農薬の毒性・健康被害にもどる

t30301#有機リン剤アセフェートのARfDを0.1mg/kg体重とした食品安全委員会に物申す#16-11
【関連記事】記事t19903(メタミドホスADIとARfD)、記事t22605(アセフェートADI)

 子どもの脳への影響が懸念されている有機リン剤のひとつアセフェート(商品名オルトラン、ジェイエース)については、2010年の食品安全委員会(以下食安委)の健康影響評価で、それまでのADI0.03が、0.0024mg/kg体重/日となりました(記事t22904)。
 変更のきっかけは、2008年1月にに発覚した中国産冷凍餃子事件で、アセフェートの代謝物であるメタミドホスが検出されたことでした(記事t19804記事t19805)。ADIが変更される前、2009年12月に農水省はアセフェート製剤の適用変更をせず、まもなく、カンキツへの適用が削除されるから、使用しないようにとの事前指導通知を発出しました(記事t22401)。私たちは、正式な適用変更と残留基準の強化を求めましたが(記事t22502)、前者が実現したのは、5年後の2014年11月で、カブ、ダイコン、ハツカダイコン、ブロッコリー、トマト、ミニトマト、ナス、カンキツの適用が削除されましたが、残留基準はそのままの状態がつづいていました。
 このような経過をたどり、本年10月、食品安委の再評価が行われ、ARfD(急性中毒発症推定量)が提案されました。
【参考サイト】食品安全委員会:アセフェート意見募集農薬評価書案メタミドホス意見募集農薬評価書案

 反農薬東京グループ:アセフェートのパブコメ意見メタミドホスのパブコメ意見

★アセフェートとメタミドホス同時検出
 2008年10月、山口県のJA周南から出荷されたチンゲンサイにアセフェート10.9ppm(残留基準5ppm)とその代謝物メタミドホス2.7ppm(残留基準0.5ppm)が検出された際に、当時は、アセフェートのARfDによる規制はなく、メタミドホスの暫定ARfDの0.003mg/kg体重を根拠に、一度に55.5g以上食べると、倦怠感、違和感、めまい、軽度の運動失調が現れる場合がある、との注意喚起が出されました(記事t20904)。ところが、2013年10月同県JA南すおう出荷のホウレンソウにアセフェートが15ppm検出(残留基準6ppm)された時は、回収の際には、特段の注意もなかっため、私たちは、メタミドホスの分析を求めたものの、無視されました(記事t26803参照)。
 残留試験の資料をみると、アセフェートを散布した作物では、代謝物のメタミドホスが同時に検出されています(下表参照)。
          残留試験の最大検出値
   作物名    アセフェート メタミドホス
   小豆類    0.352ppm    0.178 ppm
   はくさい   2.18        0.701
   キャベツ    2.64            0.463
   レタス      1.34            0.498
   トマト    0.91      0.270
   ホウレンソウ 12.4        1.78
   ミカン      1.30      0.103
   ブドウ      1.91      0.217
   茶        5.47      0.73
★人体実験と安全係数10でARfDを設定
 そして、本年10月に、食安委は、アセフェートのARfDを0.1mg/kg体重として、パブコメ意見を求めました。多くの農薬で、ARfD(一度に食べると中毒を起こす危険のある量)は、ADI(一生涯食べ続けても安全だとする量)に対して、数倍から10倍程度大きな値です。アセフェートの場合は、カナダでは、ADIは0.0012 mg/kg 体重/日、ARfDは0.005 mg/kg 体重となっています。
 日本の場合、高い数値になったのは、人の経口投与試験結果を採用したからです。私たちは、いままでも、人体実験は倫理的にも問題であるとして、そんなデータを採用すべきでないと主張してきました。
 アセフェートについて、食安委は、人体実験4事例を挙げ、その中で、無作用量が1.0 mg/kg 体重といちばん低かった試験−男性(40 名、平均年齢 32.3 歳、平均体重 72.3 kg)及び成人女性(10 名、平均年齢 32.2 歳、平均体重 65.4 kg)を対象とした経口1回投与−結果を採用しました。血漿及び赤血球 ChE 活性が、試験期間を通じて全投与群で投与前に対し有意な低下も散見されたにも拘わらず、また、人種や健康・生活状況の考察をすることもなく、安全係数を個体差の10として、ARfDを0.1mg/kg体重としたのです。心身発達途上にある子どもは、体重の小さな成人であると考えることはできず、カナダでは、ラット単回経口毒性試験から得た無毒性量0.5mg/kg体重、安全係数100で、ARfDを0.005mg/kg体重としているのです。

★EDTIがARfDを超える
 個々の食品の一度に食べる量(短期最大摂食量)から算出される農薬の短期最大摂取推定量EDTIがARfDを超えないことが、食安委の安全の目安です。
   表 幼少児における食品別ESTI
    日本のARfD:0.1mg/kg体重=1.7mg/人
    カナダのARfD:0.005mg/kg体重=0.085mg/人
   食品名  残留基準 短期最大  ESTI 
          ppm  摂食量g  mg/人 
   みかん    5     264    1.32
   ぶどう    5    164.7   0.823
   オレンジ   5    150    0.750
   トマト    5    148.5   0.742
   ほうれんそう 6    102    0.612
   キャベツ   5    88.8   0.444
   はくさい   5     87.5   0.437
   なす     5     85    0.425
   非結球レタス 5     84.4   0.422
   きゆうり   5     82    0.410
   かき     2    117.3   0.234
   すいか     0.5   450    0.225
   バナナ    1    200    0.200
   茶      10     15.5    0.155
上表に、幼小児(平均体重17kg)のESTIを示しましたが、日本の場合とカナダの場合のARfDを比較してください。日本では、いずれの食品もクリヤーしますが、カナダの場合は、いずれもオーバーして、食べると危険ということになります。

★ADI、ARfDはこのままでは危険
 ADIやARfDをもっと低くすべき理由として。私たちが下記の指摘もしました。
 ・ラットの発達神経毒性試験は、出生後の仔の脳 ChE 活性阻害(20%以上)が0.5 mg/
  kg体重/日投与群で認められたが、自発運動量等へ投与の影響は認められないとして
  いるが、詳細なデータが示されていない。
 ・ラットの発がん性試験において、雌雄で鼻腔の腫瘍発生が認められ、マウスでは、
  雌で肝腫瘍の発生頻度の増加が認められたが、発生機序は遺伝毒性によらないとさ
  れた。また、ラットの 2 世代及び 3 世代繁殖試験において、着床数減少が認めら
  れている。
 また、アセフェートを散布すると、必ず、その代謝物メタミドホスも残留してくるため、両者をあわせて健康影響評価をすべきだとも、主張しています。
 本誌連載の農薬人体汚染の記事29101などにあるように、ネオニコチノイド系農薬やその代謝物が尿中にみいだされているほか、環境省の調査では、他の有機リン剤の代謝物とともに、アセフェートとメタミドホスが人の尿中に検出されています。これらは、食品残留や大気・水汚染の結果、人の神経伝達経路にあるアセチルコリン受容体に作用するため、その摂取を減らす必要があります。

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作成:2016-11-30