農薬の毒性・健康被害にもどる

t28803#農薬危害防止運動の中、つぎつぎ起こる農薬事件・事故#15-08
【関連記事】2014年:記事t27203記事t27301記事t27403記事t28402記事t28501
【参考サイト】農水省:「平成27年度 農薬危害防止運動」の実施について実施要綱

   反農薬東京グループ:2015年度の農薬危害防止運動への要望と質問および回答
               2014年度の要望と質問及び回答


 農薬危害防止運動月間の最中、各地から農薬関連事件・事故の報道がなされています。4月に私たちがおこなった要望では、毎年その年に起こった事例を前文の一覧表にしていますが、その種はつきることがありません。7月になって、農水省から届いた危害防止運動への要望への回答を紹介しながら、この夏の危被害についてもふれて行きたいと思います。

■農薬による人の危被害について
【関連記事】記事t28003(2013年農水省発表と2012年厚労省発表)

 農薬による人の危被害調査が、縦割り行政の結果、複数の行政部署で、別々に行われていることについて、一元化すべきだとの要望を毎年のように出していますが、農水省等からの回答では、『調査は目的に応じて、行うことが適切である』『調査の結果は関係省庁間で共有し、それぞれの省庁で対策の検討等の参考としております。』とされるだけです。
 私たちは、統一データベースを利用して、省庁の担当部署が、それぞれの目的に沿って対策を講ずればすむことと思い、本年2月、総務省が実施した「国の行政に関する意見・提案」でも、農薬成分による人体被害統計について、統一されたデータベースを構築すべきだと提案しています。
 ちなみに、農水省の統計では、農薬による死者は、年間2〜8人ですが、厚労省の人口動態統計によれば、2013年の農薬による死者数は右表のようです。
   表 厚労省人口動態統計による農薬死亡者数

   農薬の用途と種類  2013年の死亡者数
             男  女  合計  前年増減
   殺 リン・カーバ  63  58  121  -14
   虫 塩素系     -  -  -   - 2
   剤 その他     11  7  18  - 4
   除草剤・殺菌剤    59  55  114  - 8
   殺鼠剤              1    -     1    + 1
   その他              4    1     5    - 2
   不明                59   28    87   + 8
   合計               197  149   346   -21
 農水省へは、【1-1】具体的には、どの省庁間で、どのようなやり方で情報を共有されているか。
【1-2】どの省庁間で、どのような会議が行われているか。の二点を尋ねました。
[農薬対策室の回答]
 省庁間で、必要に応じて会議や通知等を通じて関係部署との情報の共有を図っているところであり、今後も引き続き、連携に努めてまいりたいと考えております。

■毒劇農薬の管理について
【関連記事】t28305
【参考サイト】高知新聞犬に毒餌

 農薬混入餌による野鳥やペットの毒死事件が後を絶ちません。高知新聞の6月27日の報道では、高知市内で続いている犬の中毒事件では、県警の調査で、殺虫剤が検出され、器物破損と動物愛護法違反で捜査が行われているそうです。

 私たちは、毒劇物の管理等に問題があると考え、厚労省が挙げている毒劇農薬の適正販売強化対策は、運動月間だけでなく、年間を通じて、必要だとした上、
@毒劇物指定農薬を販売する店では、購入に際して、身分証明書等により身元確認をすることを明記した表示を行う。
A購入者には、毒劇農薬の使用・譲渡・廃棄等について注意事項を書いた書面を配布することを求めました。
[厚労省化学物質安全対策室の回答]
 「毒劇物たる農薬の適正販売強化対策」についてもその目的に沿って策定しているところです。当該対策として挙げている5つの項目はすべて、毒物及び劇物取締法の規制事項であり、強化月間のみならず年間を通じて遵守していただくべく指導しております。
 また、身元確認と購入者への情報提供につきましては、毒物及び劇物取締法第14条(毒物又は劇物の譲渡手続き)、同法第15条(毒物又は劇物の交付の制限等)および毒物及び劇物取締法施行令第40条の9(毒物劇物営業者等による情報の提供)として定めており、引き続きその遵守徹底のため指導を行ってまいります。ご提案の事項については上記のとおり取り組んでいます。

■販売店等の毒劇法違反は年間約千件
【参考サイト】JA松本ハイランド農薬盗難事件お詫び(7/08)

 厚労省が毒劇法に基づき、実施している毒劇農薬の販売・使用・廃棄に関する立入調査結果について尋ねました。厚労省化学物質安全対策室の回答は、表のようでした。
違反の多さに起因すると思われる最近の事例を示します。
長野県松本ハイランド農協(松本市)が運営するブドウ集荷所で、販売用の農薬約1439点(約460万円)が盗まれるという事件が起こりました。松本署が盗みの疑いで同農協の組合員を逮捕したのは、7月のことですが、容疑者は、2月末から4月下旬にかけて、農薬を転売目的で盗んでいました。農協は5月末の棚卸まで、気づかず、7月になって被害届を出したということです。盗品の中には、毒物の除草剤や劇物殺虫剤・殺菌剤が含まれていたそうです。
 毒劇物取締法では、施錠した場所への保管が義務付けられていますが、農協は、一時期、鍵のない集荷所で農薬を保管しており、1ヶ月以上も、農薬が無くなっていることに気づかないというお粗末な状況でした(中日新聞7月8日報道より)。

■県の農薬研修会でメーカーが宣伝まがいの資料配布
【参考サイト】シンジェンタジャパン:プリグロックスL製品安全データシート
       栃木県:平成27年度農薬危害防止研修会開催案内実施要領

 国の要綱では、農薬使用者や販売者、毒劇物取扱者を対象に、講習会等を開催して 農薬の適正使用等を普及啓発することとなっており、私たちは、昨年実施した研修会等に関する都道府県アンケート結果を踏まえ、一層の強化を求めました。
 栃木県では、7月21日、農薬使用者、農薬販売業者、流通関係者、農業関係団体、消費者団体、市町、県関係機関ほかを対象に、 研修会が開催され、農薬対策室から「周辺住民及び環境等への農薬危害防止対策について」の注意喚起の話もありました。一方、この会では、プリグロックスL安全対策協議会という業界団体が、「プリグロックスL安全取扱チェック読本」という宣伝まがいの資料を配布しました。同剤は毒物指定されたパラコートとジクワットの混合除草剤であるにも拘わらず、資料には、急性毒性の強い吸気試験の結果が記載されていません。一般の農家や家庭での安易な使用が危険であるとの認識にたてば、このような除草剤を使用しないことを強調すべきなのに、特定のメーカーの製品を注意して使えば安全だと紹介するようなことは、研修会では行うべきではありません。同様なケースは、数年前、神奈川県でも見られ、県とメーカーが癒着を疑われるようなことは、すべきでないとの抗議の声が出て、その後、配布は中止になりました。

■非農薬系除草剤について
【関連記事】記事t28401(グリホサートの発がん性ランク2A)

   反農薬東京グループ:化管法要望労働基準局へのパブコメ意見

 植栽管理に使用できない無登録除草剤については、農薬取締法にもとづき、農薬として使用できない旨のラベル表示や販売に際して、農薬と区別して陳列するなどの指導がなされています。違反事例について、尋ねました。
[農薬対策室の回答]
 非農耕地用の除草剤の販売業者への指導について、平成25年度においては、5,194箇所の販売所において点検を行ったところ、このうち、2,152販売所で農薬に該当しない除草剤を扱っており、このうち446販売所では陳列棚に農作物に使用できない旨の表示がありませんでした。表示の無かった販売所等に対しては、是正を指導しました。-以下略-

 非農薬除草剤には、グリホサート系製剤が多く製造・販売・使用されていますが、今年3月、IARC(国際ガン研究機関)の発がん性のランクが上がっており、その数量も不明なまま、身近で使われているのが気懸かりです。私たちはグリホサートについては、化管法の指定物質とするよう要望し、厚労省労働基準局のパブコメで、グリホサートを「労働者の健康障害防止に係るリスク評価候補物質」にするよう求めています。

■住宅地問題について
 住宅地周辺での、農薬散布について、農水省は、『 危害防止運動の実施要綱においては、農薬散布時の事故防止対策の周知のなかで、特に指導を徹底する事項として、「住宅地通知を周知し、その事項の遵守を徹底すること」として、通知の概要を記載しております。』と述べていますが、不適切な事例はとどまることはありません。
 北海道苫小牧市で発覚した道路での除草剤散布の事例(記事t28804参照)をごらんください。
■農薬廃棄物の処理
【参考サイト】山梨県中央市:中巨摩地区広域事務組合清掃センター

 地方自治体や農協、メーカーなどが実施している農薬等の回収状況について、実施主体、実施回数、回収数量を尋ねました。
[農薬対策室の回答]
 昨年もお答えしたように、農家等が有する廃農薬等は産業廃棄物に該当することから、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき、事業者の責務として自らの責任で処理すべきものです。農協等が主体となって回収を行っている事例もあるかと思いますが、国において、廃農薬の回収の実施主体、実施回数、回収数量について把握等を行うことは考えておりません。

農薬担当部署のこうした答えにみられるように、農薬廃棄物の処理システムは万全ではありません。

 今夏、山梨県で農薬が廃棄物処理施設に放置された事例が読売新聞等により報道されました。8月7日夕から、中央市にある「中巨摩地区広域事務組合清掃センター」の門前に、不審なダンボールが置かれており、これを運んだ職員が刺激臭を感じ、病院へ行ったそうです。南甲府署の調べで、液体が入ったポリ容器と白っぽい粉末が入っており、市販されている農薬だったとのことです。何者かが処理に困って、放置したとして、警察は廃棄物処理法違反の疑いで捜査しているそうです。

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作成:2015-10-30