ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる
t30002#ミツバチ被害調査〜大量死の巣箱は1%未満だから、農薬使用規制不要とする農水省(2)死虫から斑点米カメムシ用農薬検出#16-07
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【参考サイト】農水省:蜜蜂被害事例調査(平成25年度〜27年度)の結果及び今後の取組について
概要と報告書、通知28消安第1716号/28生畜第509号
農水省は、ミツバチが巣箱の入り口に死んでいた事例などを被害としてとらえ、3年間で198件の事例があったと報告していますが、そのうち、死虫の農薬分析をした79件について、まず、紹介し、農水省の考え方とその問題点を解説します。
★死虫から23種の農薬を検出
79事例について、表1のような種類の農薬が分析対象となり、23種の農薬が検出されました。
表1 死虫中の分析対象農薬数
農薬の種類 2013 14と15年
ネオニコチノイド 7 7
ピレスロイド 4 4
フェニルピラゾ-ル 2 2
有機リン 3 6
カーバメート 1 2
その他 3 8
合計 20 31
表2には、農薬ごとの検出数、半数致死量LD50ほかを示しました。死虫中には、分析対象農薬が検出されなかった11件や複数の農薬が見出された事例(内訳は1農薬検出事例;28件、2農薬:26件、3農薬:19件、4農薬;6件)もありました。一部の農薬については、最大検出値も示しましたが、LD50よりも相当低い値もあり、検出された農薬がすべて、致死原因とはかぎりません。
表には、農薬別検出数の内数として、水稲のカメムシ防除時期外及び周辺に水稲の栽培がない地域で使用された場合の事例数を( )で示しましたが、延べ検出数161のうち、水稲カメムシ防除に関連する事例が109件と全体の67.7%を占めていました。農薬別では、ピレスロイド系のエトフェンプロックス27件、ネオニコチノイド系のクロチアニジン25件とジノテフラン14件、フェニルピラゾール系のエチプロール21件などが多く、いずれも、水稲に適用(主に夏場の斑点米カメムシ対策)され、急性毒性が強い殺虫剤(すなはちLD50が低い)で、表に示したLD50の10分の1を超えたものが58件(うち水稲あり42、水稲なし16)みられました。
★水稲関連農薬原因が3分の2
検出された農薬と被害が発生した蜂場の周辺地域(半径2km。その範囲に農薬を使用する可能性のある農地、ゴルフ場、山林等がない場合は半径5km まで)での主要な農作物とその作付面積、適用農薬などとの関連が調べられました。
198件の被害件数の周辺作物別内訳は、表3のようで、84.3%にあたる167件が、巣箱を置いた場所(蜂場)の周辺で、水稲が栽培されている状況下で発生していました。
また、水稲関連の167件を作期別にみると、その82.6%の被害が、水稲のカメムシ防除が行われる時期(水稲の開花直前から開花後2週間程度の時期)に発生していました。
表2 死虫に検出された農薬と検出数、LD50=半数致死量(単位:ng/匹)
*()水稲防除期外や水稲がない場所での被害死虫中の検出数で内数
検出農薬名 検出 接触LD50値 経口LD50値 LD50の10分の1を
数* (48時間ng/匹) (48時間ng/匹) 超えた件数 (最大検出値ng/匹)
アセタミプリド 3(1) 8090(72時間) 14530(72時間) 0
アラニカルブ 2(1) 800 0
イミダクロプリド 3(1) 45 4 3(最大値78)
エチプロール 21(1) 13 34 12(最大値10)
エトフェンプロックス 27(6) 31 1433 2(最大値260)
エマメクチン安息香酸塩 2 2 0
クロチアニジン 25(9) 44 4 23(最大値16)
クロラントラニリプロール8(1) >100000 0
ジノテフラン 14(5) 23 8 9(最大値16)
シペルメトリン 4(3) 23 172 3(最大値110)
シラフルオフェン 3 1 434 0
スピノサド 4 2.5 1(最大値12)
チアクロプリド 2(2) >100000 0
チアメトキサム 2 24 5 1(最大値0.53)
テブフェノジド 8(1) >234000(96時間) 0
トルフェンピラド 2(0) 470 370 0
ピリダベン 6(4) 116 0
フィプロニル 8(4) 6 4 3(最大値3)
フェニトロチオン(MEP) 1 160(24時間) 1(最大値160)
フェントエート(PAP) 2(1) 121 0
フェンプロパトリン 1(1) 48.5 0
ペルメトリン 1(1) 170(24時間) 0
メチダチオン(DMTP) 1(1) 150 190 0
検出なし 11(9)
表3 周辺作物別の被害件数
周辺作物 2013 14 15 合計 周辺作物 2013 14 15 合計
水稲のみ 40 22 9 71 水稲以外の作物のみ 8 18 5 31
水稲と他の作物 21 39 36 96 内訳 畑作物 2 4 0
内訳 畑作物 9 12 25 露地野菜 5 3 0
露地野菜 12 17 14 果樹 2 7 5
果樹 10 18 8 露地花卉 2 4 0
露地花卉 1 6 2 工芸作物茶など 0 2 0
工芸作物茶など 3 3 8 飼料作物 1 1 0
飼料作物 5 1 19 ゴルフ場芝など 5 8 0
ゴルフ場芝など 1 6 0
(複数回答あり)
★直接被曝のみで死ぬわけではないのに
これら調査結果を踏まえ、農水省は、斑点米カメムシ用のネオニコの影響が無視できないことを含め、次ぎのようにまとめています。
・斑点米カメムシの防除期の死虫49 件の約7割にあたる36 件から、防除に使用された
殺虫剤が半数致死量(LD50 値)の1/10 以上の濃度で検出された。
・ネオニコチノイド系農薬については、水稲のカメムシ防除において使用されている
割合が散布延べ面積ベースで約63%(2012年度植物防疫課調べ)であるところ、半数
致死量の1/10 以上の値で検出された全農薬中の割合も約66%であった。
・ミツバチ死虫の発生原因は、水稲のカメムシ防除に使用された殺虫剤に、直接暴露
した可能性が高いと考えられる。
直接被曝は、ハチが農薬散布液や粉じんを体に浴びることを意味し、接触LD50がその毒性の強さの目安になりますが、表2示したように、ネオニコは、接触よりも経口LD50の方が強いのです。農薬で汚染されている花蜜や花粉、溢液、水場などからの経口摂取の影響を無視することはできません。農水省が、散布時やその直後にミツバチが農薬を浴びなければ、被害は防止できるとしているのは、誤りです。
浸透性・残効性が特徴であるネオニコの場合は、圃場周辺の環境汚染が続く上、農薬は作物の茎葉の表面だけでなく、内部にも浸透・移行します。散布中の直接被曝を防止するだけではだめです。巣箱を避難させる期間も長くせねばならず、周辺に農薬汚染のないミツバチの餌場や水場を確保しなければ、養蜂者は対応のしようがありません。
私たちは、いままで、ずっと、斑点米カメムシ防除の農薬がミツバチ大量死の原因のひとつであり、斑点米対策は、除草と色彩選別機利用で、ミツバチを殺さずにすむと主張してきました。農薬散布情報の共有化や巣箱の避難でなく、農薬を使用しないことが一番にとるべき対策なのです。
★蜂群崩壊はないというが
【参考サイト】日本養蜂協会:Top Page。日蜂通信
農水省は、巣箱当たりの最大死虫数が1万匹以上だった蜂群で翌年度の4月時点の消長を調査していますが、発生場所も、蜂数の推移も示さず、以下のような記述があるだけです。
・2014年度は、該当する被害事例は7件あり、被害時に働き蜂のほとんどが失われた
1件(1箱当たりの働き蜂が約1万匹、巣箱数3つの小規模な蜂場)を除く6件につい
ては、蜂群の回復の程度に差はあったが、蜂群が越冬できた。
・2015 年度は、該当する被害事例は10 件あり、そのうち3件は、元の群の蜂数のほぼ
100%に回復し、蜂群が越冬できた。その他の7件についても、蜂群の回復の程度
には差はあったが、蜂群が越冬することができた。
農薬散布により、すぐに死なくても、巣に戻れなくなるケースやミツバチの活動や繁殖に影響がでることも懸念されます。これらの徹底検証なくしては、ミツバチ大量死の解明はできません。
そもそも、農水省へ報告されている被害は畜産部署が管轄する養蜂ミツバチの一部にすぎません。養蜂業者の団体である日本養蜂協会は、機関誌「日蜂通信」に、農薬、ダニ、熊など鳥獣、蜂病などに分類して、都道府県別のミツバチ被害状況を公表していましたが、2014年5月発行の通信に掲載された2013年度の統計(全国総数で原因別被害業者数は、農薬:118、ダニ:356、熊:56、腐蛆病、ススメバチ、盗難らの件数不明となっていた。記事t27502)を最後に、農水省の調査が始まってからは、独自調査結果を会員にも知らせなくなりました。現在では、会員に対して、被害が発生した場合、同省の様式に従い、最寄の家畜保健衛生研究所又は都道府県の出先機関畜産官憲部署に連絡するよう、呼び掛け、『被害が発生しても、何も連絡しなかった場合、「被害なし」と分類されますので、必ず連絡をお願いします。併せて日本養蜂協会への報告もお願いします』と、協力要請をしています。こんなありさまでは、ミツバチの農薬被害の真実がわかるとは思えません。
なぜなら、同通信には、たとえば、静岡県の養蜂者が、2014年に被害を受けたとして『前年12月はじめ、越冬準備時に7、8枚群だった蜂が、1月には巣枠3,4枚に減少していた、周囲には死蜂も見られない。23群の蜂場の殆どが激減した。その後、残る群を合同したが、蜂減りはとどまらず、3月上旬には全群ものにならなくなった』とし、被曝死ではなく、数ヶ月後に蜂減りした原因として、隣地の柿畑でのネオニコチノイド散布を疑っています。
この事例をみると、農水省の報告は、農薬による蜂群崩壊はないと、結論するには、まだまだ情報不足だといわざるを得ません。
★水稲用農薬以外の被害も防げない
【参考サイト】三井化学アグロ:スタークル顆粒水溶剤(ジノテフラン20%)と技術資料
住友化学:i−農力の頁にあるダントツフロアブル(クロチアニジン20%)
表2、3などに示したように、水稲の斑点米カメムシ防除期以外や水稲以外の果樹、野菜ほかに散布される農薬の影響も無視できません。特に農薬が散布されていない蜜源や水場が、蜂場の5km以内になければ、ミツバチが農薬汚染地帯で蜜源等を求めることになり、そこで被曝・摂取した毒性の強い農薬が原因で被害を受ける可能性を否定できません。
そのため、昨年の通知で、農水省は、農薬メーカーへの指導として、農薬ラベルの使用上の注意事項として『周辺で養蜂が行われている場合には、農薬使用に係る情報を関係機関(都道府県の畜産部局や病害虫防除所等)と共有する等、蜜蜂被害の軽減に資する内容に見直す』の追加を求めました。この指導が実施された製剤にはどのようなものがあるか尋ねたところ、該当製剤の名称は答えなかったものの『変更ラベルの対象である農薬製剤約950のうち、2016年5月末現在のラベル変更件数は577件となっています』との回答がありました。
調べると、 たとえば、三井化学アグロのスタークル顆粒水溶剤(ジノテフラン20%)や住友化学のダントツフロアブル(クロチアニジン20%)の安全使用上の注意には『関係機関(都道府県の農薬指導部局や地域の農業団体等)に対して、周辺で養蜂が行われているかを確認し、養蜂が行われて いる場合は、関係機関へ農薬使用に係る情報を提供しミツバチの危害防止に努めること』となっていました。しかし、ラベル表示が厳しくなったからといって、その内容が遵守されるとの保障はありません。
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作成:2016-09-29