食品汚染・残留農薬にもどる
t28101#クロチアニジンの残留基準案見直し要求への厚労省の回答は更なる緩和だった〜パブコメ意見募集は2月21日締切#15-01
【関連記事】記事t26601、記事t27102、、記事t27402、記事t27503、記事t27803とクロチアニジン毒性評価へのパブコメ、記事28102
【参考サイト】食品安全委員会:第532回 食品安全委員会とクロチアニジン農薬評価書(第6版確定、パブコメ付)
厚労省:クロチアニジンの残留基準設定についての意見募集(2013年)と参考資料、意見の集計結果
当グループの意見、全パブコメ意見(グリーンピース・ジャパンのHPにリンク)−ファイル容量が大きくDLに時間がかかります
現在募集中:厚労省のクロチアニジン残留基準案パブコメ意見を
募集期間:1月23日から2月21日、基準案と参考資料
ネオニコチノイド系殺虫剤クロチアニジンの残留基準改定が提案され、パブコメ意見募集が行われたのは、13年10月のことでした。原案では、それまで3ppmであったホウレンソウの基準を40ppmにするなど大幅緩和が諮られていました(記事26601参照)。これに反対するパブコメ意見は、1657でした。
当グループは2013年11月末に、消費者庁と話し合いをもち((記事26801参照)、さらに、グリーンピース・ジャパンが実施した基準緩和反対のネット署名12770筆をもって、6団体による共同交渉を行いました(2014年2月に厚労省、同3月に農水省。 (記事27001、記事27102、記事27103参照)。
厚労省は、2013年の当初案を一旦凍結し、食品安全委員会に健康影響についての再評価を求めることになりました。その後、同委員会は毒性の再評価を行い、7月にADIを以前と同じ0.0097mg/kg体重/日に加え、ARfD(急性中毒発症推定量)を0.6mg/kg体重という案を提示し、パブコメ意見を募集しました。多くの反対意見にもかかわらず、10月に出した最終評価は提案通りで、ARfDはEU基準より6倍緩いものでした(記事t27401、記事t27503、記事t27803参照)。
★減らすどころか、露骨に緩和
【参考資料】厚労省:クロチアニジンの残留基準の2009年資料、2013年資料
12月24日開催の薬事・食品衛生審議会 (食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会)の資料にある
クロチアニジン残留基準案資料(短期推定摂取量あり。2014年資料)
ADIとARfDの決定を踏まえ、厚労省は、2014年12月24日に開催された薬事・食品衛生審議会 (食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会)で、改めて、クロチアニジンの残留基準案を提示しました。ところが、驚くべきことに、2013年の緩和案が修正されるどころか、表1のように、あらたな緩和が行われていました。
表1 残留基準の推移(単位:ppm、09年基準は現行基準)
@09=13年基準より緩和した作物 A09年基準を緩和した13=14年案で5ppm以上の作物
作物名 2009=2013 2014年 作物名 2009 2013=2014年
米 0.7 1 かぶ類の葉 0.02 40
さといも 0.05 0.2 ケール 1 10
かんしょ 0.1 0.2 こまつな 1 10
やまいも 0.02 0.2 きょうな 5 10
こんにゃくいも 0.05 0.2 チンゲンサイ 5 10
その他のいも 0.02 0.2 その他の
てんさい 0.1 0.2 あぶらな科野菜 5 10
さとうきび0.02→0.4* 0.5 しゅんぎく 0.2 10
だいこん類の根 0.1 0.2 わけぎ 2 5
西洋わさび 0.02 0.2 パセリ 2 15
ごぼう 0.02 0.2 セロリ 5 10
サルシフィー 0.02 0.2 みつば 0.02 20
ねぎ 0.7 1 その他のなす科野菜1 10
にんじん 0.02→0.05* 0.2 ほうれんそう 3 40
パースニップ 0.02 0.2 うめ 3 5
しいたけ 0.02 0.05
*は、2009年基準→2013年案
B09、13、14年基準が同じで5ppm以上の作物:茶 50、レタス20、ニラ15、オウトウ5、ブドウ5、ダイコンの葉各5ppm
2014年案は、多くの反対意見が寄せられた13年基準案(ホウレンソウの40ppmを含め表中AB)と同じであるばかりか*、16作物について、更なる基準緩和(表中@)が提示されました。日本人の主食である米の残留基準も0.7ppm→1ppmと緩められています。13年のパブコメ意見は全く無視されました。
*注:強化されたのは、13年案で0.02ppmであったギンナンの基準が削除され
一律基準の0.01ppmになっただけ。
TMDI(理論最大一日摂取量)とその対ADI比は表2のようになりました。厚労省の評価は、TMDIはADIの80%を超えないから残留基準案は安全だということになります。
13年と14年のTMDIを比較すると、算出の際のフードファクターの見直しがあったことを無視したとしても、対ADI比が最も高い幼小児で63%から57.9%に減少しただけで、国民平均も妊婦も高齢者も、3〜7%増えています。いままでよりも多く摂取しても安全だとする基準設定は、とても、消費者の安全を優先したリスク管理とはいえません。このままだと、さらに、対ADI比が80%になるまで、まだ、残留基準を緩和することになるのではないでしょうか。
表2 TMDIとその対ADI比の推移
年 国民平均 幼小児 妊婦 高齢者
2009 TMDI 918.8 519.8 811.2 955.3 μg/日/人
対ADI比% 17.8 33.9 15 18.2 %
2013 TMDI 1801 966.2 1577.5 2011.6 μg/日/人
対ADI比% 34.8 63 29.2 38.3 %
2014 TMDI 2011 927.2 1590.3 2507.1 μg/日/人
対ADI比% 37.6 57.9 33.3 46.1 %
★短期摂取推定量はARfDと比較して安全だと
【参考資料】厚労省:11月27日開催の薬事・食品衛生審議会 (食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会)の資料にある
急性参照用量を考慮した残留基準の設定について(短期摂取量の推定等について)
食品安全委員会はARfDを0.6mg/kg体重としました。この数値は、一度に(24時間以内)同じ食品を多量に食べた場合、急性中毒を発症するかどうかの目安になるものです。
短期推定摂取量(ESTI)は、作物ごとに、人が一日に最大食べる量と、その作物の農薬最大残留量、すなわち、残留基準をもとに算出したもので、体重1kg当りで示されます。食品ごとの最大摂食量とESTI算出法については、記事t28102を参考にしてください。
クロチアニジンのESTIと対ARfD比を表3に示しました。表には、1歳以上の一般人又は1〜6歳の幼小児の区分で、対ARfDが2%以上の作物を挙げました。
表3 2014年基準の場合のクロチアニジンの作物別ESTIとその対ARfD比
(ESTI単位はμg/ kg体重、ARfDは600μg/kg体重。作物は対ARfD2%以上のもの)
注:EUにおけるARfDは100μg/kg体重なので、日本の対ARfD比17%以上はEUでは100%超えとなる。
作物名 残留基準 一般 幼小児
ppm ESTI 対ARfD ESTI 対ARfD
米 1 6.4 1% 10.8 2%
ダイコンの葉 5 41.3 7
カブの葉 40 106.4 20
ハクサイ 2 25.9 4 31.4 5
キャベツ 0.7 6.7 1 10.9 2
ケール 10 80.3 10
コマツナ 10 42.3 7 88.8 10
キョウナ 10 33.3 6
チンゲンサイ 10 74.2 10
ブロッコリー 1 6 1 14.4 2
タカナ 10 78.5 10
ナノハナ 10 27.6 5
シュンギク 10 32.6 5
レタス類 20 112.8 20 197 30
非結球レタス 20 80.6 10 278 50
レタス類 20 114.7 20 177 30
ニラ 15 20.2 3 31.6 5
ワケギ 5 9.9 2
パセリ乾燥 15 13.4 2
セロリ 10 55.1 9
ミツバ 20 16.2 3
トマト 3 32.8 5 81.5 10
ピーマン 3 7.7 1 19.6 3
ナス 1 6.5 1 15.6 3
トウガラシ生 10 16.1 3
シシトウ 10 10.2 2
キュウリ 2 12.7 2 29.2 5
スイカ 0.2 6.6 1 17.3 3
トウガン 2 34 6
ニガウリ 2 16.1 3
ホウレンソウ 40 194 30 449 70
タケノコ 2 16 3 17 3
ズイキ 2 20.2 3
レンコン 2 12.4 2
ミカン 1 9.3 2 27.4 5
ナツミカン 2 24.9 4
オレンジ 2 18.8 3 53.9 9
オレンジ果汁 2 19.9 3 35.7 6
グレープフルーツ2 34.4 6
ポンカン 2 21 4
リンゴ 1 14.3 2 32.1 5
リンゴ果汁 1 10.6 2 33.7 6
日本ナシ 1 15.1 3 28.8 5
西洋ナシ 1 14 2
モモ 0.7 9.5 2 29.7 5
ウメ 5 6.9 1 17.1 3
オウトウ 5 12.5 2
ブドウ 5 67.4 10 153 30
カキ 0.5 7.1 1 10.5 2
バナナ 1 11.2 2 38.5 6
マンゴ 1 13.5 2
イチジク 4 30.7 5
茶 50 30.4 5 48.2 8
対ARfDが30%以上なのは、一般の場合、ホウレンソウ(残留基準40ppm、最大摂食量176.9g)の30%だけですが、
幼小児の場合、ホウレンソウ(40ppm/102g摂食)70%、
非結球レタス(20ppm/84.4g摂食)50%、レタス類(20ppm/56g摂食)30%、
レタス(20ppm/50g摂食)30%、ブドウ(10ppm/164.7g摂取)30%でした。
厚労省は、各作物毎のESTIは一般も幼小児ともARfDを超えていないから安全だと結論しました。
そもそも、人はいろいろな食品を食べます。1食品の多量摂食でARfDを超えなくても、他の食品や水からの農薬摂取、それに大気経由の摂取などを合わせると、ARfDを超えることもありえます。このことを配慮せずに、安全宣言することには、納得できません。
また、毒性評価は、体重1kg当りでの比較であることを忘れてはなりません。私たちはいままでも、ヤセの大食いや、体重の軽い子どもがたくさん食べる場合が、特に問題だとしてきましたが、食べる人の体重分布は考慮されず、個人差は1歳以上の一般と1〜6歳の幼小児の年齢区分だけで、妊婦、高齢者が軽んじられています。
すくなくとも、1食品でのESTIがARfDの10%を超えないようにするなどの規制強化が必要です。
残留基準のパブコメ意見募集がはじまっています(募集期間:1月23日から2月21日)。前回以上の意見を提出し、メーカーによるクロチアニジン製剤の適用拡大や使用方法の変更などの登録申請に楔を打ち込み、農薬残留量拡大につながるクロチアニジンを使用をさせない、クロチアニジンを使用した作物を売らない買わないための運動が必要です。(なお、この記事では残留基準案を2014年基準としましたが、この案はそのまま、パブコメ2015年基準となっています。)
購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、
注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2015-01-25