農薬の毒性・健康被害にもどる

t29602#土壌くん蒸剤クロルピクリンの住宅地近くでの使用禁止を#16-04
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【参考サイト】農水省:クロルピクリン剤等の土壌くん蒸剤の適正使用について(18消安第8846号、H18/11/30)
           農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令
           住宅地等における農薬使用について

 今年度の農薬危害防止運動の中で、私たちが特に重要視しているのが、土壌くん蒸剤として多用され、毎年多くの健康被害を起こしているクロルピクリン(以下、クロピク)の規制強化です。
 クロピクは常温で液体ですが、長芋、牛蒡、こんにゃくなどの根菜類や他の野菜の作付け前に土壌に注入するとすぐに気化し、毒ガスとして土壌中の病原菌、センチュウ、害虫、雑草種子だけでなく、すべての生き物を殺します。
また、催涙・刺激性のガスは空気より重いため、圃場に施用すると、地表近くを広く漂い、周辺住民に被害をあたえます。

★化学兵器禁止法の規制対象
【参考サイト】経済産業省;化学兵器禁止関連施策化学兵器禁止条約関係化学兵器禁止法関係

 クロピクは、第一次世界大戦の頃は、毒ガス兵器として使用され、近年、「化学兵器の開発,生産,貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」(略称:化学兵器禁止条約)で、その開発、生産、保有などを包括的に禁止された物質のひとつです。この条約を批准した日本は、「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」(1995年公布、略称:化学兵器禁止法)を制定しています。クロピクは、サリンなどにくらべ急性致死毒性が低いものの、催涙性のため、同法では、兵器に使用される恐れがあるということで、「第二種指定物質」として、その製造は、国際的な管理下におかれています。すなはち、クロピクは、戦争用に製造・所持、譲渡及び譲受けを禁止するが、農薬としての使用は、おかまいないという物質です。

★製造会社は3社で、年間6800トンの出荷
【参考サイト】クロルピクリン工業会:Top Page事故と安全使用農家・農業指導者向け物流、販売、救急対応関係者向けMSDS
         クロルピクリン中毒に関する文献・資料日本化学会防災専門委員会の防災指針安全講習会講演資料(平成27年度4月1日改訂)
       三井化学アグロ:Top Pageクロルピクリンガイド
       南海化学:Top Page、MSDS:クロールピクリンクロピク80錠剤
       日本化薬:Top Pageドジョウピクリン

 クロピクのメーカーは南海化学(株)、日本化薬(株)、三井化学アグロ(株)で、3社でクロルピクリン工業会を構成しています。現在、販売されているクロピク単製剤は以下の通りで、ほかにD−D複合剤等もあります。
    商品名      含有量  メーカー
    クロールピクリン  99.5% 三井化学アグロ、南海化学、日本化薬
    クロピク80     80.0% 南海化学
    ドジョウピクリン  80.0%  日本化薬
    ドロクロール    80.0%  三井化学アグロ
    クロルピクリン錠剤 70.0%  南海化学 
    クロピクフロー   80.0%  日本化薬
    クロピクテープ   55.0%  三井化学アグロ
 最近の年間出荷量は、6000から8000トン程度、土壌くん蒸剤としては、D−Dに次ぐ量です。都道府県別出荷量の上位5県は、群馬、茨城、青森、鹿児島、千葉です。
      

★クロピクの毒性
【参考サイト】農薬工業会:農薬中毒の症状と治療法17版のp-12にクロピク症状あり
       日本中毒情報センター:クロルピクリン
       国立医薬品食品衛生研究所:クロロピクリン

 クロピクは、毒劇法では、「劇物」に指定されており、中毒症状は下のようです。
   クロピクの主な症状
    1) 循環器症状:頻脈、低血圧
    2) 呼吸器症状:咳、喉頭痙攣、喘息様発作、肺水種
    3) 神経症状:頭痛、めまい、振戦、運動失調、痙攣、せん妄、傾眠状態
    4) 消化器症状:悪心、嘔吐、肝障害
    5) その他:皮膚の刺激、化学熱傷、流涙、結膜充血、角膜損傷、眼痛、くしゃみ、メトヘモグロビン血症

   毒性−気中濃度と人に対する影響 (クロピク工業会資料より)
    気中濃度            暴露時間    影響
    2,000mg/m3=297.6ppm  10分      致死
     800mg/m3=119.0ppm  30分      致死
     100mg/m3= 15.0ppm    1分      不耐
      50mg/m3=  7.5ppm   10分      不耐
            9mg/m3= 1.3ppm             最低刺激
            7.3mg/m3=1.1ppm             感知可能
★クロピクによる人の被害
【参考サイト】神奈川県;県農薬安全使用指導指針(平成26年12月18日一部改正)
       愛知県;農業病害虫防除の手引2016より土壌病害虫の防除法

 クロピクの被害は、保管、輸送、使用、廃棄の段階のいたるところで発生しており、その多くが漏洩した刺激性ガスによる周辺住民や作業関係者の被害です。
 クロピク工業会は、事故事例をあげ、使用上の注意を発信していますが、そのトップは、2001年12月、鹿児島県加世田市(現南さつま市)のタバコ畑での圃場揮発で、近くの万世小学校の児童や教職員92人の被害を報じた新聞記事です(記事t12306参照)。2003年には千葉市の畑での圃場揮発で、被害を受けた家族が訴訟を起こしたこともありました(記事t17201参照)。2007-08年には、秋田県潟上市と新潟県新潟市の民家の井戸水にクロピクが流入し、住民が被害を受けました。また、2008年には、クロピク自殺者が搬送された熊本赤十字病院で、医療関係者や患者54人が二次被害を受けたこともありました。人だけでなく、2005年には、青森県の養鶏場で、ニワトリ2300羽が死んだ事例もありました。
 以下に、2009年から14年までの事故の中、容器不法投棄、ごみ処理場のびん破損、輸送中の事故などを除き、畑で使用後、揮発したガスによる近隣住民の健康被害(以下、圃場揮発という)を、発生年月の順にまとめました。
  <出典>1,消防庁:Top Page資料の頁にある「都市ガス・液化石油ガス及び毒劇物による事故に関する統計表、
            2,国立医薬品食品衛生研究所:Top Page毒物劇物の安全対策の頁にある毒物劇物の安全対策にある盗難・紛失事故詳報集計
            3.農水省:各年度の「中毒発生時の状況や防止策などの詳細情報」に記載のある事例 *印、4.マスコミ報道

  2009年:全体で11件(うち農水省報告は7)
   @4/30   埼玉県 圃場揮発、近隣住民救急搬送4名(軽症4名)、不搬送2名
   A7月*  圃場揮発、 近隣住民2人被害
   B7/3    愛知県  温室内で土壌消毒中吸引
   C10/13* 茨城県鹿嶋市 圃場揮発、近隣住民29人被害
  2010年:13件(うち農水省は9)
   @1月*   圃場揮発、近隣住民1人被害
   A2月*   圃場揮発、近隣住民1人被害
   B5/17*  東京都 圃場揮発、近隣住民10人被害
   C6月*  防除機破損 近隣住民2人被害
   D6月*  圃場揮発、近隣住民不明
  2011年:20件(うち農水省は3、震災瓦礫処理10)
   @1/8    群馬県 圃場揮発、
    A10/13  新潟県 圃場揮発、異臭と目の刺激
    B11月* 圃場揮発、近隣住民2人被害
  2012年:11件(うち農水省は7)
   @1月*   圃場揮発、近隣住民3人被害
    A5/13*  茨城県 圃場揮発
   B6月*   圃場揮発、隣接作業者1人被害
   C6月*   圃場揮発、隣接作業者2人以上被害
    D11月*  圃場揮発、近隣住民11人被害
   E11月* 圃場揮発、圃場使用者1人被害
   F12月* 圃場揮発と空き缶処理不適 圃場使用者1人被害
  2013年:7件(うち農水省は4)
   @3月*  残農薬処理不適 近隣住民8人被害
   A4月* 圃場揮発、近隣住民2人被害
   B5月* 圃場揮発、近隣住民1人被害
   C6月  青森県五戸町、圃場揮発で近隣住民1人被害
  2014年:9件(うち農水省は6)
   @3月* 圃場揮発、近隣住民1人被害
   A4月* 圃場揮発、近隣住民4人被害 
   B5/2*  千葉県 圃場揮発、近隣住民8人被害
   C8月* 圃場揮発、近隣住民2人被害
   D11月* 圃場揮発、近隣住民1人被害
   毎年繰り返される事故に対して、農水省は、圃場を被覆するよう指導を強化するとしかいいません。近隣住民被害防止のためには、連作障害の起こりやすい作物を毎年同一圃場で栽培し、揮発性有害物質であるクロルピクリンで、広い面積を一斉に処理するすることをやめる以外にありません。
 神奈川県は、住宅から100m離すよう指導していますが、100mでも大丈夫かと言えば、風向きや風速によって実際には大きくかわります。フィールドでのデータが少なく、判断できるものがありません。圃場被覆材(ポリエチレンなど)できちんとガードできるのかも不安があります。使ったクロピクは最終的に大気中にでるか、土壌に残り地下水を汚染するか、その挙動をきちんと追跡する必要があります。
 また、産業衛生学会の作業環境の許容濃度は0.1ppm(0.67g/m3)ですが、これは、一定の安全対策が取られている労働現場での数値で、何の防護もしていない周辺住民に当てはめることはできません。
 さらに、憂慮されるのは、急性症状が出るより低い濃度のクロピクを吸い続けて生じる慢性症状です。また、一度、急性被害を受けた後、化学物質過敏症になって、様々な化学物質に、低濃度で反応してしまう人もいます。
 記事t26506に、2013年に青森県五戸町でクロピクによる健康被害を受けた方の体験談を掲載しました。この事件については記事t26703に掲載しましたが、当時は被害者と連絡が取れず、青森県や五戸町への問い合わせで知りえた情報のみでした。今回の報告で詳しい被害状況がわかります。

★農薬危害防止運動への具体的な要望
    反農薬東京グループ:2016年度の農薬危害防止運動への要望・質問にある
      (2-1)クロルピクリンによる危被害について


 そこで、クロピクに関する以下の要望を関係省に出しました。
 (1)住宅の近隣では、クロピクリンの使用を禁止し、土壌殺菌のための下記の代替法をとる
  ことを義務付けてください。
   太陽熱消毒、熱水・蒸気消毒、土壌還元消毒(太陽と水と米ヌカまたはフスマ利用)な
  どの物理的手法をはじめ低濃度エタノールを使用した方法などが開発されています。早急
  に普及させてください。
 (2) 10a以上の圃場で、短期にクロルピクリン処理を実施している地区では、気中濃度の測
  定や井戸水等の地下水の汚染状況の調査の実施を義務づけてください。
 (3)クロルピクリンは「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」の第八条(被覆
  を要する農薬の使用)に該当する農薬ですが、被覆については、努力規定でしかありません。
   私たちは、義務規定とし、違反者に罰則を科することを求めましたが、農水省は、いく
  つかの具体的対処方法をあげ、『今後とも指導の一層強化に努めてまいります。』とされました。
  しかし、被害は一向になくならないため、『指導の一層強化』のためにも、義務規定とす
  ることを再度求めます。
 (4)残液や廃容器の回収・処理システムをつくってください。

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作成:2016-06-30