ネオニコチノイド農薬の毒性・健康被害にもどる

t27501#農水省 水稲カメムシ防除農薬がミツバチ被害原因〜8時から12時の散布をやめ、田面粒剤散布への切り替えを指導#14-06
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                  水田農薬散布とミツバチ被害最終回農水省の回答
【参考サイト】農水省:農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(2013/08/26)とQ&A
           蜜蜂の被害事例に関する調査・報告について(2013/5/30)
           蜜蜂被害事例調査の中間取りまとめ及び今後の対策について
            蜜蜂被害事例調査の結果と今後の対策について
            蜜蜂被害事例調査中間取りまとめ(平成25年度報告分)
           平成26年度の水稲の開花期に向けた蜜蜂被害軽減対策の推進について
           農林水産航空事業の実施状況について
        農研機構畜産草地研究所:Top Page
          夏季に北日本水田地帯で発生が見られる巣箱周辺でのミツバチへい死の原因について
                                                   (7/18公表)

 6月20日、農水省農薬対策室は「ミツバチ被害事例調査の中間取りまとめ及び今度の対策について」を発表し、昨年度の農薬によるミツバチ被害事例を報告しました。
 この調査に関しては、私たちは13年11月に要望と質問をしました(記事t27202)。その中で被害発生場所を都道府県でなく、市町村にすべきとの要望に、農水省は「個人情報保護と調査の円滑な実施のため」都道府県にすると回答してきました。死亡虫の分析結果についても「個々の事例が特定されないように」公表するとしてきました。
 そうした中で、水稲農薬散布がミツバチ被害の大きな原因になっていることを認め、斑点米カメムシ防除用農薬の使用時期を前に、調査結果と対策が公表されました。

★2013年の調査内容は
 調査内容は、要約すると以下の通りです。
  (1) 被害状況に関する調査 
    養蜂家が蜜蜂被害を発見した場合に都道府県に連絡、都道府県の畜産部局が、
    養蜂家に聞き取りや現地調査を行う。現地調査時に蜜蜂の試料が入手できる場
    合は、採取し、独立行政法人農林水産消費安全技術センター農薬検査部(FAMIC
    農薬検査部)が、死虫の分析を行う。
  (2)周辺農地に関する調査 
    異常死の原因として農薬以外のものが特定できなかった場合に、都道府県の農
    薬担当部局が調査を行う。周辺農地での栽培作物とその作付面積 、被害発生時
    における栽培作物の生育段階 、農薬の使用状況(被害発生時前後に農作物等に
    対し使用が想定される殺虫剤、確認できる場合は散布日、面積、散布方法)養
    蜂家への情報提供などを調査する。
  (3) 死虫に含まれる農薬の分析
    蜜蜂の死虫の試料に含まれる農薬の分析はFAMIC農薬検査部が実施。分析の対象
    の農薬成分は、以下の20種でした。 
   @ 国内で登録のあるネオニコチノイド系殺虫剤7種類(アセタミプリド、
    イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、
    チアメトキサム、ニテンピラム)
   A @以外で、被害が発生した蜂場の周辺で使用されていたピレスロイド系殺虫剤
    4種類(エトフェンプロックス、シペルメトリン、シラフルオフェン、ペルメトリン)、
    フェニルピラゾール系殺虫剤2種類(エチプロール、フィプロニル)、
    有機リン系殺虫剤3種類(フェントエート(PAP)、ジメトエート、
    メチダチオン(DMTP))、
    カーバメイト系殺虫剤1種類(フェノブカルブ(BPMC))、
    マクロライド系殺虫剤1種類(エマメクチン安息香酸塩)、
    ジアミド系殺虫剤1種類(クロラントラニリプロール)、
    昆虫成長制御剤1種類(テブフェノジド) 
★ミツバチ被害報告は69事例
 この調査は、2013年から3年の予定で始められ、今回公表されたのは、13年5月30日から14年3月31日までに報告のあった69件の被害事例です。農薬によるミツバチ被害は4〜5月の果樹開花期にもピークがありますが、それらはこの中間報告には入っていません。
 発生場所は、14道府県で、北海道 35 件、青森県 4 件、栃木県5 件、千葉県 3 件、岐阜県 9 件、広島県 2 件、福岡県 3 件、大分県 2 件、福島県、京都府、奈良県、島根県、岡山県及び徳島県が各 1 件でした。
 ちなみに、養蜂業者の団体である日本養蜂協会の調査によれば、13年の農薬によるミツバチ被害は118件となっています(記事t27502参照)。従来、農水省と養蜂協会の被害数は比較にならないほどの差がありましたが、さすがに、今回は差が縮まってきました。

★水稲栽培地域での農薬被害が88%
 69件の被害事例を調べると、被害時期は、87%が7月中旬から9月中旬、うち61件が蜂場周辺で水稲栽培されていました。
 69件のうち、26件で死虫が採取され、農薬分析が行われました。表1には、水稲が栽培されていた時期に被害を受けた20事例の死虫についての分析結果を示します。このうち、斑点米カメムシの主要な防除時期にあたる@水稲の開花期(出穂期〜穂揃期:斑点米カメムシ防除時期)に発生した被害が12件、A水稲成熟期以降(斑点米カメムシ防除時期以降)に発生した被害が8件で、8種類の農薬が検出されました。
 一番多かったのは、クロチアニジン(商品名ダントツ)の9件(カメムシ防除時期5件、防除時期以降4件)で、岩手県で初めてミツバチの大量死が起きたときの原因農薬です。エチプロール(商品名キラップ)は7件(全てカメムシ防除時期)です。
なお、周辺で水稲が栽培されていない地域や時期に発生した被害6件では、20農薬全てが定量限界以下とのことでした。

★水稲開花期のミツバチ被害46件
 水稲開花期に被害が発生した46件について、周辺で散布された農薬と被害の関係が解析されましたが、周辺でカメムシ防除の殺虫剤散布があったのは31件でした。
 31事例で使用されていた農薬の有効成分は、昆虫成長制御剤2種以外は、斑点米カメムシ対策の殺虫剤7種で、エチプロール12件、クロチアニジンとエトフェンプロックス各9件、ジノテフラン8件など、ミツバチへの毒性の強いものが多くみられました。
 農水省は、上述の結果から、「蜜蜂被害は水稲の開花期に多く、水田においてカメムシ防除に使用した殺虫剤に直接暴露したことが原因の可能性があると考えられました。」 としました。畜産草地研究所の7月18日の報告では、ミツバチが採取した稲花粉にも散布農薬が検出されていますし、水場や溢液の農薬汚染など間接的影響についての調査はまだ、手つかずです。

★農薬別無人ヘリ散布状況を調べよ
 今回の報告で、無人ヘリコプター空中散布が行われていた事例は22ありました。私たちは、水稲散布農薬の影響として、高濃度で、広範囲にわたって実施される空中散布を問題視しています。有人ヘリコプターによる空中散布では、ジノテフラン、クロチアニジン、エトフェンプロックス、エチプロールなどが多いことをで述べましたが(記事t27404)、約93万haある無人ヘリ散布空中散布については、どのような農薬がどれくらい使用されているかを農水省、環境省、農林水産航空協会に尋ねてもそのような統計はないというのです。原因農薬を明確にするには、この調査は不可欠であり、記事t25804にあるように環境省が2009年〜11年まで、農薬別散布面積を公表しているのに納得できない話です。

★対策は、早朝・夕刻散布と粒剤使用
 農水省は「平成26年度の水稲の開花期に向けた蜜蜂被害軽減対策の推進について」という通知を地方農政局などに出しています。
 中間報告では、以下が指摘されています。
 ・69 件の被害のうち、20%で農薬使用者側から養蜂家への農薬使用時期等の情報提
  供が行われていない。また、農薬使用者側が情報提供を行ったと回答した事例にお
  いても、30%の養蜂家が情報提供を受けていない。
 ・農薬使用者側からの情報を受けて、あるいは自ら情報を収集して、巣箱の退避によ
  り被害を一部軽減した事例もあった。
 当面の対策として、農水省は@蜜蜂の被害に関する認識の共有、A情報交換の徹底、B被害軽減のための対策の推進の3点を上げました。要は、養蜂者は水田の近くに巣箱をおかない、農薬散布者と養蜂者の連絡を密にし、巣箱の退避を実践せよという、従来の小手先指導の延長にすぎません。どの程度離ればいいか。どの程度の期間避難すればいいか。避難にかかる経費は誰がもつのか。避難場所がない場合はどうするのかは、何も示されていないのです。
 ただ、通知の終わりに、農薬使用者のやるべきこととして、次ぎの2点を挙げていることが具体策として注目されます。
 ・蜜蜂の活動が最も盛んな時間帯(午前8〜12時)の農薬の散布を避け、できるだけ早
  朝又は夕刻に散布する。
 ・蜜蜂が暴露しにくい形態(粒剤の田面散布)の殺虫剤を使用するなどの対策を実施
  するよう、水稲農家への指導を行うこと。
 その意味するところは、無人ヘリを含めた水田農薬散布は、8〜12時には行うな。 粒剤を使えというのは、液剤の空中散布をするなということでしょうが、粒剤の空散による農薬粉塵の飛散状況は不明です。
 EUではネオニコチノイドで処理した種子の使用が禁止になっています。その理由のひとつは、農薬粉塵が飛散することです。日本の粒剤の場合、EUの土壌施用でなく、水田施用ですから、ミツバチや花粉媒介昆虫への影響の出方が違うかもしれません。しかし、ミツバチ以外にもいろいろな生物が影響を受けます。わけても、水田での多用によるネオニコチノイドの水系汚染や水産生物や野鳥などの生態系への影響はどうか、さらには、神経毒性のあるネオニコチノイドの人の健康への影響など、調査されていない点は、まだまだあります。
 今回の農水省の指導方針が農業現場で実践され、ネオニコチノイドの使用規制の第一歩になればいいのですが。

9月8日:農水省への斑点米カメムシ農薬防除とミツバチ被害等についての質問と回答


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作成:2014-07-28、更新:2014-10-11