農薬の毒性・健康被害にもどる

t30503#農薬の人体汚染は進んでいる〜環境省2016年版パンフやグリーンピース・ジャパンの調査結果#17-01
【関連記事】農薬人体汚染:t27804(2014年)、その1その2その3その4その5
【参考サイト】環境省プレスリリース(12/15):『日本人における化学物質のばく露量について』パンフレットの作成について

 環境省環境保健部環境リスク評価室によるパンフ「日本人における化学物質のばく露量について」2016年版が、例年より遅れ、12月に発行されました(2015年版は本誌291号参照)。ここでは、まず、パンフに記載されている農薬類、ダイオキシン類、フッ素系物質、重金属類、可塑剤やビスフェノールA、放射性物質などの人の血中や尿中における検出状況から、有機塩素系以外の農薬を中心に報告します。

★環境省の調査より
【参考サイト】環境省:パンフの頁にある「日本人における化学物質のばく露量について」2016年版

 2011年から実施されている農薬の汚染状況の調査では、有機リン剤の代謝物4種、ピレスロイド剤の代謝物2種、ネオニコチノイド剤の代謝物6−CNAなどのほか、アセフェートや蚊忌避剤ディート、殺菌剤トリクロサンほかの尿中濃度の検出値が報告されています。分析対象は、農薬の代謝物が主で、元の農薬名は不明です。2015年の尿検体数は77(一部15)で、検出結果は今までのものの集計と合わせて、表1に示しました。なお、代謝物の名称とその由来となる農薬名の一部を参考のため記しました。この中には、同じ尿検体に複数農薬が検出されているものもありますが、複合汚染の実態は不明です。
 農薬ではありませんが、昨年、厚労省が使用自粛を求めた薬用石けん用の殺菌剤トリクロサンは、100%の検出率で2015年度は0.15〜380μg/gCr見つかっています。また、2015年東京を中心に広がったデング熱の発生で、使用が拡大した媒介蚊対策の忌避剤ディートの検出値は、いままでの最高値0.087μg/gCrでした。

 表1 農薬等の尿中代謝物の検出値 (出典:環境省パンフ2016年)−省略−

★グリーンピース・ジャパンの報告から判ること
【参考サイト】グリーンピース・ジャパン10日間オーガニック生活でわかった3つのこと最終報告書

 環境保護団体グリーンピース・ジャパンは、2016年夏に、日本の2家族7人(大人3と小学生以下の子ども4)を被験者とし、尿中農薬濃度を調査しました。目的は、慣行栽培の食品を食べた場合と、有機栽培の食品を食べた場合で、尿中の農薬検出値はどのように変化するかを確認することにありましたが、複合汚染も明白になりました。
 被験者は、最初の5日間を従来と同じ食生活、つづく10日間を有機食品のみを摂取したそうで、1又は2日目と6、16日目に早朝尿を採取し、分析に供せられました。31種の農薬や代謝物の分析が、ドイツの研究機関で行われ、表2に示したような24成分が検出されました。(出典:下記グリーンピース・ジャパンの資料参照)

  表2、従来食と有機食による尿中農薬の検出値の変化 −省略−

 表では、尿採取時期は、1項目と2項目が、慣行栽培の農薬使用の多い食品を食べていた時期、3項目が有機食品に切り替えて10日後となっています。尿中の検出値は、平均値と( )には、最小、最大値を記し、検出数はnの数値で示しました(被験者は7人ですので、n=7は全員検出)。表の成分名を*太字で示した成分が、有機食への切り替えで、農薬検出値が、有意に減少しているものです。
 有機リン系では、DMP、DMTP、DETPの3成分と日本では分析されなかったDMDTP(ジメチルジチオリン酸)が有意に減少しました。慣行食では、DMTPの検出値が10μg/Lを超えており、DMTも高い部類ですが、これは、スミチオンやマラソン由来の成分で、ポストハーベスト使用や国内での使用量も多く、さもありなんという感じです。
 ピレスロイド系では、cis-Cl2CAとtrans-Cl2CA、PBAが減少しました。前の2成分は環境省の分析ではDCCAと記載されたもので、ペルメトリンらの代謝物です。
 フェノール系では、TCPyの減少がみられましたが、この成分は、クロルピリホスやクロルピリホスメチルに由来するものです。この系のPNP,1NAP、2NAP、DEAMPは全員から検出され、有機食に替えても減少がめだちません。NAPはナフトールで、殺虫剤のNACもありますが、衣料防虫剤ナフタリン由来のものかも知れません。環境省調査ではパラニトロフェノールとなっているPNPとDEAMPは由来となる農薬が明確ではありません。
 IARC(国際がん研究機関)が発がん性を2Aランクとしている除草剤グリホサートは、その代謝物AMPAとともに、有機食への切り替えでの減少が確認されました。当初全員の尿に検出されていたグリホサートは切り替えで、検出数は1となりました。
 塩化フェノキシ酢酸系の除草剤やネオニコチノイド系の代謝物は、検出率や検出値が低く、慣行食と有機食で、あまり変わりがありません。その原因として、体内に残りやすい成分である/農作物以外からの摂取(遺伝子組み換え作物飼料→畜産品、飲料水など)や他の用途(シロアリ駆除剤、ペット用薬品、衛生害虫や不快害虫用殺虫剤や非農耕地用除草剤など)に由来するものがあるかも知れません。
 グリーンピース・ジャパンは、これらの研究結果から、『農薬への曝露という点では、日本で生活する個人が従来の食品から有機食品へ食生活を切り替えると有益な影響があることが明らかになった。』としています。

★ネオニコの哺乳類への作用〜仔の行動に影響
【参考サイト】前川文彦ほか:国立環境研究所のニュ−スリリース(2016/06/06)より、
          ネオニコチノイド系農薬の発達期曝露が成長後の行動に影響を与える可能性を動物モデルで示唆
          (Frontiers in Neuroscience Volume10 Article228,June 2016)
       寺山隼人ほか;Acetamiprid Accumulates in Different Amounts in Murine Brain Regions
          (Int.J.Environ.Res.Public Health 2016,13,937)
       木村−黒田純子ほか;Neonicotinoid Insecticides Alter the Gene Expression Profile of Neuron-Enriched Cultures
         from Neonatal Rat Cerebellum (Int.J.Environ.Res.Public Health 2016,13,987

       環境ホルモン学会第30回 環境ホルモン学会第30回講演会(2016年6月)
        ・国立環境研究所:五箇公一「ネオニコチノイド系農薬の諸問題」
        ・北海道大学;池中良徳「ネオニコチノイド系農薬の生体への曝露実態」
        ・東京都医学総合研究所:木村-黒田純子
         「ネオニコチノイド系農薬の影響評価 作用機構と影響インパクト」

 国立環境研究所の前川文彦さんらは、代謝物6−CNAの起源のひとつでもあるアセタミプリドを用い、マウスの妊娠期から授乳期に曝露する実験を行い、生まれた仔の成長後の行動にどのような影響が出るかを調べました。
  【試験方法】妊娠6日目から離乳直前の出産後21日までの35日間、母マウスに
   アセタミプリドを経口投与(対照群は水のみ、高用量投与群10mg/kg体重/日、
   低用量投与群1mg/kg体重/日)。
  【行動試験】11〜13週齢に成長した雌雄のマウス性行動、14〜17週齢での雄の    攻撃行動、21〜24週齢での雌雄の明暗箱装置を用いた不安行動が観察されました。    不安行動試験結果を図−省略−に示しました(図中()の数字は試験個体数)。    隣接した明及び暗箱を自由に往来できる状態で、通常、不安を感じるマウスは    暗所を好み暗箱にいる時間が長くなりますが、アセタミプリド投与群のオスでは、    図のように、不安情動が鈍くなり、明箱での滞在が長くなっています。しかし、    メスでは、明暗の有意差は認められませんでした。
   このほか、低用量投与群の雄マウスでは、性行動、攻撃行動が亢進していること    も明らかになりました。
 著者は、『発達期の雄が雌に比べてアセタミプリド曝露に対してよりぜい弱である可能性が考えられる。アセチルコリンを神経伝達物質として利用する脳内のアセチルコリン神経系は「衝動性」と関係があることが知られており、一連の行動が変化した背景に衝動性増加が関与している可能性が考えられる。』とし、さらに『このような行動の変化の背景となる脳の構造・機能的な変化は未だ検出できておらず、今後さらに研究を進める必要がある。雄に影響が出やすいのかについても、そのメカニズムの解明が必要。 加えて、今後はヒトの通常の曝露量に近い、より低い用量設定での曝露も行うなど、幅広い視点から注意深く検討していく予定』としています。

 アセタミプリドについては、東海大学医学部の寺山隼人さんらは、マウスの脳へ蓄積することを報告しています。また、記事t24902記事t26903で紹介した東京都医学総合研の木村−黒田純子さんらは、ラットの新生仔の小脳神経細胞を用いた研究から、アセタミプリドの長期低用量曝露が脳発達の重要遺伝子の発現をかく乱させ、脳の正常な発達を阻害する恐れがあることを指摘しています。

 日常的な曝露により、人体汚染が明確になっている神経毒性のある農薬などの成分が、人の脳・神経系などにどのような影響を及ぼすか、疫学調査結果が出るまで、悠長に待っておれません。予防原則の適用により、危険因子は、出来るだけ、早く取り除くべきです。
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作成:2017-03-30