食品汚染・残留農薬にもどる

t25802#種苗法の矛盾 種子消毒の農薬使用履歴は、誰も検証しない 〜日本の種の8割が海外採取〜#13-02
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【参考サイト】農水省;種苗法に基づく「指定種苗の表示」が変わります!

 昨年、当グループは農薬まぶしの種にんにくが網の袋で売られていることを知り、農水省に「このような売り方が許されるのかと質問状をだしました。農水省は販売店に立入検査をし、「種苗法に基づいて指導する」と回答してきました(記事t25303記事t25406)。  その後、種子消毒について調べていくうちに、いくつか問題点があることがわかりました。

★環境への影響を考えない種子消毒
 種子消毒は、種に起因する伝染病などを防止するために、種を殺菌剤や殺虫剤などで消毒するものです。その必要性について、潟^キイ種苗の駒田旦さんは、以下のように整理しています。(出典:関東東山病害虫研究会報 第50集(2003))
  @単一作目の連作や大規模集約栽培の増加
  A栽培の分業化による大規模育苗の増加
  B大規模育苗施設での頭上灌漑方式の普及
  C微生物ポピュレーションの希薄な人工土による育苗
  D薬剤防除に依存しにくい社会情勢
  E種子の生産と流通の国際化による,病原体の国境を越えた伝播の可能性の高まり
  F種子伝染病研究の進歩による,一部技術者,生産者の関心の高まりの結果起こる
   風評被害
  G製造物責任の理念の普及。その結果としての種子伝染病の被害に対する補償要求
   (訴訟)の増加
  H不完全な種子消毒
 大規模で、近代的、グローバルな農業が、種子消毒をせざるを得ない状況にしているわけですが、農薬付着の種子が昆虫や野鳥、土壌生物や生態系にどのような影響を及ぼしているか、種子開発業者の視野に入っていない点が気になります。

★種苗法による農薬使用履歴表示
 種子消毒は、種苗法と農薬取締法によって規制されています。
 現在の種苗法は1998年にそれまでの農産種苗法を全面改定して施行されました。この法律の目的は「植物の新品種の保護に関する国際条約」に沿って、新品種を保護し、園芸業界を発展させることとなっています。つまり、品種登録者の知的財産保護が主体ということです。実際、法律の中身は品種登録制度、指定種苗の制定が主なものです。
 指定種苗というのは、穀類、豆類、いも類、野菜などの食用となる作物、飼料作物の全てと、一部の果樹、花卉、芝草で、ほとんどの作物が指定されています。
 指定種苗は以下の表示が義務づけられています。
  1,表示をした種苗業者の氏名又は名
    称及び住所 
  2,種類及び品種(接木した苗木にあっ
    ては、穂木及び台木の種類及び品種) 
  3,生産地 
  4,種子については、採種の年月又は有
    効期限及び発芽率 
  5,数量 
  6,その他農林水産省令で定める事項。
    (農薬の使用履歴)
 6は、2003年の改定農薬取締法施行に伴い、農薬使用履歴(使用した農薬に含有する有効成分の種類、及び使用回数)の表示義務が課せられたため、2005年の改定種苗法で、付け加えられたものです。栽培中だけでなく、種子の段階での農薬使用も使用回数に入り、表示が義務づけられます。種苗法では、農薬使用者は種苗会社になります。

★種子消毒に使用される農薬と毒性
 種子消毒の主な方法には、熱を利用する方法と、農薬を使用する方法とがあります。ここでは、農薬を使用する方法について、見てゆきます。
 農薬は、適用作物、対象病害虫、使用方法、希釈率、使用回数等の適用を守らないと違反になります(罰則がつくのは食用作物のみ)。種子消毒には、粉衣、塗沫、浸漬、種子処理用として登録されているものしか使用できません。2005年の種苗法改訂時に種子などに適用のある農薬が少ないとされ、以下の農薬が大急ぎで適用拡大されました。 すべて殺菌剤です。
 チウラム・チオファネートメチル水和剤/チウラム水和剤/キャブタン水和剤/メタラキシル水和剤/メプロニル水和剤/フルトラニル水和剤

 現在、登録農薬で種子に適用のある農薬は、粉衣=99製剤、塗沫=75製剤、浸漬=198製剤となっています。同じ農薬でも粉衣や塗沫などにダブって登録されているものもあり、この数は絶対数ではありませんが、浸漬が一番多いのは、使用者が簡単に出来るからでしょうか。  以下に10以上の登録製剤(単剤及び混合剤)がある農薬成分名(登録年は最初に製剤登録のあった年で、消毒用とは限らない)とその出荷量(2010年の成分量で、種子消毒以外も含む)をあげます。
  ○ペフラゾエート(ヘルシード)
   21製剤(単剤4、混合剤17)
   登録:1989年、出荷量:10.7t
  ○銅(ボルドー)無機銅
   21製剤(単剤7、混合剤14)
  ○チウラム(チウラム、キヒゲン*)
   魚毒性C類    *鳥害防止用
    18製剤(単剤7、混合剤、11)
   登録:1951年、出荷量:260t 
  ○チオファネートメチル(トップジンM)
   18製剤(単剤10、混合剤8)
   登録:1975年 出荷量296t
  ○イミノクタジン系(ベフラン)
   酢酸塩=5%以上劇物
   18製剤(単剤13、混合剤5)
   登録:酢酸塩は1983年、アルベシル酸塩は1994年、両塩合計出荷量:147.5t
  ○オキソリニック酸(スターナ) 
   13製剤(単剤:2 混合剤:11)
   登録:1989年、出荷量:38.5t
  ○MEP(スミチオン)有機リン系殺虫剤
   魚毒性B類
   13製剤(単剤:13 混合剤:0) 
   登録:1961年、出荷量:565t
  ○ストレプトマイシン(ストマイ)
   抗生物質系殺菌剤
   12製剤(単剤:5 混合剤:7)
    登録:1995年、出荷量:32.8t
  ○フルジオキソニル(セイビアーフ)
    魚毒性:B類
   11剤(単剤:3 混合剤:8)
   登録:1996年、出荷量:17.1t
   ADIの再評価で、それまでの10倍として食品添加物・防黴剤認可 (2011/09)
  ○ベノミル(ベンレート) 魚毒性B類
   3製剤(単剤1、混合剤2) 
    登録:971年、出荷量111t
   アメリカでは、子供の目の障害(先天性無眼症など)の原因となったとして、
      訴訟がおこり、メーカーに支払い命令がでています。2001年に同国では販売中止
      となっています。2012年11月、アメリカの研究者が、ベノミルがパーキンソン病
      を引き起こすメカニズムに関する研究を発表しました。問題の多い農薬です。
 他に、有機リン系では、DMTP、アセフェート、イソキサチオン、ダイアジノンなど。カーバメイト系では、BPMC。ネオニコチノイド系では、イミダクロプリド、チアメトキサム。抗生物質系では、カスガマイシン、バリダマイシンなど多数が登録されています。

★輸入種子の農薬使用はヤミの中
 最近では、国内で流通している種子の8割から9割が海外採取(日本の種を送って海外で採取する)だと言われています。そのような大量の輸入種子は農薬使用履歴に関してはブラックボックスになっています。輸出国で種子にどのような農薬が使用されているか輸入者の種苗会社しか知らないわけです。
 昨年、私たちは農水省へ、輸入種子に関して@農薬で処理された種苗の輸入量、Aそれらはどのように表示されているか、表示が正しいか確認しているかを尋ねました。
 農水省は、豆類などの種子処理されたものは約900トンと貿易統計にある。しかし、野菜、花卉などについては処理された数量は不明と、回答してきました(記事t25406)。  また、「輸入種子を国内で販売する場合は、種苗法に基づく表示義務が課せられます。したがって、輸入種子についても既に国内で流通している種子と同様に検査を行い、不適切な表示があった場合には、該当する種子の販売者に対して指導を行うこととしています。」とも、回答しています。
 野菜、花の種苗メーカーの団体である(社)日本種苗協会は、国内生産量、輸入量、国内流通量についてはわからないとのことです。業界団体が国内の流通量を知らないなどとは信じられません。
 これらの輸入種子にどのような処理がされているか、やはり知らないとのことで、種苗法の農薬使用履歴の表示義務がなおざりにされています。ただし、種苗協会は会員会社に、日本で許可されている農薬を使うよう申し合わせをしているということですが・
 種苗法の表示が正しいか調査する機関に独立行政法人種苗管理センターがあります。ここでは発芽率について調査をしており、農薬については知らないとのことです。「農薬については農薬対策室がやるんじゃないですか」と驚くべき発言でした。
 結局、種子に使用した農薬に関しては表示義務があるだけで、だれもそれが正しいかどうか検証していないということがわかりました。
 ちなみに、海外で使用された農薬について農薬取締法は関知しません。何を使おうが自由なのです。

★市販種子の農薬使用状況の例  −省略−


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作成:2013-04-27