街の農薬汚染にもどる
t10703#「街路樹等の病害虫防除における農薬の適正使用に関するアンケート」結果#00-10
【T】はじめに
★自治体が行う殺虫剤散布
 反農薬東京グループは生活環境における殺虫剤などの安易な散布に反対して運動してきました。特に自治体による散布は個人の散布に比較して大規模で、個人で避けることができない面があり、化学物質に弱い人にとっては非常な苦しみになっています。
 自治体が生活環境に殺虫剤などを散布する場面には
 @ハエ・カなど衛生害虫を対象に町内会での散布、薬剤配布、側溝や雨水ますなど
    への殺虫剤散布。
 A樹木のアメリカシロヒトリなどを対象に行う殺虫剤散布。街路樹、学校、保育園、
    自治体管理の施設などあらゆる樹木に散布されます。
 B特定建築物やそれに準ずる施設などのネズミ、ゴキブリなどの駆除を目的に室内
   で行う殺虫剤などの散布。学校、保育園など小さな子どものいる場所での散布も
   行われています。
 Cユスリカなどの不快害虫退治のために川などへ殺虫剤散布。
 Dスズメバチなどの危険な昆虫の退治で殺虫剤散布。
などがあります。

★98年の衛生害虫駆除アンケート調査
 反農薬東京グループは1998年に@の衛生害虫駆除のための殺虫剤散布に関して、東京都下63区市町村にアンケート調査を行いました。回収率100%。97年度で衛生害虫駆除をしなかった自治体は26(41%)ありました。これらの自治体は実施をしないことによる不都合はないと回答しています。残りの37自治体は最高7000万円の費用をかけて町内会などに薬剤配布をしたり、業者に委託して散布していました(詳細は資料集)。
 この調査に触発されて98年度には東京都が同じような調査を行いました。(回収率90%)その結果、町内会などに薬剤を配布した自治体は32から21(33%)に減少していました。しかし、業者委託などで自治体が駆除しているのは39あり、私たちの調査より2自治体が増えています。全体的に見て東京都の衛生害虫駆除は少しは改善されたようです。

★今回の調査に至る経緯
 2000年になって金沢市におけるアメリカシロヒトリ駆除が問題になりました。市民団体の「サスティンナブル金沢」の調査によりますと、金沢市では実に1億円もかけて市内一円の樹木に町内会がディプテレックス乳剤を散布していました。
 金沢市での散布反対運動の中で、市町村のアメリカシロヒトリ駆除事業で、全国的に薬剤の希釈倍数や散布方法など使用上の注意が守られていないことが明らかになりました。
 6月に反農薬東京グループは農水省に対して、実例を挙げて指導するよう申し入れた結果、農水省農薬対策室は7月11日付けで「農薬の適正使用の徹底について」という文書を出しました(記事t10401)。
 一歩前進とも言えますが、この通知が実際に散布を行っている区市町村に届くのか、届いたとしてもその内容が曖昧なためどれだけ理解され、改善に生かされるのか非常に疑問がありました。現に、県段階でこの通知を握りつぶしているところさえいくつかあったのです。
 反農薬東京グループは、東京都がこの通知を送付した区市町村の担当課に対して、樹木への殺虫剤散布の実態や、通知がどのように理解され、改善に向けてどのような動きがあるのか調査することにしました。
 噴火によって島民が避難している三宅村を除き、8月22日付けで都下62自治体にアンケート票を送りました。回答期限は9月7日でしたが、9月中に全ての自治体から回答が届きました。快くご協力いただいた自治体に感謝します。中には「アンケートには答える必要がない」と回答を拒否した区も一つありましたが、最終的にそこも回答し、回収率は100%になりました。

★事業として農薬散布を行なっていないのは5自治体(8%)
東京都下62区市町村の中で、農薬を散布していないと答えたのは5町村に過ぎず、残り57区市町村は散布していると答え、圧倒的多数の自治体が実施していることがわかりました。

【U】調査結果から見えた問題点
★樹木への殺虫剤散布の特徴−同じ自治体でも担当課によってバラバラ
 衛生害虫駆除と違い、樹木害虫駆除の殺虫剤散布は、管理される樹木が様々な場所にあるため担当部署も多岐に渡り、回答に苦労した様子がうかがえました。アンケート用紙一枚だけの回答もありましたが、中には一つの自治体で最高11箇所の担当課が回答してきたところがあります。おそらく国や都の通知を丁寧に関係ある課に配布し、注意を促しているのでしょう。多くの自治体は2つ以上の課から回答がありました。同じ自治体でも担当する課によって対応がまるっきり違っているところもあり、自治体としての統一した対応はなされていないと言えましょう。
 同じサクラの木でも保育園にあるサクラはディプテレックス乳剤1500倍液を散布し、隣の中学校ではスミチオン乳剤1000倍液を撒き、街路樹の散布はディプテレックス乳剤1000倍で、散布のお知らせも中学校では周辺住民に知らせたけれども、街路樹の時には知らせなかった、立て札も立入禁止もあったりなかったりという場面も有り得るわけです。
 このように管理される樹木が縦割りになっているのは非常に不都合です。担当も専門家は少なく、毎年やっているからと安易な薬剤散布に頼り、結局は業者任せになってしまいます。樹木管理を統一して専門家を育て、自治体が主導性をもって環境にやさしい樹木管理に改めるべきでょう。

★農薬が乾けば安全というが−直接浴びなくても揮発した農薬を吸い込む危険
 安全対策に関する回答で「2、3時間で乾くので安全」「農薬が乾くまで監視している」というのが6自治体(墨田区、渋谷区、八王子市、府中市、あきる野市、日ノ出町)からありました。
 農薬散布液が直接ヒトにかからなければいいということでしょうが、乾いた後も大気中に揮発し、それを吸い込むことで健康被害が出ています。乾けば大丈夫などと、どのようなデータを持って言うのでしょうか。安全だというのならば、散布後、2、3日の大気中の農薬濃度を測るべきです。

★最低一日の立入禁止−立入禁止出来ないのなら散布をやめるべき
 ディプテレックス乳剤の使用上の注意には「公園、堤とうなどで使用する場合、関係者以外は作業現場に近づかせない。小児、居住者、通行人、家畜などに留意する。散布後(最小限その当日)も散布区域に縄囲いや立て札をたれ、立ち入らせない」という項目があります。
 しかし、この注意を知らない自治体が多いようです。回答に「そのような記載はない」としてきた自治体が複数ありました。メーカー(三共)に問い合わせると、この項目は最近になって書かれたもので、古いものには書かれていないとのことです。自治体は常に最新情報に基づいて事業を行なうべきです。メーカーが使用上の注意として立入禁止を明記し、農水省が「使用上の注意を守れ」と通達を出しているわけですから、万一、事故が起こった場合には立入禁止措置をとらなかった自治体が責任を問われることになっています。最近のレジオネラ菌による中毒死に対する判決例にもあるように知らないということが罪になる場合もあります。
 しかし、メーカーによると、ディプテレックス乳剤の有効期限は3年で、新しい注意事項はそれ以後書かれているので、書かれていないディプテレックス乳剤を使用してもかまわないとのことです。その場合、立入禁止にしないで事故が起こった場合、メーカーが責任をとるのでしょうか。メーカーは注意事項を書き換えたら、それを全国民に周知しなければ、事故が起こった場合、責任はメーカーにあると言えるのではないでしょうか。

★夜間散布の危険−昼間散布できない場所は夜も危険
 回答の中で「夜間に散布するから安全」とする自治体が区部に3箇所(港区、文京区、荒川区)ありました。昼間の散布ができない商店街の街路樹などで行うようです。しかし、夜農薬を散布して果たして安全でしょうか。
 深夜の農薬散布といわれて、まず、第一に思い出されるのが松本サリン事件です。窓を開けて眠っていた人々に致死性のガスが襲いました。自治体が散布する農薬はサリンほどの急性毒性はありませんが、喘息などのアレルギー患者、化学物質過敏症患者など化学物質に弱い人にとっては非常な苦しみを与えるでしょう。
 また、洗濯物を夜出しっぱなしにする人もいるでしょうし、犬の散歩やジョギングなど深夜に外出する人も多いでしょう。決して人通りがゼロになるわけではありません。昼間に比較して散布しているのがわかりにくく、農薬を直接かぶる人もいるでしょう。昼間できないような場所での農薬散布はやめるべきです。

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作成:2000-10-24