ダイオキシンにもどる
t09202#埼玉県幸手市の倉庫火災の「安全宣言」は本当か−ダイオキシン環境調査結果から#99-08
6月に起こった「ダイセーロジスティクス」の倉庫火災で、被災した製品については前号に詳述しましたが、その中に、ハロゲン系化合物として、有機塩素系共力剤S−421が347kgと有機臭素系殺虫剤トラロメトリンが21kgありました(前号記事へ)。
これらは、塩素や臭素を含む化合物であるため、火災の際にダイオキシンが生成する恐れがあります。メーカーのアース製薬によれば、前者の塩素量は約260kg、後者の臭素量は約10kgであったということです。私たちは、同社にS−421やトラロメトリンそのもの及び殺虫剤製品を酸素不在下で加熱した場合、及び空気中で燃焼させた場合、どのような化合物ができるか−特に、塩化又は臭化ダイオキシン類の発生の有無−を問い合わせましたが、満足の行く回答は得られていません。
このほど、埼玉県から、下表のような火災に伴なうダイオキシン類の環境調査結果が送付されてきました。公表された数値はTEQ値のみで、隣接地の土壌中のダイオキシン濃度が他に比べて高いということくらいで、有機塩素系の殺虫剤の火災への影響がどの程度のものであるかはっきりわかりません。
県の結論は、「今回の火災によるダイオキシン類の周辺環境への影響は、特に問題となるレベルではないと考えられる。」となっていますので、火災でダイオキシンが全く発生しなかったのかと思えば、さにあらず、ダイオキシンの異性体・同族体の構成比を調べると、隣接地の土壌には、燃焼灰の影響が認められたとも述べられています。TEQ値だけをみていると、ダイオキシン汚染の真実が隠されてしまうので、環境分析結果の詳細を明かにするよう県の担当部局に要請中です。それにしても、火災現場のダイオキシンを含む灰の処理はどのようにしてなされたのでしょうか。
表 倉庫火災に伴なうダイオキシン環境調査結果
試料 現場からの距離 ダイオキシン類濃度
土壌 隣接地 35(37),36(38) pgTEQ/g
土壌 風下350m 6.2(6.4)
土壌 風下1.6km 14(15)
大気 西150m 0.15(0.17) pgTEQ/m3
大気 北350m 0.27(0.30)
大気 北西2.3km 0.16(0.17)
()値は、ダイオキシンとコプラナーPCBの合計値
★S−421の毒性試験結果や燃焼実験結果らを明かに
S−421は下図のように8個の塩素原子(Cl)を含む有機塩素系エーテル化合物ですが、ピレスロイド系殺虫剤やシロアリ防除剤の共力剤として多用されているため、室内空気の汚染や母乳汚染が明になっており、この薬剤の毒性が懸念されています。神奈川県衛生研究所の研究では、S−421に変異原性があることが明かになっていますが、メーカーの三共化成工業が残留農薬研究所で実施した慢性毒性試験結果の詳細は公表されていません。
ClClH H ClCl
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Cl-C-C-C-O-C-C-C-Cl
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ClH H H H Cl
ところで、前号で報告したようにS−421の環境汚染は、すべて検出限界(水質1000ng/L、土壌40ppb)以下という結果がだされています。しかし、すでに、大阪府立公衆衛生研究所の吉田らによるS−421の一般環境汚染の実態をみると、河川水では3.2〜11.7ng/L、雨水では、ND〜3.7ng/L、河川・海の底質から1.5〜3.2ng/g(=ppb)のS−421が検出されています(「衛生化学」42巻p−529)。従って、埼玉県のような調査では、検出限界が高すぎて、火災による環境への影響を正しく判断することができません。
それだけはありません。S−421の燃焼によりどのような物質が生成するか、よくわかっていないという問題点があります。
アース製薬が化学品検査協会の実験結果として明かにしているS−421の熱分解生成物の中には、塩ビモノマーの原料となるEDCやトリクロロエチレン、その他塩素含有の飽和及び不飽和エーテルやアルコール化合物が多種認められただけでなく、環化したベンゼンやモノクロロベンゼンもみつかっています。S−421のみの燃焼によって、ダイオキシンが生成することが、十分考えられるだけでなく、ベンゼン環をもつピレスロイド系殺虫剤と共に使われるわけですから、殺虫剤製品が燃えると一層、ダイオキシンが生成する危険が増すと思われますが、メーカーはこのような燃焼試験を実施することは、頭にないようです。また、ピレスロイド−S421系製剤は、シロアリ防除剤にとしても使用されていますので、その処理木材を焼却した場合のダイオキシン類の発生も心配されます。今回の火災事故を契機に、S−421やトラロメトリンやそれらを含む製剤の毒性や燃焼生成物の情報明かにしていく必要があります。
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作成:1999-08-27