農薬の毒性・健康被害にもどる
t29102#アメリカ:スルホキサフロルとクロルピリホスが使用禁止に向かう#15-11
★新ネオニコのスルホキサフロル認可取消しへ
【関連記事】記事t26802a
【参考サイト】第九巡回控訴裁判所:On Petition for Review of an Order of the EPA(9/10)
EPA:Sulfoxaflor - Final Cancellation Order (11/12)
ダウ・アグロサイエス:9/10の見解と(11/13)
アメリカでは、2013年5月に、EPA(米国環境保護庁)が認可したダウ・アグロサイエンス製造販売のネオニコ系農薬スルホキサフロルについて、養蜂団体などがミツバチに被害を及ぼすとして、認可取下の訴訟を起こしていましたが、9月10日、第九巡回控訴裁判所は、ミツバチ毒性評価が不十分だとして、その主張を認め、EPA登録の無効の判決をくだしました。日本では、目下、登録申請中ですが、食品安全委員会が健康影響評価を実施しています(記事t26802a参照)。
日本でのパブコメ意見募集
厚労省:スルホキサフロルの残留基準設定について(1月2日締切)
環境省:水質汚濁に係る農薬登録保留基準値(案)について(スルホキサフロルあり)(1月5日締切)
★EPAがクロルピリホス残留基準の撤廃を提案
【関連記事】記事t10301
【参考サイト】連邦公報(11/06)
EPA:Proposal to Revoke Chlorpyrifos Food Residue Tolerances(10/30)
ダウ・アグロサイエス:10/30の見解
同じ裁判所では、EPAを相手に、やはりダウが製造販売する有機リン剤クロルピリホス(商品名ダーズバン)の使用禁止を求める環境保護団体による訴訟が続いていました。アメリカでは、クロルピリホスは、学習障害や脳機能に悪影響をおよぼす神経毒性があるため、環境保護団体の運動の結果、1997年に屋内使用の一部が使用規制され、さらに、2000年には、シロアリ防除剤の使用禁止にこぎつけましたが、農業用の使用禁止は実現していませんでした。そこで、9年前、北米PANやNRDCなどの環境保護団体がクロルピリホスのすべての使用禁止を求めて、EPAを訴え、2012年には、レクリエーション地域、学校、家庭にいる第三者の被曝リスク軽減のため、公共スペースに農薬非散布の緩衝地帯の設置が課せられました。
EPAはクロルピリホスを混合したり、運んだり、散布する労働者や、小規模水域の飲料水の危険性、さらには、子どもを守るには、すべての暴露経路で、大人の10倍の危険性があると評価すべきとの知見を認めたものの、今年の1月、禁止のかわりに使用規制で切り抜けようとしました。農業用途の禁止を求める環境保護団体は、さらに批判を強化、裁判所は、10月31日を期限として、EPAに対応策を迫り、その前日の10月30日、同庁は、ついに、クロルピリホスのすべての残留基準を取り消すことを提案しました。ポジティブリスト制度の下で、これは、農作物栽培での使用禁止を意味します。今回、EPAの提案通りになれば、運動体の提起15年後の勝利ということになります。ただし、ゴルフ場や芝、温室での使用、蚊対策などの非食用用途は除外される見込みとのことです。
メーカーのダウ・アグロサイエンスは、EPAの提案には同意できないとして、なおも、争う構えです。アメリカでの残留基準は、作物の輸出相手国には、適用されないし、日本などへのクロルピリホスの輸出も続くと思われます。
★日本のADIはアメリカの3.3倍緩い
【関連記事】記事t26701
【参考サイト】食品安全委員会:
@クロルピリホスに係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての御意見・情報の募集
クロルピリホスの農薬評価書、反農薬東京グループの意見と食品安全委員会の見解
Aコリンエステラーゼ阻害作用を有する農薬の安全性評価のあり方についての意見募集
原案、反農薬東京グループの意見
日本でも、シロアリ防除剤として使用されたクロルピリホスで健康被害を訴える人が増え、反農薬東京グループの粘り強い運動の結果、白あり対策協議会が2000年11月、自主規制に踏み切り、建設省(現国土交通省)も、2003年7月から、クロルピリホス添加の建築材料の使用を禁止しました(記事t10301、記事t10801、記事t10802、記事t11002、記事t11101、記事t12602など参照)。
しかし、1971年に初登録された農薬は、現在7種(乳剤3、粒剤3、水和剤1)が、野菜や果樹などに使用されており、残留基準が1ppm以上に設定されている作物は茶10ppmを最高に36種あります。
クロルピリホス成分の出荷量は、最盛期(1993-2000年は約128-146トン)よりも減少したものの、2000年以後の出荷量の推移は、図−省略−のようで、2013年は年間75.5トン、原体の殆どは輸入です。
2006年に食品安全委員会はADIを0.001mg/kg体重/日と提案しました。この時のパブコメ意見で、私たちは、アメリカの例をひき、『ADIを0.0003mg/kg体重/日。小児等についての耐容一日摂取量については0.00003mg/kg体重/日とすべきである』と主張しましたが、受け容れられなかった経緯があります(記事t18508参照)。
アメリカと日本の評価の違いが、EPAの今回の提案につながっているのでしょうか。その根拠を示す食安委の主張を以下に2点あげておきます。
『クロルピリホスの毒性は中枢神経系及び末梢神経系 ChE(コリンエステラーゼ) 活性の阻害
作用により生じると考えますが、中枢神経系及び末梢神経系のChE 活性の代用測定項目と
して赤血球 ChE活性阻害が、有用と考えられることから、毒性所見の指標としています。
US.EPA 及びその評価結果を採用した厚生労働省の「シックハウス問題に関する検討会」で
は、クロルピリホスの cRfD(慢性参照用量:0.0003 mg/kg 体重/日)設定の根拠として、
赤血球コリンエステラーゼ(赤血球 ChE)及び血漿 ChE の活性阻害を挙げています。
血液の ChE については、赤血球 ChE 及び血漿 ChE がありますが、赤血球 ChE は、ほと
んどが生理学的意義の高いと考えられているアセチルコリンエステラーゼ(AChE)である一
方で、血漿 ChE については、AChEの他に、ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)が存在し
ます。BuChE の生理学的意義は不明であり、動物実験では明らかに BuChE 活性が阻害され
る用量においても、毒性影響が観察されていません。
そのため、食品安全委員会農薬専門調査会においては、従来より、赤血球 ChE 活性阻害
の方が、毒性影響の指標としてより適切であると判断してきました。』
『US EPA 及びその評価結果を採用した厚生労働省の「シックハウス問題に関する検討会」で
は、クロルピリホスの発達神経毒性試験において、ラット児動物の頭頂皮質幅の低下及び
脳の各部位の寸法の減少等を発達神経毒性と判断し、追加の安全係数 10 倍を乗じる根拠
としましたが、本調査会では、それらの変化は、農薬を投与しない場合でも観察される範
囲の軽微な影響であること及び児動物の体重減少に伴う変化と考えられることから発達神
経毒性とは判断しませんでした。』
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作成:2015-11-27、更新:2015-12-10