農薬の毒性・健康被害にもどる

反農薬東京グループの2018年度の農薬危害防止運動の頁


t31902#2016年度の家庭用品吸入事故 1256件〜殺虫剤が第二位の276件#18-03
【関連記事】記事t30604(2015年度)
【参考サイト】厚労省:「2016年度 家庭用品等に係る健康被害 病院モニター報告」公表(2/06)と報告書

 厚労省が毎年発表している家庭用品に係る健康被害病院モニター報告の2016年度版が公表されました(2015年度は記事t30604)。皮膚科10施設と小児科10施設(各科とも前年2施設増)のモニター病院が情報収集しており、吸入事故に関しては日本中毒情報センターがまとめています。
 16年度に報告された事例の件数は、小児誤飲事故が前年から442増の728件で、これは、新たな2つのモニター病院から比較的多くの報告があったためとされています。皮膚障害が33減の101件でしたが、吸入事故等は55増で、過去最高の1256件となっいます。本号では、吸入事故等に関する報告を紹介します。

★洗浄剤(住宅・家具用)が第一位だが
 原因製品別の件数上位10は表のようでで、前年72件増の294件でしたが、これは、前年まであった排水パイプ用洗浄剤をこの分類に加えたことが大きいです。そのため、いままで一位であった殺虫剤は、276件で二位になりました。
 家庭用殺虫剤の大手メーカーであるアース製薬は、昨年秋から、「殺虫剤」というのはイメージが悪い、今後、「虫ケア用品」と言い換えるとして、キャンペーンをはじめています。この呼称でいくと殺虫剤、防虫剤と忌避剤がはいり、合わせると、事故件数は322件で、ワーストワンの位置が置き換わります。

    表 2016年度の製品種類別吸入事故件数
    製品の種類      件数 比率  前年
                              %   増減             
    洗浄剤(住宅・家具用)  294 23.4    +72
    殺虫剤         276 22.0   + 7
    漂白剤                123   9.8  + 1
    芳香・消臭・脱臭剤    90  7.2  +13
    除菌剤                59   4.7    + 4
    防水スプレー       55  4.4   -17
    洗剤(洗濯用・台所用) 53  4.2  + 1
    園芸用殺虫・殺菌剤    44   3.5   + 3
    忌避剤             30   2.4   - 1
    乾燥剤         22  1.8    + 5
    上位10品目       1046  83.3  +71
    総数          1256  100%    +55
★項目別件数〜有症率は67.0%の842件
 2016年度の吸入事故1256件の報告者は、消費者や学校、薬局、消防署等からの報告件数が 1,175 件(93.6%)、受診した医療機関や医師が常駐する特別養護老人ホーム等からの報告件数が 81 件(6.4%)でした。
【症状別】有症率は67.0%の842件で、前年より5件増、複合症状をカウントした内訳は、咳、喉の痛み、息苦しさ等の呼吸器症状:349件、眼の違和感、痛み、充血等の眼症状:323件、悪心、嘔吐、腹痛等の消化器症状:257件、頭痛、めまい等の神経症状:173件でした。
【製品形態別】「スプレー式」が前年より3件減の630件(うちエアゾールが324件、ポンプ式が306件)、「液体」359件、「固形」112件、「粉末状」96件、「蒸散型」36件、その他17件、不明が6件で、前年より20件ほど増えたのは固形と粉末でした。
 以下、それぞれの事例の一部を紹介します。(編集部注:「転帰」は、治療後の症状の変化のこと)

★殺虫剤・防虫剤 292件
 殺虫剤と衣料防虫剤に関する事例は合わせて、前年より8件増の292件(有症率76.7%)でした。用途別では、衛生害虫用が前年減28件の171件、不快害虫用が前年増28件の87件で、後者が増えたのが目立ちます。成分別では、ピレスロイド系製品が201件、ピレスロイド・メトキサジアゾン製剤が34件でした。
 一度の噴射で長時間効果を謳うバリヤー用エアゾール(ワンプッシュ式蚊取り等)の報告は、2012年以降70-80件でしたが、16年も79件でした。この中には、子どものいたずらや忌避剤(虫よけ剤)と間違えた事例もありました。高揮散性ピレスロイド系のトランスフルトリン、メトフルトリン等を主成分としたバリアー用エアゾールは、眼及び皮膚等の付着部位の痛み、熱感及びひりひり感を発症するため、小児が一人で使用しないとの注意喚起がなされています。
 蒸散型製品では、使用中に火災警報器が鳴り、入室して成分を吸入、症状が出現した事例が3件ありました。
 屋外使用製品を居住空間で使用した事例は前年増10件の28件で、殺虫剤が18件、木材害虫用が4件で、そのうち、DDVPなどのプレート型殺虫剤が4件ありました。
 防虫剤については、ナフタレンやパラジクロロベンゼンのような独特の臭気を放つ製品、無臭のピレスロイド系製剤に香りをつけた製品もあり、強い匂いを好まない人は購入する際に含有成分や匂いの有無に注意する必要があるとの記述が見られます。
   ◎事例1  【原因製品:ピレスロイド含有殺虫剤(スプレータイプ)】  患者 9歳 男児
   状況 小学校の校庭に置かれたタイヤにセアカゴケグモがいたので、職員がタイヤの内側から
   上方向に強力噴射タイプのクモ・クモの巣用のエアゾール式殺虫剤を噴射した。そばで
   のぞいていた児童の眼にかかった。
   症状 眼の違和感・充血、結膜炎
   処置 その場及び医療機関で洗眼、点眼薬処方
   転帰 眼科外来受診(当日)

   ◎事例2 【原因製品:ピレスロイド含有殺虫剤(ワンプッシュ式蚊取り)】
   患者 37 歳女性、13 歳女性
   状況 母親が寝室にワンプッシュ式蚊取りを6回噴射した。説明書をよく読まずに、何回も
   噴射したほうが効くと思った。寝室には子どももいた。
   症状 舌の違和感(10 分後に出現、子どもは1時間後に改善)
   処置 新鮮な空気下に移動、室内の換気
   転帰 転帰不明

   ◎事例3 【原因製品:ピレスロイド含有殺虫剤(ワンプッシュ式、ゴキブリ用)】
   患者 39 歳 女性
   状況 室内にゴキブリがいたので、慌ててワンプッシュ式のゴキブリ用の殺虫剤を 2/3 本程度噴
   射した。後で使用方法を確認したところ、使用法が間違っていたことに気づいた。
   症状 喉の違和感、咳込み    処置 うがい
   転帰 家庭内で経過観察、当日改善 

   ◎事例4【原因製品:ピレスロイド・メトキサジアゾン・カーバメート含有剤(一回使い切り
   タイプ)】    患者 36 歳 女性
   状況 くん煙剤を使用する前に、煙式の火災警報器にカバーをかけるつもりが、誤って熱式の方に
   カバーをかけた。使用開始後に火災警報器が鳴ったため、止めようとして、煙が充満する中、
   5分程度入室した。
   症状 咳込み、喉の痛み・違和感(咳込みと喉の痛みは2〜3時間で改善)
   処置 家庭でうがい
   転帰 家庭内で経過観察、2日程度で改善

   ◎事例5  【原因製品:防虫剤(ナフタレン)】 患者 78 歳 男性
   状況 防虫剤を入れてタンスで保管したシャツを着たところ、臭いで気分が悪くなった。
   症状 悪心     処置 全身の水洗
   転帰 家庭内で経過観察、半日程度で改善
★園芸用農薬・除草剤等は68件
 園芸用殺虫・殺菌剤及び除草剤は7件増え、68件(有症率 75.0%、うち、除草剤21件、肥料3件))で、成分では、有機リン含有剤が16件、グリホサート含有剤が10件でした。
   ◎事例6 【原因製品:ピレスロイド・ネオニコチノイド含有殺虫剤(スプレータイプ)】
   患者 44 歳 女性
   状況 ベランダに毛虫がいたので、マスク、メガネをせずにポンプ式スプレータイプの
   殺虫剤を上方向に 10 回程度散布した。途中で風向きが変わり、顔にかかり吸入した。
   小児喘息の既往がある。
   症状 息苦しさ    
   処置 水分摂取
   転帰 家庭内で経過観察

   ◎事例7 【原因製品:有機リン含有殺虫剤(粒剤タイプ)】    患者 53 歳 男性
   状況 室内に置いてある観葉植物の鉢8個に粒状の殺虫剤を散布した。効果がなかったので、
   1週間後に再度散布した。メーカーへ問い合わせたところ、観葉植物を室外に出すように
   アドバイスされた。
   症状 息苦しさ、頭痛、眼の違和感・痛み、不眠[2週間後出現]
   処置、転帰 不明
★洗浄剤及びパイプ洗浄剤、漂白剤
@ 洗浄剤(住宅用・家具用)
 洗浄剤 294 件の用途別では、カビ取り用121件、排水パイプ用44件、住宅・家具用 33件、トイレ用34 件、浴室用24件、洗濯槽用14件、成分別では次亜塩素酸系が195件(うち酸との混合による塩素ガス発生事例が13 件)でした。形態別ではポンプ式スプレーが164件と多いでした。
A洗剤(洗濯用・台所用)
 洗剤 53 件で形態別では、液体37件(うちパック型 11 件)、粉末9件、ポンプ式スプレー6件、固形1件でした。また、つめ替え用製品による事故が9件ありました。
B漂白剤に関する事例は 123 件(有症率 63.4%)で、成分別では、次亜塩素酸系が115 件と最も多く、形態別では液体が80件、ポンプ式スプレーが39 件でした。
 酸との混合で発生した塩素ガスを吸入したと考えられる事例は9件(洗浄剤とあわせると 22 件)ありました。
   ◎事例8 【原因製品:カビ取り用洗浄剤(塩素系)】      患者 34 歳 男性
   状況 換気扇と窓のない浴室でドアを閉めて、マスク、手袋、メガネをして
   ポンプ式スプレータイプの塩素系カビ取り用洗浄剤を 1 本全量噴射した。
   しばらくして水洗したが、途中で苦しくなり中止した。合わせて10 分程度浴室にいて吸入した。
   症状 息苦しさ、咳、喘鳴、鼻水、嘔吐、めまい、流涙    
   処置 新鮮な空気下に移動、安静
   転帰 家庭内で経過観察、4時間程度で改善

   ◎事例9 【原因製品:カビ取り用洗浄剤(塩素系)/浴室用洗剤(酸性タイプ)】
   患者 36 歳 女性
   状況 浴室の排水口にポンプ式スプレータイプの塩素系カビ取り用洗浄剤を10 回程度噴射し、
   水洗せずに酸性のポンプ式スプレータイプの浴室用洗剤を排水口に噴射してスポンジでこすった。
   換気しておらず、直後に異臭がした。
   症状 喉の痛み  処置 水洗(手)、室内の換気
   転帰 家庭内で経過観察

   ◎事例10 【原因製品:漂白剤(塩素系)/住宅・家具用洗剤(クエン酸)】
   患者 58 歳 女性
   状況 洗面器に入れたクエン酸の溶解液にタオルを浸けて洗った。汚れが落ちなかったので、
   クエン酸の溶解液に塩素系漂白剤を注いだところ、気分が悪くなった。
   症状 悪心、嘔吐、腹痛、下痢、めまい、頭重感
   処置 室内の換気  転帰 家庭内で経過観察

   ◎事例11 【原因製品:漂白剤(塩素系)】患者 32 歳 女性
   状況 家族間のウイルス感染予防のため、トイレの床などあちこちにポンプ式スプレータイプの
   塩素系漂白剤を噴射して拭き取った。室内の換気はしておらず、途中から強い臭いがして
   気分が悪くなった。
   症状 悪心       処置 室内の換気
   転帰 家庭内で経過観察

   ◎事例12 【原因製品:漂白剤(塩素系)】 患者 42 歳 男性
   状況 窓がなく、換気扇をつけた浴室で、塩素系漂白剤の原液をタワシにつけて、
   カビが生えた箇所を 10 分程度こすった。マスクや手袋、メガネはしていなかった。
   症状 悪心、眼の痛み、眼瞼の痛み・痒み
   処置 洗眼、水洗(顔、手)、室内の換気
   転帰 家庭内で経過観察、1時間程度で改善

   ◎事例13 【原因製品:漂白剤(塩素系)】 患者 65 歳 女性
   状況 台所で塩素系漂白剤の希釈液に布巾を浸けて置いていた。誤って上から熱湯に近い
   野菜のゆで汁を注いでしまい、蒸気を吸入した。
   症状 頭重感
   処置 なし
   転帰 家庭内で経過観察
★芳香・消臭・脱臭剤、防水スプレー、除菌剤、忌避剤
 芳香・消臭・脱臭剤では、前年13件増の90件(有症率65.6%)で、エアゾル型が36件、ポンプ式スプレーが20件、また、自動噴射型芳香剤は16件ありました。エアゾール缶の廃棄時に缶に残った薬剤が噴出した事例や、滴下容器に入った芳香剤を間違えて点眼してしまった事例もみられました。
 防水スプレー被害は、前年17件減の55件(有症率 69.1%)あり、製品別では靴用の製品が25件、衣類用7件、衣類・靴両用10件)でした。
 除菌剤については、前年4件増の59 件(有症率57.6%)で、成分別では、アルコール系が29件、二酸化塩素系20件、次亜塩素系9件でした。
 忌避剤に関する事例は 30 件(有症率 76.7%)で、製品形態は、スプレータイプ、設置タイプ、シー トタイプ等の様々でしたが、成分別の件数は記載がありませんでした。また、香害の原因のひとつ柔軟剤については、事例がなく、『においへの感受性が高い人に配慮し、使用する際は表示を参照し使用方法・使用量を守ることをお願いする』との決まり文句があるだけでした。
   ◎事例14 【原因製品:昆虫忌避剤(衣類用、スプレータイプ、ディート・メントール含有)】
   患者 2歳 男児
   状況 高いところにあった衣類用のポンプ式スプレータイプの虫よけ剤を、子どもがイスに
   乗って取り、自分の顔に向けて噴射し眼や口に入った。
   症状 眼の充血   処置 洗眼、水分摂取
   転帰 家庭内で経過観察、2日程度持続

作成:2018-04-30