ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係<にもどる
t29207#次第に明らかになる農薬人体汚染 (その2)群馬県の人体被害とネオニコチノイドとの関連#15-12
【関連記事】記事t15404、記事t15501、記事t29101、記事t29507
【参考サイト】Plos One:November 4, 2015
Jemima Tiwaa Marfo , Kazutoshi Fujioka , Yoshinori Ikenaka, Shouta M. M. Nakayama,
Hazuki Mizukawa, Yoshiko Aoyama,Mayumi Ishizuka, Kumiko Taira
Relationship between Urinary N-Desmethyl-Acetamiprid and Typical Symptoms including
Neurological Findings: A Prevalence Case-Control Study
★さまざま神経系の症例を示す患者たち
北海道大のMarfoさんや東京女子医大の平さんらが「Plos One」に投稿した論文「尿中アセタミプリドデスメチル体と神経学的知見を含む代表的症状の関連:患者症例−対照研究」が11月に公開されました。
著者らは、群馬県にある医院を2012年9月から14年3月に受診した者85人のうち、表1に示した6種の自覚症状と3種の他覚症状(F姿勢時手指振戦、G近時記憶障害、H発熱症状)を有する患者を2群にわけました。5つ又は6つの自覚症状を訴え、FGを示す19人を典型症状群、1から4つの自覚症状を示すが、FGの症状がない15人を非典型症状群、いずれの症状も示さない50人が対照群とされています。
各群の性別数と年齢別数および症状別数は表の通りです。なお、いままでの臨床研究で、神経系への影響として、患者の心電図所見で、さまざまな異常がみられ、本研究でも典型群で100%、非典型群で62.5%の陽性率でしたが、対照区の心電図検査はなく、統計的な解析ははなされませんでした。
表1 患者群の症状別の人数
典型症状群 非典型症状群 無症状群
症例数 19人 16人 50人
女性内数(%) 13(68.4) 10(62.5) 37(74.0)
年 齢
9歳以下 1 3 4
10〜14歳 5 3 4
15-49歳 8 6 30
50-64歳 4 2 6
65歳以上 1 2 6
自覚症状
@頭痛(%) 19(100) 15(93.7) 0
A全身疲労(%) 19(100) 14(87.5) 0
B筋肉症状(%) 19(100) 6(37.5) 0
C胸症状(%) 18(94.7) 9(56.3) 0
D腹痛(%) 18(94.7) 8(50.0) 0
E咳(%) 13(68.4) 7(43.8) 0
他覚症状
F姿勢時手指振戦(%)19(100) 13(81.3) 0
G近時記憶障害(%) 19(100) 5(31.3) 0
H発熱37度以上(%) 10(52.6) 5(31.3) 0
注:Bは筋肉痛、筋力低下、筋肉痙攣。Cは動悸や胸痛。Fは肩を下ろして両手を前に出し、 ぐっと握ってから力を入れないで軽く開く時に細かい震えが指に見られる。
Gは受診前の3日間の食事内容の記憶があいまいである
★尿中のネオニコの検出状況
著者らは、いままでの臨床例から、これらの神経系の症状はいずれも、ネオニコチノイドが作用するニコチン様アセチルコリン受容体が存在する組織にかかわると考え、その証拠を得るため、患者の尿中ネオニコチノイド(表2に示した6成分)を分析し、その存在を確認しました。ただし、アセタミプリドは、本体の検出はなく、代謝物のデスメチル体(以下、DMAP)が見出されました。人がネオニコに曝らされていることを示す知見は、291号で述べた京都大学や名古屋大学の分析でも同様ですが、群馬県の場合は、ジノテフランは調査されていません。同剤はミツバチ毒性は強いものの、動物実験で他のネオニコよりも低毒性、神経毒性も見られないとの評価がなされているからでしょうか。
尿中の検出率と検出値は、表のようで、典型群>非典型群>対照群の順でしたが、患者群として、統計的に有意差があったのは、アセタミプリド代謝物のDMAPとチアメトキサムでした。
表2 ネオニコチノイド類の尿中検出数と最大検出値(単位:μg/L=ppb)
典型症状群 非典型症状群 無症状群
尿中検出人数 14(全数n=19) 3(全数n=16) 5(全数n=50)
農薬成分 検出数(検出率) 最大値 検出数(検出率) 最大値 検出数(検出率) 最大値
DMAP 9(47.4%) 6.0 2(12.5%) 4.4 3(6%) 2.2
アセタミプリド 0(0%) ND 0(0%) ND 0(0%) ND
イミダクロプリド 0(0%) ND 0(0%) ND 0(0%) ND
クロチアニジン 0(0%) ND 1(6.3%) − 1(2%) 1.6
チアクロプリド 0(0%) ND 1(6.3%) 0.1 0(0%) ND
チアメトキサム 6(31.6%) 1.4 1(6.3%) 1.9 0(0%) ND
ニテンピラム 2(10.5%) 1.2 1(6.3%) − 1(2%) −
注:NDは検出限界以下、−は検出されたが定量限界以下
★食品中のネオニコが発症に関連する
ネオニコの摂取経路とその量について、定量データは示されていませんが、著者らは、2004年から05年に、群馬県の松枯れ対策でアセタミプリド(マツグリーン2)が散布された地域で、類似した症状を示した際は、大気汚染によるネオニコの吸入を疑っていました。
健康被害者の声を受け容れた群馬県が、神経毒性が問題となっていた有機リン剤の空中散布を自粛するよう農業団体に要請したのは2006年6月で、その後、空散面積は激減し、いまも他県に比べ少なくなっています。にも拘わらず、その後も、原因不明で医院を訪れる患者数が減らないため、著者らは、食品の残留農薬由来ではないかと考え、いくつかの症例を検討し、患者が国産の茶飲料や果実類を多く食べていること、患者の尿に、ネオニコチノイド類の代謝物6-CNA(6-クロロニコチン酸)などが検出されることなどを明らかにしました。
尿中での検出は人体取り込みの証拠ですが、体内組織に蓄積すれば、神経系症状がより悪化することにつながります。
今回の研究でも、表3のように、一日500g以上又は茶飲料を500mL以上の摂取を続けていた患者は、半数以上でした。
これらを摂取してから、発症までの期間、また、やめてから、症状がなくなるまでに要した期間は、表3のように、幅があります。患者が摂った食品中のネオニコの種類と量、受診以後及び回復後の尿中ネオニコ量は不明です。ネオニコをどの程度取り込み、どの程度蓄積すれば、人の健康に影響するかについて、研究がすすむことが望まれます。
環境省の化学物質調査では、ネオニコと共に、農薬や衛生害虫駆除その他、身の回りで使われている有機リンの代謝物が尿中に検出されていることを考えると、両者の複合作用にも視点をあてるべきでしょう。
表3 多食した食品別の患者数
摂取食品 典型群 非典型群
茶飲料 10(7)人 10(1)人
果実・野菜ジュース 4(3) 1(0)
果実類 3(3) 9(1)
不明 3(3) 1(0)
発症までの日数 45±182 14± 8
回復までの日数 52± 95 32±10
注:表中()の数値は、DMAP又はチアメトキサム検出者数
購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、
注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2016-03-31