食品汚染・残留農薬にもどる
t27204#食品安全委員会へクロチアニジンとホウレンソウ問題で問い合わせ〜2年前にすでに27.8ppm残留を評価していた#14-04
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【参考サイト】食品安全委員会:クロチアニジンの農薬評価書の2005年10月版、06年12月第二版、08年2月第三版
、
12年3月第四版、14年1月第五版
同農薬専門調査会幹事会:第80回の12年2月第四版評価書案と議事録
4月7日:厚労省から食品安全委員会へのクロチアニジン健康影響評価依頼文書
評価依頼の概要(4月15日開催第511回食品安全委員会資料)
5月27日:食品安全委員会第105回 農薬専門調査会幹事会:議事概要
クロチアニジンのADIを0.097mg/kg体重/日、ARfDを0.6mg/kg体重とした。
6月18日:第107回農薬専門調査会幹事会 議事概要
論点整理、農薬評価書第6版案
昨年12月に、EUのEFSA(欧州食品安全機関)がネオニコチノイド系農薬の発達神経毒性を考慮して、人の健康への影響評価を強化する旨の提案を行いましたが、これに関連して、日本の食品安全委員会にアセタミプリドの評価について見解を聞きました(記事t27002)。今号では、第二弾として、クロチアニジンの発達神経毒性とホウレンソウの残留について尋ねた結果を報告します。
【1】ホウレンソウにおけるクロチアニジンの残留について
厚労省のクロチアニジン残留基準改定案で、ホウレンソウが40ppmと設定されていましたが、この評価を食品安全委員会がいつ、どのようにしているかを調べました。その結果、本年2月以降まだ、厚労省からの正式な依頼文書が同委員会に来ていないことがわかりましたが、いままでに依頼を受けて、健康影響評価を実施し、その評価書を改訂していることが分かりました。
最初の評価書が2005年1月に公表されてから、14年1月の最新まで5つの版がでていますが、これら評価書に、ホウレンソウの高濃度の残留試験データと住友化学が実施した発達毒性試験がでてくるのは、2012年3月の第四版が初めてでした。
そこで、まだ、厚労省が残留基準案を設定する前にホウレンソウの27ppmレベルであるとの残留試験データが出てきた経緯を尋ねると、『2011年6月8日付けで厚生労働省から残留基準設定に係る評価要請があり、この際に、ホウレンソウの作物残留試験が提出されたことから農薬評価書(第4版)に記載した。』とのことで、ホウレンソウからの推定摂取量を『作物残留試験成績に基づき、申請された使用方法から、クロチアニジンが最大の残留を示す使用条件で、全ての適用作物に使用され、加工・ 調理による残留農薬の増減が全くないとの仮定の下に行いました。』とのことでした。
ホウレンソウについては、2011年に残留データの提出があり、この時すでに、メーカーが適用拡大の登録申請の準備をしていたことがわかりました。厚労省は、まだ、40ppmの残留基準案は提示していませんが、残留試験成績でみられたクロチアニジンの最大残留値は27.8ppmで、食品安全委員会はこの値から、体重15.8kgの子どもの場合、ホウレンソウのフードファクターである10.1gを食べると、 摂取量は281μg/日と推算しています。これは、体重あたりにすると0.018mg/kg体重/日となり、子どもが一日にホウレンソウ55gを食べると同委員会が設定したADI0.097mg/kg体重/日を超えてしまうことになります。これだけでも、2011年に、厚労省へ差し戻しが出来たはずなのに、委員会は何の危機意識をもたず、黙って見過ごしたことは、批判されて然るべきです。
【2】クロチアニジンの残留基準改定に伴う健康影響評価について
食品安全委員会は、2012年の評価書第四版で、住友化学が2000年に実施したラットの発達神経毒性試験成績を評価し、『無毒性量は母動物で 500 ppm(妊娠中:42.9 mg/kg 体重/日、哺育中:90.0 mg/kg 体重/日)、児動物では150 ppm(妊娠中:12.9 mg/kg 体重/日、哺育中:27.3 mg/kg 体重/日)であると考えられた。』として、それまでの毒性試験から得られた無毒性量9.7mg/kg 体重/日をもとに設定されたADI0.097mg/kg体重/日を変更しませんでした。
その後、発達神経毒性についてどのような研究論文等があるかを調査されたかを尋ねると『リスク管理機関が定めたリスク評価依頼方針に基づいて評価を行っております。このため、クロチアニジンの評価に当たっては、リスク管理機関から提出された試験成績について評価を行いました。』との回答です。これは、残留基準のリスク管理機関である厚労省からの依頼がなければ、評価をしないということにつながります。
また、食品安全委員会が検討したのは、クロチアニジンの農薬抄録と発達神経毒性試験報告書(Argus、2000 年)であり、厚労省が私たち提示した空白で未開示部分がある文書そのものではなかったようです。
さらに、同委員会は『公にすることにより試験成績所有者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害する恐れのある部分については、非公開としております。
試験成績報告書については、論文形式ではなく、定められた試験項目等の詳細が掲載されております。内容については回答を差し控えます。』としています。
12年2月開催の同委員会農薬専門調査会幹事会(大学や研究機関の専門家で構成される)では、事務局がまとめた報告書案をたたき台にして、議論が行われていますが、私たちが知ることができるのは、公開された評価書に記載されている内容に限られます。科学的な事実を述べた報告書が国民には全面開示されず、メーカーの保護が優先されることには納得できません。
私たちが、厚労省へのパブコメ意見で指摘した、東京都健康安全研究センターの田中さんによる、2012年論文公表のマウスの発達神経毒性試験については、『ご記載の論文については評価しておりません。評価依頼に当たってリスク管理機関から提出された際には、評価してまいります。』との回答がありました。
2年前に公表された論文なのに、まだ、評価していないというのは、無責任の極みですが、3月26日に参議院消費者問題に関する特別委員会で、福島みずほ議員の質問に対し、食品安全委員会事務局長から『現在、内容を精査しているところでございます。』との答えがあり、今後、再評価結果が、ホウレンソウの残留基準改定にどのようにつながるか、注視していかねばなりません。
【3】「ヒトの発達障害と農薬との関係についての調査研究」について
食品安全委員会が2010年度の事業として実施していた「ヒトの発達障害と農薬に関する情報収集調査」(請負業者:三菱化学テクノロジーで、全文379頁)が、2011年4月に公表されましたが(本誌記事t23701、記事t24005参照)、その後、どう取り扱われたかの情報がありません。そこで、EUでネオニコチノイドの発達神経毒性が問題となっていることに関連して、下記の3つのことを尋ねました。
【質問3-1】当該報告は、有機リン系など神経系に作用する農薬について、疫学調査情報を収集整理したものですが、その後、この報告をもとに、貴委員会やその他の省庁で、農薬と発達障害の関連解明について、いつ、どのような論議が行われましたか、検討経過を教えてください。また、新たな調査研究を実施されておれば、どのような内容かもお願いします。
【質問3-2】当該報告では、ネオニコチノイド系農薬についての文献調査が少ないようです。関連キーワードを選んでの調査を実施すべきと思いますが、いかがお考えですか。
【質問3-3】日本では、EUで、すでに使用規制されている有機リン剤が、ネオニコチノイドの6倍も、農薬として使用されていますが、(2011年出荷量有機リン剤2500トン、ネオニコチノイド400トン)、有機リン剤の発達神経毒性について、どのように対処されるお積りですか。
しかし、質問3-1〜3-3をまとめての回答は、『当該調査においては、基礎資料として農薬と注意欠陥・多動性障害に着目し、有機リン系を中心にカーバメート系、ネオニコチノイド系、ピレスロイド系といった神経系に作用する農薬について関連文献の情報収集等が行われました。情報収集に当たっては、「neonicotinoid(s)」及びニコチノイド系農薬原体名も検索用語として使用されました。本調査結果は必要に応じて評価に用いるべきことがあるか検討し、また最新の情報収集に努めるとともに、評価要請に当たって関連資料が提出された場合は、適切に評価してまいります。』
これでは、その後、何もしていないということに等しい、いいわけでしかありません。EUでは、有機リンの規制が実施され、そのあとに、ネオニコチノイドの規制が行われていることとは、えらい違いです。
3月末に更新された国立環境研究所の農薬データベースによる国内農薬の出荷量のうち神経伝達物質アセチルコリンにかかわる神経毒性を示す3種の農薬類の合計量の推移(2007年から2012年)を図に示しておきます。
有機リン(25成分)の年間出荷量の減少傾向は2500トン弱で頭打ちとなり、カーバメート(10成分)とネオニコチノイド(7成分)が400トン弱でつづいています。なかでも成分別では有機リン系MEP=スミチオンがトップで、12年の出荷量468トンは、7種のネオニコチノイドの合計出荷量392トンより多くなっており、今後、一層の有機リン剤の削減が望まれます。
図 有機リン、カーバメート、ネオニコチノイド系農薬の出荷量推移 −省略
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作成:2014-07-01