ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる

t29903#農薬の水系汚染 (1)ネオニコチノイド〜埼玉県 出荷量の1割が河川流出#16-07
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【参考サイト】日本環境化学会:Top Page第25回環境化学討論会プログラム
 ネオニコチノイド系農薬の水系汚染については、本誌でも毎年、継続的に取り上げてきました。本年6月に新潟市で開催された第25回環境化学討論会で、埼玉県、千葉県、名古屋市、大阪府での汚染状況についての報告がありました。今号では、埼玉県での調査結果を紹介します。
 ・ネオニコチノイド系殺虫剤の埼玉県からの流出量の推計
  ○大塚宜寿,蓑毛康太郎,茂木守, 野尻喜好,堀井勇一 (埼玉県環境科学国際セ)
 ・埼玉県の野通川におけるネオニコチノイド系殺虫剤の季節変動
  大塚宜寿,○竹峰秀祐,蓑毛康太郎,野尻喜好,茂木守,堀井勇一 (埼玉県環境科学国際セ)
★ネオニコの河川への流出量を推計
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 埼玉県内河川のネオニコチノイド汚染状況を調査してきた県環境科学国際センターの大塚さんらのグループは、2013年の調査報告(計38地点,2013年4月,8月,10月採取)で、ジノテフランの検出率が94.6〜97.4%、ついで、クロチアニジン92.1〜94.6%、イミダクロプリド81.6〜86.4%であり、不検出であった地点は,山間部にある荒川の最上流部の1地点だけだったことを明らかにしました(本誌277号)。
 この結果から、県内で使用された農薬が、河川を通じて県外に流出していることはあきらかだとして、あらたに2014年1月の採取データを加え、その流出量を推計しました。 調査対象は,ネオニコチノイド系殺虫剤7種(ジノテフラン,クロチアニジン,イミダクロプリド,チアメトキサム,アセタミプリド,チアクロプリド,ニテンピラム )です。
 調査地点における各河川の流量をもとに、利根川、江戸川、中川、綾瀬川、荒川、新河岸川の流量を推算、さらに当該河川の農薬検出濃度より、農薬別の河川毎の年間流出量が算出されました。図1に年間の流出量を示しました。チアクロプリドとニテンピラムは,検出率が低く,検出濃度も高くなかったため,6河川を合計しても流出量は0.1kgに達しませんでした。
 年間流出量が最も多かった河川は,中川で5農薬合計で年間約160kg。季節別では、濃度の高い夏季に流出量が多くなる傾向がみられたものの,利根川と荒川では,秋季の流水量が大きく、夏季よりもネオニコ流出量が多かったです。
 6河川からの年間のネオニコ総流出量は約430kgで、埼玉県への2013年の出荷量は、下表のように、合計5.717トンですから、県内出荷量の約7.5%が流出することになります。年間流出量が一番多いジノテフランは約270kgで、12.5%が流出しています。また、利根川への群馬県の年間ネオニコ総流入量は約120kgとの推算もなされ、そのうちジノテフランが約5割を占めていました。
 県内出荷量の約1割が、流出しているとの結論は、これらが、東京湾にも流入することを意味しますし、その魚介類や河川底質への蓄積も懸念されます。
  表 2013年の埼玉県へのネオニコチノイド出荷量 (単位;トン)
   アセタミプリド  0.396    チアクロプリド  0.121
   イミダクロプリド 1.278        チアメトキサム   0.451
   クロチアニジン  0.898        ニテンピラム   0.411
   ジノテフラン   2.162        合計        5.717

  図1 ネオニコチノイド農薬の河川別の流出量 −略−
★野通川(やどおりがわ)は冬季に高濃度
 大塚さんのグループが、2013年4月からの1年間実施した、県北東部にある見沼代用水(星川)とその支川である新川に挟まれた稲作地帯の備前堀川農業排水の調査では、ネオニコチノイド類の濃度が夏季に高くなる傾向にあり、降雨により濃度が上昇することがわかりました(290号)。
 今年の報告は、県北東部を流れる利根川水系の一級河川野通川(やどおりがわ)流域の河川におけるネオニコチノイドの濃度調査に関するものです。同流域は、主に稲作を中心とした農地であり,野菜・果物・花卉等の栽培も行われているほか,工業団地やゴルフ場が存在しています。河川水は、鴻巣市郷地の小宮橋付近で、2013年4月1日から2014年4月30日にかけて週に1〜2回,合計78検体が採取されました。
 その結果は、備前堀川の場合と異なり、ネオニコチノイド濃度は、夏季より冬季に高くなることがわかりました。
 分析対象は、前述の7種のネオニコチノイドです。このうち、ジノテフラン,チアメトキサム,クロチアニジン,イミダクロプリドは、すべての検体から検出されました。50ng/Lを超える比較的高濃度で検出されたジノテフラン,チアメトキサム,クロチアニジン,ニテンピラムの4種について、その季節的濃度変化を図2に示します。最も高濃度だったのは、ジノテフランで、1月下旬と3月下旬に350ng/L検出されました。前頁の表のように、埼玉県では、2013年のジノテフランの出荷量が2.162トンと全ネオニコ中で一番高く、37.8%を占めていることと関連があるかも知れません。
 著者らは、夏季よりも冬季に比較的高くなる傾向がみられた理由について、野通川流域では、年間を通じて花卉栽培が行われており、ネオニコチノイドが使用されている。また、10月から4月には、河川の水量が少なくなることがあり、冬季を中心とした期間で、比較的高い濃度が検出されたのではないかと考察しています。
 100ng/Lを超えるネオニコチノイドの水系汚染が生態系に影響を及ぼす恐れもあり、また、各地での人の尿中分析で、ジノテフランが見出されている状況との関連も危惧されます。


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作成:2016-09-29