農薬の毒性・環境汚染にもどる

t30306#2014年の農薬死亡者339人、塩素ガスの労災も多い#16-11
【関連記事】記事t29302(農水省報告)、記事t30106(農村医学会報告)

 農薬中毒については、農水省や農村医学会の調査を本誌293号、301号で紹介しましたが、今号では、厚労省の2件の資料を取り上げます。

★人口動態統計の農薬死者は339人
【関連記事】記事t28803(2013年統計)

 厚労省大臣官房統計情報部の人口動態統計によれば、2014年の農薬による死者数は下表のようで、前年にくらべ7件減少し、339件となりました。
 この統計では、国際分類コードで整理されており、農薬成分名は不明ですが、殺虫剤の比率が一番高く、中でも、有機リン剤の比率が94%で、144人となっています。最近5年間の推移は図に示すようで、このところ漸減傾向にあります。
   表 2014年の農薬による死亡者数 (出典:厚労省人口動態統計)
         男   女    合計 前年増減
 農薬   合計 191  148  339   - 7
 殺虫剤有機リン  85   59  144   + 23
    塩素      2   -    2   +  2
   その他     5   2   7      - 11
 除草・殺菌剤   61   47  108      -  6
 殺鼠剤      -   -   -       -  1
 その他農薬     1   1   2      -  3
 詳細不明農薬   37  39   76      - 11
★労働者の化学災害の事例
【関連記事】記事t25503
【参考サイト】厚労省:化学物質による災害発生事例についての頁

 厚労省の労働基準局安全衛生部化学物質対策課は、労働者の化学物質による中毒事例の一部を「化学物質による災害発生事例について」のHPで公表しています。2009-2011年度については本誌255号で取り上げましたが、2012-2014年については、塩素ガスの発生による中毒が22件みられたほか、衛生害虫対策や動物用薬の有機リン剤も原因の中毒4件ありました。下記に事例の一部を示しますが、すべて、急性中毒が発生したケースです。
【農薬関連の被害事例】
 ・2012年6月 畜産業 DEP(トリクロルホン)とPHC(プロポキシル) 中毒1名
  鶏舎内で、害虫駆除のために消毒薬を噴霧したところ、約20分の噴霧作業終了後に
  吐き気およびめまいを催し中毒となった。
 ・2012年8月 畜産業 有機リン  中毒1名
  鶏舎の洗浄および害虫駆除のために殺虫剤(ジクロルボス、フェニトロチオン、
  トリクロルホン等を使用)および洗浄剤を可搬式動力噴霧器を用いて散布する作業
  に従事していたところ、頭痛、吐き気、舌のしびれ等を発症し、有機リン中毒となった。
 ・2012年8月 畜産業 有機リン  中毒2名
  鶏舎内で、害虫駆除のために消毒薬を噴霧したところ、吐き気及びめまいを催した。
 ・2013年5月 MEP(フェニトロチオン、スミチオン)  中毒2名
  設備管理事業場で殺虫剤を散布していたところ、受付けを行っていた被災者Aと、
  入場受付けを行っていた被災者Bが異臭を感じ、被災者Aが案内を終え、改札棟に戻
  ると体調不良を訴え、また、被災者Bも帰宅後体調を悪くし、有機リン中毒となった。
 すべて、事業所や畜舎での害虫駆除に使用した有機リン剤による作業業務者の中毒例で、原因等には、換気不十分/危険有害性の認識不足/安全衛生教育不十分/緊急対応マニュアル未整備が挙げられ、その対策の必要性が指摘されています。
【塩素ガス関連の被害事例】
 ・2012年3月 温泉浴場業、スーパー銭湯  中毒2名
  次亜塩素酸水の生成作業中に、塩酸を入れるべき注入口に誤って次亜塩素酸ナトリ
  ウムを投入したことにより、生成機に残留していた塩酸と次亜塩素酸ナトリウムが
  反応して、塩素ガスが発生し、これを吸入した作業者が中毒となった。
 ・2012年6月 小売業 中毒1名
  精肉作業室内に次亜塩素酸ナトリウムを成分とする洗剤を撒き、10分から20分放置
  後デッキブラシでこすり始めたところ、目に刺激を感じ、ぜんそく様の症状が出た。
 ・2012年6月 建築物設備工事業 中毒1名
  一般住宅の木製ドアに下地処理用の酸性漂白剤を塗布し、その後塩素系カビ取り剤
  を塗布してドライヤーで乾燥作業中、これらの反応により発生した塩素ガスを吸入
  し、息苦しくなった。
 ・2013年6月 ビルメンテナンス業 中毒1名
  管理しているビルのクーリングタワーの冷却水等に使用している井戸水に消毒剤
  (次亜塩素酸ナトリウム)および不純物を除去するための凝集剤(ポリ塩化アルミ
  ニウム)を注入していた。ポリ塩化アルミニウムの残量が少なくなったことから、
  被災者が当該溶液を注ぎ足そうとしたところ、誤って次亜塩素酸ナトリウムを注入
  したため、塩素ガスが発生し中毒により、のどを負傷した。
 ・2013年6月 食品製造業  中毒1名
  野菜の殺菌処理のために使用される次亜塩素酸ナトリウムが入った薬注タンクに次
  亜塩素酸ナトリウムを追加投入しようとして、誤って水質改善用のポリ塩化アルミ
  ニウムを投入したため、塩素が発生し、中毒となった。
 ・2014年7月 宿泊業  薬傷1名
  ホテルの大浴場の機械室において、塩素注入器に薬剤A(次亜塩素酸ナトリウムを
  含有)の補充作業を行っていたときに、誤って塩酸および有機酸を成分とする薬剤
  Bを入れたところ、ガスが発生した。これを吸引し、薬剤ガスによる気管支炎と診
  断された。
 ・2014年8月 工作物の破壊事業 中毒10名
  解体工事現場で、土間コンクリート下に埋設してあった塩素ガスボンベのガス口に
  ドラグショベルのバケット先端が激突し、塩素ガスが空中に噴出し、隣接する別会
  社の敷地内に広がり、就労者10名が喉や目に被災し、病院に搬送された。
 次亜塩素酸塩と酸性物質の混合で、発生する塩素ガスによる中毒は、厚労省の「家庭用品吸入事故調査」(記事t29604参照)でも、毎年、多発しており、同様な事例が、労働現場でも起こっていることがわかります。

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作成:2017-01-30