農薬の毒性・健康被害にもどる

t29802#クロルピクリンの住宅地周辺での使用禁止を要望〜使用量が多い5県からの回答 (1) 使用状況の把握は不十分#16-06
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【参考サイト】クロルピクリン工業会:Top Page農家・農業指導者向け物流、販売、救急対応関係者向け
         事故と安全使用MSDSクロルピクリン中毒に関する文献・資料
         安全講習会講演資料(平成27年度4月1日改訂)
       日本化学会防災専門委員会の防災指針

 記事t29602で、土壌くん蒸剤クロルピクリン(以下、クロピクと略す)の危険性と事故多発の状況を報告し、被害者の体験も掲載しました(記事t29603参照)。
 今年度の農薬危害防止運動に係る要望についてもこの問題に重点をおき、関係省庁に質問を出しました。農水省は3月に出した私たちの質問・要望に6月になってから回答してきましたが、従来の対策から一歩も進んでいません(記事t29801参照)。「指導する」と言いますが、何の罰則も義務もない中で、紙切れ一枚の指導で状況が変わるとは思えません。もっと本気で取り組むべきです。

★クロピク使用量大の5県に質問
  反農薬東京グループ:土壌くん蒸剤クロルピクリンについて 要望と質問

 そこで、私たちは、青森、茨城、群馬、千葉、鹿児島のクロピク使用量が多い5県に、使用状況、事故防止にどのような対策をとっているかなど具体的に質問しました。
 表には、記事t29602に示した県別出荷量推移の一部を再掲ました。2014年の全国の年間出荷量は6786トン、上位5県の合計は3868トンで57%を占めます。
 農水省の農薬事故情報では、事故が起こった場所については明らかにしていませんので、この5県で事故が多発しているかどうかわかりません。
    表 クロルピクリンの年間出荷量推移
    年   青森   茨城    群馬   千葉   鹿児島  全国
   2010   652    672    1099   374    542    6244
   2011  718    681    1312   400    580    6829
   2012   685    888    1011   409    376    6357
   2013   805    770    1052   402    685    6682
   2014   855   1002    1171   408    432    6786
        (出典:国立環境研究所農薬DB、単位トン)
 質問は多岐にわたっていますが、今号ではクロピクによる健康被害などの事故発生状況と、クロピク使用状況について報告します。◇印は当グループのコメントです。

★クロピクによる健康被害について
 記事t29602で2009年以降の私たちが把握したクロピクによる事故を報告しました。2009年11件、2010年13件、2011年20件、2013年7件、2014年9件ですが、農水省の報告にない事例もあります。わかっているだけで、この期間に、圃場漏洩以外を含め、群馬3、茨城5、青森2、千葉2件の事故があります。
 今回の質問に対する回答は以下の通りでした。

<最近5年間にクロピクによる人の被害があったか>
青森県:平成24年6月、土壌消毒をした園地の近隣住民1名から健康相談があった。県と町役場が調査したところ、周辺園地での農薬の不適正使用は認められなかったものの、微量に発生したガスの影響が考えられた。このことから、県と町役場が、民家に隣接したほ場では使用しないことや、距離があっても風向きによっては配慮が必要であることなどを農薬散布者に指導した。
茨城県:健康被害については農水省HPに掲載されておりますのでご覧ください。
群馬県:事故報告はありませんが、県への臭気等に関する相談はあります。
千葉県:2013年3月 空缶の不適切な処理による近隣住民(8人)の健康被害(のどの痛み等)発生。2014年5月 クロピク処理後、被覆を行わなかったことによる近隣住民(8人)の健康被害(のどの痛み等)発生。
鹿児島県:該当ありません。

◇私たちが一番憂慮しているのは、周辺住民の健康被害です。青森県の被害者は県や町に訴えたため、公になりましたが(本誌267号、296号参照)、周囲に気兼ねをして訴えられない人も多いと思います。また、群馬県のように臭気に関する相談があると回答したところもありますが、臭気程度では、健康被害とみなされず、同県は事故例なしとしています。
 クロピク使用者はガスマスクなどで、防護するよう指導されていますが、周辺住民は使用時期には外出もままならないと訴えています。ひどい急性被害がなくても、低濃度のクロピクを長年吸っていてどういう被害が出るのかという研究もないのです。クロピク使用ほ場周辺の住民の健康調査をすべきです。
 千葉県は、13年、14年にそれぞれ8人が被害を受けたと回答していますが、どういう対策をとったかは不明です。
 このような危険な農薬を使用してもいいと許可している国は、クロピクの慢性毒性や他の毒性について、きちんと報告すべきです。

<クロピクによる水系汚染、水産物や家畜の被害、他の作物への被害はあったか>
青森県:回答なし。
茨城県:水系汚染や家畜への被害はない。
群馬県:平成27年4月、クロルピクリン剤による土壌消毒中の圃場に隣接するハウスで、鉢物カーネーションの葉が焼ける症状が発生しました。原因は、土壌消毒中の圃場よりも低い位置にあったハウスのサイド換気部から被覆ポリフィルムを透過したガスが流れ込んで滞留し、発生したと想定されます。
千葉県:質問のような被害事例は報告を受けていない。
鹿児島県:該当ありません。
 
◇そもそも調査をしてないのではと疑われます。群馬県のような事例は今までもあったし、これからも発生するでしょう。それがきちんと報告するシステムがなければ、事故はないことになってしまいます。群馬県は、そうしたシステムがあるのでしょうか。

<クロピク剤の使用状況>
○クロピク使用の一番多い作物は何か。
青森県:把握してないが長芋やゴボウ
茨城県:カンショ(80%)メロン(10%)、その他(10%)
群馬県:コンニャク
千葉、鹿児島県:把握していない。

○使用面積はどのくらいか
青森、茨城、千葉、鹿児島県:把握していない
群馬県:出荷量から推計すると3900ha

○作物別・製剤別使用量は?
鹿児島県が製剤別流通量を示しただけで、5県とも作物別・製剤別使用量は「把握していない」と回答。

○クロピク使用農家数
青森、茨城、千葉、鹿児島県:把握していない
群馬県:クロピク使用農家数の調査は、実施していないが、コンニャク生産農家数が約1,440戸(H26)、ヤマトイモ生産農家数が約340戸(H26)で、その多くがクロルピクリン剤を使用していると思われる。

○農家の規模別のクロピク使用
 防除面積規模別の農家数を把握している県はありませんでした。農薬使用の帳簿を調査した県もありませんでした。

◇「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」第九条(帳簿の記載)に基づき、農薬使用者は、使用状況を帳簿に記載するよう指導されています。しかし、どの県も、クロピク使用者の帳簿を調べたことはなく、上記のような基本的情報も把握していないのには驚きます。これでは、対策の立てようがありません。事故を無くしたいというのは口先だけの言葉でしょうか。

○クロピク販売店等現場での点検・指導
青森県:平成27年度は講習会等を延べ105回開催した。
茨城県:農薬販売店については,立ち入り調査を年間400〜600件程度実施。クロピク使用については,農家を対象に農業改良普及センターで指導している。
群馬県:年間180件の農薬販売店の立入検査を実施。クロピクを扱っている販売店には、販売状況や保管状況の点検や指導を行っている。クロピク保有者(使用者)に対する現場指導は、普及組織やJAを中心にGAP取組の一環として農薬の保管・廃棄などの改善指導を行っている。
千葉県:クロピクに特化した現場での点検・指導は行っていない。農薬全般については、毎年、農薬販売店500件、農薬使用者500件を目標に指導を行っている。
鹿児島県:クロピクに特化した点検・指導は行っていないが、農薬全般について,販売店などに100件程度/年の立入検査を実施している。

○被覆を義務化すべきだが、どう思うか
青森県:回答なし。
茨城県:(現状が)妥当な基準である。
群馬県:本県では、昭和59年より群馬県指定農薬流通対策事業を実施しており、重点指導を行う農薬(重点指導農薬)としてクロルピクリンを含む製剤を指定し、次の点を重点的に指導しています。
  1.作業時には保護マスク、保護メガネ、ゴム手袋、防除衣を必ず着用する。 
  2.注入作業は、午前中か夕方の気温が低い時に風下から風上に向かって行い、
    一時に広範の使用は避けるようにする。 
  3.注入が終わったら、必ずポリエチレンフィルムなどのシートで地表面を被覆する。 
  4.被覆を除去する際には、くん蒸期間を正しく守り風下から行う。 
  5.空き缶は周囲に影響を及ぼさない場所で適切に処理する。 
  6.被覆は厚さ0.03mm 以上のシートを使用するよう努めるものとし、特に住宅地および
    畜舎周辺ほ場では全面被覆を行うことにより、危被害防止に十分配慮するものとする。
千葉県:容器ラベルに記載されている使用上の注意事項等に従い、施用直後の被覆等を確実に行うよう指導しております。
鹿児島県:県で判断できるのもではないと考えている。

◇クロピク施用後、被覆をするのは当然だが、これを義務化することについて、各県とも消極的。現状でいいという態度は問題。一番きちんと指導していると思われる群馬県でも、指導が守られなかった場合、どうするのかという対策が見えません。
(次号に続く)

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作成:2016-08-31