農薬毒性・健康被害にもどる
t29101#次第に明らかになる農薬人体汚染 (その1)尿中に検出される有機リンやネオニコなど#15-11
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農薬のなかで、神経毒性が問題となる有機リン剤、ネオニコチノイド、ピレスロイドなどの人の健康への影響が心配されますが、人体汚染の状況等について、いくつかの研究報告の内容を紹介します。
★環境省調査で有機リン系代謝物が多い
【参考サイト】環境省:日本人における化学物質のばく露量について」と2015年版パンフレット
環境省環境保健部環境リスク評価室は、毎年、「日本人における化学物質のばく露量について」というパンフレットを発行し、POPs系農薬、ダイオキシン類、フッ素系物質、重金属類、可塑剤やビスフェノールA、放射性物質などのモニタリング調査結果を公表していますが、このほど、2015年版がでました(2014年版は記事t27804参照)。
ここでは、2011年から2014年の4年間に105人又は60人を対象とした農薬関連物質の尿中濃度の分析結果を紹介します。表1には、有機リン剤やピレスロイドほかの農薬の尿中代謝物があげてあります。nは検査人数で、2014年度30人とそれまでの全人数結果データを中央値、検出範囲で示したほか、備考欄には、参考資料にある東京都と富山県での調査結果や研究者による検出平均値を示しました。環境省報告と備考欄のものは、単位が異なり、前者は24時間の排泄量で評価するためクレアチニンで補正した尿中濃度単位μg/gCr。後者には、ある時点で採取されたスポット尿の濃度単位μg/Lがあります。
尿中に検出される有機リン系代謝物DMTやDEP、DMTPは100μg/gCrを超えるケースが目立ちました。ピレスロイド系の代謝物DCCAは最大13μg/gCr、ネオニコチノイド系のイミダクロプリドなどの代謝物6-CNAは2014年は検出されず、いままでの最大値は1.8μg/gCrでした。タバコのニコチンによる代謝物コチニンは、最大16000μg/gCrもあり、親の喫煙で受動被曝するためか、三歳児でも平均16μg/gCrが検出され、心配すべき結果が得られています。
石鹸などに添加されている殺菌剤トリクロサンも尿中に最大380μg/gCr検出されています。蚊の忌避剤ディートは、いままで、すべて検出限界以下でした。
表1 農薬等の尿中代謝物の検出値 (出典:環境省パンフ2015年) 尿中濃度はμg/gCr
化学物質名 2014年度検出値(n=30) 2011-14年(n=105) 備考:平均値表示
有機リン化合 DMP 中央値 2.9 3.1 DMP 富山(n=73)1.5μg/L
物代謝物 範 囲 ND〜15 ND〜140 東京(n=60)3.1μg/L
DEP 中央値 2.0 3.6 DEP 富山(n=73)0.8μg/L
範 囲 ND〜13 ND〜520 東京(n=60)1.2μg/L
DMTP 中央値 5.1 6.8 DMTP富山(n=73)3.2μg/L
範 囲 ND〜61 ND〜110 東京(n=60)5.8μg/L
DETP 中央値 ND ND DETP富山(n=73)<0.5μg/L
範 囲 ND〜5.1 ND〜8.3 東京(n=60)<0.5μg/L
化学物質名 2014年度検出値(n=30) 2011-14年(n=105) 備考:平均値表示
ピレスロイド PBA 中央値 0.42 0.24 PBA 登島ら(男42人)0.40μg/gCr
系農薬代謝物 範 囲 ND〜2.0 ND〜3.4 上山ら(n=448)0.73μg/gCr
DCCA 中央値 ND ND
範 囲 ND〜2.5 ND〜13
カーバメート エチレン 中央値 ND ND
系農薬代謝物 チオ尿素 範 囲 ND ND〜0.50
殺菌剤トリクロサン 中央値 1.2 1.2
範 囲 0.17〜130 0.15〜380
化学物質名 2014年度検出値(n=15) 2011-14年(n=60)
アセフェート 中央値 ND ND
範 囲 ND〜0.61 ND〜1.9
メタミドホス 中央値 ND ND
範 囲 ND ND〜0.058
イミダクロプ 6-CNA 中央値 ND ND
リド等代謝物 範 囲 ND ND〜1.8
フェニトロ 3-メチル-4-ニトロ 中央値ND ND〜0.30
チオン代謝物 フェノール 範 囲ND〜2.6 ND〜3.6
農薬等 p-ニトロ 中央値 0.44 0.67
関連物質 フェノール範 囲 ND〜2.6 ND〜4.6
蚊忌避剤ディート 中央値 ND すべてND
範囲 ND すべてND
たばこのニコチン 中央値 0.11 0.34
代謝物コチニン 範囲 ND〜1400 ND〜1600
★名古屋大学での研究
【参考サイト】Jun Ueyama et al.:J.Occupational Health,Vol.56,p-461,2014
Biological Monitoring Method for Urinary Neonicotinoid Insecticides Using
LC-MS/MS and Its Application to Japanese Adults
名古屋大学の上山さんらが第41回日本毒性学会年会で発表したネオニコの尿中濃度の分析結果の一部が(本誌278号参照)、J.Occup.Health(Vol.56:p461,2014)に掲載されました。
著者らが開発したネオニコ分析方法が、愛知県の労働者52人(男41、女11、年齢40.9±10.5歳で、職業的被曝なし)を対象に、朝一番に採取した尿に適用されました。その結果は、表2のようでした。ジノテフランが100%の検出率で27.4μg/Lと一番高いのは、斑点米カメムシ駆除に多用されるジノテフラン(スタークル)のせいと考えるのが妥当だと思われます。
表2 尿中のネオニコチノイド検出値(n=52)
農薬名 検出率 中間値 最大値
アセタミプリド 56% 0.02 0.36μg/L
イミダクロプリド 96 1.9 8.2
クロチアニジン 96 0.7 6.6
ジノテフラン 100 2.3 27.4
チアクロプリド 67 0.14 0.50
チアメトキサム 100 0.5 6.2
ニテンピラム 29 検出限界以下 1.03
★京都大学での研究
【参考サイト】日本環境化学会:Top Page、第24回環境化学討論会とプログラム
1A-14 ネオニコチノイド農薬のヒト体内動態と曝露評価
○原田浩二1,田中惠子2,坂本裕子2,今中美栄3,新添多聞1,人見敏明1,小林果1,奥田裕子1,
井上純子1,草川浩一1,大島匡世1,渡邉清彦4,八十島誠4,高菅卓三4,小泉昭夫1,
(1 京都大学医学研究科環境衛生学分野,2 京都文教短期大学,3 京都光華女子大学,4 島津テクノリサーチ)
P-074 LC-MS/MS を用いたヒト尿中ネオニコチノイド系農薬およびその代謝物の高感度
分析法の開発
○渡邉清彦1、八十島誠1、高菅卓三1、原田浩二2、小泉昭夫2
(1; 島津テクノリサーチ、2; 京都大・医)
Plos One誌:Plos One 2016/01/05号
Kouji H. Harada, Keiko Tanaka, Hiroko Sakamoto, Mie Imanaka, Tamon Niisoe,
Toshiaki Hitomi, Hatasu Kobayashi, Hiroko Okuda, Sumiko Inoue, Koichi Kusakawa,
Masayo Oshima, Kiyohiko Watanabe, Makoto Yasojima, Takumi Takasuga, Akio Koizumi
Biological Monitoring of Human Exposure to Neonicotinoids Using Urine Samples,
and Neonicotinoid Excretion Kinetics
京都大学の原田さんらは、第24回環境化学討論会で、同じグループの渡邊さんらが開発した分析方法で、ネオニコチノイド類の尿中濃度を調べ、体内からの排出状況を調べました。2つの研究を要旨集からまとめると以下のようです。
【尿中検出値】ネオニコチノイドの65人の一般人の尿中検出値は表3のようでした。ジノテフラン濃度が一番高いことは、名古屋大の調査とかわりません。アセタミプリドはそれ自体よりもデスメチル体として尿中に検出されるようです。
表3 尿中ネオニコチノイド検出状況(n=65)
農薬名 検出率 検出範囲μg/L
アセタミプリド 26.2% <0.005〜0.17
デスメチル体 100 0.02〜5.5
イミダクロプリド 67.7 <0.01〜0.56
クロチアニジン 92.3 <0.02〜5.1
ジノテフラン 96.9 <0.01〜29
チアクロプリド 21.5 <0.005〜0.19
チアメトキサム 89.2 <0.01〜1.1
ニテンピラム 23.0 <0.01〜2.6
CPMA 13.8 <0.02〜0.13
【人体からの排出】放射性同位元素重水素で標識をつけたネオニコチノイド(クロチアニジン、ジノテフラン、イミダクロプリドおよびアセタミプリド)を健常成人9 名に5 μg /人を単回経口投与し、24 時間蓄尿を、摂取後の連続した4 日間採取しました。さらに、標識のないネオニコチノイド2 μg /人を健常成人12 人に単回経口投与し、検証のための試験を行いました。これにより、摂取量の何%が4日間で、どの程度排出されたかを推定できます。
【尿中の検出値と推定摂取量】尿中ネオニコチノイドの分析は、健康な男女373 名の随時尿試料(宇治市、京都市で、2009 年から2014年採取)や京都大学生体試料バンクに保存されている試料が用いられました。著者らは、クロチアニジンは3 日以内、ジノテフランは1 日で大部分が未変化体として排出され、アセタミプリドについては、未変化体はごく僅かで、代謝物デスメチル体が排出されたとしています。表4に実測排出量と推定摂取量を示しますが、アセタミプリドとジノテフランに比べ、イミダクロプリドの排出率は低いようです。
表4 実測排出量と推定摂取量
農薬名 尿中平均排出量 推定摂取量
アセタミプリドデスメチル体
1.14μg/日 1.94μg/日
イミダクロプリド 0.07 0.53
クロチアニジン 0.51 0.86
ジノテフラン 3.29 3.66
【摂取経路との関連】尿中濃度と年齢、喫煙習慣、家庭での農薬使用量、前日の野菜の消費量などから、摂取経路との関係が推定されましたが、詳細なデータは今後、出版予定の論文に掲載されるとのことで、要旨集では下記の記載があるだけです。
・クロチアニジン、デスメチルアセタミプリド、ジノテフラン、チアメトキサムは年齢、出産回数と相関しており、野菜などの摂取量と交絡していると考えられた。
・前日の食品摂取量との関係では、クロチアニジン、デスメチルアセタミプリド、ジノテフラン、イミダクロプリドが果実類と相関していた。野菜類とは、ジノテフラン、イミダクロプリドが相関していた。またジノテフランは穀類摂取量とも相関していた。茶類の摂取量、殺虫剤使用数とは有意な相関はなかった。性別との関連は見られなかった。
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作成:2016-02-28