街の農薬汚染にもどる
t10105#反農薬アドバイスHユスリカ対策にBT菌をまいていいんですか#00-04
【質問】愛媛県松山市や神奈川県の相模原市で、ユスリカ対策のため河川にBT菌をまいており、生態学の研究者が問題視しているという新聞記事をみました。遺伝子組換えのBTコーンも問題となっていますが、環境や人の健康に影響はないのでしょうか。

【答え】
★BT菌ってどんなもの
 BTというのはバチリス・チューリゲンシスという細菌の略称です。この菌が産出する毒素が、ある種昆虫の幼虫の消化器に作用し、殺虫剤効果があらわれるとされています。
 農薬として登録されたBT菌は、ヨトウムシやアメリカシロヒトリなど鱗翅目である蛾の幼虫を殺すための殺虫剤で、生菌とこれを殺菌した死菌を使用する二種があります。
 BT菌の毒素は人の食中毒の原因となるバチルス・セレウス菌の産生する毒素と類似しているため、特に生菌の自然界への散布には注意を要すると考えられ、メーカーは88年から製造を自主規制していたことがあります(結局、人への影響なしとして、92年に規制が解除された)。
 また、BT菌の毒素を作り出す遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え作物が次々開発され、実際にも栽培されていますが、このような作物を食べた人の健康に問題は生じないかということのほかに、自然界で、駆除対象の害虫以外の昆虫に影響がでる恐れのため、栽培を許可しない国や栽培面積を規制する国もあります。さらに、BT剤に耐性を有する虫の出現も報告され、遺伝子組換え作物が万能では、ないことが明かになりつつあります。

★不快害虫ユスリカの殺虫剤は法規制を受けない
 ユスリカ退治にBT生菌を散布することを問題視している国立環境研究所の五箇公一さんに尋ねるたところでは、今回の菌はアメリカで開発されたBT菌の亜種イスラエレンシス菌(BTI)で、農薬登録されたものとは異なる種類とのことで、いままでの菌では、鱗翅目しか効果がなかったのに対して、BTI菌では、ハエ・カ・ユスリカなどの双翅目の昆虫に効き目があるとの話しです。
 ユスリカは、カに似ていますが、吸血することはなく、衛生害虫の範疇には入りません。幼虫は水生又は陸生ですが、大量に発生すると、人の顔前を飛び回り、わずらわしいため、アリやヤスデと同じ不快害虫ということになります。したがって、ユスリカを殺す薬剤は、農薬取締法も薬事法の適用も受けず、いわば、法規制のかからない野放し状態にあります。この点は、シロアリ防除剤と同じですね。
 いままで、ユスリカを退治するには、昆虫の神経毒である有機リン剤(スミチオン、ほか)が多く用いられてきましたが、有機リンはヒトに対しても昆虫と同じ作用機構で毒性を示すこと、また、昆虫に耐性ができ、散布濃度を高めないと効果が現われなくなることなどから、他の薬剤にかえる動きがでてきているのです。
 五箇さんは、BT菌というのは、その辺の土壌中にも水中にもうようよしている常在菌の一種で、人間が口にするからといって、その菌が直接毒性を発揮するということはまずあり得ませんといっておられますが、ユスリカ対策のBTI菌が、抵抗力の弱い人に対して、ほんとうに無害であるかどうか気にかかるところです。
 この菌の川での放流使用について、五箇さんは、次の点で問題ありとされています。アメリカ産の生きている菌をばらまいてしまうことによる生態影響が心配される。生態系にどういう影響が及ぶかを事前評価なしに使うのはまずいだろう。何の審査もせず、殺虫剤として適用したことが一番まずい。シロアリ駆除で砒素が使われているのと同じような状況で、どこの法律にも引っかからない、行政のどこの部署の担当にも引っかからないという状況で使われているということが、非常に問題であるとも話しておられました。
 今後、ユスリカだけでなく、薬事法の対象であるハエ・カに適用されることも、充分考えられます。この薬剤を輸入・販売している業者は、法規制のないユスリカで野外実験をして、これによって毒性や環境への影響に関するデータを得た上で、薬事法に基づく公衆衛生用薬への適用を狙っていると思われます。このような人の健康や生態系への影響について安全性の確認のない殺虫剤の使用はすぐにやめるべきです。
注:BTI菌製剤は、アメリカでは、Bactimos, Mosquito Attack, Skeetal, Teknar,Vectobacという商品名で販売されています。

★環境ホルモンの疑いがあるメトプレンも要注意
 有機リン剤に替わるもうひとつの薬剤として、ヒトには影響をあたえないとう宣伝文句で、第四世代農薬といわれる昆虫成育制御剤(IGR)の一種メトプレン(アース・バイオケミカル製「アルトシッド10F」)が、ハエ・カ駆除用に使われることもあります。この薬剤はカエルの四肢奇形の原因のひとつではないかと考えられており、注意を要します(てんとう虫情報59号77号参照)。

購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2000-05-28