ネオニコチノイド系農薬にもどる

t27803#クロチアニジンの毒性評価はパブコメ後でも変わらない#14-10
【関連記事】記事t27401記事t27503
【参考サイト】食品安全委員会:
    クロチアニジンに係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての意見・情報の募集
    評価書案6版
    第532回 食品安全委員会クロチアニジン農薬評価書(第6版確定、パブコメ付)
    第112回 農薬専門調査会幹事会パブコメ募集結果及び第6版評価書案
  当グループの提出したパブコメ意見

 ネオニコチノイド系農薬クロチアニジンの人の健康への影響評価について、食品安全委員会(以下食安委という)は、7月に、農薬評価書第6版(案)を提示し、パブコメ意見を求めました。その結果が、9月11日の第112回農薬専門調査会幹事会で回答をつけてまとめられ、10月7日開催の第532回食安委で審議されました。しかし、ADIは0.097mg/kg体重/日とARfDは0.6mg/kg体重は原案どおりで、もっと強化すべきだという私たちの意見は反映されませんでした。

★240通のパブコメ意見
 農薬評価書第6版案にみられる主な改訂点は、以下のようでした。
 ・毒性評価で、厚労省の残留基準のパブコメ意見で指摘された発達神経毒性等の
  論文の評価が追加され、ADI(一日許容摂取量)は現状通り、0.097mg/kg体重/日。
 ・あらたに、ARfD(急性参照用量=急性中毒発症推定量)0.6mg/kg体重を決定
 240通のパブリックコメント意見は、食安委の評価に反対したり、疑問を呈するものでした。主な意見と回答を下に示します。
今回の評価をもとに、厚労省から残留基準変更の提案がある予定です。

★新たな研究論文は切って捨てる
【マウスの発達神経毒性試験】
 当グループの意見で、東京都健康安全研究センターの田中さんが実施したマウスの発達神経毒性試験2論文について評価されましたが、この節の表題が「児動物への影響検討試験」となっていたのを改め、「マウスによる発達神経毒性試験」とするよう求めたところ、『本試験における観察項目は行動観察のみであり、病理組織学的観察等行われておらず、OECDのガイドライン等にも合致していないことから、発達神経毒性試験とは言えないと判断しました。』と回答がありました。
 さらに、この論文が<参考資料>となっていることについては、『これまでも原則として、詳細が明確な試験を用いて評価しており、この点が明確でない試験は参考資料扱いとしています。』とし、『被験物質の混餌飼料中の安定性等が不明であり、リスク評価に用いることは適切でないと判断されたため』との理由が記されました。
 また、『授乳期間中の体重増加、立ち上がり時間の短縮、探索行動の増加等が散見的に認められましたが、これらの変化はいずれも用量相関性がないか又は群間での差が明確ではなく、検体投与の影響ではないと判断した。』と切って捨てました。
【ラットの生殖毒性試験】
 Ramazan Balのラットの精子等への影響試験が評価されなかったことについては、『試験に用いられた製剤がどの製剤だったのかが不明であり、対照群への投与物質の詳細についても不明でした。また、本試験において認められたとされる精巣に対する異常につきましては、局長通知に基づき実施された他の試験では認められていないことから、クロチアニジン投与による影響との関連性が不明確であり、評価に用いることは適切でないと判断しました。』としました。

★ARfD評価もそのまま
 ARfD単回経口投与試験と成長途上のある時期の暴露で可能性のある毒性影響等については、ラットの急性神経毒性試験しか根拠データがなかったとして、60 mg/kg 体重という評価を変えませんでした。
 私たちが挙げた@ラットの発生毒性試験(無毒性量は10mg/kg 体重となる)については『40 mg/kg体重/日以上投与群の母動物で体重増加抑制及び摂餌量減少が認められましたが、これらの所見については毒性の指標とはするものの、急性影響によるものとは考えられない』、Aウサギの発生毒性試験(無毒性量 母動物 25、胎児 25mg/kg 体重)については、『75 mg/kg体重/日以上投与群の胎児で低体重及び骨化遅延が認められましたが、これらの所見については明らかな急性影響によるものとは考えられないことから、ARfDのエンドポイントとはしないこと』としました。

★マウス試験は評価しないと
 ARfD評価に関して、ネオニコチノイドの代謝は、動物種によって開きがあり、毒性発現の主な因子と考えられているアルデヒドオキシダーゼの活性から、ヒトでの毒性を調べるのにラットよりマウスが重要であることが明らかにされているとの意見に対しては、『ご指摘の一般薬理試験のマウスにつきましては、農薬専門調査会でもその判断について慎重に検討した結果、雄のみの試験であり動物数も少ないこと、認められた影響が弱い症状であること、毒性の定量的な評価ができないこと等を踏まえ、急性毒性試験結果を含め総合的に判断しARfDの設定根拠には用いないこととしました』とのことです。
 さらに、急性神経毒性試験は通常、ラットを用いることになっているとし、マウスの試験は評価する必要がないことも付記されています。

★代謝物の評価は現行で十分
 クロチアニジン(=親化合物)が植物体内や動物体内に取り込まれるとさまざまな代謝物が生じます。その中には、親化合物よりも毒性が強く、蓄積されやすいものもあり、代謝物の毒性評価を強化すべきだとの意見に、食安委は『植物体内運命試験の結果、可食部で10%TRR(一部放射化した成分の総残留放射能)を超えて認められた代謝物は、ラットの体内において検出されるか代謝過程でも生成しうると考えられることから暴露評価対象物質については親化合物のみと判断しました』『ラットにおける排泄試験の結果、投与後72時間に95%TAR以上(一部放射化した成分の総放射能)が体外へ排泄されており、体内への蓄積を示す結果は示されておりません。』
『生体内蓄積による慢性影響については、慢性毒性試験等の長期試験等を踏まえADIを設定しており、ADIに基づくリスク管理措置が実施されれば、本剤の食品を介した安全性は担保されると考えます。』

★食安委の企業寄り姿勢が問題だ
 結局、食安委は、人の健康影響評価に係わる毒性試験について、メーカーが提出したものが一番正しく、世界の研究者等が独自に行った毒性試験が報告されれば、試験方法がずさんで、評価に値しないとか、登録要件にない試験だとか、クレームをつけることに終始しているように思われます。
 食安委には、このような企業寄りではなく、ヨーロッパにおける予防原則の視点にみられるように、摂取する人の健康を守るには、出来るだけ安全サイドたった評価をするという姿勢に変えてもらう必要があります。
購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2014-11-28