環境汚染にもどる

t25701#農薬の水質管理目標設定項目改定案〜分類を見直しても水道水の農薬には規制がない#13-01
【関連記事】記事t21905記事t22604記事t23907記事t24407記事t25204
【参考サイト】厚労省:
       @水質管理目標設定項目の一部改正案及び農薬類の分類見直し案に関する意見の募集について
         目標値改定案農薬分類見直し案(参考1)、見直し後の個別農薬分類と目標値(参考2)
        当グループのパブリックコメント意見厚労省の見解(4/09公表)
        13/03/28発信の厚労省通知水道課の通知・事務連絡の頁)
          「水質基準に関する省令の制定及び水道法施行規則の一部改正等について」の一部改正について別紙
          農薬類の分類の見直しについて別紙1別紙2
          農薬類の分類の見直しに係る補足事項について農薬類の対象農薬リスト 新旧対照表


       A水質管理目標設定項目の一部改正案に関する意見の募集について(2010/09/06)
        当グループの意見厚労省見解
      ・水道水質情報水道水質基準について
      ・水質基準逐次改正検討会
      ・厚生科学審議会生活環境水道部会:第11回資料第12回資料第13回資料
      ・厚生労働科学研究成果データベースで、”飲料水の水質リスク管理”を検索

   環境省;農薬残留対策総合調査関係の頁(2003-2011年度)

 水道の水質基準には50項目があり、基準を超えたものは供給することはできません。農薬については、04年4月から、水質基準ではなく、水の供給停止につながらない30ある「水質管理目標設定項目」の中で、総農薬方式-注1-として、102農薬が管理目標値-注2-を超えないように、任意に監視されることになりました。
    2010年9月に行われた、対象農薬及びその目標値の見直しの際に、私たちは@アセフェートとDEPの目標値の見直し、Aネオニコチノイド系農薬を対象農薬とするなどを求めましたが、実現しませんでした。
 その後、厚生労働科学研究費補助金による「飲料水の水質リスク管理に関する統合的研究」などの結果を踏まえ、水質基準逐次改正検討会や厚生科学審議会生活環境水道部会での論議を経て、昨年12月25日、新たな改定案が提示されパブリックコメント意見募集が実施されました。
 まず、改定内容の要点を以下に示します。

★農薬類の新分類
 現行の「管理目標設定項目」にある対象農薬は、以下のような3つの群に分類されています。そのうちの第1候補群が総農薬方式の分析対象です。
 (a)第1候補群102農薬: 測定方法があり、かつ、国内推定出荷量50t以上あること
  から、水道原水で検出されるおそれがあるもの。ただし、50t未満の農薬であっ
  ても現に検出されていれば第1候補群に含める。
 (b)第2候補群26農薬: 現在のところ水道水に適した測定方法がないが、国内推定
  出荷量が50t以上あることから、測定すれば検出されるおそれがあるもの
 (c)第3候補群78農薬: 国内推定出荷量が50t未満であり、測定しても検出される
  おそれがないもの
  注1:総農薬方式102農薬のうち、水源水域で使用される農薬を選び、分析を行う。
     その結果、得られた個々の農薬の検出値とその目標値との比率の総和
    =Σ(個々の農薬検出値/個々の農薬目標値)が1を超える場合、
    水質管理の目安とする。

  注2:目標値 目標値は、体重53.3kgの成人が一日に、水2Lを飲むとして、ADI
    (食品安全委員会が農薬毒性評価により、定めた一日摂取許容量)の10分の1を超
    えないように算出した農薬濃度で、その計算式は、
    目標値(mg/L)=農薬のADI(mg/kg体重/日)×53.3(kg)×0.1÷2(L/日)
    目標値は、水質汚濁防止に係る登録保留基準とほぼ同等であり、水産動植物の
    被害防止に係る登録保留基準に比べ、大きい場合(43農薬)も小さい場合(32農
    薬)もある。
 今回は、その分類の見直しが提案されました。設定の判断基準は以下のようです。
 【水質基準農薬類】 現行の対象農薬リスト掲載項目であって、その浄水における検出
  状況から、最近3ヵ年継続で目標値の 50%超過地点が1地点以上存在する、又は
  最近5ヵ年の間に目標値超過地点が1地点以上存在するもの 
 【対象農薬リスト掲載農薬類】測定すれば目標値の1%を超えて浄水から検出される
  おそれがあるもの/社会的な要請があるもの 
 【要検討農薬類】 目標値が設定された場合、その1%を超えて浄水から検出されるお
  それがあるものであり、対象農薬リスト掲載項目に準じて知見の収集に努めるもの
 【その他農薬類】 測定しても浄水から検出されるおそれが小さく、検討の優先順位が
  低いもの 
 【除外農薬類 】 現行の対象農薬リストに掲載され、過年度の測定結果、出荷状況
  (登録の失効を含む)等から目標値の1%を超えて検出される蓋然性がないもの 
 農薬の出荷量や水道原水や浄水における検出状況及びADIの評価結果をもとに、現行の農薬の分類が見直され、現リストにある農薬206に加え、新たに37農薬のリスト化が検討されました。
 提案内容は、表のようで、現行の各候補群にある農薬数が新分類でどのように変更されたかを示してあります。
  表 見直し後の分類と農薬数

  現行分類名 検討   対象農薬リス 要検討農薬類 その他農薬類  除外農薬類
        農薬数  ト掲載農薬類
 
  第1候補群   102       87      0        0      14
  第2候補群    26           14           3               5           0
  第3候補群     78           12           2              63           0
  追加農薬類     37            7          11              16           0
  総計          243          120          16              84          14
★対象農薬は120と増えたが
水質基準に該当する農薬はありません。目標値が設定されており、総農薬方式で監視対象となる農薬(表中対象農薬)の数は120となりました。この中には、いくつかの農薬を統合して分析するケースもあります。
 対象農薬には、現行第2、3群から合わせて26、さらに追加農薬7種が加わりましたが、第1群にあった農薬のうち、14農薬が削除されました。無人ヘリコプターによる空中散布面積の多いアゾキシストロビンやフルトラニルも削除されました。

 松枯れや水田で使用され、ミツバチやアカトンボに被害を与え、人の健康への影響も懸念されているネオニコチノイド系7種は、検討の優先順位が低いとされ、対象農薬に含まれていません。井戸水汚染などで人の被害がでたクロルピクリンは目標値がないため要検討となったままです。
 ジチオカーバメート系として。マンゼブやマンネブら7種が統合管理されることになるのはよいとしても、有機リン系やカーバメートなど、同じ作用機構をもつ農薬や食品残留基準でMBC(カルベンダジム)として、統合管理されているチオファネートメチルとベノミルは個別の管理です。

★農薬目標値の見直し
 対象農薬の目標値は、食品安全委員会のADI設定値の変更にともない強化された農薬が3種(アセフェート、ベンフルラリン、グルホシネート)、緩和された農薬が5種(アラクロール、ベンスルフロンメチル、ペンディメタリンと有機リン系のMPP及びPAP)があります。有機リン系のDEPはADIが0.01から0.002mg/kg 体重/日となっているのに、目標値が強化されておらず、ただちに改定すべきです。

★補助成分や不純物は対象外でいいのか
 農薬製剤には、活性成分だけでなく、さまざまの補助成分が添加されています。溶剤や乳化剤は他の用途からも水道水源を汚染しますが、PRTR法(化管法)指定物質の中で、農薬成分としてあげられているものが、27種あることにも留意すべきです。補助成分にどういう化学物質が使われているかを企業秘密としていては、環境汚染源の追及はできません。囲み記事にあげた、ヘキサメチレンテトラミンの事例を教訓にしてもらいたいものです。
 また、記事t25105でとりあげたD−D中の1,2-ジクロロプロパン、エピクロルヒドリンなどの農薬中の不純物が無視されていいわけではありません。

★総農薬方式には反対
 厚労省の改定の実施時期は、本年4月1日からとなっています。
 私たちは、水道水の農薬規制については、現行の総農薬方式には反対で、EU=ヨーロッパ連合で行われている単一農薬濃度で0.0001mg/L=0.1μg/L、総農薬濃度で0.0005mg/L=0.5μg/Lとすべきであるとの主張をしています。これは、多くの農薬が飲料水から検出されること、それらの複合毒性の評価が充分でないという現状を踏まえ、できる限り農薬の摂取を減らすべきだとの観点にたっているからです。
 農薬の登録保留基準には、人の健康への影響防止を目的とした水質汚濁防止に係る登録基準と環境生物への影響防止を目的とした水産動植物の被害防止に係る登録保留基準があり、現在、前者で122農薬、後者で157農薬について基準が設定されています。これらの中から、分析対象となる農薬を増やし、検出されない状況を作り出すこと、すなはち、農薬の使用を出来る限り減らすことが、水道水の農薬汚染防止につながる、最良の方法です。
囲み記事:水質基準超えの原因となったヘキサメチレンテトラミン
【参考サイト】厚労省:
 「水質汚濁防止法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について当グループパブコメ意見

 2012年5月17日から20日かけて、群馬、埼玉、千葉、茨城県にある利根川水系の浄水場で、相次いで、水道中のホルムアルデヒドが基準値0.08mg/Lを超え給水停止となり、約34万世帯が影響を受けました。
 その原因を調べたところ、埼玉県本庄市の化 学メーカー「DOWAハイテック」が、分解するとホルムアルデヒドが生成するヘキ サメチレンテトラミンを含む廃液の処理を群馬県高崎市の「高崎金属工業」に委託したものの、業者は、法的規制のない同液を利根川に流出させたためとわかりました。
 この物質は、ヘキサミンとも呼ばれ、農薬製剤成分でもあります。かっては、ダウサイド「日産」として登録された果実防腐用の殺菌剤でした(1964年1月20日に失効)。 それだけではありません。現在でも登録農薬の補助成分として使用されています。PRTR法届出外排出量推計値によると、2010年度のヘキサミン量は約75トンです。私たちは、ヘキサミンを含有する登録農薬名を明らかにし、製剤ラベルに成分を表示するよう、農水省に求めましたが、回答はありませんでした。

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作成:2013-01-26