農薬の毒性・健康被害にもどる

t29908#クロルピクリンの住宅地周辺での使用禁止を要望〜使用量の多い5県の回答から(2)使用者・周辺住民の健康被害調査を#16-09
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               (2-1)クロルピクリンによる危被害について

【参考サイト】日本内科学会誌第59巻第11号1214頁(1970年)
     クロルピクリン中毒症: 岡田永子、高橋和郎、中村晴臣(鳥取大学医学部)
       日本農村医学会誌63巻1号41頁(2014)
        花卉栽培者の土壌燻蒸剤の使用と自覚症状 面談調査から:永美大志*,
         末永隆次郎*2, 中崎美峰子*3, 前島文夫*, 西垣良夫*, 夏川周介*
          (*佐久総合病院、*2久留米大学医学部、*3富山県衛生研究所)
  土壌くん蒸剤クロルピクリンについての上位5県への質問・要望

 記事t29701で、土壌くん蒸剤クロルピクリン(以下、クロピク)に関して使用量の多い青森、茨城、群馬、千葉、鹿児島の5県に質問と要望をしたことを報告し、その回答の一部を紹介しました。
 驚いたことに、どういう作物に、どこでどのくらい使われているかなどクロピクの基本的な使用状況について何も把握していない県がありました。
 使用者や周辺住民の健康被害は、青森、千葉など公になったものは回答してきましたが、問い合わせた最近5年間ではありませんが、鹿児島県が、2001年に100名近くの被害者を出したことに、口をつぐんで、「該当ありません」というのもいただけません。  ちょっと古い論文ですが、日本内科学会誌第59号(1970年)に、鳥取県の葉煙草産地におけるクロピク中毒の臨床例、周辺住民へのアンケート調査などが「クロルピクリン中毒症」として発表されています。
 臨床例に関して「5症例に共通して見られる症状は、クロルピクリン臭をかぐたびに出現する流涙、立ちくらみ、倦怠感、頭痛であり、そのほか、咽頭痛,悪心嘔吐、いらいら感も認められ、かつそれらの症状がかなり長時間持続することであった」と書かれています。
 周辺住民へのアンケート調査では、回答者760名のうち、何らかの症状を訴えるものは544名(72%)で、流涙が圧倒的に多く、咳、息苦しい、鼻水、頭痛などだったということでした。 しかも、100m以上離れた場所の住民も同様に症状を訴えていたということです。
 クロピクの出荷量は、70年代に3000〜4000トンであったものが、2014年には6800トンと倍増しました。
 40数年へても、健康被害はなくならず、2014年の日本農村医学会誌には「花卉栽培者の土壌くん蒸剤の使用と自覚症状」と題する論文が掲載されており、花卉栽培者の中毒症状が記されています。
 対象は九州北部の電照菊栽培者で、健康診断に参加した男性69人。クロピクによる自覚症状は、涙目、咳、鼻水などが上位を占めています。専用マスクをしない人たちの21%が「呼吸が苦しい」というもので4位でした。
 被害状況を改善するため、農水省は、防護具をつけたり、被覆などで圃場揮発を防ぐという対策を強化していますが、はかばかしい効果は上がっていません。

★クロピク使用者の健康診断なし
 クロピクを使用すれば、必ず、健康被害者が出ると考えてそれへの対応を考えるべきでしょう。ところが、「クロピク使用者の健康診断を実施していますか」との5県への質問に対して、
青森県:実施していない。
茨城県:県では実施しておりません。
群馬県:県としては実施していません。
千葉県:実施していません。 
鹿児島県:実施していません。
 と、実施していないことを恬として恥じる様子はありません。早急に健康診断をするか、すくなくとも、クロピク使用者と周辺住民の健康被害のアンケート調査をすべきです。
 そして、周辺の大気中濃度や水系などのクロピク濃度を綿密に測るべきです。
 クロピクは大気汚染だけでなく、地下水や井戸水を汚染し、秋田や新潟県では、風呂水に使った住民の被害もでています。
 青森県では、記事t29602でクロピクの被害を報告した事例以外にも、同様の健康被害を訴える人が現れ、県も認めざるを得ませんでした。これを機に積極的にどういう被害がどこに発生しているか、明らかにして、対策を講じるべきでしょう。

★住宅地通知を義務化すべき
 通知「住宅地等における農薬使用について」は、農薬使用によって、周辺住民が健康被害を受けないことを目的として策定されています。クロピクについては被害が多いだけに、一層の遵守が求められます。また、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」にも、使用した土壌から農薬の揮散を防止するため必要な措置を講じることという努力規定があります。クロピク使用圃場周辺の住宅地では、たとえ催涙や眼に刺激を感じなくても、100μg/m3レベルの汚染があることが報告されており、吸入による健康への影響が懸念されます。
 私たちは、クロピクについて「住宅地通知や省令を義務規定にすべきと思いますがいかがですか」と質問しました。それに対する回答は
青森県:回答なし
茨城県:住宅地通知や省令はクロピクも含めた農薬の危険性を踏まえて出されたものであり,県の立場としましても妥当な規定であると考えていますが,今後もこれら通知等が農薬使用者に正しく守られるよう,指導を徹底してまいります。
群馬県:県としては、国での検討結果を待ちたいと思います。
千葉県:今後も、住宅地通知やラベルの記載事項を厳守するよう指導してまいります。
鹿児島県:県で判断できるものではないと考えます。
★事前周知はどの範囲までか
 住宅地通知では、農薬使用は事前に周知することになっています。クロピク使用の場合、どの範囲まで知らせているのかという質問に、
青森県:具体的な数値はない。
茨城県:具体的な距離は示していません。
群馬県:クロルピクリン剤を使用する全農家の使用計画を周辺住民に周知することは非常に難しく、まずは、農家に危害防止対策を周知徹底することで危害防止につなげることが重要と考えています
千葉県:距離の範囲は設けていません 
鹿児島県:決めていません。
 どの県も決めていないことがわかりました。こんないい加減な指導で、農家が面倒な周知をするとは思えません。言外にやらなくてもいいのだと言っているようなものです。

★誰が周知するのか
青森県:農薬使用者本人。
茨城県:農薬使用者を想定しています。
群馬県:クロルピクリン剤による土壌消毒が行われている地域のJAや市町村の広報紙等による危害防止対策の周知徹底を推進したいと考えています。
千葉県:周知方法については、使用者に任せています。 
鹿児島県:使用者本人です。
 農薬散布の周辺住民への周知は、ほとんどが使用者本人とされています。群馬県のみがJAや市町村の広報等で危害防止の周知徹底を推進するといっていますが、いつ、どこで使用するのかという肝心のお知らせがあるのか不明です。使用者本人に任せるというよりは、地域に広げることは問題を共有できるため、効果的ではないかと思われます。 周知の方法 チラシ、回覧板など、どういう方法で周知しているかと例を挙げて○をつけてくださいと聞くと、これまた、無責任な回答でした。 青森県:丸印なし 茨城県:決まった周知方法はありません。 群馬県:その他に○ 千葉県:周知方法については、使用者に任せています  鹿児島県:主に口頭です。  鹿児島県の「主に口頭」という回答は、「周知していない」というのと同等です。
★化学物質過敏症患者への配慮は?
青森県:国が作成したチラシを活用し、農薬使用者に配布している。
茨城県:「住宅地等における農薬使用について」の通知にあるように,周辺に化学物質過敏症の方がいることを知っている場合は,十分配慮するよう指導しています。
群馬県:生産者が現状の危被害防止対策を確実に実行するよう指導徹底することが重要と考えています。
千葉県:住宅地通知や本県作成の住宅地リーフレット(別添)により、農薬に敏感な方に十分配慮するよう、農薬使用者に周知しています。 
鹿児島県:このような方々に特化した対応はしていません。
 すごいですね。鹿児島県は、何にも配慮はしていないとのことです。他の県も一般的な農薬の注意で、やはりクロピクが特に危ないという認識はないと思わざるを得ません。また、配慮とはどういうことをするのかと明確に回答した県はありませんでした。

★神奈川県の例
 神奈川県農薬安全使用指導指針ではクロピクに関して次のように書かれています。 ア 住宅密集地では絶対に使用しないこと。 イ 人家及び畜舎から十分(100m以上)離れていることを確認すること。ただし、育苗用土の消毒で全面をポリエチレンフィルムで被覆する場合、マルチ畦内処理を行う場合、または、水封後にポリエチレンフィルムで被覆する場合を除く。 ウ 処理後は必ずポリエチレンフィルム等で被覆すること。 エ 1回の処理面積は10a以下とし、大面積の処理は避けること。 オ 地表面にこぼした場合は、直ちに土をかけること。 カ 作業者は必ず土壌くん蒸用の防護マスクを着用すること。  県が独自に決めることもできるはずです。国に言われるまで何もしないというのでは、公にならない健康被害が増える一方です。(ただし、100m離しただけでは十分な効果はないというデータがあります。)

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作成:2016-09-29