環境汚染にもどる

t27606#畜産草地研2年間のミツバチ被害研究から出たあきれた今後の予定#14-08
【関連記事】記事t26902記事t27202記事t27501記事t27502
【参考サイト】農業環境技術研究所畜産草地研究所
       夏季に北日本水田地帯で発生が見られる巣箱周辺でのミツバチへい死 の原因について
       農水省:農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組のHPQ&A(13年8 月26日)
             「みつばちの減少に関する緊急調査研究」報告書(10年4月13日)と報告本文
             蜜蜂被害事例調査の中間取りまとめ及び今後の対策について(2014/06/20公表)
             農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(2014.9月改訂)

 『草木に浸透性殺虫剤の処置をほどこす、やがて、蜜蜂がとんできて、毒の入った花
  から蜜を集める。すると、どういうことになるだろうか。−中略− 薬品を散布し
  たのは、まだ、花が咲くまえだったのに、花の蜜には毒が混じっていた。そして、
  思ったとおり、蜜蜂がそこから集めた蜜にも、シュラーダンの残留物が検出された。
                   (「沈黙の春」 三<死の霊薬>より)』
 これは、1962年に、アメリカで出版されたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』の一節です。有機リン剤シュラーダンについてのものですが、有機リンをネオニコチノイドに替えれば、カーソンの警告から50年以上を経た現在の状況にもあてはまることはいうまでもありません。
 すでに有機リンを規制しているEUでは、昨年12月から、一部使用禁止を含めネオニコチノイドの使用規制が始まりました。 アメリカでは、6月20日、オバマ大統領が覚書の形で、ミツバチや野生蜂などの花粉媒介昆虫の減少と農業経済への重大な影響を認め、農務省や環境保護庁などが、花粉媒介昆虫健全対策作業部会をつくり、180日以内に、ミツバチ保護対策をまとめることを求めました。

作業部会の報告:「ミツバチや花粉媒介昆虫の健全化戦略」(2015/05/19)

★遅れをとる日本のミツバチ被害防止策
 振り返って、日本の状況はどうでしょう。6月20日の農水省のミツバチ被害防止の農薬対策につづいて(本誌274号)、日本のミツバチ研究の中心的機関のひとつ農水省所管の日本農業研究機構傘下の畜産草地研究所が、7月18日に「夏季に北日本水田地帯で発生が見られる巣箱周辺でのミツバへい死の原因について」という報告(以下、新報告という)を公表しました。
 この報告は、2009年の交配用ミツバチ不足対策の一環として実施された「ミツバチ不足に関する調査研究報告書」につづくものですが、この時は、農薬とミツバチ被害については明確な因果関係は不明で、引き続き試験・研究を継続するということになっていました。
 新報告は、北日本の水田地帯でみられる 「巣門(巣箱の出入り口)前でミツバチがへい死する現象」 の原因解明のためになされたとされ、結果の概要は以下のようでした。
  ・巣箱を水田から50m〜2kmにある8つの蜂場に設置して、調査した。巣門前で100
   匹以上へい死したケースは、5蜂場(水田からの距離300、400、2km各1個所と500m
   が2個所)でみられた。
  ・ミツバチのへい死は、イネの開花時以降に発生した。この時、ミツバチはイネ花    粉を収集していた。   ・ミツバチの死虫の全てから、同時期に斑点米カメムシ防除に用いられた複数の殺    虫剤成分が検出され、ミツバチが収集した花粉団子からも殺虫剤成分が検出され    た。一方、ミツバチ群に病気は検出されず、スズメバチ被害もない。   ・検出された殺虫剤はクロチアニジン、ジノテフラン、エチプロール、エトレンプ    ロックス、PAP(フェントエート)である。   ・水田用殺虫剤を散布しない山間部に設置したミツバチ群では、へい死は発生せず、    花粉中のジノテフラン濃度は検出限界以下であり、殺虫剤の影響はみられない。   ・ミツバチはイネ花粉の収集のために水田に飛来し、そこで散布される殺虫剤に曝    露されたことがへい死の原因となった可能性が高い。   ・夏季にへい死のみられた水田周辺の蜂群と、農薬の影響のない山間部の蜂群を、    つくば市に移動し、秋季の蜂群活動の目安となる巣箱重量変化を調べたが、両者    に違いがなく、ミツバチ群はいずれも越冬できた。   ・ネオニコチノイド系クロチアニジンを含む代用花粉をミツバチ群に与える試験を    実施。投与開始から4週間後に、ミツバチ群の繁殖性や育児能力の指標となる有    蓋蜂児域(ゆうがいほうじいき)面積 * を調査したところ、500ppb の場合に    は増加量がやや低い傾向となったが、統計学的な違いは見られず、巣門前でのへ    い死も発生しなかった。      *注:有蓋蜂児域面積は蛹と蛹になる前の5齢幼虫とが育てられている蓋の        ある巣房の面積。ミツバチ群の繁殖力や働き蜂の育児能力の指標となる。
 これらの結果から、斑点米カメムシ防除農薬を直接被曝したミツバチは死ぬが、巣箱の蜂群維持には影響がみらないとの見解が示されています。

★対策は、農薬使用の禁止しかない
 新報告は、未発表論文の単なる概要にすぎません。上のような結論が出てきたデータも明確ではないまま、報告の末尾には、今後の予定・期待として『(独)農研機構と(独)農業環境技術研究所は、イネの花粉や水田水における殺虫剤濃度の把握、代用花粉の利用によりミツバチが水田に近づく機会を少なくさせる技術を検討する予定です。』が挙げられていますが、なにをしようとしているかもはっきりしません。
 ある養蜂家は、農薬にミツバチが忌避するような物質を添加するよう求めましたが、巣箱に人工餌をたっぷり与え、水稲の花粉をミツバチが食べに出ないような管理技術を開発するのでしょうか。
 そんな技術よりも、一番現実的なのは、ミツバチ毒性の強い農薬の使用を法的に禁止することだと思います。
 農水省は、養蜂振興法の改定で、昨年から、養蜂業者だけでなく、養蜂者すべてに、罰則付きで、届けを出すことを義務づけましたが、そのメリットとして、農薬散布情報が漏れなく伝わることを挙げました。しかし、農薬使用者には、散布情報を届出る義務がなく、提供をお願いするのみです。使用者側に法的拘束力がない場合、指導が行き届かないのは、私たちが「住宅地通知」問題でも、経験してきたことです。

★もうひとつのカーソンの警告
 斑点米カメムシ対策の行政指導は、農薬散布だけでなく、畦畔等に生育するイネ科の雑草の除草の二本立てで行われています。
「沈黙の春」では、蜜源植物の重要さも指摘され、除草剤使用と蜂や花粉媒介昆虫についての警告も挙げられています。

  『ただ野生の花は美しい、という理由だけで、道ばたの草木を守れ、といっている
   のではない。−中略− このような植物は、また、野生の蜂や、そのほかの授粉
   昆虫の棲息場所だ。そして、私たちは、ふつう考えているよりも、どんなに多く
   の授粉昆虫のおかげをこうむっていることか。農夫さえも、野生の蜂がどんなに
   大きな働きをしているのかよく知らず、みずから自分の味方をほろぼすような愚
   かなことをしている。野生の植物はもちろん、農作物でも、授粉昆虫のおかげを
   こうむっているものがある。    <「沈黙の春」六<みどりの地表>より』
9月8日:農水省への斑点米カメムシ農薬防除とミツバチ被害等についての質問と回答


購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2014-09-28、更新:2015-05-22