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t27903#農水省主張「斑点米カメムシは稲の立ち枯れ被害をもたらす」のうそ#14-11
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いままで、斑点米カメムシの実害が品質低下にあるとしかいってこなかった農水省は、9月26日の消費・安全局長と「米の検査規格の見直しを求める会」との話し合いの席で、はじめて、斑点米カメムシは収穫量を減らし、立ち枯れを起こすとの主張をしました。その根拠を示す論文を求めたところ、植物防疫課がインターネットで検索した文献であるとして、提出してきたのが以下の5論文です。しかし、これらの論文を読むと、とても、斑点米カメムシが稲を枯らし、米の収穫量を減らすような大きな損害をあたえる根拠とはなり得ないものでした。
★論文1 馬場口勝男(1973)クモヘリカメムシの生態と防除について 九州病害虫研究会報19:88-90.
【参考サイト】農研機構の2007年度の報告
鹿児島県農業試験場の1971年の研究ですが、出穂した稲1株あて直径32cm、高さ75cmの円筒形寒冷紗で被覆した試験区に、クモヘリカメムシを放飼し、黒蝕米数を調べたもので、虫が死ねば、補充するといった手法がとられ、不完全登熟籾の数を調べたものにすぎません。
クモヘリカメムシについては、農研機構の2007年度の報告で『米の品質低下の主要因となる斑点米を引き起こす重要害虫である。』としているだけで、イネの立ち枯れや収穫量の減少を惹き起こす原因との記述はみられません。
★論文2 五十嵐是治ら(1985) 愛知県におけるクロアイホソナガカメムシの初確認と加害実態.関西病虫害研究会報27:44.
愛知県農業総合試験場などの報告ですが、ポット植えの稲(1区画:5ポット=5株)にカメムシを放した実験で、斑点米発生率は、500頭放飼区で34.45%、25頭放飼区で1.56%、放飼なしの対照区で0.12%との結果がでています。こんな報告が、カメムシが大変な被害をおよぼすという証拠とはとても思えません。
★論文3 下元満喜(1999) 吸穂性カメムシ類の生態と防除 [第2報]防除薬剤と防除体系. 高知県農業技術センター研究報告8:5-11.
有機リン系殺虫剤で斑点米カメムシを防除する場合の散布方法が検討されています。
試験圃場は205m2で、農薬散布を行わなかった無処理区と体系防除区(出穂12日後MMP粉剤、出穂23日後MEP粉剤散布)、慣行防除区(出穂5日後と出穂12日後いずれもMPP粉剤散布)について、カメムシ類発生数推移と被害米の型が調査されました。
表には、それぞれの区分ごとに、1000粒に対する型別被害粒数を示しました。
型別被害の略号は、I:正常に近い斑点米、U:割れ米になりやすい米 V;やや発育した「しいな米」、W;発育停止した「しいな米」(籾殻ばかりで実がない米)を意味します。I型の斑点米は無処理区で.1.57%、慣行区防除0.34%、体系防除区0.19%でしたが、被害米総粒数では、無処理区で6.7%の被害となっています。収穫減につながるものをU、V、W型被害米とすれば、農薬を散布しない場合の減収率は約5.1%、農薬を散布した場合は約2.2〜3.2%で、農薬散布しないと大きな被害となるとはいえません。
表 各試験区における被害米の型別粒数(普通期稲) −省略−
★論文4 藤田智博ら(2000)福島県におけるクモヘリカメムシによる水稲の青立ち症状の発生.北日本病虫研報51:151-154.
ヒエが発生している休耕田の周辺にある水田での調査で、「しいな」(未熟な籾)が増えるので、休耕田周辺部の水田では、ヒエを囲むように青立ちが見られるとのことですが、これが果たして立ち枯れなのでしょうか。このような特殊な例を挙げて、カメムシ被害が大きいことを強調するのは、姑息です。
★論文5 北上達・西野実(2006)イネクロカメムシの多発水田での圃場内分布と被害水稲における生育及び収量構成要素の変化. 関西病虫研報48:107-110.
三重県科学技術振興センター農業研究部が行った研究ですが、育苗箱剤とジノテフランを一回散布した32aの水田で、イネクロカメムシの多寄生区と少寄生区にわけ、水稲の生育状況が調べられました。草丈と白穂数、精玄米粒数や精玄重量に有意差があったとされましたが、斑点米の数は調べておらず、このカメムシが斑点米による品質低下の重要な原因となっているとの認識はみられません。
2009年の三重県病害虫防除所の予報第2号を見ると『斑点米カメムシ類は水稲の重要害虫です。ところが近年、斑点米カメムシ類でないカメムシが水稲の重要害虫になってきました。イネクロカメムシといいます。 イネクロカメムシは直接減収をもたらします。時には斑点米も作るので品質も低下し、多発生の圃場では踏んだりけったりの惨状になります』とあるだけです。
★斑点米カメムシ防除に必要なのは、水田周辺の除草
【参考サイト】東北農業研究センターの研究報告第102号(2004)
新潟県のときいろネットにあるH25年度【斑点米カメムシ類の防除徹底を!!】
図 水田周辺の雑草管理と斑点米カの発生状況 −省略−
東北農業研究センターの研究報告第102号(2004)に、『東北地域における斑点米カメムシ類の発生と被害実態調査』が掲載されていますが、その中にある岩手県病害虫防除所の調査結果では、次頁の図のように、圃場の斑点米発生率は、水田周辺に雑草や牧草のない管理圃場の方が低いことが明らかです。
米どころの新潟県の農林水産部経営普及課が運営する「ときいろネット」には、H25年度【斑点米カメムシ類の防除徹底を!!】というスローガンがありますが、『まずは、畦畔・農道の除草を』、ついで『田んぼの雑草もしっかり防除しましょう』とあり、三番目が『薬剤散布は出穂期を捉えた上で適期にしっかりやりましょう』です。
そもそも、米の減反→休耕田→放置田や牧草地の増加としたのは、農水省です。イネ科の牧草地で繁殖したカメムシが水田に移動し、斑点米を増やしているのに、その加害防止のため、毎年のように、斑点米カメムシの発生予報をだし、具体的な防除技術として、『水田周辺の草刈りを適期に実施すること』を挙げている農水省のマッチ・ポンプにはあいた口がふさがりません。
★色彩選別除去で、植物防疫法の有害動植物指定は必要ない
【参考サイト】植物防疫法:本法と第5章 指定有害動植物の防除。2000年3月31日官報告示:有害動植物指定
もともと、斑点米カメムシは、植物防疫法の「指定有害動植物」とはなっていませんでした。法の目的は『植物に有害な動植物を駆除し、及びそのまん延を防止し、もつて農業生産の安全及び助長を図ること』です。また、有害指定するのは『国内における分布が局地的でなく、且つ、急激にまん延して農作物に重大な損害を与える傾向があるため、その防除につき特別の対策を要するもの』です。一方、法第31条では、指定外の動植物でも、都道府県が独自に予察事業を実施できる仕組みになっています。
なぜ、2000年に、見た目の品質低下を有害とし、斑点米カメムシを有害指定したのでしょうか。私たちは、この指定以後、農薬防除面積が増えているため、当時の農水省がどんな指定通知を発出したか知ろうとしましたが、廃棄されて見当たらないという返事の上、前述のような根拠論文を示してくるわけです。
斑点米による品質低下を問題とするなら、市民集会で明らかになったように、@生じた着色米を色彩選別機でのぞくことで、事足ります。生産者が、A水田周辺の除草を行い、B水稲の開花期をカメムシの繁殖時期からずらし、C水田の生物相を豊かにすれば、選別機への依存も減ります。
それなのに、ミツバチや非標的昆虫を殺し、受粉農作物の生産減につながる殺虫剤散布をしてまで、斑点米を減らそうと躍起になる農水省は、農薬防除一辺倒に毒されているといわざるを得ません。
環境保全型農業を目指す多くの生協がありますが、私たちの要望賛同はわずかでした。中には、ミツバチ被害があっても、ネオニコが農薬の使用回数を慣行農業よりも減らすから散布を止められないというところもあります。斑点米のある玄米を色彩選別機や精米で減らしている実情を、もっと知ってもらいたいと思います。
ただの虫だった斑点米カメムシが、害虫となった経緯を解析し、上記@〜Cの方法を実施することで、ふたたび、ただの虫に戻せば、植物防疫法で、有害動植物指定する必要もなくなるのではないでしょうか。
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作成:2014-12-26、更新:2015-01-15