農薬の毒性・健康被害にもどる
t26703#土壌くん蒸剤クロルピクリンの健康被害−青森県五戸町の例では住宅から4〜5mで使用していた#13-11
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【参考サイト】農水省:通知「クロルピクリン剤等の土壌くん蒸剤の適正使用について」
クロルピクリン工業会の安全講習会講演資料
クロルピクリン出荷量の推移(出典:環境省DB) 全国、青森県
土壌くん蒸剤のクロルピクリン(以下「クロピク」)は、有機塩素系の気化しやすい薬剤で、主に土に施用し、土壌中の生物を皆殺しにする農薬です。毒物劇物取締法で劇物に指定され、魚毒性は、水質汚濁性農薬のつぎに強いC類に指定されています。非常に刺激性が強く、危険な農薬なので、今まで数多くの中毒事故が起こっています。私たちは、以前から規制を強化し、住宅地周辺で使用するなと要望してきましたが、農水省は事故が起こる度におざなりな通知を出すだけで過ごしてきました。
クロピクは使用中、使用後、保管中、廃棄の全てに渡って事故を起こしています。
ちなみに、2012年4月から13年3月までのクロピク事故は以下の通りです。これらは急性中毒が主です。
12年1月* 土壌施用後被覆せず、住民3人被害 *農水省報告にあり
12年4月 栃木県で クロピク盗難
12年5月 神奈川県相模原市で、長年放置のクロロピクリン系土壌消毒剤漏洩
12年12月 秋田県男鹿市のゴミ処理施設で、作業員が異臭被害、クロピク系の
疑い
13年2月 大阪府門真市 クロピクで避難騒ぎ
13年3月 千葉県富里町で、クロピク製剤容器の不適切処理で住民8人被害
その他、毎年事故事例が絶えず、01年には鹿児島県加世田市(現南さつま市)の小学校にタバコ畑で使用されたクロピクで児童や教職員92人が被害(記事t12306)、03年には千葉県千葉市で、畑から流入したクロピクで一家6人が被害を受け、その後、化学物質過敏症と診断され、訴訟となりました(05年加害農家に賠償命令、記事t17201)。08年には、クロピク自殺者が搬送された熊本の病院で医療関係者や外来患者54人が被害(記事t20203)、また、07年から08年には、秋田県潟上市と新潟県新潟市で、民家の井戸水が汚染され住民に被害がでました(記事t20004)。
こうした中で、今年6月、青森県五戸町で、男性がクロピクが原因と見られる健康被害を訴えており、県三八地域県民局と五戸町が周辺での聞き取り調査を行っているという報道がありました。
青森県のこの地域は長芋やゴボウなどの産地で、クロピクの使用も多いところです。いったい、どのようなことが起こっているのか、青森県と県三八地域県民局地域農林水産部農業普及振興室(以後「三八局」)に質問しました。以下、両方の回答をまとめてお知らせします。健康被害は以前から何度も起こっていたということがわかります。
★ナガイモ、ゴボウだけじゃない
まず、どのような作物にクロピク含有農薬が使用されているかですが、青森県から、農作物病害虫防除指針に掲載のあるクロピク含有製剤という資料を送ってもらいました。それによると、播種または定植前にきゅうり、トマト、ミニトマト、なす、すいか、メロン、ホウレンソウなど17種類の野菜にクロピクくん蒸剤(99.5%液剤)を使用していいことになっていました。りんごにも使用可です。他に、クロピクくん蒸剤(80.0%液剤)、クロピクくん蒸剤(70.0%製剤)クロピクくん蒸剤(55.0%製剤)、クロピク・D-Dくん蒸剤などがあがっています。長いも、ゴボウだけではありません。
県から数量の回答がなかったので、国立環境研究所のデータベースでクロピクの出荷量を調べてみました。
下図のように1990年代から右肩上がりで出荷量が延びています。2011年でみると、青森県の出荷量は全国の約10%の719.719トンで、群馬県についで全国第2位です。製剤別では、クロピクくん蒸剤(クロピク含有80%)の出荷量は、276.8トン、クロピクくん蒸剤(クロピク含有99.5%)出荷量498.2トンとなっており、後者は全国1位です。
農薬の使用履歴はきちんと記録され、地域の使用状況を把握しているかとの問に対して、青森県は「県をはじめ、JAグループ、市場等では、クロピクに限らず農薬の使用履歴を記帳するよう、生産者に指導しており、生産者は出荷する際、農協や市場等からその提出を求められている。」と回答していますが、県は、作物ごとの使用量などを把握していませんでした。
★クロピクによる健康被害
今までにクロピクによる健康被害を訴えた人はどのくらいいるかという質問に対して、県の回答は下表の通りです。これは三八局も平成24年度に限って同じ回答をしてきました。
発生年月 |
使用状況 |
被害状況(被害人数、症状) |
原因 |
対策 |
H13.5.15 |
被害者住宅付近の畑で、畑の所有者(近所の住人)が農作業でクロルピクリン剤を使用 |
1名。目の痛み、頭痛、吐き気、息が苦しくなる |
|
|
H19.5.9 |
クロルピクリン剤使用時に被覆しなかったことに対する苦情 |
1名。症状なし |
被覆しなかったことによるガスの揮散 |
安全使用について県関係機関及び農業団体に通知 |
H24.6.6 |
被害者が農作業中に隣接する2ほ場において、クロルピクリン剤を使用 |
農作業者数名。目や喉の痛み、頭痛、皮膚のピリピリ感 |
1晩のみの被覆及び無被覆であったこと |
・隣接ほ場においてクロルピクリン剤を使用した者に対し、適正使用と再発防止を指導
・適正使用について県関係機関及び農業団体に通知 |
H24.6.19 |
被害者自宅周辺においてクロルピクリンを使用 |
1名。頭痛、吐き気、めまい、水疱、眼痛 |
@周辺ほ場におけるクロルピクリン剤の使用は適正であった。
A被害者は、長年揮散した低濃度のクロルピクリン剤の影響を受けたと考えられる。 |
・被害者自宅周辺の生産者及び生産団体に適正使用と近隣住宅地等への配慮について指導
・町内生産者全てにクロピク安全使用のチラシを配布
・適正使用と新住宅地通知について県関係機関及び市町村、農薬を使用する者が所属する団体等に通知 |
三八局に対して、今回の健康被害について具体的な状況を聞きました。いつ、健康被害を把握したかについては「相談者が平成24年6月に三八県民局農業普及振興室に相談に訪れ把握。症状は頭痛、吐き気、めまい、水疱、眼痛など。相 談者は1名」。とのことですが、1年以上何もしてこなかったのでしょうか。
クロピクの被害と認めた理由は、「相談者が平成25年1月25日に医療機関の診断書を持参して来所したことから。診断書には「クロピクが原因と考えられる」との記載があったため。」とのことです。
どのような農薬使用状況だったのかについて、三八局は「相談者宅北側に隣接するほ場(A)と、相談者作業場南西側に位置するほ場(B)で使用されていた。いずれもながいも栽培ほ場であり、Aほ場:クロピク80、約25a、相談者宅から最も近い所で約4〜5m。Bほ場:クロピク80、約70a、相談者宅から最も近い所で約50m」と言っておりますが、4〜5mのところで、クロピクを使用されたらたまったものではありません。
県は、クロピクで健康被害が起こった理由について、@クロピク使用後に被覆しないなど不適正な使用であったこと。A農薬取締法上、適正使用であっても、被害者がクロピクに過敏に反応する体質であったこと。をあげていますが、たとえ、過敏に反応する体質であったとしても、長年、クロピクを吸入せざるを得なかった人が過敏になるのは当たり前のことで、そのような体質にさせた責任は農薬使用者にあり、また、適切に指導してこなかった行政の責任も重いと思います。
★三八局のアンケート調査
三八局と五戸町は13年6月に18戸(耕作ほ場数23筆)の農家に「クロピク剤の適正使用に関するアンケート」調査をしています。
クロピクを例年使用している農家は14戸(77%)で、以前使ったが今は使わない農家が2戸、使ったことはない農家が2戸でした。作業中に気分が悪くなったと回答したのは一戸、被覆しなかったことがあるのは2戸、悪臭などの苦情を言われたのは3戸でした。
住宅や事業所、畜舎が農地のすぐ隣にあるのが10戸、道路や空き地をはさんであるのが6戸で、ほとんどが住宅などのすぐ隣で使用していました。その際、周辺に周知していたのは2戸のみ。風向きに注意しているのが8戸などでした。
土壌消毒をしない輪作体系での栽培を考えているかという質問には、考えているとの回答はゼロ、考えていないのが15戸で、その理由は@ナガイモに変わる品目がないが15,A設備投資する資金がないが8、B高齢で取り組む余裕がないが2という結果でした。その他の理由として、代替ほ場がないというのも多くあったとのことです。
★神奈川県と青森県指針の違い
神奈川県の神奈川県農薬安全使用指導指針では、クロピク使用にあたり、以下の注意をしています。
ア 住宅密集地では絶対に使用しないこと。
イ 人家及び畜舎から十分(100m以上)離れて
いることを確認すること。ただし、育苗用土の消毒で全面をポリエチレン
フィルムで被覆する場合、マルチ畦内処理を行う場合、または、水封後に
ポリエチレンフィルムで被覆する場合を除くこと。
ウ 処理後は必ずポリエチレンフィルム等で被覆すること。
エ 1回の処理面積は10a以下とし、大面積の処理は避けること。
オ 地表面にこぼした場合は、直ちに土をかけること。
カ 作業者は必ず土壌くん蒸用の防護マスクを着用すること。』
青森県では、このような注意をしているか聞いたところ、ウの被覆だけでした。三八局はカの防護マスク着用も入っているということです。県と三八局は、それ以外に以下の注意をしているということです。
@処理作業は、気温・地温の低い午前中か夕方に行う
A人家や畜舎等に隣接する農地での使用を避けるとともに、人家や畜舎等の近郊で
はそれらが風下になる場合は作業を一時中断する
B揮散したガスは低地にたまりやすいため、農地近郊の低位置に人家や畜舎等があ
る場合は使用を避ける
C降雨等により地下水や河川等に流入するおそれがある場合は、使用を避ける
D施錠可能な冷暗所に保管する
E使用済みの空き缶等は、周囲に影響を及ぼさないよう適切に処分する
Fトラック等で薬剤を運搬する場合は、薬剤が脱落しないよう確実に固定して積載する。
こうした状況の中で、再発防止に関して県は、「県では、クロピク剤を含む農薬の安全使用や住宅地等における配慮等について、市町村、農業団体等を通じて周知・指導を徹底している。また、健康被害が発生した場合には、周辺の生産者に対して、重点的に指導をしている。」と、一般的なことを述べるだけでした。今後「青森県では、できるだけクロピク剤を使用しないよう、他の薬剤で代替するための試験や輪作体系の普及促進に取り組んでいる」とのことですが、まずは健康被害を受けている人がどのくらいいるか、調査すべきでしょう。
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作成:2014-01-27