ダイオキシンにもどる
t08601#「所沢産野菜汚染問題」への緊急アピールと農水省への要望−日本の野菜のダイオキシン汚染レベルは、本当に安全なのか#99-02
 テレビ朝日の所沢産野菜から高濃度のダイオキシン検出という報道に端を発し、農作物のダイオキシン汚染問題がにわかにクローズアップされてきました。ここ数日の新聞、テレビ、週刊誌などの論調は、「所沢産をはじめ日本の野菜の安全性に問題はない」「ダイオキシンの危険性は誇張されてきた」との共通した認識にあり、廃棄物処理施設の焼却炉から検出された高濃度のダイオキシン測定結果や野菜についてのダイオキシン分析結果を保有しながら隠してきた所沢市やJA所沢市の不公正さを棚に上げて、この問題のきっかけを作った「ニュースステーション」と久米宏キャスターへの非難がなされています。
 たしかに、「野菜でない葉っぱもの」というのが何かを明らかにしないまま報道するテレビ局も誤解を生じるもとを作りましたが、問題の本質は「所沢産を初めとして、日本の野菜は本当に安全なのか」「ダイオキシン汚染の恐怖は強調され過ぎているのか」という点にあり、いつの間にか、農作物のダイオキシン問題が特定のテレビ局の報道内容批判に矮小化されているといわざるを得ません。
 要は、農作物のダイオキシン汚染源として、もっとも疑わしい産業廃棄物焼却炉を止めることが最大の課題であり、これを機会に、地元で汚染防止の実効ある成果が得られることと同時に、日本中で起こっている産業廃棄物焼却炉の解決に一歩でも近づくような報道がなされることを願ってやみません。

★農作物のダイオキシン基準を決めても、問題は解決しない
 野菜のダイオキシン調査についてJA所沢市は、データ隠しは利ならずとみたのでしょうか、自分達が行なった数値を公表しましたが、その際、「いますぐに健康に影響があらわれる数値ではない」とか「国の基準がない現状で、数値の評価がむずかしい」などという弁明がとびだしています。
 すぐに目に見える健康被害がおこったら、大変なことになっているでしょう。問題は、pptレベルにダイオキシン汚染した食品を食べ続けることにより、人体への蓄積がおこり、母乳に高い濃度で濃縮されるという事態になっていることにあるのです。いま、体重あたりのダイオキシン摂取量がもっとも多いのは、赤ちゃんであり、そのため、母乳保育の是非までもが論議されているわけです。次節の表の最下段に示した母乳の値が、TEQでハイリスクといわれる魚介類に匹敵した汚染値であることは、憂慮すべきことで、ダイオキシンの毒性が問題となるのは、まさにここにあります。
 厚生省はなんらかのダイオキシンの摂取基準を示すといっていますが、産地別出荷毎にダイオキシンの分析結果をつけて販売することができない以上、個々の農作物や食品の含有基準をきめても実際上意味がありません。
 非意図的に起こる、農作物のダイオキシン汚染は、農薬の場合のように個々の農作物について残留基準を決めて、規制することではなく、汚染農耕地での農業・酪農業の規制を行なうことにあると思います。
 すでに、ダイオキシンが一般環境中に検出されている現状では、農作物汚染は避けえません。発生源を断ち、汚染量をできるだけ少なくすることしか道は残されていません。

★ダイオキシン汚染度のもっとも高い食品群は緑黄色野菜だ
 表をみてください。東京都衛生局の98年度の食品からのダイオキシン類調査結果を食品群別に示したものです。この調査は、トータルダイエット方式で行なわれ、約140品目の食品が都内の市場又は小売店で購入された後、13の食品群に大別、各群ごとに均一混合したものを試料として分析に供せられました。報告のまとめでは、平均的住民の場合、コプラナーPCBを含むダイオキシン総摂取量は、TEQで158pg/日となっており、体重50kgの人の一日摂取量は3.16pg/kgで、環境庁のTDI以下になることが強調されています。また、食品群別の摂取比率は、第10群(魚介類)が76.2%で、もっとも大きく、ついで、第7群(緑黄色野菜)が9.5%、第11群(肉・卵)が7.4%となっており、魚をたくさん食べる人がハイリスクにあり、野菜からのダイオキシンの取り込みは少ないとの定説を、この結果は支持しているようです。
 しかし、ダイオキシン全体の汚染度をダイオキシン異性体総量の観点からみると、別の様相がみえてきます。表には、TEQ算出の元になった7種のダイオキシン、10種のジベンゾフラン、3種のPCBの各合計量とその全合計量を示してあります(ほんとうは、20種の異性体全部の数値を示すべきなのですが、紙面の都合上かんべんしてください)。これをみると、ダイオキシン類合計値(DD+DF+PCB)が最も高いのは、第7群の緑黄色野菜で39.58pptあることがわかります。コプラナーPCBを除くDDとDFの合計では、緑黄色野菜群の濃度は39.3pptであり、第10群の魚介類の1.186pptの30倍以上あるのです。全TEQが魚介類で高くなるのは、2,3,7,8−四塩化ダイオキシンと比較した毒性等価係数の高い五塩化ジベンゾフランとコプラナーPCBが多いせいであり、緑黄色野菜のダイオキシン・ジベンゾフランは、毒性等価係数の低い七、八塩化物が多いからなのです。
 しかし、野菜に多く含まれるダイオキシン異性体の毒性が明らかでないため、現在のところ、人の健康にどのような影響を与えるか評価できないまま、TEQの数値のみがひとり歩きしているのです。
 産地の局所的ダイオキシン汚染状況により、個々の食品の汚染度はかわるしょうが、一般的にいえば、コプラナーPCBを除く総ダイオキシン量がダントツに高い食品群は、緑黄色野菜であるという事実を重く考えねばならないと思います。
表 1998年度食品・母乳中のダイオキシン類濃度調査結果<
(単位:ppt、出典:東京都衛生局、DDはダイオキシン類、DFはジベンゾフラン類)

化合物名       DD7種  DF10種    PCB3種  DD+DF+PCB DD+DF+PCB 
                                   合計     合計TEQ換算
1群(米)         1.22     ND        0.67     1.89     0.002635 
2群(雑穀・いも) 1.76     0.70      3.09     5.55     0.02714  
3群(砂糖・菓子) 9.14     0.93      0.737   10.807    0.02648  
4群(油脂)       4.94     4.61      0.82    10.37     0.046745 
5群(豆)         0.68     0.60      1.0      2.28     0.00295  
6群(果実)       0.29     ND        0.28     0.57     0.00043  
7群(緑黄色野菜)17.0     22.3       0.284   39.584    0.13851  
8群(他の野菜)   0.77     0.14      0.13     1.04     0.003675 
9群(嗜好品)     0.35     ND        0.15     0.5      0.000425 
10群(魚介類)    0.086    1.10     29.5     30.686    1.369    
11群(肉・卵)    1.74     0.15      4.32     6.21     0.1064   
12群(乳・乳製品)0.46     0.11      0.20     0.77     0.00283  
13群(その他)    3.13     1.98      0.99     6.1      0.0345   
14群(飲料水)    ND       ND        0.0035   0.0035   0.000002 
母乳(全)                                             1.07     
★農水省は農薬中のダイオキシン含有量を明らかにせよ
 所沢問題を契機に、農水省が、農作物中のダイオキシン調査に乗り出しています。野菜のダイオキシン汚染の原因が農薬にあるか、ゴミ焼却施設にあるかなど発生源別の寄与率は、異性体分布をきちんと測定すれば、ある程度科学的に解明できるでしょう。
 厚生省の野菜類のダイオキシン類分析結果では、0〜0.43pgTEQ/gというデータの幅があるわけで、野菜の種類を知った上で、検出値が高いのはなぜか。ゼロのところがあるとすれば、それは、なぜか、などを明かにすることは、ダイオキシン汚染をゼロに近づけることに役立ちます。そのためには、バックグラウンドになる汚染の状況を知ることが、第一歩であり、多くのデータの蓄積と解析が必要となります。
 農作物の場合、ダイオキシン汚染の原因のひとつとして農薬があげられ、農薬中のダイオキシン含有量を知ることが不可欠です。わたしたちは、いままでも、再三、農薬中のダイオキシン含有量を明かにするよう、農水省に要請してきましたが、企業秘密ということで、いまだ、公表されていない状況がつづいています。
 農水省が問題ないとと判断していた殺菌剤PCNBに有害なダイオキシンが含有されていることが、環境庁によって明かにされたのは、97年の春でした。このことがきっかけで、メーカーの三井東圧は製造をやめました。同じメーカーの水田除草剤CNPについては、この1月横浜国立大学の益永さんらの研究により、含有されるダイオキシン量が除草剤の製造年によって違うことが報告されています。
 農水省は、すでに、25年以上も前から、農薬製剤に含有される成分に関して、資料(A)−略−にあげたような通達をだし、メーカーが農薬登録又は再登録の際に提出する文書中に不純物の含有量を示すよう求めています。また、農薬工業会も傘下の会員に、資料(B)−略−のような、より詳しい書類の記載方法を通知しています。この不純物には、当然、ダイオキシンがはいっているはずですし、農水省は、問題でとなる農薬が何かを十分知っていると思われるのです。
 そこで、当グループでは、今回、新たに、以下のような要請文を農水省に送り、回答を求めることにしました。農水省への要請文
★資料−以下略−
(A)農水省通達「農薬成分に関する登録検査上の取扱いについて」(48農蚕第6359号:1973年10月24日)
(B)農薬工業会「農薬成分に関する登録検査上の取扱いについて」(農薬工第48−134号:1973年11月2日)の抜粋

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作成:1999-02-28