農薬の毒性・健康被害にもどる

t29801#農薬危害防止運動についての農水省の回答から#16-05
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【参考サイト】農水省:「平成28年度 農薬危害防止運動」の実施について
           農薬危害防止運動実施要綱ポスター厚労省通知環境省通知
       都道府県:2016年度の危害防止運動

 反農薬東京グループ:農水省、環境省、厚労省、国土交通省への2016年度の農薬危害防止運動への要望・質問
             都道府県への2016年度の農薬危害防止運動等に関するお尋ね(無人航空機に関する質問あり)


 農薬危害防止運動についての要望と質問について、厚労省と環境省の回答を本誌前号に紹介しましたが、遅れていた農水省からの回答が運動月間が始まった6月8日に、やっと届きました。その中の主なものについて、回答の概要を紹介します。

★農薬による人などの危被害
 人の被害の多いクロルピクリンについては、住宅地近くでの使用禁止を求めましたが、農水省の主張は、従来とかわらず、『引き続き、適正使用(厚めの被覆資材を用いる。住宅地が風下になる場合処理を控える、人家に隣接する畑での使用を避けるなど)の周知の徹底に努める』との指導方針を述べるだけでした。私たちのクロピクを使用しない防除方法をとるようとの求めに、『総合的病害虫防除・雑草管理(IPM)技術の普及を図っているところであり、例示いただいた技術も必要に応じ紹介してまいります。』とのことです。
 私たちは、記事t29802のように、クロピク出荷量の多い5県へ、アンケート調査し、事故の減らない背景を探りました。
 また、クロピクの残液や廃容器の回収・処理システムを作れとの要望には、産廃にあたるので、『事業者の責務として自らの責任で処理すべき』とし、販売禁止農薬や期限切れ農薬の回収義務化についても、『国において、廃農薬の実態を把握したり、回収を義務化したりすることは考えておりません。』と行政責任を放棄しました。
 農薬事故報告に発生場所の記載がないことについては、『調査の円滑な実施のため、被害の発生場所については公表しないことを前提に都道府県に情報提供の協力を求めており、また、その情報が再発防止対策に直結するものでないことから、公表しておりません。』との回答がありました。地名を公表すると、調査が円滑にできないというのは、言い訳にすぎません。
 ペットや野鳥の毒殺や魚毒事件は、農水省のいう『農薬メーカーや販売店を通じ、保管管理の徹底や不正使用の防止を指導する』だけで、なくすことはできません。行政当局には法令違反で刑事告発を行い、加害者を特定してもらう必要があります。

★住宅地通知について
 都道府県ごとに相談窓口が設置されていますが、2015年の相談件数や内容を尋ねましたが、『個々の相談内容を網羅的に収集しておりませんが、各都道府県で把握した情報のうち、今後の指導の参考になるものにつきましては、国の行う都道府県の担当者の出席する会議等で他の都道府県と共有してまいります。』とのことです。具体的なことを示さないこのような回答は、何の役にもたちません。
 私たちは、事例として、青梅市で実施されている梅ppv対策のための媒介昆虫アブラムシ駆除の民家等での農薬散布をとりあげましたが、これについては記事t29803をごらんください。

★農薬の空中散布
【関連記事】記事t29502記事t29601記事t29702
【参考サイト】農水省:ガイドライン(2015/12/03)、農水省・国土交通省の両局長通知(2015/12/03)
       農林水産航空協会:Top Page産業用無人航空機運用要領(2015/12/03)、ドローン型暫定運行基準(2016/03/08)
                安全対策マニュアルH28年版ナビゲーターマニュアルH28年版
                産業用マルチローター関連の協会基準:機体及び散布装置性能確認基準
                                  オペレーター技能認定基準教習施設指定基準

 昨年12月から、無人航空機の技術指導指針と飛行に関する許可・承認の取扱いについての2つの通知が発出され、従来の無人ヘリに加え、ドローン型ヘリによる農薬散布の申請が義務付けられました。指導指針の5月31日の改正版では、農林水産航空協会(農水協)により認定されたドローン型の機種も掲載されました。(注:指導指針に記載がない機種による農薬薬散布を許可・承認しないということではないため、要注意。)
 ドローン型については、時期が早かったせいか農水省の回答では、『農水協から聴取したところ、現在のところ、その中で、ドローン等マルチローター式無人航空機の製造者、販売者、教習関係者に該当する会員はないとのことでした。』とありました。
    また、農水協の会員には、ドローン関係のメーカーや販売店はなく、農水協による、機種の認定やオペレーター教習をどの程度責任をもってやれるかわかりません。
 ドローン型は、無人ヘリコプターと比べ、低空で、散布幅も小さいし、吹き下ろし下流(ダウンウォッシュ)がなく、風の影響も受けやすいのに、無人ヘリと同じ希釈濃度で散布して、対象作物の残留基準は守られるのか、非対象作物や域外への飛散状況はどうかなどを知ろうと、「小型無人機による農薬散布調査委託事業」の報告の開示を求めましたが、農水省は、公募入札による調査にも拘わらず、『協力企業に対して企業名の公表の了解を得ておらず、協力企業名を明らかすことはできないとのことでした』とし、『事業報告書は、試験に協力した企業から内部資料として提供いただいたデータがあり、公表はできません。』と述べ、無人ヘリと同様の希釈倍率及び使用液量が散布できるような運行基準(高度2m、散布間隔3〜4m、飛行速度15〜20km/h)で散布すれば、『産業用無人ヘリコプターと同様、農薬の飛散等がなく、適正かつ安全に農薬散布ができるとの報告がありました。』としか答えず、調査データも示してくれませんでした。
 無人航空機の農薬散布の事前周知について、HP等で広報するよう義務付けを求めましたが、『散布計画を一律ホームページで公表することを義務づけることは困難と考えています』との回答でした。
 事故防止のため、家屋等との距離が30m以内では、無人航空機農薬散布を禁止すべきだとしましたが、『30m以内の距離であっても、技術指導指針等に基づき安全対策を講じた上で空中散布等を行う場合については、国土交通大臣の許可・承認が得られることとされています。』『家屋、架線等に向けた操作は行わないことなどの十分な安全対策を講じることが条件となっています。』とし、事故が発生した場合には、『必要に応じ、国土交通省航空局安全部運航安全課にも相談したいと考えております。』 事故発生履歴を申請書類に記載すべきだとの意見には『農水協によれば、産業用無人ヘリコプターの事故発生時には、そのオペレーターは再教育プログラムを受講するように指導がなされているとのことでした。このことから、航空法に基づく許可・承認の申請の対象となるオペレーターについては、適正な技能や知識を有する者であり、現行において事故歴等の記載は必要ないものと考えています。』と答え、毎年多発している事故を防止するための、行政の厳しい姿勢がみられません。

★農薬使用の削減について
【関連記事】クロチアニジン:記事t28603脱農薬ミニノートシリーズ4 農薬も一緒に食べる?〜クロチアニジン残留基準の大幅緩和
      スルホキサフロル:記事t29501記事t29707
 2種のネオニコチノイドについて、要望しました。
 クロチアニジンについては、ホウレンソウの残留基準を散布液濃度と同じにして、登録変更したことを挙げ、アブラムシ対策に同剤を使用せず、環境保全型農業を求めましたが、『生産者が生産現場の実情にあった適切な防除方法を選択できるよう、化学合成農薬だけでなく、総合的病害虫防除・雑草管理(IPM)技術の普及を図っているところです。また、環境保全型農業直接支払交付金などを通じて、有機農業を含む環境保全型農業を推進しています。』との回答が返ってきただけでした。
 また、ミツバチへの毒性を明らかにしないまま、スルホキサフロルを、国内で、水稲や野菜、果実に適用しようとしていることに対して、新農薬の登録をやめるべきと主張しましたが、『生産者が生産現場の実情に合った適切な防除方法を選択するためには、化学農薬の選択肢を確保することも不可欠であり、申請者から新しい農薬の登録申請があれば、関係府省が行った科学的な評価を踏まえ、農薬の安全性及び効果が確保されることを確認した上で、農林水産省が農薬の使用基準を定め登録しています。』
 このことに関連して、農薬登録前に、ミツバチ毒性などの試験成績を公表し、登録の是非についてパブコメ意見を求めるようにすべきだと主張しましたが、農水省は『農薬取締法に基づく農薬の登録は、製造者又は輸入者からの申請に対して行う処分であって、行政手続法第2条第2号に規定する処分に該当し、同法に基づき意見公募手続を実施する必要がある同条第8号に規定する命令等には該当しませんので、登録に当たって意見公募手続を実施することとはしていません。』とし、『新しい成分の農薬の登録に当たって、人の健康や環境への影響の有無を判断した科学的根拠等を、消費者、農薬の使用者、農薬使用の指導者の皆様へお示しするために、登録後、審査報告書*を公表しています。』としました。それなら、登録前に農薬審査報告書を公表し、国民の意見を聞いてもらいたいと思います。(注:審査報告書は、2012年からFAMICのHPに掲載され始め、現在23農薬(うち、2013年以後に登録20)が公表されている。)

★斑点米カメムシ問題
【関連記事】記事t28607斑点米関連記事一覧
【参考サイト】米の検査規格の見直しを求める会:Top Pageパンフ「”知っていますか?” 斑点米と農薬とミツバチ大量死」
 コメの品質低下させるとして、斑点米カメムシの農薬による防除が行われていることに対し、私たちは、斑点米カメムシ類の防除方法として、農薬使用を優先することは、人の健康やミツバチ等の生物多様性に影響を与えるため、やめるべきだと主張しています。
 しかし、農水省は『斑点米カメムシなど農作物の病害虫に対する防除は、防除の時期や防除の方法などを含め、原則として、その作物の生産者により実施されるものです。斑点米カメムシの防除では、化学農薬の使用のほか、水田内に発生するヒエなどの雑草除去、水田への侵入を防止するための畦畔雑草の下刈りなどの対策も有効です。いずれにしても、農作物の病害虫防除については、総合的病害虫防除・雑草管理(IPM)を推進しつつ、地域の実情にあった防除方法を選択いただくことが必要です。また、収穫後の斑点米対策として、生産物に混入した斑点米を色彩選別機で除去することも有効な方法のひとつです。なお、農林水産省では、産地における共同乾燥調製施設における色彩選別機の導入補助を実施しております。』と答えてきましたが、農薬散布必要説を撤回しません。
 最近では、斑点米が農薬を使用しなくても、除けることを認め、特殊な事例をあげ、斑点米カメムシは、「しいな=粃」(十分実らない空籾をいい、主に気温等による生育障害の結果発生する)を発生させ、コメの減収につながると言い出しています。
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作成:2016-06-30