農薬の毒性・健康被害にもどる

t26901#マルハニチロの冷凍食品からマラチオン15000ppm検出〜下痢、嘔吐など中毒症状の訴え多数#14-01

【関連記事】中国ギョーザ事件:記事t19804、ARfD:記事t20006、茶飲料混入事件:記事t20007c
【参考サイト】厚労省:12月29日第二報
          農薬(マラチオン)が検出された冷凍食品に関連する健康被害が疑われる事例について 第16報(1/24)
       消費者庁:Top Page、(株)アクリフーズ群馬工場が製造した冷凍食品は食べずに返品を:12/301/051/081/10
       マルハニチロ:Top Page、アクリフーズ:Top Page
           13/12/2913/12/29、 13/12/30商品一覧表業務用商品一覧1/21現在の回収状況
       Yahoo:アクリフーズに関するニュース
       食品安全委員会: マラチオンに係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)パブコメ
        ADI(一日摂取許容量): 0.29 mg/kg 体重/日、ARfD(急性中毒参照用量):1.5 mg/kg体重の設定案
         当グループの意見食品安全委員会の見解案
   1月6日、事務所に電話がかかってきました。
「マラチオンってマラソンのことでしょ。今朝のフジテレビの「とくダネ!」でシャーレに入れた製剤原液を司会者なんかに嗅がせていたわよ。あんまりだからフジテレビに抗議したけど」何百メートルも離れたところで農薬を散布されただけで、全身症状に苦しむ化学物質過敏症患者の当然の反応と言えましょう。
それにしても、スタジオのようなオープンな場所で、安易に農薬を取り扱う無神経さには驚きます。農薬が毒だと認識しているようには思えません。こうした対応はマスコミばかりでなく、原因企業も含めて、この事件の最初から現在まで続いています。
 始まりは、昨年12月29日の報道からです。食品関連企業グループ「マルハニチロホールディングス」の子会社アクリフーズが生産したコロッケ、ピザなどの冷凍食品から農薬マラチオン(マラソン)が検出されたというものでした。

★最初の異臭クレームは11月13日
 同社の経緯説明では、11月13日に石油臭がするとの消費者からのクレームがあった。その後12月3日までに、9件の申し出があり、調査を進めた。まず、化学分析で、臭気成分が何かを調べ、酢酸メチル、エチルベンゼンとキシレンほか3物質が検出され、塗料等の付着を考えた。12月17日に、農薬の可能性否定の目的で、ミックスピザ1検体について、150項目の農薬等の分析を依頼した。その結果、25日に、エチルベンゼン6ppmとキシレン2ppmが検出され、さらに27日にマラチオンが2200ppm検出されたため、追加サンプル11検体の農薬検査を緊急依頼した。28日に11検体中4検体にマラチオンが検出された。原因は不明で、調査中だが、群馬工場出荷の約650万個の製品を自主回収する、としました。
安全だといいながら回収したのは、加工食品中のマラチオンの基準を一律基準とみなしたからでしょうか。それにしても、異臭発覚から1ヶ月以上を経て、農薬分析を実施、検出発覚後、2日たって公表とは、危機意識が低すぎます。
また、当初のマスコミ報道では、検出値が15000ppmもあったことを報ぜず、アクリフーズの主張=体重20キロの子どもが一度に60個のコロッケを食べても安全=をそのまま伝えたことも問題です。
 このことは、冷凍食品マラチオン混入事件は、大したことはないとの印象を与えました。1万5000ppm=1.5%などという聞いたこともない高濃度の検出なのに、子どもが60個も食べて大丈夫だという確認をしたのでしょうか。厚労省に聞くだけでもわかったでしょうに。

★食品会社失格の安全宣言
 会社が12月29日に発表した資料をみると、コロッケ60個はの計算は、農林水産消費安全技術センター(FAMIC)のホーム頁にある『急性毒性は低く、経口投与によるげっ歯類でのLD50 は様々な報告があり、値も1,000-10,000mg/kg 体重と幅が広い。』(FAMIC飼料の頁)を根拠にしており、1万5000ppmと最も検出値の高かった「とろーりコーンクリームコロッケ」(一個22g)の場合で、試算したことがわかります。LD50というのは、実験動物であるネズミ類の半分が死ぬ量のことです。
 すなはち、60個たべると、マラチオンの摂取量は、22g×60個×0.015=19.8gとなり20kgの子どもでは、体重1kgあたりの摂取量は0.99g/kg=990mg/kgで、上述のLD50:1000mg/kgより低いから、安全だというのです。ネズミ類が半分死ぬ量を根拠にして安全だと発表するなど、この会社には専門家は一人もいなかったのでしょうか。食品メーカーとしてとんでもないことです。

★厚労省はメーカー指導に走ったが
 会社の安全宣言に対し、さすがの厚労省も黙っていませんでした。12月30日の報道発表文書「農薬マラチオンが含まれる食品の健康への影響について」で、国際機関JMPR(FAO/WHO 合同残留農薬専門家会議)の評価結果をADI(一日摂取許容量)0.3mg/kg 体重/日とARfD(急性参照用量)2mg/kg 体重/日と示した上、『アクリフーズが記者会見で発表したように、マラチオンを 15,000ppm(=15mg/g 食品)含有する食品の場合、体重60kg の人がコロッケを約1/3食べると、ARfDを超える』として、当該冷凍食品を食べないよう、消費者の注意を喚起しました。
 体重20kgの子どもの場合だと、コロッケを2.7g食べるとARfDを超えることになり、先の会社の60個で安全は間違いで、8分の1個で危険ということを意味します。
 厚労省によるLD50でなく、ARfDと比較すべきだとの指導で、マルハニチロは、再度、お詫びの会見を行い、安全宣言を撤回しました。大手メーカーがこのような認識のもとに、食品を製造・販売していることには、恐怖さえ感じます。

★ARfDは急性中毒発症量との認識を
ところで、聞き慣れないARfDとは、何を意味するのでしょう。通常の残留基準のもとになるADIは「人が毎日一生涯食べ続けても健康に悪影響が生じないと推定される 1 日当たりの量」とされ、残留基準を超えた食品を販売すると食品衛生法違反となります。
 これに対して、ARfDは、人が急性の中毒を起こすかもしれない量で、一般にADIよりも緩い値です。「24 時間以内に経口摂取しても、健康に悪影響が生じないと推定される 1 日当たりの量」とされており、「急性参照用量」と直訳されていますが、わかりやすくいえば、「急性中毒発症量」のことです。マラチオンの場合、中毒症状としては、吐き気・嘔吐、下痢、腹痛、唾液分泌過多、発汗過多、軽い縮瞳などがあります。
 日本では、マラチオンのADIやARfDの評価は食品安全委員会が行うことになっていますが、まだ評価結果はでていないため、数値は定まっていません。農水省がADIを0.02mg/kg体重/日としているのに対し、厚労省が、0.3 mg/kg体重/日と一桁高い値を示しているのは解せません。ちなみに、ヨーロッパ連合では、現在、ADI0.03 mg/kg体重/日、ARfD0.3 mg/kg体重/日となっています。

★その後の経過と問題点
 当該食品を食べた後、健康被害を発症したとの消費者からの報告が、全国から2843件(1月24日現在)届いており、マラチオンは、工場内での人為的混入との疑いで、警察が捜査し、1月25日に、偽計業務妨害でアクリフーズ工場の従業員が容疑者として逮捕されています。
 メーカーは、21日現在、650万食のうち86.9%が回収されたとしていますが、包装袋に製造工場名がなかったり、記号表示しかないプライベイト製品もあり、食品業界全体が表示のあり方を問われています。

 また、上の写真に示したように、食品を販売するスーパーなどの園芸コーナーに、100mlの容器に入ったマラソン乳剤(マラチオン50%、溶剤のトルエン、キシレン各18.4%含有)が並んでおり、容易に入手できることも問題です。
 ちなみに、科学警察研究所の調べで(記事t26002参照)、殺虫剤による自殺者の中で、一番多いのは、毒物劇物取締法による指定がないMEP(スミチオン)によるものであり、ついでマラチオンですし、繰り返しの有機リン剤の被曝・摂取で、過敏症を発症する人がいることを忘れてはなりません。

 表 アクリフーズ群馬工場生産品における農薬検出値
  アクリフーズ発表資料(1月7日)

購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2014-01-27、更新:2014-05-21