ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる
t31405#フィプロニルはやめるべき農薬〜残留基準を緩和してまで、使い続けるのか#17-10
【関連記事】アキアカネ被害と水質・底質汚染:記事t28802、記事t30403
水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準:記事t31202、記事t31503
【参考サイト】農水省:農薬による蜜蜂への影響についての頁にある
農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(2016.11月改訂)
環境省:水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準値(案)パブコメ意見募集
(資料(フィプロニル))
食品安全委員会:フィプロニルに係る食品健康影響評価パブコメ意見募集と農薬評価書第二版
厚労省:パブコメ意見募集(10/03締切)
・食品中の農薬等(DCIP等13品目)の残留基準設定等)について(10/03締切)とフィプロニルの参考資料
殺虫剤フィプロニルについては、記事t31202で、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準が強化されることを、また、記事t31304で、残留基準の緩和がめざされていることを紹介しました。ここでは、フィプロニルを概説し、基準緩和へのパブコメ意見、EU等でのタマゴの汚染問題などをとりあげます。
★フィプロニルとは
ミツバチ被害の原因となるフェニルピラゾ−ル系農薬で、EUでは、環境保護運動の結果、3種のネオニコチノイド類に続き、2014年より、種子消毒などで使用規制が実施されていました。
EUでの登録は9月30日に切れましたが、メーカーのBASF社は、種子消毒用はすでに、やめており、後述の卵汚染もあり、農薬についての登録延長を断念しました(記事t31503)。
日本では、1996年4月に農薬登録され、商品名プリンスとして知られている殺虫剤です。原体の殆どは輸入で、製剤の成分出荷量は2010年の44.291トンをピークに、漸減傾向にあり、15年は21.567トンです。
【ミツバチ毒性】農水省のまとめたQ&A(農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組。2016年11月改訂)では、「フィプロニルは他の多くの農薬と比較して蜜蜂のみならず、ヒト、水産動植物への毒性が高いことが知られています。(表を参照)」との注をつけて、『我が国では、フィプロニルの野菜や花きへの散布剤としての使用を認めていますが、使用する際には蜜蜂の被害を防止するため「蜜蜂を放飼している地域では使用はさける」旨の注意事項を付すこととしています。また、水産動植物への影響が懸念されるため、水稲では育苗箱に施用する方法でだけ使用を認めています。なお、水稲の葉面への散布は認めていません。』となっています。
斑点米カメムシの駆除への適用はないため、ヨーロッパのようなミツバチ被害よりも田植え前の育苗箱剤の使用により、水系を汚染し、アキアカネのヤゴなどを死滅させる原因となっています。なお、同系のエチプロール(商品名キラップ)は、カメムシ対策で、無人ヘリ散布などの実施によりミツバチに被害を与えています。
表 農薬別ミツバチへの急性接触毒性
農薬名 半数致死量μg/頭
ネ イミダクロプリド 0.045
オ クロチアニジン 0.044
ニ チアメトキサム 0.024
コ ジノテフラン 0.023
系 アセタミプリド 8.09
チアクロプリド > 100
リ フェニトロチオン 0.16
ン フェントエート 0.12
系 ダイジノン 0.24
そ エトフェンプロックス 0.031
の シラフルオフェン 0.001
他 エチプロール 0.013
フィプロニル 0.006
出典:農水省Q&Ap14
【水産生物への毒性】魚毒性区分は、C類と強く、アメリカでは、2000-01年にイネミズゾウムシ対策での水稲種子処理が原因で、食用ザリガニが被害を受け、中国でも、ミツバチや甲殻類の被害防止のため、2009年10月から、製造・使用が禁止されていました(その後も、同国からの輸入品に残留していた事例があり、規制程度は不明)。
反農薬東京グループの登録保留基準に関するパブコメ意見
水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準を、ユスリカ影響試験の結果を踏まえ、現行19μg/Lから0.024μg/Lに強化する案が提案されていますが、全国の河川水調査で、保留基準を超える事例が多くみられるほか(記事t31202参照)、底質中に、その分解代謝物も検出されています(記事t30403)。
【人への毒性】 フィプロニルは、神経毒性があり、痙攣や振戦を起こす劇物で、肝臓、腎臓、甲状腺にも影響を与えます。食品安全委員会は、ADI(一日摂取許容量)を農薬の中でも最低レベルの0.00019mg/kg 体重/日、ARfD(急性中毒参照用量)を0.02mg/kg体重としています。
反農薬東京グループの健康影響評価に関するパブコメ意見
農薬評価書では、ラットの発がん性試験で、300ppm投与群の雌雄において、甲状腺ろ胞細胞腫瘍発生が有意に増加したが、非遺伝毒性メカニズムと考えられています。また、ラットの繁殖試験で着床後生存率低下等が認められました。
EUは、ラットの妊娠6日〜哺育10日の発達神経毒性試験から得た無毒性量を0.9mg/kg体重/日、安全係数100として、ARfDは0.009mg/kg体重としています。
★残留基準の緩和を提案
【関連記事】記事t31304
反農薬東京グループのフィプロニル残留基準に関するパブコメ意見
フィプロニルについて、59食品で、残留基準の緩和が提示された。(うち、ソバなど55食品の現行基準0.002ppmを削除し、一律基準0.01ppmに)
後述のように、EUほかでフィプロニルによる鶏卵汚染が発覚し、大問題になっている最中の9月4日、厚労省は、フィプロニルの残留基準の改定案(現行の163食品の残留基準のうち、55食品を強化し、59食品を緩和)を提示し、パブコメ意見を募集しました。わたしたちはこれに反対して、意見を述べました。その一部を紹介します。
【意見2】下記食品の残留基準に反対である。もっと低値にすべきである。
(1)米 0.01ppm
[理由]1、残留試験5事例で、最大残留値<0.001ppmである。
2、EDIの算出では、残留量が0.001ppmとされている。
--以下14食品については省略
【意見3】下記116食品(食品リスト省略)はそれぞれの現行基準を削除し、一律基準としたが、
同基準を0.01ppmとすることには反対であり、0.002ppm以下にすべきである。
[理由]1、現行基準0.002ppmを0.01ppmに緩和された食品はそばなど55品目ある。
2、その他の穀類やひまわりの種は、現行基準0.01ppmから、0.002ppmに強化されて
いるし、小麦、大麦、ライ麦は現行基準0.002ppmのままである。
【意見4】下記の畜産品の残留基準に反対する。他の食品のように0.002ppm以下にすべきである。
[共通理由]1、日本では、動物用医薬品として、家畜に対するフィプロニルの使用は
承認されていないが、海外では畜舎などで違法に使用される場合もある。
たとえば、2017年夏には、EUや韓国では、フィプロニルのタマゴや
その加工品への残留がみつかり、 出荷や販売停止などの措置がとられている。
2、農薬評価書によると、水稲の残留試験で、イナワラに、フィプロニルとともに、
代謝物フィプロニル-スルホンやフィプロニル-チオエーテルが残留しており、
飼料経由で、畜産品に移行する恐れがある。
3、農薬評価書によると、フィプロニルが残留する飼料を給餌された家畜からの
畜産品には、フィプロニルだけでなく、代謝物のフィプロニル-スルホンや
フィプロニル-チオエーテルが検出されている。たとえば、乳牛では、
乳汁、肝臓、腎臓、筋肉、脂肪中には、フィプロニルは検出されなくても、
上記代謝物が残留していた。
また、産卵鶏では、フィプロニルが検出されないタマゴや皮膚/脂肪に、
フィプロニル-スルホンが残留していた。−28の個々の食品別理由省略
【意見5】全体的に残留基準が高すぎる。フィプロニルの摂取は、食品以外からもあり、
もっと低値にすべきである。
[理由]1、TMDIの対ADI比が、一般で464.8%、幼小児で1229.4%、妊婦で501.8%、
高齢者で373.6%と、安全の目安とされる80%を大幅に上回っている。そのため、
残留基準を大幅に下回る残留量を仮定してEDIが算出され(たとえば、
米やばれいしょでは、残留基準の10分の1が残留量となっている)、
安全を装っているが、残留基準を低値に見直すのが本筋である。
2、TMDIへの寄与率は、畜産品が高く、一般で72.8%、幼小児で76.1%、妊婦で74.4%、
高齢者で65.3%である。
3、別紙4-1と4-2には、一般と幼小児区分で、食品ごとの短期推定摂取量ESTIが
算出され、対ARfD比が示されているが、評価にもちいた残留量は残留基準以下の
ものがある。また、日本のARfDは0.02mg/kg体重で、EUの0.009mg/kg体重より
45%高い。ちなみに、EU値をとれば、一般及び幼小児区分で、はくさいの場合の
ESTI/ARfDは約20%となる。わたしたちは、個別の食品からの同比が
10%を超えないことを求めているので、容認できない。
4、フィプロニルの水系汚染は、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準案
0.024μg/Lを超える事例がみられる。環境省がまとめた水道水原水の水質調査
(2012-14年度の調査)では、30都府県の水源延べ158検体でフィプロニルが検出され、
その最大検出値で43検体が登録保留基準案を超えていた。
★ヨーロッパ等での鶏卵汚染
【関連記事】記事t31503
反農薬東京グループの厚労省、農水省への質問と回答
鶏卵のフィプロニル汚染について
今年の7月、ヨーロッパや韓国で、タマゴやその加工品にフィプロニルが検出され、販売停止措置や回収が実施されましたが、この件で、厚労省と農水省に尋ねました。
その回答を紹介します。
【海外での、鶏卵にフィプロニルが検出されたがその状況及び汚染原因は?】
[厚労省回答]欧州委員会による2017年8月10日の報告によると、EU域内の産卵鶏農場において、
フィプロニルが違法に使用されていたことが2017年7月20日に判明し、問題のあった農場は
直ちに操業停止されるとともに、それらの農場由来の鶏卵や鶏肉について回収措置が
講じられました。また、問題のあった農場由来の鶏卵や鶏肉にフィプロニルの残留の可能性が
ないか検査されています。
韓国政府による2017年8月17日の報告によると、8月17日5時時点で1,239の農家の内876の
農家の検査が終了し、32の農家が不適合と判定されました。不適合と判定された農家からは、
フィプロニルやビフェントリンなどの農薬が検出されています。
なお、これまでにフィプロニルに汚染された鶏卵や鶏卵製品がEU及び韓国から日本に
輸出されたとの情報はありません。
(補足:厚労省の発表した「EU等における鶏卵のフィプロニル汚染に関するQ&A」では、
卵から検出されたフィプロニルの最大濃度は、ベルギーで1.2ppm、ドイツで0.45ppm。)
【日本の鶏卵残留基準は0.02ppmとなっている、その根拠は?】
[厚労省回答]2006年のポジティブリスト施行時に、コーデックス委員会が2003年に設定した
最大残留基準である0.02ppmを参照して設定しております。
なお、コーデックス委員会は、FAO/WHO合同残留農薬専門家会議が、鶏に対する飼養試験により、
家きんの卵に残留する最大濃度を0.002ppmと推定したことを踏まえて設定しております。
【輸入鶏卵および国産の鶏卵について、フィプロニルの残留分析調査をしていますか。その結果を明らかに】
[厚労省回答]輸入鶏卵については、検疫所に対しEU及び台湾から鶏卵、粉卵、液卵及び
ピータンの輸入届出があった場合は、全届出についてフィプロニルの検査をするよう
8月17日及び8月31日に通知を発出しました。
国内に流通する食品の残留農薬等の検査については、各自治体が計画を策定して収去検査等を
実施することとされている。検査項目については、通常我が国で鶏への使用が認められた
農薬等を中心に選定している。
自治体から報告があった検査結果については、厚生労働省のホームページに掲載している。
【日本ではフィプロニルを鶏舎や鶏に使用することができるか。また、違法に使用されていることはないか】
[農水省回答]日本では、動物用医薬品として犬・猫用のノミ・ダニ駆除剤(少量の噴霧又は滴下剤)が
承認されています。しかし、食用動物用としては承認されていません。 畜産物を生産するために
飼育される家畜には、農水省が承認した動物用医薬品のみが使用できます。特に、鶏に使える
ダニ駆除剤としては、ピレスロイド系などのフィプロニル以外の動物用医薬品が複数承認され、
販売・使用されています。
★残留基準緩和で、違反超えを減らす?
【参考サイト】厚労省:「平成 29 年度輸入食品等モニタリング計画」の実施について(鶏卵のフィプロニル)
EU等における鶏卵のフィプロニル汚染に関するQ&A
農民連食品分析センター:Top Page、市販鶏卵の残留農薬調査結果2017その1
国産鶏卵の残留農薬調査をみんなの手で取り組みませんか?
タマゴの緊急残留調査については、自治体も含め、厚労省の検疫調査結果もまだ公表されません。また、国内の違法使用の有無の点検調査については回答もありません。
輸入検疫を含め、通常の公的機関による収去検査では、残留基準を超えた場合に残留値が公表されるだけですので、汚染状況の全貌が不明のまま終わる懸念があります。
鶏卵の残留基準について、わたしたちは前述の【意見4】のように現行0.02ppmを0.002ppmより低くし、畜産物からの摂取量を減らすことを求めています。残留状況をすべて公表し、実態に合わせた基準にすべきです。
さらに心配なのは、多くの食品で残留基準が提案どおり緩和された場合です。
たとえば、お茶については、2012年11月から13年5月にかけて、中国産ウーロン茶やその加工品で、フィプロニルの残留基準違反が明らかになりましたが(記事t26206参照)、この時は、基準が0.002ppmでした。新基準でそれを0.01ppmの一律基準にすると、違反数は減るでしょうが・・
★農薬以外の身の回りのフィプロニル
【関連記事】記事t23506、記事t31503
【参考サイト】環境省:アルゼンチンアリ防除の手引き
食品安全委員会:EUが植物保護製剤の有効成分フィプロニル及びマネブの延長した認可期限を短縮(2016年11月22日)
台湾がフィプロニルを4.95%含むフロアブル剤を禁止農薬とし当該剤の
輸入・加工製造・販売・使用を禁止する公告を9月6日に行う旨公表
イヌ・ネコのノミ・ダニ用殺虫剤:日本全薬工業のフロントライン
シロアリ防除剤:バイエルのアジェンダMC
ゴキブリ殺虫剤:アース製薬のブラックキャップ
アリ用殺虫剤:フマキラーのウルトラ巣のアリ
フィプロニルは、農薬以外にも、薬機法(旧薬事法)で、イヌやネコのノミやダニ駆除用(商品名フロントライン)、ゴキブリ駆除剤(同ブラックキャップ)、製造・販売・使用に規制のない 不快害虫用殺虫剤、シロアリ防除剤としても使用されています。
さらに、環境省はアルゼンチンアリの 駆除薬として、 推奨しており、ヒアリ対策用にもベイト剤が販売されています。
このような、 身近な人の生活圏での使用は、人体や飲料水・食品等の二次汚染による摂取を増大させるので、要注意です。
食品安全委員会の海外情報によると、台湾では、9月6日に、フィプロニル4.95%を含むフロアブル剤を禁止農薬とし当該剤の輸入・加工製造・販売・使用を禁止を公告したそうです。
日本のように、家畜に使用できないようにしているから大丈夫というだけでは、十分な規制ができません。人や環境に有害なフィプロニルは、「使用しなければ、残留しない」を原則に、一刻も早く使用禁止すべきです。
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作成:2017-11-26