環境汚染にもどる
t30401#森林総合研究所が花粉を運ぶ動物を守るための政策を提言〜農薬使用規制強化やIPMの推進が必要と#16-12
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パンフ:”知っていますか?” 斑点米と農薬とミツバチ大量死
11月28日、森林総合研究所は「花粉を運ぶ動物を守るための政策を提言」と題する記者発表(pdf版)をしました。この提言は下記に示す10項目で、同研究所・昆虫生態研究室の滝久智さんが共著者の1人となり、イギリスのイースト・アングリア大学のディックさんを筆頭にブラジル、アルゼンチン、メキシコ、アメリカ、オーストラリア、スウェーデンの大学や国の機関に所属する12人が、アメリカの科学雑誌「Science」に投稿した論文での提案です。
★10項目の農林業及び環境政策への提言
【参考サイト】滝久智さんほか;ScienceのTen policies for pollinators(25 Nov 2016:Vol. 354, Issue 6315, pp. 975-976)
送粉者(植物の花粉を運び、授粉させる昆虫など。ポリネーターともいう)を守り、送粉サービスを維持するために各国政府が実施すべきとして、森林総合研究所が挙げた提案をそのHPから転載します。
1. 農薬の使用基準の向上
送粉者に対する農薬のリスク評価を行い、その結果に基づいて農薬の使用基準を制定
すること、すでに制定されている場合には規制を強化することが必要です。
2. 総合的病害虫管理(IPM)の推進
病害虫の防除において、経済性を考慮しつつ、農薬だけでなく利用可能な様々な技術を、
適切な手段で総合的に講じる総合的病害虫管理(IPM)が必要です。
3. 遺伝子組み換え植物のリスク評価
送粉者に対する遺伝子組み換え植物のリスク評価において、遺伝子組み換え植物を栽培
することによる間接的な影響、および亜致死(死に至らしめる手前)的な影響を考慮する
ことが必要です。
4. 人工飼育送粉者の移動の規制
マルハナバチなどの人工飼育種が、本来の生息地外で利用された時、生息地外の生態
系に悪影響を与える場合があります。そのため、人工飼育種の生息地外利用に注意する
ことが必要です。
5.送粉者を守る農林業生産者を助けるための補償
送粉者を守るために、農薬の代わりに天敵を利用した害虫防除を行った場合、生産能
力が低下することがあります。こうした場合の農林業生産者への補償が必要です。
6. 農業における送粉サービスの重要性の認識
多くの農作物の種子や果実の生産は、送粉サービスに依存していることを認識するこ
とが必要です。
7. 多様な生産システムのサポート
大面積に単一の農林産物を生産するような画一的な栽培方法だけではなく、多様な生
産システムが必要です。
8. 送粉者の生息地の保全と再生
森林等の自然植生は、送粉者に食料や生息場所を提供します。そのため送粉サービス
を維持するには、自然植生を農地や都市の周辺に確保し、送粉者の生息場所となるよう
に管理する必要があります。
9. 送粉者と送粉サービスのモニタリング
送粉者や送粉サービスに関するデータが不足している国、地域では、長期的なモニタ
リングシステムの開発が必要です。
10. 研究資金の提供
上記7や 8 と農林産物の生産性に関わる調査には資金が必要です。
このうち、1では、農薬使用規制の必要性が示唆され、2ではIPM(私たちはIBM=総合的生物多様性管理としている)技術の推進が提起され、5で、農薬に依存してきた慣行農業からの切り替えを行う生産者への補償も求められています。
3は、7とともに遺伝子組み換え作物の大規模単作化への警鐘と受け取れます。
★送粉者の研究は環境省の課題
【参考サイト】環境省:環境研究総合推進費の頁にある実施課題一覧
・社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価の
概要(H28-H32年度)と公募方針、H27年度類似課題
COP13関連:2016/12/19の農水省プレスリリースと環境省プレスリリース
IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム):
Top Page、第4回総会(2016年2月)
環境省によるクアラランプール会議のプレスリリース(2016/02/29)
滝さんの研究は、環境省の環境研究総合推進費による課題「社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価」「陸域における自然資本・生態系サービスがもたらす自然的価値の予測評価」「陸域生態系の供給・調整サービスの定量化と予測」などの中で実施されました。
前述の10項目の提案は、12月に、メキシコで開催された生物多様性条約締約国会議(COP13)でも論議されました(日本からは農水省、環境省他の関係者が出席した)。
COP13会議での送粉者に関する農水省からの報告は以下のようです。
『今会議では、IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラ
ットフォーム)の第4回総会(2016年2月、クアラルンプール)において「花粉媒介者、
花粉媒介及び食料生産に関するテーマ別アセスメント」の報告書が承認・公表され
たことを受け、締約国に対し、環境配慮型農業への支援、国・地域の状況に応じた
農薬リスクの削減、IPMの実施等により、花粉媒介者やその生息地の保全を奨励する
旨の決定をおこなった。』
★国内での提言実践が問われる
【関連記事】反農薬東京グループの松枯れ関連:てんとう虫情報記事一覧
【参考サイト】森林総合研究所:パンフ「松くい虫」の防除戦略 マツ材線虫病の機構と防除(2006年3月)
清原、徳重ら(林業試験場九州支部):マツ生立木に対する線虫Bursaphelenchus sp.の接種試験(日本林学会誌 53:210-218(1971))
農水省の農薬担当部署は、永らく同省生産局にあり、農作物の生産性向上が主目的でした。そのため、人の健康や環境への影響防止は、二の次ぎとなり、毒性等が判明した農薬も、代替がないという理由で、使用が続きました。有機塩素系殺虫剤、水銀系殺菌剤、PCPやCNPなど除草剤の使用規制が遅れたのは悪例の一部です。
2006年に消費・安全局が設置され、農薬対策室も同局に移りましたが、いまだ、軸足は、農作物の生産性に置かれている状況はかわりません。そのため、環境保全の部署がいくら生物への影響防止、生物多様性・生態系維持を訴えても、すぐには、農薬使用規制につながりません。しかし、送粉者の個体数減少は、即、農作物の生産に影響を与えます。今回の提案が国内でも認識され、如何に実行されるかが、問われます。森林総合研究所は、前身の林業試験場時代から松枯れ対策に農薬空中散布を推進してきました。
今、このような立派な提言をするのなら、せめて現在も実施されている松枯れ空散による松林の生態系への影響を徹底的に調査してほしいものです。
★囲み記事:農業環境技術研究所の論文より〜送粉者による農作物生産への役割-省略-
【関連記事】記事t27802
【参考サイト】日本養蜂協会;「ポリネーター利用実態等調査事業報告書」(2014年3月)
農業環境技術研究所;Top Page、
農作物の花を訪れる昆虫がもたらす豊かな実り−日本の農業における送粉サービスの経済価値を評価(2016/02/04)
小沼、大久保;日本における送粉サービスの価値評価(日本本生態学会誌 65: 217-226.2015)
★補足1;反農薬東京グループが2105年の農薬危害防止運動の際の都道府県アンケートで、設問「授粉作物の収穫が減少している事例がありますか。あれば、どんな作物が、いつごろから、どの程度減少したか、教えてください。」に対する回答は44都道府県からありましたが、いずれも、事例ない/把握していない/確認していないとのことでした。要するに、調査したこともないというのが実態でしょう。
★補足2:小川勝也参議院議員の「ミツバチ等の花粉媒介生物(送粉者)の保護に関する質問主意書」と政府答弁書
質問主意書(12/13)、政府答弁書(12/22)
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作成:2016-12-30