ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる

t28802#環境省の農薬環境影響調査 (その1)ネオニコが水質や底質に検出されるが、アキアカネ減少との関係は?#15-08
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【参考サイト】国立環境研究所:農薬の環境影響調査(平成 26年度)業務報告書(2015/03/27)

 環境省が、農薬環境汚染と生き物への影響についての調査事業を実施していることは、昨年の本誌279号で紹介しました。この事業を請け負った国立環境研究所のグループが、2014年度の調査結果を118頁の報告書として公表しました。事業目的は、
  @ネオニコチノイド系とフィプロニル(以下ネオニコ等という)の環境中への残留実態及び
  トンボ等水生節足動物類への毒性に関する情報について把握するとともに、環境中のネオ
  ニコチノイド系農薬等及びその残留状況がトンボ等の生息状況に及ぼす影響を考察するこ
  とA現行のリスク評価手法では対応が困難なネオニコ等、昆虫成長制御剤(IGR)、摂食阻
  害剤等について、水産動植物の評価対象である通常の魚類、オオミジンコ及び藻類の3点セ
  ットの急性毒性のみでは不十分という声があることを踏まえて、現行の登録保留基準のリ
  スク評価方法の検証を行い、今後の検討の方向性を整理すること、の二つです。
 ここでは、主に、@に関する調査結果を紹介します。
★トンボ等への農薬の影響は明確でない
 水稲の育苗箱に用いるフィプロニルやイミダクロプリドがアキアカネ(赤トンボの一種)の個体数を減少させていることについては、本誌217、239、257号などで石川県立大学の上田哲行さんらの研究を紹介してきました。
本報告では、ネオニコ等とトンボ等への毒性と環境影響について、25件の文献を選び、考察がなされました。
 産業技術総合研究所の二橋亮さんの富山県でのアカネ属の個体数減少とイミダクロプリドやフィプロニルの出荷量との増加との関係を認めながら、トンボ類の長期にわたる個体数の調査結果が見当たらないので、因果関係ありとの断定できないとされました。すなはち、@中干しのための落水といった耕種的影響や、圃場整備などといった環境の変化による影響の可能性を否定する結果も見当たらないことから、減少要因がネオニコチノイド系農薬等の使用であることを明らかにできるデータはない。A我が国のトンボ類におけるネオニコチノイド系農薬等の毒性値として妥当と考えられるものは見当たらない、としています。
 Aについては、農薬濃度を変えた急性毒性試験の予備テストとして、アオモンイトトンボ のヤゴを用いた実験が行われましたが、共食いが起こり、死亡や影響を受けたのが農薬によるものかどうかの区別がつかず、試験方法はまだ、確立していないとのことです。
 また、上述の二橋さん、産業技術総合研究所の大津和久さん、上田さん及び共同研究者でもある宮城大学神宮字寛さんの4研究者への意見聴取も行われました。
 その中で、上田さんは『トンボに影響するのは農薬の量ではなく、農薬の使用有無であるため、農薬の使用量を減らすだけの特別栽培米というのはトンボ類へ及ぼす影響の削減には役に立たない。実際、プリンス(フィプロニル)を使用している特別栽培米の水田ではトンボが発生していない』、トンボ類を環境影響の指標とすることについては、『少なくともイミダクロプリドやフィプロニルに関して感受性が高い点において、トンボは指標種に向いていると言えるだろう』
 大津さんは『赤とんぼ類の減少は著しいとされるが、定量的なデータは乏しい』『どれだけ影響しているかは分からないが、耕作放棄や宅地化によりトンボの生息環境は減少している。』
 二橋さんは『ネオニコチノイド系殺虫剤が使用され始めた時期と、全国的な突然のアカネ類の減少傾向からネオニコチノイド系殺虫剤に着目することは妥当だろう。また、殺虫剤のみならず、除草剤が生息場所を攪乱することによりトンボ類に影響を及ぼしている可能性もあるだろう。』
 神宮字さんは『研究対象として観察している感覚としては、アキアカネ、ナツアカネは減少している、また変動が大きいと感じている。』『おこなった全ての実験結果において、フィプロニルを使用すると短期間でアキアカネ・ノシメトンボのヤゴが消失してしまうことから、フィプロニルの影響は大きいと言わざるを得ない。イミダクロプリドでは、30%くらい生き残ることもあれば完全に消失する場合もあり、結果に変動がみられる。』などの見解が注目されます。  二橋さんは『農薬を全く使用しないという選択肢が使えない以上は、ある程度試行錯誤を行いながら農薬の使用を続けるしかないと思うが、農薬が実際にどのくらい影響がでているのか、そもそも定量的なデータが少ないので、全国的なモニタリングを行い、異変があるときにはすぐに注意喚起を行う取り組みが重要と考えている。』とも述べていますが、減少原因がいろいろ考えられている中で、ネオニコ等の使用をやめて、どのようにアキアカネの個体数が回復するかの研究も必要でしょう。

★湖沼等の水質・底質のネオニコ調査
 ネオニコ等農薬の水田地帯や一般河川水、水道浄水場などでの水系汚染について、本誌でも毎年取り上げてきましたが(たとえば、276号、277号など)、報告書では、トンボ等の産卵・生息地として確認されている湖沼・溜池・水辺や里地里山の中から、以下の7個所が調査対象とされ、そこでのアキアカネ等の生息状況とネオニコ等の残留実態が調べられました。
  @北海道夕張郡(平地部の河川脇の湖沼、丘陵地の果樹園の脇の溜池、水田脇水路)、
  A新潟県佐渡市(トキ放鳥地で、沢沿いの水田脇水)、
  B石川県輪島市(棚田と林縁の沢との間に形成されている水路)、
  C茨城県石岡市(つくば学園都市の近郊農業地域で、丘陵地のすそ付近の水田、脇水路)、
  D奈良県奈良市(矢田丘陵で、水田や畑付近水路)、
  E広島県東広島市(標高200mの盆地で、水田地帯の水路)、
  F佐賀県佐賀市(佐賀平野の広大な水田地帯の中心で、住宅地の中にある水田・畑の脇の水路)
 @〜Dはアキアカネが比較的多い、Eはアキアカネ少数、Fアカネ属激減地域です。各湖沼等で、トンボ類の生息調査と水質及び底質の農薬分析が実施されました。 【トンボ成虫及びヤゴの捕獲調査】7地域で、8月〜11月の1〜3回の成虫の種類の見取り調査とヤゴの種類のすくい取り調査が行われました。 【水質と底質の農薬分析】7地域の2〜7個所で、9月〜11月の2回又は3回採取された水質と底質(湖沼等の底の泥)の試料の分析結果を表にまとめました。水質、底質別にネオニコ等各成分の検出数と検出率及び当該農薬の最大検出値をあげました。また、図には、各地域での農薬別平均検出濃度をグラフで示しました。 地域により、検出される農薬の種類や検出率、検出値が異なりますが、水質、底質とも、佐賀、広島が高いことがわかります。 北海道、新潟、奈良では、農薬を施用していない水田近郊の水路から底質を採集したにもかかわらず、いずれかのネオニコ農薬等が検出され、環境中での移動や長期の残留が疑われています。 ネオニコ等の検出量とトンボ生息数および種多様性の間には定量的ではありませんが、農薬濃度が高いとトンボの生息に負の影響がでることが示唆されるとの指摘が見られたことは注目に値します。
  表 湖沼7個所における水質と底質中のネオニコ等の検出値

(a)水質: 検体数48、単位μg/L                (b)底質: 検体数49、単位μg/Kg   
農薬名       検出数  検出率 最大検出値*       検出数   検出率   最大検出値*
イミダクロプリド   9     18.8%  0.03(佐賀)       38      77.6%    2(佐賀)
アセタミプリド    3      6.3    0.008(佐賀)        28      57.1      0.09(茨城)
ニテンピラム     1      2      0.01(佐賀)          0       0         ND
チアクロプリド    1      2     0.006(佐賀)        17      34.7      0.02(奈良)
チアメトキサム    11     22.9    0.4(広島)           8      16.3      2(広島)
クロチアニジン    12     25     1(佐賀)            36      73.5      8(佐賀)
ジノテフラン      21     43.8    3(佐賀)            30      61.2      3(佐賀)
フィプロニル      13     27.1    0.002(佐賀)        46      93.9      5(広島)
  最大検出値は報告のグラフより読み取った。単位はμg/Lもμg/Kgもppbに相当する。
 ( )は最大値を示した地域名
図 地域別のネオニコ等の水質と底質の平均濃度 −省略−


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作成:2015-11-27