食品汚染・残留農薬にもどる
t31303#今頃になってクロルピクリンのリスク評価〜ADIやARfDや残留基準を決めると#17-09
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【参考サイト】食品安全委員会:第654回会合(2017/06/20)にある食品影響評価についてとクロルピクリンほか
クロルピクリン工業会:毒性、適用表と使用上の注意事項
本誌で何度も取り上げてきた土壌くん蒸剤のクロルピクリン(以下 クロピク)に関してようやくリスク評価が始まるとのことです。
6月20日に開催された食品安全委員会第654回会合議事録が公開され、わかりました。
それによると、6月15日付で厚労大臣から食品安全委員会委員長に「食品健康影響評価について」という諮問が出され、残留基準を決めるとされた3品目の農薬の中にクロピクが含まれていたのです。
クロピクは1948年に登録され、69年使われ続けてきました。毎年必ず人身事故を起こし、農水省が唯一原因農薬として名前を挙げ、毎年同じ注意をしているものです。しかも、この農薬は使用者よりも周辺住民への被害が多いことで知られています。 私たちは早急に規制するよう、しつこく要望してきましたが、ようやくその第一歩が始まるわけです。
★さらに多くの作物に使うため
【参考サイト】三井化学アグロ:三井東圧クロールピクリン(登録番号9795、1969/3/12登録)の
チラシ、MSDS、適用表
なぜ、今残留基準を決めようとしたのか、その理由はひどいものです。何と、製造メーカーがクロピクを使用できる作物をさらに広げるために(適用拡大)残留基準を決めるというものです。規制ではなく、さらに使用するためにというわけです。
現在、クロピクはD−D剤との混合剤を含め、16製剤が登録されています。昭和44年に登録されたクロピク99.5%の「三井東圧クロールピクリン」(三井化学アグロ(株))の適用作物は、リンゴ、あぶらな科野菜、こまつな、だいこん、はくさい、かぶ、キャベツ、レタス・非結球レタス、サラダ菜、くきちしゃ、ほうれんそう、ウリ科野菜、漬物用メロン、にがうり、ウリ類、きゅうり、メロン、かぼちゃ、すいか、ピーマン・とうがらし、トマト、ミニトマト、なす、いちご、アスパラガス、セルリー、しょうが、うど、にんじん、ごぼう、かんしょ、さといも、やまのいも、むかご、ばれいしょ、ねぎ、あさつき、わけぎ、たまねぎ、こんにゃく、パセリ、にんにく、薬用にんじん、豆類、えんどうまめ、さやえんどう、実えんどう、いんげんまめ、さやいんげん、未成熟そらまめ、てんさい、あま、麦類、とうもろこし、陸稲、にら、みょうが、オクラ、ふき、花卉類、観葉植物、きく、カーネーション、りんどう、しゃくやく、ぼたん、百日草、宿根かすみそう、トルコギキョウ、いちじく(苗木)、桑、たばこ となっています。使用方法はすべて土壌くん蒸です。
長芋やゴボウだけではないことがわかります。これだけ、多品種の作物に適用がありながら、メーカーはまだパセリ、ミツバ等にも使用できるよう、適用拡大を申請したとのことです。そのため、急遽、残留基準の設定が求められたというわけです。
1948年に最初の製剤が登録された後、クロピクに関してはリスク評価は一度もされず、残留基準はもちろん、ADIもARfDも設定されていません。それが今になって健康影響の評価をし、残留基準を決めるというのです。私たちの要望も影響しているのかもしれません。
しかし、問題なのは厚労省や食品安全委員会は食べ物からの農薬しか評価しません。大気中にあるクロピクの危険性については何も評価しないのです。使用後、大気中にどのくらい残っているかという分析さえもありません。また、今回提出されるデータも69年前のものなのか、新しいデータなのかはわかりません。
★EUでは使用禁止なのに
ところで、食品安全委員会に提出されたクロルピクリンに関する厚労省の資料はいい加減なものでした。
まず、日本でのクロピクの使用方法は「散布」とあります。クロピクは土壌くん蒸剤で、揮発性が高いものですから、散布などしたら、大変なことです。念のため、農水省に問い合わせたところ「揮発性が高いクロピクを散布するなんてことはありえない」とのことでした。
また、「国際機関、海外での状況」欄にEU基準、ばれいしょ、きゅうり、キャベツ等とあって、あたかもEUでクロピクが使用されているかのような記述がありました。
私たちは、昨年11月に食品安全委員会へクロピクの諸外国での規制状況を質問しました。その時の食安委の回答は「欧州連合(EU)は、2011年にクロルピクリンを不許可とする委員会施行規則を官報で公表」というものでした。つまり、EUでは使用が禁止されているわけです。
厚労省の資料はEUでは使用できるのだと思わせるものです。
食安委で説明した厚労省の基準審査課に質問したところ、「調べて回答する」とのことで、後日、電話で「あの欄は基準があるかないかを書くところなので、使用状況は関係ない」と回答してきました。
国や地域で使用禁止というのは、よほどのことです。それを伝えないということは、意図的な情報隠しといわれても仕方ないでしょう。以後、EUでは禁止ということをはっきり伝えるよう申し入れました。
クロピクの評価は、食安委の中の農薬専門調査会評価第一部会が行うとのことです。厚労省によれば、一年程度で残留基準が決まるだろうとのことでした。
政府は作物への残留基準だけでなく、実際に被害を受けている大気中のクロピクに関しても十分検討すべきです。
★青森県での今年の巡回指導
今年8月、青森県の行政への情報公開請求で得られた資料をみると、毎年、クロピクを使用している農家に、県や県民局の指導が全然行き渡っていないことがわかりました。
今年4月から7月に、問題になっているクロピク使用地域で巡回指導をした時の報告が開示されました。それによると、指導内容は、「パンフレットやお知らせを配布しながら、土壌くん蒸剤の安全使用について理解を求め、住宅の近接地、隣接地で土壌くん蒸剤を使っていると思われた農家については、電話により指導し、理解を求めた。」とのことです。
クロピクを使ったかどうかはポリエチレンなどで被覆してあるため、すぐわかるそうです。
おそらく、車でぐるぐる回りながら、被覆してある畑を探し、後で住宅地近くで使用したのが、どこの農家か調べて、電話をかけたものと思われます。そうすると、パンフレットはいつ、誰に渡したのかという疑問がでてきます。
★農家はクロピクの危険性を知らない
報告によると、巡回確認ほ場は71か所(面積は不明)。このうち、薬剤処理確認場所は66か所(93%)、うち住宅地等の近接地31か所(47%)、住宅地の隣接地7か所(11%)。作付け農家数は52戸。うち、近隣接地作付け農家数25戸(48%)、指導農家数25戸。 と言う報告がなされています。
住宅地の近接、隣接地でクロピクを使用していたのが58%とは驚きです。この地域でクロピクが危険と問題になって4年は経過しています。その間、行政は「住宅地隣接や近接では使用しないように」と何度も言ってきたはずです。6割近くが守ってないという現実をどう考えているのでしょうか。
★指導された農家の声(15戸)
報告書では、「近接地農家で指導した農家(15戸)の反応」を報告しています。住宅地の隣接か、少し離れたところでのクロピク使用農家へ電話で指導したとのことですが、それに対する農家の反応です。
@民家から離して使えと言うのならば、何m離せば良いのか(3戸 20%)
Aクロピクを使わないようにして栽培するというのは難しいので、来年度に向けてどう
するべきか検討する。(1戸)
Bマルチをすれば大丈夫じゃないの。使用上の注意も守っているし、問題ないでしょ。
クロピクを使うなって、作付けを辞めろと言っているのか。(2戸 13.3%)
C民家のすぐ隣では土壌くん蒸剤は使わないようにしている。(2戸 13.3%)
D住民と十分にコミュニケーションを取っているので問題ない。(2戸 13.3%)
E農薬は体に悪いので使っていない。(1戸 6.7%)
指導に対して、ある程度理解を示した農家(11戸 64.7%)。
このうち、たった1戸だけでも「農薬は使っていない」と言う回答があるのは、大変心強いことです。
また、「住民と十分コミュニケーションを取っている」という農家が2軒。どのようなコミュニケーションか不明ですが、少なくとも、散布のお知らせはしているととっていいでしょう。
★住宅から何m離せばいいのか不明
問題は、@からBまでの回答があらわしている住宅から何メートル離せばいいのかという質問に、行政が明確な指導ができないことです。国による規制はありません。県が独自に設定できるのですが、青森県は決めていません。その理由は地形や風向きなどによって異なるため、決めることはできないというものです。
その曖昧な態度が、住宅近接地でクロピクを使用し、指導されたという農家が約半数いたという事実です。結局のところ、青森県はクロピクに関して実効ある対策を一つも取らなかったと言えます。
立派な長芋のIPMを作っておきながら一度も見直していないのではないでしょうか。
厚労省へのクロルピクリンに関する質問と回答(9/22)
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作成:2017-10-27