農薬の毒性・人体被害にもどる
t30501#農水省発表の2015年度農薬被害〜人の中毒事故は28件65人〜これじゃ事故はなくならない#17-01
【関連記事】記事t30306。記事t29302(2014年事故)
【参考サイト】農水省;2015年度の農薬事故及び被害の発生状況と詳細情報
農水省は2015年度の農薬による中毒や危被害の発生状況を12月に公表しました。クロルピクリンの人身事故については、記事t30402で紹介しましたが、今号では、事故の全体像をみて見ましょう。
★中毒65人うち死亡は7人
下表のように、人の中毒・死亡事故は、前年1件減の28件でしたが、人数は25人増え65人でした。このうち、散布による事故は前年同様11件ありました。死亡事故は2件増えて7件で、うち1件は農薬タンクの清掃中におこりました。
農作物の被害は前年より2減の9件、魚類被害は3件でした。
表1 2015年度の農薬中毒・危被害件数(農水省公表)
区分 15年 前年件数 被害対象 15年 前年件数 被害対象 15年 前年件数
件数(人数) 増減 件数 増減 件数 増減
死亡 散布中 1( 1) +1 農作物 9 -2 自動車 0 0
誤用 6( 6) +1 家畜 0 0 建築物 0 0
小計 7( 7) +2 カイコ 0 0 その他 0 -1
中毒 散布中 10(33) -1 魚類 3 +1 小計 0 -1
誤用 12(25) -1 小計 12 -1
小計 22(58) -2 注:ミツバチ被害は14年79件、15年50件(本誌299号参照)
計 28*(65) -1 *合計では、同一事故で死亡と中毒が1件づつあったことを勘案。
★事故詳細を示さない農水省
表2には、農水省が報告を受けた中毒事例の概要を挙げましたが、公表項目は、発生年月と簡単な被害状況と原因、対策だけで、発生市町村名、原因農薬(クロルピクリン以外)、散布法等の記載はありません。
15年11月の農業者の死亡・重症事故については『強アルカリ性の農薬に酸性肥料を混合散布後、タンク清掃中に、発生した有毒ガスを吸入した』となっているので、詳細を農薬対策室に尋ねましたが、回答は『農薬の事故調査の目的は、事故の再発防止に活用するための情報を収集することです。漏れなく事故情報を把握するため、事故や被害の発生場所については、公表しないことを前提に都道府県に情報提供の協力を求めています。』『原因農薬及びその使用状況については、事故の原因となった農薬が特定された上で、再発防止を図るために、農薬及びその使用方法に特化した取組が必要な場合には、農薬の名称及び使用状況を公表しています』でした。公開情報だけで、事故防止ができると農水省は考えているとすれば、大問題です。石灰硫黄合剤とリン酸系肥料を混合、発生した硫化水素で中毒を起こした事例はいくつもあり、農水省の隠蔽体質では、事故防止につながりません。
注:石灰硫黄合剤は、酸との混合で、有害な硫化水素を発生するため、散布者の事故だけでなく、製造工場での事故もあり(記事t20007b)、自殺にも使用される(科警研の資料では、09年の硫化水素自殺者の約52%の260人が、10年の場合は、約41%の306人が石灰硫黄合剤によるもの)。石灰硫黄合剤メーカーのひとつ OTAの登録番号23641の製剤とMSDSには、注意事項が記載されている。
ほかにも、15年4月の登校時の被曝(畑に散布された農薬で、通学路の児童6、保護者1が被害)、15年10月運送作業施設で、農薬容器をフォークリフトで移動する際、破損・漏洩した農薬で作業3人の被害、15年12月ごみ処理施設で、缶に残存した農薬で作業員12人が被害、なども事故状況が不明なので、詳細を明らかにすべきです。
表1に挙げた農作物被害は9件で、5件が水稲(育苗箱に誤って除草剤を散布4、近隣に散布した除草剤が飛散1)、レタス、キュウリ、シシトウの除草剤被害各1件、クロルピクリンがハウスに流入しカーネーションの葉褐変が1件でした。魚類被害3件は、河川へ流入した農薬によるものですが、原因は不明です。前年にあった飼い犬の死亡事件などの報告はありませんでした。
表2 2015年度の人の農薬事故 (農水省詳細報告資料より作成) −省略−
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作成:2017-01-30