農薬の毒性・健康被害にもどる

t26903#欧州連合:ネオニコチノイドの発達神経毒性で健康影響評価を見直し〜日本の研究論文が根拠となる#14-01

【関連記事】記事t26902
【参考サイト】EFSA:EFSA assesses potential link between two neonicotinoids and developmental neurotoxicity
            EFSA Journal 2013;11(12):3471報告全文
       農業情報研究所: 12/18のニュース
       木村ー黒田さん:「脳神経系を撹乱する農薬と子どもの発達障害-ネオニコチノイド・有機リン系農薬の危険性-」
             第24回環境ホルモン学会講演会テキスト(2011年2月)
       木村-黒田さんほか:新農薬ネオニコチノイド系農薬のヒト・哺乳類への影響 (臨床環境21:46〜56,2012)
       黒田・木村-黒田さん:「自閉症・ADHDなど発達障害増加の原因としての環境化学物質
            ─有機リン系,ネオニコチノイド系農薬の危険性(上)(下) 科学 83巻6号693頁及び7号818頁(2013)
       黒田さん:「欧州食品安全機関,ネオニコチノイド系農薬がヒト脳に発達神経毒性の可能性ありと公表
            ─EUではミツバチ大量死の原因として使用禁止始まる 科学 84巻2号234頁

 12月17日、EFSA(欧州食品安全機関)は、2種のネオニコチノイド(アセタミプリドとイミダクロプリド)について、発達神経毒性についてより信頼性のあるデータがでるまで、その健康影響評価を強化すよう提案しました。いままでのミツバチへの影響に加えて、ヒトの脳・神経系への影響に着目した新たなネオニコチノイド規制の動きです。
 提案の根拠として、記事t24902で紹介した2012年発表の木村-黒田らの論文*が挙げられています。
   * ラットの新生仔の小脳神経細胞を用いた研究で、イミダクロプリドと
     アセタミプリドのニコチン様アセチルコリン受容体への作用がタバコの
        成分のひとつニコチンと類似性があり、人の脳・神経の発達に悪影響を
        及ぼすのではないかと考察された。
 EFSAの植物保護製品及び残留物に関する委員会は、上記論文の検討のほか、アセタミプリドとイミダクロプリドについて、生殖毒性、発達毒性、神経毒性と発達神経毒性に関する研究を精査し、両農薬のADIとARfDを評価し直しました(下表参照、ADIとARfD解説は記事t20006参照)

【アセタミプリド】
  【関連記事】記事t26702、当グループからの日本曹達への質問と要望(13/07/02)
        パブコメ意見(2008年7月)と食品安全委員会の見解
  【参考サイト】食品安全委員会:農薬評価書
         FAMIC:農薬評価書にある発達神経毒性試験(毒性A110-120頁。WIL Research Labo. 2008年)
         日本曹達:Top Pageモスピラン水溶剤(アセタミプリド20.0%)モスピラン粒剤(アセタミプリド2%)
              アセタミプリドに関する一部報道に対する弊社の見解(14/01/06)

 日本のメーカー日本曹達が提出したラットの発達神経毒性試験では、交配前から離乳期までの母体に農薬が投与され、生まれた仔に聴覚驚愕反応の抑制などがみられたのは、45mg/kg/日投与群で、母ラットでの無毒性量は10mg/kg/日とされました。私たちは、08年のパブコメ意見で食品安全委員会のADI0.071とARfD0.1各mg/kg体重/日に反対しましたが、受け容れられませんでした。  しかし、EFSAは、アメリカEPAの資料をもとに、運動能、学習、記憶などの試験が十分でなく、信頼性がないなどの理由で、ADIとARfDを0.025mg/kg/日(試験が行われた一番低い投与量の100分の1に対応)とすべきだとしました。

【イミダクロプリド】
  【関連記事】記事t21604記事t23806記事t24501記事t26602
     残留基準パブコメ意見(2013年3月)と厚労省見解
  【参考サイト】食品安全委員会:農薬評価書
         FAMIC:農薬評価書

 EUでは、ラットの2年間の慢性毒性試験で得られた無毒性量6mg/kg/日、イヌの28日と90日間の亜急性毒性試験で得られた無毒性量8mg/kg/日として、ADIとARfDが設定されていますが、ラットの発達神経毒性試験での脳構造の厚さへの影響を配慮した推定無影響量5.5mg/kg/日から、ARfD数値をADI並に下げる提案がなされました。
 日本の食品安全委員会は、ラットの発達神経毒性試験の評価で、無毒性量は 250 ppm(19.4 mg/kg 体重/日)としていますが、ARfD値は示していません。

 今後、ミツバチや野鳥などの自然の生態系への影響だけでなく、すでに人の脳・神経系への影響が問題となり、欧米で規制が行われている有機リン剤と同様、ネオニコチノイドの発達神経毒性評価結果を、ADI評価等に反映させ、残留基準の強化、さらには、使用規制へつなげていく必要があります。
   表 アセタミプリドとイミダクロプリドの評価(単位:mg/kg体重/日,( )は日本での評価値)
   農薬名      ADI  現行値     再評価値   ARfD  現行値     再評価値
   アセタミプリド       0.07(0.071)  0.025              0.1(0.1)    0.025 
   イミダクロプリド      0.06(0.057)  0.06            0.08(設定なし) 0.06

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作成:2014-01-27