農薬の毒性・健康被害にもどる

t30502#農水省はクロルピクリンの毒性、残留性試験の概要を公表したが、とても安全とはいえない#17-01

 記事t30402で、土壌くん蒸剤クロルピクリン(以下、「クロピク」)に関する厚労省、環境省、食品安全委員会(以下、食安委)の回答を掲載しました。今号では、遅れていた農水省の回答について報告します。
クロピクに関する農水省への質問は@データの公開問題と、Aクロピクの登録と適用作物についてで毒性試験成績と残留データ、代謝物などについてです。

★データの公開について
 質問:クロピクの農薬抄録がFAMIC(農林水産消費安全技術センター)のHPに公開されていません。至急HPで開示してください、への回答をまとめると以下のようです。

 FAMICのウェブサイトにおいては、食安委が公開した農薬抄録を公表しているものです(平成15年7月1日食安委決定)。クロピクについては、それ以前に登録されたものであり(最初の登録は1948年)、現時点で食安委による食品健康影響評価が終了しておりません。したがって、FAMICによる公表の対象とはしておりません。
 しかし、その程度と優先度に応じ、将来的には、平成24年8月以前に登録された農薬の審査報告書も作成する予定です。

<コメント>要するに、クロピクは、優先度が低くいので、食安委の評価の予定はなく、抄録を公開しない。

★クロピクの毒性と分解・代謝物
 現在、登録されているクロピク製剤中で最初に登録されたものは、登録番号第90号のクロルピクリンくん蒸剤で、1948年登録です。この90号を含めて試験成績のデータの概要、適用作物や病害虫の種類の追加・削除の一覧、毒性・残留性ほかの試験成績などの開示を求めました。また、土中、水中での代謝物などについても質問しました。

 回答は、200頁を超えるもので、試験農薬の純度、試験機関名、代謝物の種類など肝心なところの黒塗りも目立ちました。
【毒性試験】登録に際して、提出されている毒性試験成績は、1980年代の試験を含めその概要が示されました。その中で、発がん性や繁殖、催奇形性及び周辺住民に問題となる吸入試験を見ると以下があります。
  ・ラット急性吸入毒性試験 半数致死濃度5.7ppm
  ・ラット90日間反復吸入毒試験 無毒性量0.011ppm
  ・ラット吸入薬理作用試験 無作用量1ppm
  ・ラット経口24ヶ月反復投与慢性/発がん性併合試験
       無毒性量 雄7.5、雌0.75各mg/kg体重/日
  ・マウス経口78週間発がん性試験 無毒性量6mg/重/日
  ・イヌ経口1年間反復投与試験 無毒性量1(単位同上)
  ・ラット経口繁殖試 無毒性量 母体1、仔5.0
  ・ラット経口催奇形性試験 無毒性量 母体5、仔50
  ・ウサギ経口催奇形性試験 無毒性量母体、仔とも10
 急性毒性の結果からも、クロピクの刺激を感じない気中濃度1.1ppm以下で、人が、ラットに見られるような循環器系異常を起こさないかとの懸念が生じます。
 また、環境省が公表している「化学物質の環境リスク評価第10巻」トリクロロニトロメタン(クロルピクリン)の資料では、吸気毒性は、急性試験だけでなく、ラットやマウスの3週間、78週間、107週間の長中期試験、ラット、マウス、ウサギの生殖・発生試験や催奇形性試験が実施されていることがわかります。ラットの107週吸入試験で、0.5 ppm 以上の群の雄で生存期間が有意に短くなり、その無毒性量は0.018ppmでした。妊娠ラットやウサギの吸入試験では、仔の無毒性量0.3ppm、母体は0.1ppmとの報告もあり、人の吸気毒性について、一層の科学的な評価が必要です。

【水や土壌、植物中での代謝・分解経路】土壌くん蒸として施用後、クロピクがどんな挙動をとるかは、近隣住民や環境・生態系にとって重要な問題です。クロピクとして気化拡散する前に、どの様な条件で、どのような分解物質が生成するのでしょう。クロピクは塩素を3個持っていますが、これが1個外れたジクロロ体、2個外れたモノクロロ体、さらには、構成炭素から炭酸ガスが、また、窒素が尿素や酸化窒素に変化することもあり得ます。また、クロピクが土壌の病害虫を殺すことで、農薬効果があるとされますが、ただの虫がどうなるか。土壌中の菌が死ねば、クロピクの分解速度がどうなるのかなど疑問がつきません。
 それに輪をかけるように、資料中の代謝・分解経路図は見事黒塗りになっており、私たちは知ることができません。なぜ、こうも隠蔽しなければならないか不思議です。
【土壌残留試験】クロピクの土壌残留試験は、容器試験では、散布直後150ppmあったものが、10日後に0.01ppmレベル、30日で<0.005ppmとなっていますが、圃場試験では、施用7日後に48.8ppmあったクロピクは、28日後0.41、54日後0.24、3ヶ月後にも0.06ppm残留していました。
【水産動植物やその他の有用生物への影響】揮発しやすく、試験水を安定的に調整できない/水系へ流出の恐れがないか少ない/蚕、ミツバチ、天敵昆虫等が曝露する恐れがない、との理由で、これらの試験が免除されています。魚介類、両生類、ただの虫、微生物やミミズに何の影響もないと判断した根拠がわかりません。ちなみに、環境省資料には、藻、甲殻類、メダカの半数影響濃度や致死濃度が示され、0.00032μg/L未満という予測無影響濃度が示されていますし、クロピクの地下水汚染で、井戸水を使用していた住民に被害が出た例もあります。

★作物残留試験は65件あるが、すべて検出限界以下
 クロピクを土壌に施用した作物の残留データは、厚労省が「残留しないものと考えられている」として、一切データを出しませんでした。けれども、今回、農水省から手に入れたデータの中にヤマノイモ、コンニャク、ダイコン、キャベツ、イチゴなど65作物の残留値が記載されていました。使用したクロピクくん蒸剤が1回又は2回、植え付け前に、土壌処理されたケースで、処理後、短いもので40日後(メロン)、多くは100〜250日後収穫した作物を分析し、最大残留値と平均値が示されています。フキの分析値<0.05ppmやキュウリ<0.01ppmがありますが、クロピク処理しない畑を含め、ほとんどの残留値は<0.005ppmとなっています。恐らく、この結果から、作物中には、クロピクは残留しないと判断したのでしょう。しかし、放射性炭素を使用した植物中の代謝経路の試験では、作物の組織や成分に放射性炭素が見出され、クロピクの構成原子が残っているものの、その65%にあたる塩素がどうなっているかは全く不明です。さらに、現在、適用はありませんが、クロピクは穀類の倉庫くん蒸にも使われていました。当時、コメやムギに、どの程度の残留していたのかも知りたいところです。

 農水省が明らかにした資料をみても、散布地近隣住民の被害、環境中の生物への影響に関する評価はなされておらず、私たちは、とりあえず、環境省へ散布地周辺の環境調査を実施するよう求めています。

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作成:2017-05-01