農薬の毒性・健康被害にもどる

t25503#農村医学会の報告と厚労省化学災害報告より〜3年間に212人の農薬中毒:グリホサート/MEP/パラコート・ジクワットが多い#12-11
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【参考サイト】農水省:平成23年度農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況について事故詳細


 農村・農民のための医療を中心に活動している日本農村医学会には[農薬中毒部会]があり、全国の研究協力施設、厚生連関連の病院、救急救命センターから農薬中毒の症例について報告を受け、その内容を解析しています。
 このほど、佐久総合病院の永美大志さんほかがまとめた「農薬中毒臨床例全国調査2007〜09年度」の論文が、農村医学会誌61巻1号32-38(2012)に掲載されましたので、その概要を紹介します。

★07〜09年の中毒数は212人
【参考サイト】日本農村医学会:Top Page農薬中毒部会日本農村医学会雑誌
       永美大志ほか:農薬中毒臨床例全国調査 2007〜09年度 (日農医学誌61巻1号)

 農村医学会関連の122施設に「農薬中毒報告用紙」を送り、回答を依頼、その結果、回収率は77〜80%で、48施設から212の中毒事例が集まりました。
【調査結果】次頁の表1〜4(省略)に、調査結果を示します(出典はすべて永美論文)。
 表1では、曝露状況別、診断別の症例数を示しました。自殺が76.9%の163人、散布中等が17.5%の37人(散布前の準備や散布後の立入を含む)でした。症状別では急性中毒が最も多く89.8%の194人でした。
 表2では、曝露状況別、農薬分類別の症例数を示しました。MEP(商品名スミチオンほか)などの有機リン剤が68人、グリホサート(商品名ラウンドアップほか)などのアミノ酸系除草剤が47人、パラコート・ジクワット(商品名プリグロックスほか)などのビピリジウム系除草剤が21人の順でした。
 症例報告の多い成分は、表5のように、グリホサート32人をトップに、MEP,パラコート・ジクワット、グルホシネートの順で、有機リン系のマラチオンとアセフェートが続きました。
 また、自殺に使われた成分別の件数は表6のようで、身近で多用されるグリホサートが30人と一番多いですが、死亡率は毒物指定のあるパラコートが76%と高く、死者全体の44%16人でした。科学警察研究所の中毒死亡者数の調査結果(記事t24102)で多かったメソミル(商品名ランネート)やDDVP、農水省統計で中毒人数の多いクロルピクリンの名前はでてきません。
 論文の著者らは、212人という中毒数は、今回の調査対象病院での外来・入院患者数の規模から考えると、全国レベルの1.7〜3.0%の数値であると推定しています。平均年間で約70人とすると全国では、年間中毒者数は2300〜4100人になると思われます。
この調査と、厚労省人口動態統計(本誌250号)や科学警察研究所(本誌241号)の調査との大きな違いは、後2つの統計が、中毒死者が主であるのに対し、農村医学会の調査は、死亡例が36人の17%で、中毒が圧倒的に多い83%となっていることです。厚労省統計では、年間死亡者数が約500人ですから、中毒者総数は2900人と推定されます。上述の患者数を基にした著者らの見解と一致します。
 しかし、いずれの調査でも、急性中毒が対象になっていますので、農薬の慢性中毒や神経系・免疫系・生殖系への影響を考えるとさらに中毒数は増えることでしょう。

★厚労省の化学労災被害事例
【参考サイト】厚労省:化学物質による労働災害発生事例のHP

 厚労省労働基準局は化学物質により労災被害状況を調べ、その一部を毎年、ホームページで公表しています。発生市町村名や企業名が記載されていないという欠点はありますが、その中には、私たちが報道チェックで知りえなかった農薬による被害も見受けられ、08年度については、その内容を質したこともありました(記事t22002)、ここでは、その後の09-11年の事例について報告します。

【塩素ガスによる被害事例】塩素系漂白及び洗浄剤や食品工場やプールの消毒による塩素ガス発生による中毒事例など、9年に8件18人、10年に3件4人が報告されています。以下に11年の事例の要旨を示します。
 11年8月 塩素ガス 中毒1名
  ビル清掃の業務先の道具保管場所において、酸性のトイレ用洗剤を水道水で
  希釈を行うところ、近くにおかれていた塩素系の漂白剤を混ぜたため、塩素
  ガスが発生し、これを吸引して塩素ガス中毒による急性呼吸不全となった。
   原因等:作業標準不徹底/安全衛生教育不十分 
 11年8月 塩素ガス 中毒1名
   ビルメンテナンスのため、旅館浴室の清掃作業中、塩素系カビ取り剤(亜塩素
  酸ナトリウムを主成分)散布後に酸性洗剤(塩化水素を主成分)を散布したところ、
  発生した塩素ガスを吸引した。すぐに高圧洗浄機で洗い流して作業を続けたが症状
  が悪化、ガス中毒による肺炎・敗血症となった。
   原因等:危険有害性の認識不足/呼吸用保護具未着用 
 11年10月 塩素ガス 中毒4名
  漬物製造工場の野菜洗浄室で清掃中、立て掛けておいた鉄製ガイドが倒れ、塩酸
  タンクと隣接した次亜塩素酸ソーダタンクのバルブに激突・破損した。その際
  バルブの根本が緩み、漏出した塩酸と次亜塩素酸ソーダが混触・反応して塩素ガス
  が発生し、吸引被災した。
   原因等:設備の管理不足/危険有害性の認識不足
 11年12月 塩素ガス 中毒1名 
   特別養護老人ホームの更衣室床面の清掃作業のため、前日に洗剤(次亜塩素酸ナト
    リウム含有)を散布した。当日、床面に溶液が残って塩素臭がしたためデッキブラ
    シで清掃していたところ、ブラシに付着し残っていたと思われる酸性洗剤と反応し
    て塩素ガスが発生し、中毒となった。
    原因等:作業標準不徹底/安全衛生教育不十分 
【農薬関連の被害事例】09年〜11年に発生した事例の要旨を以下に示します。
 09年7月 クロルピクリン 中毒3名
  農機具小屋の解体作業において、農業用トラクターを圧砕機で把持し、屋外へ移動
  させたところ、トラクター座席下に置いてあった農薬(クロルピクリン燻蒸剤)の
  入った容器(ペール缶:20)が落下し、容器の蓋が開き、内部の農薬が漏えい、
  発散したガスを吸入した。
   原因等:設備・機器の点検不足/危険有害性の認識不足 
 2010年 公表された事例がありませんでした。
 11年2月 クロルピクリン 3名目に痛み
  ビル解体工事現場において、基礎部分の解体のために、ドラグショベルを用いて
  掘削作業を行ったところ、現場監督、運転者、作業者が被災、作業を中断し、
  掘削した箇所を埋め戻した。 
   原因等:危険有害性の認識不足 
 11年6月 カーバム 中毒1名
  森林組合の作業員が、キクイムシ防除のためくん蒸剤カーバムを用いて立木くん
  蒸作業を行っていたところ、全身に発疹が現れた。
   原因等:支給されていたゴム手袋とマスクは、息苦しい等の理由から使用してい
       なかった/作業標準未整備/安全衛生教育不十分 
 11年6月 メソミル 中毒1名 
   農業組合法人に勤務する被災者が、畑に農薬粉剤を散布する作業を行っていた
  ところ、めまいがして呼吸が苦しくなったが作業を続けたところ、その後、
  のどの渇きがひどくなり、目眩や息苦しさも悪化し、2回嘔吐し、帰宅後も
  全身の痛みや麻痺が出て、体の自由が利かなくなったことから、救急搬送され
  入院した。
   原因等:呼吸用保護具未着用/安全衛生教育不十分 
 11年7月 塩化水素 中毒1名
   殺菌剤農薬(成分名不明)を生成する途中の段階で、作業員の操作ミスにより塩酸
  ガスが発生・漏洩し、昼食の弁当を配達に来た食堂の従業員が塩酸ガスを吸入した。
  作業者は退避していた。
   原因等: 作業標準不徹底/危険有害性の認識不足 
 11年7月 クロルピクリン26人目の痛み
  クロルピクリン製造プラントにおいて、ポンプの作動不良により、中間タンク上澄
  みや排ガス処理設備のドレン等を留め置く地中ピットから、クロピクリン溶解液10
  〜20Lが漏れていた。すぐにポンプを再起動させ、液位は正常に低下したが、事業場
  内に体調不良を訴えた者はいなかったものの、周辺工場の労働者等26名が異臭と目
  の痛みを訴えた。(高知市南海化学工業での事故で、記事t24003参照) 
   原因等:設備・機器の点検不足
 11年8月 リン化水素 中毒1名
   5つの穀物倉庫をくん蒸するため、被災日の1週間前に燻蒸剤リン化アルミニウムを
  投薬し、朝から車で各倉庫を回って燻蒸剤を回収して、ハッチバック型車両のトラ
  ンクに積み込み移動していたところ、当該燻蒸剤の残渣に未反応のものがあり、分
  解反応を起こして殺虫成分のリン化水素が発生した。これを吸い込み、午後になっ
  て運転中に頭痛、胸部圧迫、呼吸困難等の急性中毒となった。
   原因等: 危険有害性の認識不足/呼吸用保護具未着用 
 11年11月 臭化メチル 中毒1名 
  製材業の工場内土場において、4人の作業者が輸入木材にビニールシート(天幕)を
  被せて臭化メチルによる天幕燻製作業(目張り、投薬作業等)を行ったところ、1
  人が同日夜間、全身麻痺や呼吸困難となった。
   原因等:危険有害性の認識不足/呼吸用保護具未着用

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作成:2013-04-03