ネオニコチノイド系農薬にもどる

t27002#アセタミプリドの発達神経毒性試験はこんなもの 〜ラットの試験で、人の脳・神経系への影響がどこまで評価できるか#14-02
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 記事t26903で、EUのEFSA(欧州食品安全機関)が、ネオニコチノイドの発達神経毒性試験の評価により、ヒトの健康影響評価の見直しを行ったことを紹介しましたが、その中でADI(一日摂取許容量)とARfD(急性毒性参照用量)の強化が提案されたアセタミプリドについて、原体メーカーの日本曹達と日本の評価機関である食品安全委員会で聞いてみました。

★日本曹達回答:発達神経毒性試験はEUもアメリカも日本も同じ
【参考サイト】日本曹達:Top Pageモスピラン水溶剤(アセタミプリド20.0%)モスピラン粒剤(アセタミプリド2%)
            アセタミプリドに関する一部報道に対する弊社の見解(14/01/06)
   反農薬東京グループから日本曹達への質問と回答

日本曹達は、14年1月6日に、「アセタミプリドに関する一部報道に対する弊社の見解」を発表し、その中で、『今回指摘されている乳幼児の脳を含めた神経発達に対する影響の有無につきましても、乳幼児の発達に対する影響を評価するための、ラットを用いた「発達神経毒性試験」を実施しており、その試験結果は日本、アメリカをはじめ各国の規制当局において評価され、本剤の農薬登録がなされております。
 なお、今回のFESA の発表につきましては、その内容を精査し、FESAと協議を継続してまいります。弊社としても農薬製品の安全性確保に向けてより一層の努力を進めていくとともに、関係指導機関等からの協力要請について積極的に対応してまいります。』と、しました。
 同社が提出した農薬抄録には、WIL Research Laboratories社(以下WIL社という)の2008年作成のラットの発達神経毒性試験の概要(仔に聴覚驚愕反応の抑制などがみられた)が示され、その内容を評価した日本の食品安全委員会は、アセタミプリド農薬評価書で、『発達神経毒性の無毒性量は 10 mg/kg体重/日であると考えられた。』と結論しました。
 一方、FESAの委員会は アメリカ-EPA(環境保護庁)がラットの発達神経毒性試験(日本と同じWIL社作成)を検討し、母体での無毒性量を10mg/kg/日としたことに、疑義を呈して、無毒性量を2.5mg/kg/日とし、いままでのADI0.07mg/kg/日とARfD0.1 mg/kg/日をそれぞれ0.025mg/kg/日とすべきとしました。

★食品安全委員会は、今後を注視と
【参考サイト】食品安全委員会:アセタミプリドの農薬評価書(第二版)
              2008年6月の健康影響評価についてのパブコメ当グループの意見パブコメ結果

   反農薬東京グループから食品安全委員会への質問(1/30)

 日本もアメリカもEUも同じ試験を評価したのに、結論が異なっていることについて、食品安全委員会に尋ねましたが、回答は以下のようで、科学的説明はなされませんでした。メーカーの主張を鵜呑みにするなら、委員会の役割って何なのでしょう。
  【質問1】上記報告では、アセタミプリドのADI(現行0.07mg/kg体重/日)と、
    ARfD(現行0.1mg/kg体重/日)を再評価の結果、両者とも0.025mg/kg体重/
    日とする提案がなされていますが、貴委員会は、どのようにお考えになりますか。
  [回答]食品安全委員会としては、リスク管理機関から提出された全ての試験成績
    について評価を行った上で、一日摂取許容量(ADI)を0.071 mg/kg 体重/日、
    急性参照用量(ARfD)を参考値として0.1 mg/kg 体重/日と設定しております。
    EFSAにおける報告も、「提案」であり、食品安全委員会としましては、今
    後のEFSAの動向を注視していきたいと考えております。
    なお、米国環境保護庁(US−EPA)は、2013年12月20日に今般のEFSA
    の報告についての見解を公表しており、この中で、EPAの見解は限定的な分
    析結果に基づくものではあるものの、EPAの既存の評価結果に変更を及ぼす
    正当な理由がない旨示されています。

  【質問2】EFSAが評価したラットの発達毒性試験は、US−EPAの資料であ
    り、これは、日本曹達が、日本での農薬登録に際して、提出したWIL社の試験成
    績と同じであることがわかりました。
    貴委員会は、同試験の評価で、『生まれた仔に聴覚驚愕反応の抑制などがみら
    れたのは、45mg/kg/日投与群で、母ラットでの無毒性量は10mg/kg/日』とされ
    ました。
    一方、EFSAは、同試験では、発達毒性試験内容を精査したところ、EUの
    試験方法にくらべて、学習や記憶の試験評価が十分でないとして、無毒性量を
    2.5mg/kg体重/日としました。
    この違いについて、貴委員会は、ADIやARfDをEUと同様な見直しをさ
    れるお考えはありませんか。
  [回答]1に対する回答でも記載しましたが、アセタミプリドの評価に当たって、     食品安全委員会ではリスク管理機関から提出された全ての試験成績について評     価を行っております。     食品安全委員会では、EFSAが報告書で言及したラットの発達神経毒性試験     についても評価を行いました。この試験成績が、EPAに提出されたものと同     一であることは日本曹達に確認しました。     EFSAの報告によれば、EFSAは米国EPAの評価書を再評価したとのこ     とであり、試験成績そのものを直接判断されたものではないと理解しておりま     す。   【質問3】12月のEFSAの発表後、日本曹達は、貴委員会に説明をしたとしてい     ますが、何時、どのような説明を受けましたか。また、今後の対処について、     どのような協議をされましたか。   [回答]−前略− 事務局担当者より、我が国に提出された試験成績と米国に提出     された試験成績が同一のものかどうか、またEFSAへのそれまでの対応等に     ついてお尋ねしました。−後略−   【質問4】―前略―     貴委員会のアセタミプリドの農薬評価書(第二版、2011年6月)では、ラットの     発達神経毒性試験についての記載は、1頁にも満たないもので、毒性試験内容を     知るには十分ではありません。     貴委員会があげられた下記2件の参照資料―省略―のうち、発達神経毒性試験に     関する報告部分を公表してください。   [回答]参照2の農薬抄録は、事務局内で閲覧可能です。また、評価書の引用文献を     再確認したところ、評価書の本文中の記載に誤りがあったことが確認できまし     たので、訂正させていただきます。―後略―(参照4としたのは参照3が正し     い)
★ラットの発達神経毒性試験
【参考サイト】アセタミプリド:FAMICにある農薬抄録その4(毒A-110頁)
               US-EPAにあるラットの発達神経毒性研究
               EFSAにある評価報告
       OECD:国立医薬品食品衛生研究所にある発達神経毒性試験ガイドライン

 日本曹達がまとめた農薬抄録とUS-EPAの審査官の報告資料を参考に、実施された発達毒性試験の内容をみてみましょう。
 実験動物はラットで、母体には妊娠6日から哺育21日まで、アセタミプリドが下表のように投与され、生まれた仔の発達神経毒性は、OECDのガイドラインに準拠した神経および行動全般の異常を検出するための観察(身体発育分化、初期行動発達、自発運動量、運動および感覚機能、学習および記憶を含む)、ならびに出生後の成長期と成熟後における脳重量・形態測定および神経病理学的検査が、生後72日目までに行われました。出生後何日齢でどのような試験を実施するかの指針があり、感覚機能検査の一つである、前述の聴覚驚愕試験は、20日齢と60日齢で行われています。
    ここでは、その他の試験や検査のうち、学習・記憶試験について、紹介しますが、はたして、このような動物試験で、社会性を含めた、人における複雑で高度な脳神経系への影響を評価できるのかという、根本的疑問が残ります。
   表 WIL社のラットにによる発達神経毒性試験の実施条件
    試験群        対照群   1     2     3
   農薬投与量mg/kg/日    0    2.5    10     45
     妊娠ラット数      23     23      23      25(うち1匹出産中死亡)
      出生仔数        348    353     357     371
      死亡仔数         3         2          2         26
★学習・記憶試験(水迷路脱出試験)
仔(各群とも雌雄各10匹)が22日齢と62日齢の時に、水迷路脱出試験(迷路を泳いで、水中に隠された脱出用プラットフォーム上に逃れる試技)が三段階にわけて実施されました。
 第1段階の検査1日目は直線水路での脱出時間が水泳能力として記録され、第2段階の検査2〜3日目には、1日2回の迷路試技が最短1時間間隔で2日連続で、検査4〜6日目には、経路を逆転させで同様の試技を行い、所要時間と脱出に失敗したエラー数が記録されました。第3段階の検査7日目には、最初の経路で試技を行い、記憶力の評価にあてられました。
 EPAの公開資料では、第一段階の水泳能力と第2、3段階の合計12の試技結果が、すべて、平均値とデータのバラツキを示す偏差で示されましたが、日本の農薬抄録では、第2段階の10試技と第3段階の2試技の結果の平均値のみしか示されず、有意差なしと結論され、食品安全委員会もこれを追認しました。一方、EFSAは、アメリカの資料を精査し、バラツキが大きく信頼性に欠けるとして、メーカー結論に疑問を投げかけています。
 このほか、11日齢、72日齢で、各群雌雄各10匹で剖検後、神経病理や脳重量測定・形態計測が実施されており、日本の農薬抄録では、アセタミプリド投与で異常がみられなかったとなっています。
 しかし、EPAの審査官は、仔に対する20日齢と60日齢の雄の聴覚驚愕試験での最小毒性量は10、無毒性量は2.5各mg/kg/日とし、さらに、この試験の欠陥として、自発運動量と学習・記憶の評価を挙げており、EFSAの再評価報告と共通するものがあります。いずれにせよ、公表資料だけで、第三者がメーカーの主張を検証することは困難です。

   反農薬東京グループから食品安全委員会への質問第二弾はこちら
     クロチアニジン及びヒトの発達障害と農薬に関するお尋ね
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作成:2014-04-27