ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる
t31202#ネオニコチノイド系農薬の水産登録保留基準を強化〜基準超えが多いフィプロニルは使用をやめるべき#07-08
【関連記事】記事t30602、記事t30805
【参考サイト】環境省:農薬登録保留基準の頁
農薬小委員会の頁の第50 回農薬小委員会資料 にある
水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準の設定における種の感受性差の取扱いについて
農薬への感受性の強い甲殻類ユスリカを用いた毒性試験が義務付けられ、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準が強化されつつあります。ネオニコチノイド系についてその状況をみてみましょう。
★スルホキサフロルの場合
【参考サイト】環境省;農薬小委員会の頁の第58回小委員会の概要、議事録、配布資料にある
ユスリカ幼虫急性遊泳阻害試験に用いる1齢幼虫の判断について
水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準値(案)に対する意見の募集について
(資料:スルホキサフロルなど6農薬)
反農薬東京グループのパブコメ意見
記事t31106でのべたように、7月実施されたスルホキサフロルの水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準39,000 を30μg/Lとする案が提示され、そのパブコメ意見募集に際して、わたしたちは、下記の主張をしました。なお、新基準の告示とパブコメ結果の報告は、まだ、なされていません。
【意見1】コガタシマトビケラについてのデータも期限を決めて、提出させるべきである。
(注)農業環境技術研究所の横山らは、日本の河川において重要な昆虫コガタシ
マトビケラの急性毒性は、従来のミジンコ類と比べ、1000〜10万倍も高いことを報告し、
2007年度には、試験マニュアルも公表している(本誌252号参照)。
農水省は、ユスリカとの感受性の差は、概ね 10 倍程度以下であることから
試験対象種としないとしている。
【意見2】他のネオニコチノイド系農薬も、ユスリカのデータを提出させ、基準を再検討
すべきである。
(注)環境省は、2016年の第50回農薬小委員会で、メーカーに1年以内の提出を求めている。
【意見3】水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準の設定に際して、トンボ、
カエル、水鳥などへの影響も評価すべきである。
また、現行評価は、急性毒性のみで実施されている。環境中での水産動植物の繁殖や
個体数の増減への影響も評価すべきであり、個々の種だけでなく生態系全体への影響も
明らかにする必要がある。
これらが、評価できるまで、新たな農薬としてスルホキサフロルの登録はやめるべきである。
【意見4】ユスリカやトビケラ試験は、国際的な試験方法として採用させ、日本に
登録申請する場合は、これらの毒性試験成績の提出を義務付けるべきである。
【意見5】PECによる予測濃度だけでなく、当該農薬使用地域での水系環境調査を実施し、
実測濃度測定を行うとともに、その数値を毎年公表すべきである。また、汚染度の高い
地域では、水産動植物の分布状況を調査すべきである。
[理由]1、たとえば、プレチラクロールの水質濃度が水産基準値を超過するおそれがある
として調査するよう求めている。環水大土発第 111012001 号「農薬による水産動植物の
被害防止のための実環境中濃度の実態把握について」(2011年10月12)
2、貴省はゴルフ場使用農薬について、毎年、調査結果を公表している。
3、2013年のスルホキサフロル基準のパブコメでも、当グループは『フィールドでの
農薬汚染に伴う水産生物や生態系への影響を評価するのに、現行のPEC
シミュレーションのみでは不十分である。
水田で適用される場合、登録保留基準を決める際には、水田ライシメータを用いた
水産生物のデータを提出すべきである。』と述べた。
★ネオニコ類の新たな登録保留基準案
【参考サイト】環境省:水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準値(案)に対する意見の募集について
(資料:イミダクロプリド、ジノテフラン、チアクロプリド、ニテンピラム及びフィプロニル)
反農薬東京グループのパブコメ意見
環境省は、7月12日に開催した、第58回農薬小委員会で、上述の【意見2】に沿う形で、ネオニコチノイド4種とフィプロニルについて、ユスリカ毒性試験を評価し、登録保留基準を強化する案を検討しました。
表1に、いままでの基準を決めた試験と、提案資料にあるユスリカ試験結果をふまえた新基準案の比較を示しました。表中の魚類はLC50(魚類急性致死濃度)、甲殻類はEC50(急性遊泳阻害濃度)で、基準を含めた単位はμg/Lです。登録保留基準は、複数の水産動植物の試験で得られた、一番低い濃度を不確実係数で除して算出され、係数は、試験された生物種ごとに、その種類数に応じて、決められています(甲殻類では、通常10だが、4種の試験があれば3)。
表に現基準と新基準の比率を示しましたが、いままでのオオミジンコなどの毒性試験を元にした基準より、ユスリカの毒性試験評価による方が、230〜4500倍厳しくなったことがわかります。
表1 ネオニコチノイド系の水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準比較
生物種別のLC50 不確実 現基準 ユスリカの 不確実 新基準案 現基準/
成分名 又はEC50μg/L 係数 μg/L EC50μg/L 係数 μg/L 新基準
イミダクロプリド オオミジンコ85000 10 8500 19.7 10 1.9 4470
ジノテフラン コイほか魚 97260 4 24000 36 4 12 2000
チアクロプリド ヨコエビ 3300 4 840 10.8 3 3.6 230
ニテンピラム オオミジンコ99900 10 9900 110 10 11 900
フィプロニル オオミジンコ 190 10 19 0.24 10 0.024 790
スルホキサフロル オオミジンコ399000 10 39900 309 10 30 1330
★環境中予測濃度(PEC)が基準を超えたら
【参考サイト】環境省:水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準についての頁にある
水産PEC算定の考え方についてと水産PEC算定方法
農薬使用による水系汚染を防止するには、登録保留基準を超えないことが重要です。実環境中での農薬濃度がわかればいいのですが、登録される前のことなので、ドリフトや雨による流出量を仮定した計算や小規模又は圃場での実験による推定をもとに、農薬の種類や剤型や使用方法、使用量を配慮して、PECを算出し、PEC<保留基準ならば、使用可となるカラクリには裏があります。
水田の場合、PECの第一段階では数値計算が主で、第二段階では水質汚濁性試験が、第三段階では水田圃場試験が算出に使われます。表2にネオニコチノイドのPEC値を現行保留基準と新基準で示しました。太字のように、第一段階PECが保留基準を超えたのはイミダクロプリドとフィプロニルでした。そのため、表中の*印で示したように第一段階より低値にした第二段階PECが算出され、いずれも、保留基準以下となり、使用は妥当だということで、登録は現状でよいと評価されました。
表2 ネオニコチノイド系農薬の第一段階環境中予測濃度 (単位;μg/L、*は第二段階PEC)
成分名 現行水産PEC μg/L 新水産PEC μg/L
イミダクロプリド 水田;4.5、 非水田:0.190 水田:6→1*、非水田:0.011
ジノテフラン 水田:7.5、 非水田:0.022 水田:9.0、 非水田:0.022
チアクロプリド 水田:0.45、非水田:0.017 水田:0.45、非水田: 0.017
ニテンピラム 水田;6.0、 非水田:0.011 水田:6.0、 非水田:0.011
フィプロニル 水田:0.3、 非水田:0.011 水田:0.30→0.017*、非水田:0.02
スルホキサフロル 水田:1.1、 非水田:0.010 水田:1.1、 非水田:0.010
★ネオニコの実測値との比較
【関連記事】記事t30003
【参考サイト】環境省:第58回農薬小委員会にあるH28年農薬環境調査概要と昆虫類への影響検討状況
ネオニコチノイド系農薬の水系汚染の状況について、いままでも、本誌で紹介してきました。記事t30003でとりあげた大阪府と名古屋市の調査結果を表3に示します。
【大阪府公衆衛生研究所調査】
2014年8月、15年2月、8月および16 年2月に、3大水源河川である淀川水系、猪名川水系および石川水系で、調査が行われ、ジノテフランが最大0.467μg/L、クロチアニジンが最大0.047、チアメトキサムが最大0.022、イミダクロプリドが最大0.014μg/L検出され、新保留基準案よりも低値でした。
【名古屋市環境科学調査センター調査】2015年7月〜2016年4月に、21地点(市内河川水10、海水5、溜池水6検体)の調査が行われ、最大検出値の登録保留基準超えはありませんでした。
表3、大阪府と名古屋市の水系でのネオニコ調査結果 (検出値:μg/L)
大阪府調査 名古屋市調査 登録保留
成分名 最大検出値 検出率 最大検出値 基準
アセタミプリド <0.005 100 % 0.017 5.7
イミダクロプリド 0.014 90.5 0.033 1.9
クロチアニジン 0.047 95.2 0.022 2.8
ジノテフラン 0.467 95.2 0.29 12
チアクロプリド <0.005 66.7 0.0002 3.6
チアメトキサム 0.022 95.3 0.14 3.5
ニテンピラム <0.005 4.3/9.5 0.001/0.0007* 11
*はニテンピラムの代謝物 左はCPF、右はCPMF
エチプロール − 61.9 0.032 690
フィプロニル − 57.1 0.014 0.024
★PECを超えたイミダとフィプロニル
【参考サイト】環境省:第58回農薬小委員会にある水産基準とPECの関係
モニタリングデータとリスク管理措置:イミダクロプリドとフィプロニル
前述のようにPECが基準を上回ったのは、春先に水稲育苗箱用に多用されるイミダクロプリドとフィプロニルでした。これらは、本誌304号で紹介したように、水田水や底質に残留しトンボのヤゴや水田生物相に影響をあたえていることでも、問題となっています。
環境省の2015年度の水質モニタリング調査結果は以下のようでした。
【イミダクロプリド】北海道の鵡川流域と厚真川流域の合わせ7個所。5月11日〜9月8日に32回採取され、最高検出値は0.222 μg/Lで、保留基準の1.9μg/Lを上回る地点は ありませんでした。
【フィプロニル】大阪府の大和川水系の石川下流域、佐備川下流域及び飛鳥川下流域の4個所。5月12日〜7月31日に19回採取され、すべて、0.05μg/L以下でしたが、定量限界が水産基準値案よりも高いため、汚染状況の確認ができませんでした。
【フィプロニルの水道統計】水道水の監視項目でフィプロニルは分析対象となっておりその目標値は、0.5μg/Lです。そのため、水道水原水の水質調査が実施されています。環境省がまとめた2012-14年度の調査結果は、表4のようで、30都府県の水源水延べ158検体にフィプロニルが検出され、そのうち最大検出値で43検体が登録保留基準案(0.024μg/L)を超えていました。採水個所や時期、農薬使用との関係性はあきらかでありません。
環境省は、今後、モニタリング調査を優先するとの方針をだしていますが、実測値が保留基準を超えるような農薬使用はやめさせるべきです。
表4 2012年〜14年の水道水源の農薬調査におけるフィプロニル検出状況
(各水源での最大検出値の一覧で、検出単位:μg/L)
都府県名 検出水源数 延検出数 最大検出値の範囲 基準超数と最大検出値
青森県 新井田川など2 3 0.005-0.007 0
秋田県 雄物川 1 1 0.006 0
山形県 最上川 1 2 0.01-0.019 0
栃木県 思川など2 2 0.016-0.046 1 0.046
茨城県 久慈川など3 3 0.022-0.026 2 0.026/0.026
埼玉県 入間川など2 2 0.005-0.026 1 0.026
千葉県 江戸川など2 4 0.011-0.017 0
東京都 村山貯水池など5 11 0.005-0.1 2 0.027/0.1
神奈川県 馬入川 1 2 0.03 2 0.03/0.03
新潟県 渋海川 1 1 0.005 0
長野県 千曲川 1 1 0.013 0
愛知県 蛇ケ洞川 1 1 0.015 0
滋賀県 野洲川 1 1 0.005 0
大阪府 淀川など 2 5 0.005-0.021 0
奈良県 布留川 1 1 0.017 0
兵庫県 武庫川など 4 7 0.005-0.013 0
和歌山県 紀の川など 4 5 0.005 0
島根県 玉湯川など 2 7 0.005-0.012 0
岡山県 草加部第3など 2 5 0.009-0.016 0
広島県 入野川など 4 11 0.008-0.071 5 0.03/0.041/0.056/0.069/0.071
山口県 第2水源など 2 3 0.002-0.006 0
香川県 綾川など 5 9 0.006-0.081 6 0.038/0.039/0.041/0.051/0.055/0.081
徳島県 旧吉野川など 2 2 0.005 0
高知県 有井川など 2 3 0.005-0.014 0
福岡県 遠賀川など 15 32 0.005-0.082 15 0.028-0.082
(個別値は、0.028/0.03/0.03/0.031/0.04/0.041/0.041/0.041/0.043/0.045/0.051/0.052/0.059/0.073/0.082)
佐賀県 吉田川など 8 19 0.005-0.16 9 0.036-0.16
(個別値は、0.036/0.04/0.044/0.044/0.082/0.084/0.14/0.14/0.16)
長崎県 東大川など 2 3 0.012-0.013 0
大分県 山国川 1 1 0.009 0
宮崎県 耳川 1 2 0.005 0
鹿児島県 稲荷川など 6 9 0.005-0.022 0
合計 158 0.002-0.16 43 0.026-0.16
注:フィプロニルの毒性
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劇物指定の殺虫剤、ADIは0.00019mg/kg体重/日。ARfDは0.02mg/kg体重。
ラットの発がん性試験の300ppm投与群で、甲状腺ろ胞細胞腫瘍発生が有意に増加したが、
非遺伝毒性メカニズムと考えられた。ラットの繁殖試験で着床後生存率低下等が認められた。
2017年夏、EUや韓国で鶏卵に検出され、問題となっている。
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作成:2017-09-25