ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる
t30101#ミツバチ被害調査〜大量死の巣箱は1%未満だから、農薬使用規制不要とする農水省(最終回)まず、斑点米カメムシ防除農薬をやめよ#16-09
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パンフレット「知っていますか? 斑点米と農薬とミツバチ大量死」
ネオニコチノイド関連記事一覧
【参考サイト】農水省:蜜蜂被害事例調査(平成25年度〜27年度)の結果及び今後の取組について
概要と報告書、通知28消安第1716号/28生畜第509号
農薬による蜜蜂への影響についての頁にある我が国の取組(2016/11改訂)(pdf版)
★情報共有化が90%あっても
【関連記事】記事t25203(改定養蜂振興法)
農水省のミツバチ被害防止対策では、第一に 農薬使用者と養蜂家の間の情報共有をあげており、具体的に以下の指導をしています。
・養蜂家は、巣箱の設置場所等の情報を農薬の使用者と共有する
・農薬の使用者は、農薬を散布する場合は、事前に、散布場所周辺の養蜂家に対し、その旨を連絡する
日本では、養蜂者は、「養蜂振興法」により、都道府県への届出が義務付けられており、全国の養蜂者数は2013年9312、14年9306、15年9567となっています。農水省は、届出者には、農薬散布情報が確実に連絡されることをメリットとして挙げていますが、実際はどうかわかりません。今回の調査で、情報共有化の実態が判ると思ったのですが、農水省は、養蜂者への個別の調査を実施せず、被害報告のあった198事例について、2013、14 年度に被害報告があり、翌年度に被害報告がなかったか又は被害報告数が減少した都道府県を対象に聞き取り調査をしたのみでした。
その結果は表1のようで、情報提供の割合が90%前後であっても、ミツバチ被害はなくならないことがわかります。
表1 農薬散布情報の提供件数 ()は比率で%
年度 2013 2014 2015
全被害数 69 79 50件
農薬使用者から養蜂者へ情報提供した 55(80) 63(80) 47(94)
養蜂者が農薬使用者から情報提供を受けた 40(58) 47(59) 44(88)
水稲のカメムシ防除の時期の被害数 49 52 37
農薬使用者から養蜂者へ情報提供した 39(80) 48(92) 36(97)
養蜂者が農薬使用者から情報提供を受けた 28(57) 39(75) 35(95)
★養蜂者はどう対応したか
農水省は、巣箱の設置場所の工夫・退避について、養蜂者に下記の指導をしました。
・周辺を水田に囲まれた場所には、できるだけ巣箱を設置しない
・農薬の使用者から連絡を受けた場合、巣箱を別の場所に退避させる
しかし、調査では、巣箱設置場所について、水田に囲まれた場所の比率はどの程度あったかは報告されていません。
農水省は、被害がでたケースのうち、養蜂者が対策を実施しなかった事例、2014年の34件(全被害の43%)、15年の38件(76%)について、その理由を調べただけです。その結果をまとめた表2をみると、 散布情報を知っても、巣箱の避難先がない、避難する労力がないなど、根本的な問題がネックになって、被害回避ができないということがわかります。また、避難して、被害が回避できたにしても、避難距離や避難期間がどのくらいか、新たな設置個所に農薬汚染のない蜜源や水場があるかなどについては、わかりません。
表2 養蜂家が対策を実施しなかった事例数とその理由
2014年 2015年
養蜂者が対策しなかった事例数 34(43%) 38(76%)
巣箱の退避 避難先なし 21 22
避難の労力なし 2 10
巣門の閉鎖 暑さでできない 2 5
労力なし 5
対策しようとしていなかった* 11(14%) 8(16%)
*の理由:今まで被害がなかったため/リスクが少ないと考えたため/防除スケジュールが
大まかなため、被害状況、費用等を考えると動かない方が得であるため、など
さらに、農水省の農薬使用者に対する指導−農薬の使用の工夫として、挙げられた
・蜜蜂の活動が盛んな時間帯の農薬散布を避ける
・蜜蜂が暴露しにくい形態の農薬(粒剤等)を使用する等
がどの程度守られ、ミツバチ被害防止に役立ったかは、調査はされていません。
★北海道 散布情報共有化で防止できず
農水省も認めていますが、上記の防止対策が、うまく機能せず、被害が減らなかったのが、北海道です。2015年度の北海道での農薬散布情報の共有化は、農薬使用者が養蜂者へ提供した割合は100%、養蜂者が農薬使用者に提供した割合は93%と全国レベルより高いにも拘わらず、被害件数の推移は2013年被害35件、14年27件、15年29件です。また、農水省が同一場所で複数年次にわたって起きた被害報告数及び同一年次・場所での複数回にわたって起きた被害の報告件数を調べたところ表3のように、北海道は他県に比べ、約4倍高いという特徴がありました。
その理由を農水省は北海道では、『「採蜜が可能な巣箱の退避先がない」、「退避には労力が必要」、「被害状況・費用等を考えると動かない方が得なため」等の報告が寄せられています。』との理由で、「巣箱の設置場所の工夫・退避」に関する取組は進んでいないことを認め、本年の被害防止対策に、『北海道は、自ら農薬散布回数の削減や、巣箱を退避させることが可能な場所の確保の検討等の対策を推進します。』との一文を加えました。
表3 同一場所や同一年次・場所での複数回被害の報告件数
同一場所で複数年次にわたって起きた被害の報告件数
年度 2013 14 15 合計
北海道 15 14 8 37(18.7%)
北海道以外の都道府県 2 5 3 10( 5.1%)
同一年次・場所での複数回にわたって起きた被害の報告件数
年度 2013 14 15 合計
北海道 8 4 13 25(12.7%)
北海道以外の都道府県 2 4 0 6( 3.0%)
★北海道での斑点米カメムシ農薬防除は不要
【参考サイト】北海道立総合研究機構・道南農業試験場:
第17回道南農業新技術発表会(2015年)
「農薬を減らしても斑点米は増えません」
農水省は、北海道での被害について、道への他県からの蜜源を求めての転飼件数は全国の10%、蜂群数では24%とその比率が高く、しかも水稲開花時期の7-9月に多いことも理由の一つにあげています。
しかし、根本原因は、北海道での斑点米カメムシ防除面積が他県にくらべ、群を抜いて多いことにあります。表4に2014年度の都道府県別の斑点米カメムシの発生状況と農薬による防除面積を発生の多い順に示しました。北海道は、斑点米カメムシ発生面積が、水稲栽培面積の割に小さいにもかかわらず、〇番号で示したように延べ防除面積は、ワーストワンであることがわかります。すなはち、斑点米カメムシ対策の農薬の散布が圧倒的に多く、同じ水田で2回以上散布しているのです。かつその時期には、他県からの転飼ミツバチが多くなっているのです。
表4 2014年度の斑点米カメムシ被害状況(千ha)
県名 発生面積 栽培面積 実防除面積 延防除面積
宮城 48.0 71.1 63.3 69.6
秋田 44.9 91.7 89.4 B128.2
新潟 43.1 120.1 113.6 C125.0
茨城 29.8 74.7 38.4 38.4
山形 29.5 67.9 66.9 A149.8
北海道 26.0 111.0 111.1 @284.5
青森 24.4 48.6 40.2 42.3
北海道立総合研究機構・道南農業試験場は、第17回道南農業新技術発表会(2015年)で「農薬を減らしても斑点米は増えません」と題して、『出穂7〜10 日後に 1 回、効果が高く残効性の長いジノテフラン液剤、エチプロール水和剤 F を散布することで、出穂期防除を省略することが可能である。』としました。要するに、斑点米カメムシの散布回数を減らせというのです。
しかし、これで、ミツバチ被害がなくなる保証はありません。北海道での被害を減らすには、農薬使用をやめることがいちばん早道です。
斑点米対策は、農薬に頼らず、水田周辺の除草や収穫米の色彩選別の実施で十分だというのが私たちの主張です。斑点米カメムシの被害の少ない北海道で、まず、農薬散布をやめて、その効果を検証するべきでしょう。
★農薬空散の影響が被害調査では不明
ミツバチ死虫に検出された斑点米カメムシ対策の農薬の多くは、有人ヘリや無人ヘリによる空中散布で実施されています。空中散布の場合、農薬散布濃度は、地上散布の100倍を超える濃度で、短期間に広範囲で実施され、直接被曝によるミツバチへの影響が大きいと考えられます。ミツバチ被害の届けには、農薬散布が空散かどうかについての記載が求められていますが、農水省の調査報告には、『空中散布』という語句すらなく、なんらの考察もありません。
ミツバチのためにも、住宅地周辺だけでなく、空中散布はやめるべきです。
なお、無人航空機の空中散布の養蜂者への周知や巣箱避難については、記事t30102ある、私たちの都道府県アンケート調査の記事を参考にしてください。
★無視される自然界のポリネーターへの影響
【参考サイト】農業環境技術研究所:
「農作物の花を訪れる昆虫がもたらす豊かな実り−日本の農業における送粉サービスの経済価値を評価−」と
日本生態学会誌 65:217(2015)
農薬散布が、ミツバチや花粉媒介昆虫、天敵ほかを殺し、生物多様性を損ない、ひいては、授粉作物の生産減につながることは、農業環境技術研究所が、2月4日に公表したプレスリリース「農作物の花を訪れる昆虫がもたらす豊かな実り−日本の農業における送粉サービスの経済価値を評価−」で、訪花昆虫の経済効果の重要性について報告していることでもわかります。しかも、この研究ではミツバチの寄与が30%であるのに対し、その他の野生のポリネーターの役割が70%であることも指摘されています。
私たちは、3月末に、農薬危害防止運動についての質問として、ネオニコチノイドをはじめとする、ミツバチやポリネーターに対する毒性の強い農薬を使用しない地域を作り、農薬の影響について検証すべきではないかとして、農水省に考えを尋ねました。
その回答は『飼養されている蜜蜂に対しては、養蜂家と農薬使用農家間の情報共有の徹底、巣箱の退避等の対策の推進により、一定の効果が得られたため、今後もこれらの推進により被害を軽減していきたいと考えています。野生の蜜蜂を含む花粉媒介者については、当方の所管ではありませんので、環境省にお尋ね願います。』でした。
ポリネーターが農作物の生産に関与していることを一顧だにしないというこの言い分は、『農業生産の安定と国民の健康の保護に資するとともに、国民の生活環境の保全に寄与することを目的とする』となっている農薬取締法を所管する担当省のものとは思えません。
★あらたな知見がえられている
【参考サイト】日本生態学会:第63回全国大会
・ネオニコチノイド農薬の花粉を介したマルハナバチコロニー毒性
江川知花(農環研),五箇公一(国立環境研)
環境省;環境研究総合推進費の概要の頁にある平成28年度 研究実施課題一覧表
ネオニコチノイド農薬による陸域昆虫類に対する影響評価研究とH27年度中間評価
環境省関係では、国立環境研究所の五箇さんのグループは、3月に、仙台で開催された日本生態学会第63回全国大会で、クロマルハナバチをハウス内で飼育し、ネオニコチノイド系のイミダクロプリド含有花粉(20ppbおよび200ppb)に1ヶ月間暴露し、働き蜂の飛翔数および生殖虫(新女王・オス)生産数の動態を調査し、以下の知見を得ています。
・対照区では、試験開始後働き蜂飛翔数が徐々に増加し、2週間後には生殖虫が出現したのに対し、花粉中濃度200ppb処理区では、試験開始後徐々にワーカー飛翔数が減少し、試験終了まで生殖虫生産は起こらなかった。一方、実際の野外で検出される花粉中の最高濃度である20ppb処理区では、対照区と比較して働き蜂・生殖虫数に明瞭な違いは確認されなかった。
・ハウス内試験は、浸透性のイミダクロプリドが花粉や花蜜にも移行し、それをハナバチ類が巣に持ち帰ることで、コロニー全体に薬剤が暴露するリスクが想定される。死に到らなくとも、巣の維持ができなることを示唆しているが、野外の実環境における花粉中の濃度レベルではコロニー影響は強く出ない。
さらに、環境省環境研究総合推進費による千葉大学の中牟田さんらの研究「ネオニコチノイド農薬による陸域昆虫類に対する影響評価」の中間報告では、ハチ以外の昆虫への影響やニホンミツバチについての研究がなされており、日本土着のニホンミツバチについては、
・イミダクロプリド、ジノテフラン、アセタミプリド、フィプロニルと非浸透移行型3薬剤(ダイアジノン、ジメトエート、MEP)を用いてニホンミツバチに対する急性接触毒性試験を行った結果、セイヨウミツバチで報告されている LD50値よりも低い値で半数致死に至る可能性が示唆された。 となっています。
農水省のように、自然界での影響を無視して、養蜂を管轄する畜産部署に限った調査を行い、その対策として、農薬使用を規制せず、巣箱避難や使用方法適正化を謳っても、ミツバチやポリネーターの被害をなくすことにはつながらないことは自明です。
追加情報:その後、森林総合研究所の安田美香さんらが日本ミツバチに対する農薬の急性接触毒性に関する論文を発表しています(Journal of Economic Entomology, 2017, 1、グリーンピース・ジャパンのブログ4月8日参照)。
日本ミツバチの写真:(出典:森林総合研究所:ニホンミツバチの安定同位体比の違いは生息地環境を反映する)
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作成:2016-10-28、更:2017-04-10