食品汚染・残留農薬にもどる

t28102#ARfD(急性中毒発症推定量)とESTI(農薬の一時多量摂取量)#15-01
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【参考サイト】厚労省:11月27日開催の薬事・食品衛生審議会 (食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会)の資料にある
        急性参照用量を考慮した残留基準の設定について(短期摂取量の推定等について)
       日本植物防疫協会植防コメントより2014/04/02号2014/05/09号2014/06/10号2014/08/27号

 食品に残留する農薬について、いままでは、この量なら、毎日、一生涯食べ続けても安全だという毒性評価値ADI(一日許容摂取量)と、食品ごとに基準値まで残留していると仮定して計算した、全食品からの農薬摂取量TMDI(理論最大一日摂取量)との比較で、基準の妥当性が論議されてきました。一方、残留基準は、農作物ごとの残留試験で得た最大残留値をさらに1.5倍以上にした値に設定されてきました。

★ADIとARfDで毒性評価をする
 ところが、残留基準を大きくすると、TMDIがADIを超えるケースがあり、ADIより一般に数値の高いARfDにより、個々の食品で、急性中毒がみられないような残留基準を設定しようとする動きがでてきました。
 いままでのADIは、慢性毒性、発がん性、生殖毒性、催奇形性などで評価した一生涯にわたる影響で、動物試験で得た毒性が見られない量の100分の1を人に当てはめます。
 新たに導入されたARfDは、一回(又は一日当り)の経口投与で、実験動物に急性中毒の影響がでるかどうかを評価し、人の急性中毒発症の判断基準となります。

★残留農薬の毒性は、作物毎にどの程度食べるかで決まる〜摂食量の調査結果
 最も多く残留する農薬濃度は、その食品の残留基準と同じです(残留基準を超えるものは流通できません)。毒性は、体重1kgあたりで表すので、個々の作物を食べる量、その作物の残留基準、食べる人の体重の3つを変えた場合、成分毎に、@農薬の毒性評価値が、A作物を食べる量×農薬の残留濃度=農薬の摂取量より少なければ、設定した残留基準で安全だとされます。
 人は、毎日、何種もの食品(農作物については約140種のほかに、畜産品、魚介類、加工食品、飲料がある)を食べますが、毎日食べるものもあれば、週に一度しか食べないものもありますし、人の嗜好によって、それぞれの食品ごとに食べる量が違います。
 表1に、一人一日あたりの農作物別フードファクター(以下、FF)と最大摂食量*を示しました。
 毎日、多くの人がどんな農作物を一日当り何グラム食べるかを調べ、それを、押しなべて、平均したのがFFで、一番多く食べる人の場合が最大量だと考えてください。表では、一般人(1歳以上)が1日に最大170g以上食べる農作物を、1〜6歳の幼小児とともに挙げています。
 コメは、毎日食べますので、国民一般の平均摂食量FF164.2gは最大摂食量350.2gの2倍程度ですが、めったに食べないマンゴーはFF0.3gで、最大摂食量は800倍の242gです。表をみると最大摂食量がFFの10倍以上の農作物が多数あることがわかります。
 しかし、これらの評価は、1日だけの摂食によるもので、リンゴ好きの人が、毎日1個300gを食べ続けても影響を受けないと保証されるわけではありません。
 *注:厚労省科学研究費補助金事業による食品別摂食量の調査が、全国25市町村の
  一般住民(1歳以上)で実施された。調査内容は食物摂取状況調査(世帯に対する
  秤量記録、比例案分法)で、学校給食については献立表等を収集。実施時期はH17-
  19年度5-6月、8-9月、11-12月、2-3月で、連続しない3日間(平日の2日及び休日の1日)。 

 表 一人一日あたりの農作物別フードファクターと最大摂食量 (国民一般で170g以上の作物のリスト)

         国民平均・一般    幼小児                   国民平均・一般   幼小児
農作物名    FFg   最大量g FFg  最大量g  農作物名    FFg   最大量g FFg  最大量g
コメ        164.2    350.4    85.7   179.2   オレンジ      7       200     14.6     150  
トウモロコシ  4.7    230       5.4   136.4    グレープフルーツ4.2   315      2.3  
バレイショ   38.4    187.2    34     128      ポンカン      5.9     379      5.9
カンショ      6.8    225      6.3    138      リンゴ       24.2     256.8   30.9     180
ダイコン類の根33     216.5   11.4    120.8    日本ナシ      6.4     308.5    3.4     160
ハクサイ     17.7    240      5.1     87.5    西洋ナシ      0.6     250      0.2 
キャベツ     24.1    176     11.6     88.8    ビワ          0.5     301.1    0.3 
トマト       32.1    218.8   19      148.5    モモ          3.4     278      3.7     261.8
ナス         12      207      2.1     85      スモモ        1.1     178.6    0.7 
カボチャ      9.3    180      3.7     87.5    イチゴ        5.4     200      7.8     179.2
スイカ       7.6    600      5.5    450      ブドウ        8.7     235      8.2     164.7
メロン類      3.5    300      2.7    160      カキ          9.9     360      1.7     117.3
トウガン      2.7    306.7    1.2             バナナ       13.2     200     15.2     200
ホウレンソウ 12.8    176.9    5.9    102      パイナップル  1.7     250      2.3     190
その他の野菜 13.4    191.7    6.3             マンゴー      0.3     242      0.3 
ミカン      17.8    309.4   16.4    264      イチジク   1.2     250      0.4 
ナツミカン    1.3    264    0.7
★農薬の短期推定摂取量(ESTI)の算出
 残留基準を超えて回収される農作物について、ADIと比較して、一度に何百g食べても、直ちに影響がでないとの注釈がつきます。しかし、今後は、ADIだけでなく、一度に多量に食べた場合ついて、ARfDとの比較が加わります。
 安全かどうかの評価は、一日摂取許容量=ADIの80%>全作物からの理論最大一日摂取量=TMDIとともに、急性中毒発症推定量=ARfD>個別作物の短期推定摂取量(一時多量摂取量のこと)=ESTIとなります。
 厚労省は、ESTIの算出を、FAO/WHO合同農薬専門家会議の方式に従って行っています。基本的には、一時多量摂食による農薬摂取量=(前節の作物別最大摂食量)×(作物別残留基準又は最高残留濃度)ですが、算出式では、1個体あたりの可食部重量や個体によるの濃度のバラツキを補正するための変動係数が導入されています。
 たとえば、ホウレンソウ−クロチアニジンの場合、体重17.1kgの幼児のESTIは、単純計算では、102g×40ppm÷17.1kg=239μg/kg体重ですが、1個体当りの可食部重量45g、変動係数3としたESTIは{(102g-45g)×40ppm+45g×40ppm×3}÷17.1=449μg/kg体重となり、ARfD600μgより低く、安全とされたわけです。

★数字の遊びであってはならない
 上述の農薬摂取量と体重ベースの毒性評価値の比較は、計算上の問題にすぎません。心身発達途上にあり、体重のわりにたくさん食べる子どもを体の小さな大人と考えて、体重あたりの毒性と比較して、数値の大小で安全かどうかきめる数値主義は疑問です。
 もともと、人は、農薬を使用せずに、栽培した農作物を食べてきました(すなはち、農薬の摂取量はゼロ)。基準を超えなければよいだけではなく、できる限り農薬摂取を低くすることを目指さねばなりません。
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作成:2015-02-27