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t30702#農薬の登録申請試験に関する通知改訂は生物多様性保持に逆行 (その2)試験成績の代替と土壌残留試験#17-02
【関連記事】記事t30504記事t30602記事t30802
【参考サイト】農水省:農薬登録制度に関する懇談会の頁
           農薬資材審議会の頁
       FAMIC:Top Page農薬登録申請の頁にある
          農薬の登録申請に係る試験成績について(12農産第8147号農産園芸局長通知)
          「農薬の登録申請に係る試験成績について」の運用について(13生産第3986号生産資材課長通知 )

 記事t30602で、農薬登録申請に関する通知の改定が提案され、パブコメ意見募集が行われることをお知らせしましたが、その後、新たに、果実の作物群による残留試験で簡素化する改定案(記事t30802)が追加され、この1ヶ月間に、出された4件の改定の多くは、農薬メーカーを利する内容で、4月からの実施ということになっています。

★試験成績の代替関係に関する意見
【参考サイト】農水省:関係通知の改正案(試験成績の代替関係)に関する意見・情報の募集概要
       FAMIC:通知農薬の登録申請書等に添付する資料等について(資料代替書様式がp5にあり)

 2016年10月31日に、農薬原体の同等性確認に関する農薬取締法施行規則等の改定が官報で告知されました。私たちは、試験データ等の開示の必要性を主張しましたが、農水省は「申請内容の公表は、農薬メーカーの権利や利益を害する」として、原案どおりの改定を行いました(記事t30504)。
 その結果が、今回の通知改定案で具体化されました。『登録を受けてから15年以上が経過した先発農薬と同一の有効成分を含む後発農薬の登録申請においては、以下の試験成績の提出から15年以上を経過している場合には、試験成績代替書をもって当該試験成績の提出に代えられるものとすること』となり、後発申請者は、多くの試験の実施をせず、一片の代替書を登録申請時に提出すればよいことになります。
 すなはち、国民に公開されないまま、@農薬原体に含まれる不純物により試験結果が影響を受けることがないと考えられる試験成績及びA後発農薬原体と先発農薬原体が毒性学的に同等と判断される場合には農薬原体を被験物質とする試験の試験成績について提出が免除されるのです。

★動物愛護に役立つとはよく言えたもの
  反農薬東京グループのパブコメ意見
   農水省:結果概要農水省の考え方(3/31)


 改定内容の主旨に、『動物愛護の観点から取組が求められている実験動物数の削減にも資するものです。』とされていますが、農作物の生産のために、人や環境・生態系に影響を与える毒性の高い化学物質を農薬として、環境中に放出することが、一番問題なのに、農水省には、農薬の使用量をできるだけ減らすという考えがありません。私たちが主張するように毒性試験データなどが公開されておれば、余分な試験をする必要はなくなるはずですから、動物愛護云々は、登録農薬を増やすことを目的とした申請簡素化のための言い訳にすぎません。
 以下に、パブコメ意見の概要を示します。
 【意見1】私たちは、農薬原体や製剤の成分、不純物の種類と含有量の公開や毒性試
  験成績を公開し、その上で、登録の可否について、国民の意見を聞くことを求めて
  いますが、申請者に、農薬原体の同一性を示す試験データ、製剤の組成、毒性・残
  留性試験データなどを公開することを義務づけるべきです。
 [理由]農薬申請者が提出する試験成績の要約である農薬抄録や農水省がどのように審
  査したかを示す農薬審査報告書は、登録後に公開されるが、純度や不純物、補助成
  分などの記載はない。

 【意見2】通知では、農薬試験代替書の提出を求めていますが.代替の対象となる試
  験成績の内容は、すべて公開されるべきです。
 [理由]1、試験成績が公開されておれば、国民すべてが、その内容を知り、登録の可
  否を判断するのに役立つ。
  2、農薬の登録については、申請者が先発か後発かの区別なく、競合申請者同士
  が民間契約上の問題として、利害や権利関係を調整すればよい。

 【意見3】農水省は、情報公開しない理由として、申請者の権利・利益が損なわれると
  していますが、原体の成分情報や製剤の組成情報、毒性・残留性試験データなどを、
  競合者が盗用しているか否かは、農薬登録申請に際して、提出される書類をみれば、
  農水省が判断できます。むしろ、公開しないことで、国民や学術研究者等の知る権
  利が奪われるマイナス面の方が大きいと考えられます。
 [理由]1、情報公開しても、申請者は特許法で権利が守られている。通常の特許存続
  期間は『出願日から二十年をもって終了する。』となっているが、農薬の場合は、
  毒性試験などを提出せねばならず、その期間を勘案して、さらに5年延長できるよ
  うになっている。
   先発申請者は、特許を物質特許、製法特許、組成物に関する特許、製品形態に関
  する特許、用途に関する特許などにさまざまな形で分割区分して出願しており、25
  年を超えて権利を維持できる。また、申請者が、ノウハウとして、特許化しない
  ケースもあるが、それは、競合者の独自の開発研究等により、同じノウハウが特許
  化される危険性を覚悟して、申請者自らの判断ですることである。
   いずれにせよ、先発者と後発者間の契約によって解決すべき問題なのに、国が毒
  性試験結果のような国民が共有すべき科学的知見を公表しないことで、申請者の権
  利を擁護する必要はない。
  2、農薬についての情報が公開されると、専門家による毒性・残留性の研究や環境
  調査に役立つ。

 【意見4】農薬原体の同一性や製剤の組成について、申請者がその公開を拒んだ場合、
  農水省は、自ら、原体の純度・不純物や製剤の組成を分析し、その結果を公表すべ
  きです。
 [理由]1、分析技術の発達した現在、農薬製剤を入手し、分析することは可能であり、
  申請者の提出した資料に誤りがあるか、ないかは国の機関が調査することは、可能
  である。
  2、農水省は農薬取締法第2条に基づき、申請者が提出した見本を同法施行規則第
  三条の二(登録申請に係る検査)で、独立行政法人農林水産消費安全技術センター
  が、分析や調査をすることになっている。

 【意見5】申請者には、先発か後発かに拘わりなく、農薬が登録され、製造・販売・
  使用された後に、食品の残留調査、人の健康調査、環境・生態系調査などを実施し、
  その結果を報告する義務を負わせるべきです。さらに、問題があれば、使用規制に
  つなげる再評価制度をつくるべきです。

 【意見6】農薬取締法の目的は、国民の健康の保護に資するとともに、国民の生活環
  境の保全に寄与するとなっています。しかし、人への影響は、食品からの経口摂取
  が重視され、大気や土壌汚染による経気摂取の評価は軽んじられ、環境・生態系へ
  の影響は、水産動植物が対象になっているだけです。
   農薬の大気汚染の人への影響、農薬の陸域生物及び土壌生物への影響についての
  評価を実施すべきです。
 [理由]1、食品に関する登録保留基準として、残留基準があるだけで、ガス化した農
  薬や浮遊する農薬微粒子の大気汚染については規制がない。
  2、適用要件の遵守義務は、食用作物に限られ、非食用作物については、努力規定
  があるにすぎない。
  3、水産動植物については、登録保留基準はあるが、一部の生物への影響が評価さ
  れているだけであり、陸域生物、鳥類、土壌生物については、影響試験成績の提出
  は義務づけられておらず、農業生産に影響を与えるミツバチや他のポリネーターに
  対する登録保留基準はなく、使用上の注意による行政指導しかない。
  4、森林やゴルフ場、公園、公共施設、一般住宅地、駐車場、鉄道・道路など非農
  耕地での農薬使用は、直接食品汚染につながらないということで、使用規制が緩い。

 【意見7】農薬と同じ原体成分に補助成分を加えた非植栽用製品があります。
  たとえば、非植栽用除草剤、衛生害虫用・不快害虫用殺虫剤、シロアリ防除・
  木材保存剤などです。人や環境・生態系への影響防止の立場からいえば、身の回
  りで使用されるこれら製品は、農薬と同等に扱うべきと考えます。これらを総括
  的に取締る新たな法律を制定してください。
 [理由]1、農薬取締法では、使用者に対しては、法第十一(使用の禁止)と第十二条
  (使用の規制)で、無登録農薬の適用禁止義務(食用作物のみ)があり、販売者に
  対しては、法第十条の三(除草剤を農薬として使用することができない旨の表示)
  で販売店や容器記載にその旨記載することが義務付けられている。後者の条文が追
  加されたのは、除草剤グリホサートの後発メーカーが非植栽用に農薬と同類の除草
  剤を低価格で販売し、農地でもそれらが用いられるようになったからである。
  このような農薬類似製品を環境中に散布する際の使用規制がないのはおかしい。
    ―以下省略―
★土壌残留試験に関する通知改定
【関連記事】記事t27605(2014年のほ場試験見直しパブコメ)
【参考サイト】農水省:関係通知の一部改正案(土壌残留試験)に関する意見・情報の募集について概要
       農業資材審議会農薬分科会:第16回配布資料(2017/02/02)

  反農薬東京グループのパブコメ意見
    農水省:結果概要農水省の考え方(3/31)


 土壌試験を実施する圃場についての規定を変更(@選定する土壌の種類を、畑地の場合は黒ぼく土、水田の場合は灰色低地土とすること。A試験地については、水田では漏水の少ない圃場で落水をしない。畑地については傾斜や亀裂の少ない圃場とする。B作物栽培していない裸地条件で実施するなどに変更されたこと)に伴い、通知で、具体的な試験条件の改定が提案されました。

 農薬の土壌残留試験とそれをもとにした土壌登録保留基準について、私たちは、いままでに、現行通知が、農薬の挙動にのみ注目し、土の中の生き物を無視して来たことなどを批判してきました。
 パブコメでは、まず、上記の主張を総括的な意見としてとりあげ、つぎに、通知改定についての意見を述べました。
 
 【意見1】土壌試験についての総括的意見(1-1)現行の土壌の農薬登録保留基準は
  土壌残留により農作物等が汚染され、それが原因となって人畜に被害を生ずるおそ
  れを防止する観点から定められているだけで、土壌生物等や生態系への影響評価が
  なされていません。早急に検討し、土壌生物に対する登録保留基準を設定すべきです。

 (1-2)単一農薬による土壌残留試験だけでは、多種の農薬が施用されている現実の圃
  場における農薬の動態・代謝分解状況を把握することはできません。圃場の農薬
  使用履歴との関連を調べる必要があります。
 [理由]1.日本の農業は集約的であり、同一圃場で、多品種作物の連作や輪作、施設
  栽培や露地栽培が行われ、そのため、多種類の農薬が施用されている。
  2、クロルピクリンなどで土壌くん蒸された圃場では、土壌中の生物相が変化し、
  その後に施用される農薬の微生物や昆虫による分解・代謝経路に影響をあたえる。

 (1-3)土壌に残留した農薬やその代謝物が、水に溶けて地下水や地表水を汚染したり、
  微粒子として、また、土埃に吸着して、大気中に微粒子として浮遊することによる
  人や環境・生態系への影響が懸念されます。土壌残留性だけでなく、水、大気への
  移行を含めた総合的な評価がなされるべきです。
 [理由]1、揮発しやすい農薬や水に溶けやすい農薬は、土壌から早期に移行するが、
  揮発しにくく、水に溶けにくい農薬は、土壌に吸着して、土埃とともに、大気中へ
微粒子として拡散する。
  2、水質汚濁に係る農薬登録保留基準、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留
  基準だけでなく、土壌くん蒸剤や土壌処理剤、除草剤等が土壌施用された後の大気
  汚染についての登録保留基準がない。現に、クロルピクリンによる散布地周辺の住
  民に健康被害は、後を絶たない。また、有機リン剤、ピレスロイド剤、ネオニコチ
  ノイド剤などの化学物質に反応しやすい人もいる。
  3、土壌に施用された農薬の土壌中の動態だけでなく、土壌から大気や水系への移
  行状況を調べ、農薬使用者や農薬散布地周辺の住民などの健康及び生物多様性保持
  に影響がでないようにすべきである。
  4、水田の場合、育苗箱処理剤や畦畔土壌で使用された農薬が本田に移行すること
  の評価も必要である。
  5、畑地や園芸用地の場合、種子や苗に前処理された農薬や土壌処理剤として使用
  された農薬の動態と土壌残留性を明確にすべきである。

 【意見2】12農産第8第8147号について
  (2-1)圃場試験の際、「試験実施前の農薬の使用履歴、土壌の特性等が確認されたほ場
  を用いる」となっていますが、現実の圃場に合わせ、農薬使用履歴に応じた試験をす
  べきです。以下のような点が評価できるような試験を検討し、その結果を土壌残留
  試験に、十分反映させてください。
  ・試験圃場の農薬使用履歴の影響(使用回数、他の農薬の使用など)
  ・圃場試験中の気象条件の影響
  ・露地や施設園芸など栽培形態の影響
  ・圃場全面施用と作条施用の影響
  ・施用後、圃場被覆の有無の影響

  (2-2)「被験物質は、製剤とする」となっていますが、製剤に含まれる補助成分の影
  響を評価できるような土壌残留試験を実施してください。

   (2-3)土壌残留試験では、あらかじめ農薬で処理された種子や苗、育苗箱で処理され
    た苗を使う場合と直接圃場に当該農薬を施用する場合の違いを示す比較データの作 
   成を求めます。
     ―以下省略―
 *****記事t30802につづく
   通知改定案(作物群による農薬登録)に関する意見・情報の募集について
    反農薬東京グループの意見と農水省の結果概要農水省の考え方(3/31)


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作成:2017-05-01