のみの対応であることがわかります。
 沿線には、住宅地などもありますが、人への影響は報告されていません。鉄道除草においても、農薬使用による大気汚染と人の健康被害防止が無視されてはなりません。目標は、事故を起こす前の安心・安全をめざすことであり、その第一は、農薬を出来るだけ使用しないことです。

★住宅地通知強化の視点から
【参考サイト】滋賀県:H24年度農薬危害防止運動実施します実施要領
           農薬アドバイザー制度 設置要綱

 私たちは、農薬飛散や大気汚染防止を軸に、現在、住宅地通知の強化を求めていますが、その要望事項を今回の事例に当てはめてみました(⇒と下線個所)。除草剤被害の背景がよくわかると思います。
@万一、農薬を散布する場合、周辺への周知を徹底する。
 ⇒近江鉄道や散布業者は、農家や地域住民への散布周知をしなかった。
A散布業者が契約する場合、県の研修など参加を義務づける条項をいれる。
 ⇒滋賀県では、農薬取締法が改定された2003年直後は、防除業者に届出を求めていたが、
  その後、届出不要とした。
 ⇒農薬危害防止運動実施の通知は、鉄道会社には知らせていない。
 ⇒同運動に関連して、県は農薬使用者向けの講習会を開催しているが、その案内を、鉄
  道会社など農地以外に農薬を使用する業者や、県外の業者には、出していない(本来な
  ら県外業者に対しては、該当県に指導依頼がなされるはず)。
 ⇒近江鉄道も散布した渋川市の散布業者も県の講習を受けていない。
 ⇒散布業者との契約内容について、滋賀県は近江鉄道に聞いてくれといい、会社は開示
  できないという。
B農薬の現地混用をやめる。
 ⇒線路用地には、混用事例集にない3製剤が現地混合で使用され、1製剤なら0.8g/m2と
  なる除草剤成分を総成分量2g/m2で散布した。このことが作物被害を拡大したとも考え
  られる。

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作成:2012-10-27