飲酒パターンの多様性、アルコール肝毒性に対する個人の感受性、また多くの種類の肝組織障害が、非常に多様な臨床像を作り上げる。肝臓に関連した症状は長期間出現しない。一般的に症状は摂取されたアルコール量と、アルコールの総乱用期間に関係している。ガイドラインとしての症状は、通常、患者の30代で明らかとなり、40代著しい症状が出現する傾向がある。
脂肪肝の患者は通常無症状である。33%の症例で肝臓は腫大し、触診上滑らかでときに圧痛がある。ルーチンの生化学検査はしばしば正常範囲である;γグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)は上昇することが多い。クモ状血管腫と、アルコール症自体に起因する高エストロゲンや低アンドロゲンによる病状が明らかになる。
アルコール性肝炎は臨床的に疑われるが、診断は生検試料の検査に基づく。組織学的病変は、様々な臨床像を呈するアルコール性肝炎の全てにおいてみられる。アルコール性肝炎の患者は、疲労、発熱、黄疸、右上腹部痛、肝臓の雑音、圧痛性肝腫大、白血球増加症などの症状を示すが、これらは敗血症、胆嚢炎、機械的肝外胆管閉塞などでもみられる。 肝硬変もまた比較的無症状のこともあれば、アルコール性肝炎の症状、あるいは合併症主体のこともある。:脾腫大を伴う門脈圧亢進症、腹水、肝腎症候群、肝性脳症や肝癌への進行さえある。
ルーチンの血液検査や生化学検査は、ときとして診断を示唆することもあるが、一般に非特異的で確定診断に至らない。アルコール性肝疾患では、種々の赤血球形態異常がみられ、的状赤血球、大赤血球、拍車状赤血球、口唇状赤血球などである。平均赤血球容積(MCV)は通常上昇し、飲酒をやめてからゆっくりと正常に戻るので、アルコール乱用の有用なマーカーになる。血小板減少症も一般的にみられ、これはアルコールの骨髄に対する直接毒性による場合も、脾種による二次的なものもある。
アルコール性肝炎ではトランスアミナーゼのレベルは中程度上昇する(約250U/L)。抱合型ビリルビン血症は入院中増強する。血清ALTの活性は(ピリドキサル5’-リン酸の低下によって)、血清ASTに比して、抑制される(AST:ALT比が2以上)。血清GGT活性はアルコール摂取の検出に役立つ。GGTの価値は、その特異性にはないが、過剰のアルコール摂取やアルコール性肝疾患患者で顕著に上昇することにある。MCV,GGTおよびアルカリホスファターゼが慢性のアルコール乱用を同定するには、最もよい組み合わせのルーチン検査である。肝臓のスキャンや、超音波検査はときに役に立つ。肝生検(37章参照)は、特にアルコール性肝炎において確定診断を可能にする唯一の方法である。飲酒家においても、他の型の肝疾患をみる。
予後と治療
禁酒により、線維化を伴わない肝損傷は可逆的に改善し、アルコール性肝炎、線維化、また肝硬変の患者の生存率も改善する。アルコール性肝炎の重症度は線維化と肝細胞壊死の程度によって決定されると考えられている。硬化性ヒアリン壊死の可逆性については知られていない。
理論的にはアルコール性肝疾患の治療は単純明快であるが、その実施は難しい:患者はアルコール摂取をやめなければならない。アルコールによる病気の憎悪、社会的に不利な結果(失業、家庭崩壊など)、そして信頼関係を築いた医師による事実の精査の後、多くの患者は飲酒をやめる。患者に、アルコール性肝疾患によって生じた損傷の多くは可逆的であるということを知らせるのも効果がある。他の場合、治療は非特異的な患者の保護看護に絞って行う。急激な脱アルコールの場合、患者の保護看護、水や電解質のバランス、鎮静剤〔例、ベンゾジアゼピン)投与など、離脱症状の程度に応じた注意深い管理が大切である。高度の肝疾患に対して過剰の鎮静薬を与えると肝性脳症を促進することがある。
|