農薬の毒性・健康被害にもどる 改定農薬取締法にもどる
t31901#農薬危害防止運動に向けて〜農薬取締法改定で被害を減らすべき#18-03
【関連記事】記事t31706、記事t31802。
2017年危害防止運動;記事t30801、記事t31002
【参考サイト】食品安全委員会:EFSAのネオニコチノイド系農薬によるハチ類へのリスクが確認された旨を報道発表(2/28)
農水省:農薬コーナー、農薬取締法
農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令 、
住宅地等における農薬使用について(住宅地通知)
空中散布等における無人航空機利用技術指導指針(3/30改定)
FAMIC:Top Page
農薬取締法に関する反農薬東京グループの主な意見
我が国における農薬登録制度上の課題と対応方針(案)についての意見(2009年7月)
農薬の登録申請時に提出する試験成績及び資料に係る関係通知の改正案に関する意見(2014年3月)
農薬危害防止運動は、毎年6月から8月にかけて、農水省・厚労省・環境省が要綱をかかげて、実施されます。この運動が永年、継続されているのは、とりもなおさず、農薬が有害物質であり、それを環境中で使用することによって、人や環境等への被害を与えているからにほかなりません。その農薬を規制する法(以下農取法という)の目的は、@農業生産の安定、A国民の健康の保護、B国民の生活環境の保全に寄与することの3点です。
昨年から連載(改定農薬取締法関連記事一覧参照)しているように、農水省は今国会で同法の改定を目指していますが、具体的な条文については、下表を参考にしてください。自民党は1月半ばに「農薬取締法改正に関するワーキングチーム」を設置し、生産者や農業団体、主婦連、農薬メーカーなどから意見を聞き、論点をまとめて、農水省と改定内容のすり合わせをしたとのことですので、反農薬の視点からの改定は期待できません。
本年の農薬危害防止運動に向けては、いままでのような前年の危害事例の列挙のかわりに、農取法改定を見据えて、下記の3項目についての意見を述べたいと思います。
なお、本号では、記事t31802で、農水省に要望した、無人航空機空中散布に関する事項は割愛します。
【1】農薬使用を減らすために
昨今の農薬登録に関する通知等の改定の多くは、申請書類の簡素化で、登録や適用拡大をやりやすくし、農薬使用を前提とした、すなはち、農薬使用量を増やす農業を資するものでした。
農取法改定の根底にあるのは、昨年8月に施行された「農業競争力強化支援法」です。この法では「農産物輸出も視野に入れた国際的対応」が目指され、農薬については「ジェネリック(後発)農薬の登録申請の際、既に登録されている先発農薬の毒性試験及び残留試験のデータを活用し、試験に要するコストの削減を図る。申請に当たり、先発農薬とは異なる不純物の毒性を含め、安全性に関する審査を厳正に行う。この試験データは、登録後 15 年間は保護されるので、新規農薬の開発意欲は低下しない」とあり、農取法改定に繋がっています。
わたしたちの主張は 農薬危害防止にいちばん有効なのは、人や環境に有害な農薬を出来るだけ使用しないことです。
そのためには、メーカーの意向を優先して登録する現行の登録制度を改め、登録や適用拡大の可否について、国民の意見を事前に聞くようにすべきです。メーカーに当該農薬にどのようなメリットとデメリットがあるかの資料を提出させ、登録や適用拡大の必要性を国民が判断できる制度が必要です。
また、農薬使用が過度にならないような食糧生産方法を優先することや(たとえば、斑点米カメムシによる着色米は、農薬散布によるカメムシ駆除でなく、色彩選別機で除去)、樹木、芝、花卉などの植栽で、景観保持目的の農薬使用も避けることも必要です。
【2】毒性試験や環境影響評価の強化
農薬を使用する場合、人や環境に対して危険性の少ない農薬の使用が求められのは当たり前です。農水省は、いままでの毒性のリスク評価では、使用者の安全性が充分に担保できず、また、環境保全も万全でなかったとし、再評価制度を打ち出しました。これは、登録後15年以上を経た農薬が対象ですが、欧米では、すでに評価が終わり、多くの農薬が姿を消していることは、記事t31601で示したとおりです。
日本でよく使われる農薬のうちEUで登録がないの成分は約160あり、代表的なのは、下記のようです(。
BPMC、CAT、D-D、DEP、DMTP、EPN、IBP、MEP、MPP、
NAC、PAP、アセフェート、アトラジン、アレスリン、エチプロール、
エチルチオメトン、カスガマイシン、クロルピクリン、クロルフェナピル、
ジノテフラン、シペルメトリン、ダイアジノン、トリフルラリン、パラコート、
フィプロニル、フェンバレレート、プロシミドン、ベノミル、ペルメトリン等
これらのほか、欧州諸国では、ネオニコチノイド系のイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムの登録失効が論議され、除草剤グリホサートも問題となっています。
日本では、再評価するまでもなく、ミツバチ毒性の強いネオニコチノイド、神経毒性のある有機リン系や圃場周辺の住民被害の多いクロルピクリン、致死性毒物パラコートなどは、早急に使用規制してもらいましょう。
登録後15年未満でも、現行の3年ごとの再登録制度を利用して、新規登録農薬のフィールドでの挙動、食品中の残留農薬実態調査をメーカーに義務付け、結果をみて、再登録の可否を決めればいいと思います。
農薬毒性については、発達神経毒性や発達免疫毒性などの追加、両生類、土壌生物、野鳥、さらには、生態系への影響評価などの実施が求められます。活性成分だけでなく、補助成分も同様な評価が必要です。
また、重要なのは、農薬評価書で参照されている未公開資料の開示を含む毒性や残留性データ等を公開することです。特に、登録に際して、提出が免除される後発製剤などについては、当該試験データが公表されていることを条件とすべきです。
【3】農薬の使用に関する法令の強化
危害防止には、使用者が法令に則り使用することが重要です。「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」がありますが、この省令には罰則を伴わない努力規定が多々あり、たとえば、下記のような事項の義務化が必要です。
・非食用と食用作物の区別なく、ラベル表示の使用要件の遵守、最終有効年月超えは使用禁止。
・作物ごとに農薬使用履歴を記載。これを実施すれば、消費者が購入する食品に使
用農薬名を表示することが可能になります。
・対象外作物への飛散防止や大気への揮散、水系への流出防止、
・周辺住民への散布周知と受動被曝防止。ほか
農水省は、農薬使用者への暴露の未然防止を推進すれば、使用者の安全が図られ、ひいては、周辺住民等の暴露の低減にも繋がるというのですが、これは真逆です。周辺で受動被曝する住民が安全なら、使用者の安全につながるという視点、すなはち、「住宅地通知」の遵守を条文化した法令の改定を求めていかねばなりません。
食品残留について、緩い基準を設定した厚労省は、国民の摂取量は少ないといいながら、農水省は、食品の輸出を増やすため、相手国の厳しい基準に合わせた栽培方法をマニュアル化しています(農水省:輸出相手国の残留基準値に対応した病害虫防除マニュアル参照)。国内向けにも適用を義務づければ済むことです。
これらに加え、2002年の法改定で廃止された防除業者届出制度の復活が必要であり、農薬使用者の資格・免許・登録制度を導入することも不可欠です。
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作成:2018-03-31、更新:2018-04-04