「生活環境で使用する殺虫剤等の規制に関する法律」関係にもどる
t10901#「既存の法律では被害救えない」行政も認める−第二回ヒヤリングで明らかに#00-12
「生活環境における有害化学物質規制を考える議員と市民の会」は10月の第一回シンポジウムに続き、11月29日、参議院議員会館で第二回目のヒアリングを開催しました。ヒアリングには呼びかけ人国会議員、市民、行政、報道関係者など約50人が参加しました。
今回のテーマは「現行法の問題点」で、さまざまな化学物質規制法の行政の担当者と話し合い、何故、これほど被害者がでているのに法律で規制できないかを明らかにすることでした。
−中略−
★化学物質の規制に関する法律
このヒアリングを前に、各省庁の化学物質規制に係わる法律を担当する部署にあらかじめ法律の概要を知らせてもらっていました。調査した法律は化学物質の規制に関する法律16、化学物質の使用を求めた法律7、その他1の24でした。
<規制に関わる法律>
1《化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)》
2《毒物及び劇物取締法(毒劇法)》
3《農薬取締法(農取法)》
4《薬事法》
5《有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律》
6《労働安全衛生法(労安法)》
7《食品衛生法》
8《水質汚濁防止法(水濁法)》
9《水道法》
10《大気汚染防止法(大防法)》
11《特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善促進に関する法律(PRTR法)
12《廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)》
13《特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律》
14《環境基本法》
15《消防法》 「危険物の規制に関する政令」と「危険物の規制に関する規則」
16化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律
<使用推進の法律>
1《建築基準法》
2《建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル衛生管理法)》
3《植物防疫法》
4《感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律》
5《森林病害虫等防除法》
6《日本農林規格》
7《道路運送法》 「旅客自動車運送事業等運輸規則」
<その他>
《建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設資材再資源化法)》
<法の目的に「生活環境」という言葉を使用している法律> 7
農薬取締法、水道法、水質汚濁防止法、大気汚染防止法、
廃棄物の処理及び清掃に関する法律、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律、
特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律
−中略−
★ゴキブリ駆除で被害を受けても対応できない
まず、室内で使用するゴキブリ駆除剤による被害について聞きました。
【質問】ゴキブリ駆除剤による被害例は3つある。@寮の厨房(室内)にゴキブリ駆除のための薬剤を散布され、業者から安全といわれたため1時間後に入室し、そのまま7時間とどまった。有機リン中毒の診断。後遺症で今も苦しんでいる。仕事も失った。A北海道静内町の老人ホームでゴキブリ駆除にビニールハウス用の農薬を散布し、45人が健康被害が受けている。B特別養護老人ホームや障害者福祉施設で殺虫剤の誤飲事故が起こっている。
こういう事例についてどのような法的規制ができるのか、厚生省、どうか。
【厚生省薬事法担当】医薬品は添付文書等をつけることになっており、そこに使用上の注意が書いてあるので、それで対応することになっている。
【質問】使用上の注意書きが守られないで、散布によって被害者がでた場合、薬事法では業者に対して使用基準を守らなかったということで罰則を科し、被害者を救済することができるのか。
【薬事法担当】その薬剤を使うものが業者でなく、個人になっているので、薬事法ではできない。
【質問】今のケースはゴキブリ駆除のために業者が散布して、それが使用上の注意を守らず、高濃度で、そこに入っていた人が被害を受けた事例だが。
【薬事法担当】業者というのは防除業者か。薬事法上はそこを規制する法律ではない。別途、民事上の話になるんではないか。
【質問】民事しかないのか。薬事法ではカバーできないと。
【薬事法担当】カバーできない。
【質問】他に規制している法律はないか。現実には使った段階で被害が起こっている。だから、使う段階での規制をしないと意味がない。自分のところで規制しているよというのがあればいってほしい。
【行政全体】・・・。
【質問】「有害物質を含有する家庭用品の規制に関わる法律」はどうか。
【厚生省生活化学物質安全対策室】この法律は物質を指定していてそれを含有する家庭用品を規制する法律なので、このケースの規制はできない。
【質問】薬事法もだめ、有害物質もだめ。化審法はどうか。
【通産省】ない。
【質問】どこもないのか? このような事故が起こった場合に、法律的に規制したり予防するところはどこもないということでよろしいか。
【行政全体】・・・。
★農薬を農地以外で使ったら規制できない
【質問】次に北海道の静内町の老人ホームで起こった事故だが、45人が健康被害を受けた非常に大きな事故だ。これは実は農業用の農薬が室内に使われたが、この点に関してはどうか。農薬取締法は?
【農水省農薬対策室】このケースは農薬としての利用ではないので対応できなかった。
【質問】薬事法はどうか。
【薬事法担当】農薬であるということで、薬事法の規制はかからない。
【質問】農薬取締法は、農業用の農薬を室内のゴキブリ駆除などに使ってしまった場合、その使用者に対して被害者に対する賠償責任とか、業務停止とか、そういう規制はできないのか。適用外使用ということについては。
【農水省農薬対策室】室内においてゴキブリ駆除をするのは殺虫剤の扱いだ。農薬としての位置づけでとらえていない。
【質問】この件では散布業者がやった。DDVPというくん煙剤でゴキブリ駆除用のを使うべきところを農薬として登録されているビニールハウスで使うくん煙剤を使った。家庭用よりも濃度が高い。そのために散布後、入室した人たちが45人も被害にあっている。業者の方は同じDDVPでくん煙剤だからいいということでやってしまった。そういうことについて農薬取締法でも薬事法でも取り締まれない。非常におかしな気がする。
【農水省農薬対策室】非常に難しい問題だ。私どもの立入検査の対象は防除という業に関するもので、それは農薬の使用で農作物の防除を行うというもので、それ以外の用途に使われたものは対応できない。もしそうなれば犯罪を含めて対応しなければならなくなる。そこは私どもの法律が限界だと思う。
【質問】農薬は、売る段階で用途は明確で、適用病害虫、用法まで含めて指定して、その範囲内で販売しないといけないことになっているが、それ以外のことをやった場合、どういうやり方をされても今の農薬取締法では手の打ちようがないと理解してよろしいか。
【農水省農薬対策室】あくまでも農業利用の中での違反行為に対して対応しているということだ。
【質問】静内町のことで農水省としては業者への事情聴取などしたのか。
【農水省農薬対策室】農薬というふうな記事がでたので、北海道の農薬担当部局を通じ衛生部局と相談した。その結果、これは農業用の使用でなく、ゴキブリだったので道に任せた。
【質問】農薬は農業現場以外で使っちゃいけないとなっていないのか。
【農水省農薬対策室】なってない。
【質問】今の話でこういう事故は起こるべくして起こるんだなとよくわかる。室内での化学物質規制ではだめか。
【厚生省生活化学物質対策室】室内で化学物質の指針値を決めているが、ガイドラインで、法的な強制力は持っていない。
★街路樹への農薬散布
【質問】次の問題は街路樹などの樹木の殺虫剤についてだが。被害例としては@排ガスで空気の悪い団地に住んでいて、しかも街路樹に殺虫剤を撒かれた後、倒れてその後化学物質過敏症になってしまった。A小学校の樹木に農薬散布。子どもが化学物質過敏症とアレルギーなので止めてほしいと申し入れたが拒否された。B金沢市のアメリカシロヒトリ対策として散布される農薬によって街中が汚染されている。C幼稚園、公園などで安易に散布される農薬によって子供のアレルギーが悪化した。D北海道静内町で街路樹への農薬散布で競走馬が被害を受けて、これは補償したという話だ。人間はしないけど、馬にはするということだ(競争馬中毒参照)。
街路樹などの樹木の殺虫剤散布で回り中が農薬で汚染されてしまうという状況があるが、大気汚染防止法で何とかならないか。
【大気汚染防止法担当】大気汚染防止法は、工場とか事業場の事業活動に伴って煤煙とかすすとかを規制するもので農薬は想定していない。
−中略−
★近隣での農薬散布
【質問】近隣での農薬散布についても非常に困っている人が多い。住宅地の自分のうちの庭でしょっちゅう農薬を撒く。化学物質過敏症なので止めてもらいたいといっても、国が許可したものを使っている、違反していないといって止めてもらえない。行政にいろいろ相談しても法律がないからといって何もしてもらえない。それから、団地の隣の家庭でガーデニング用にどんどん農薬を使う。それを具合が悪くなるからといっても止めてもらえない。こういう状況があるのだが、
【農水省農薬対策室】ガーデニングを含めて、農作物に対する施用は農薬の範ちゅうだ。そういう方々がいるところでやる場合には、考慮が必要だと思う。少なくとも農薬の適正使用がされているかどうかは確認したい。
【質問】この問題は適正使用してなおかつ被害を受けているというケースだ。農薬を使った後、農薬が大気中に漂っているという発想がないために、非常に安易に使われている。農薬を撒けば必ず一定の蒸気圧を持ったものは蒸発し、周辺の大気を汚染している。それは庭であろうと、田んぼであろうと、公園であろうがどこでも同じだ。ここを規制すべきではないのか。
【農水省農薬対策室】農薬を散布して、それが蒸発して影響を与えるというふうなところを見てないというのが正確なところだ。果たしてそれが農薬の影響かどうかということ自体、把握できていない。今後、そういったことが起きているかいないかも含めて確認してゆきたいと思う。
【質問】どうもありがとうございます。農薬の元締めである農水省植物防疫課が農薬を使った後、大気が汚染されるということが有り得るという前提に立った上で、調べてみるということなので、是非やっていただきたい。
★家庭用農薬の廃棄は
【質問】家庭用殺虫剤などで使われる成分は農業現場で使われるのと同じ成分もある。、それらを廃棄する場合に環境汚染することなく回収するというようなことはされているのか。法律的には廃棄のあり方についての規制はどうなっているか。
【農水省農薬対策室】農業用として使用されている農薬については産業廃棄物なので、事業者である農業者が適正に処理をするというのが原則。ガーデニングに利用される一般の個人の家庭からでてくる廃棄物は、一般廃棄物になる。
【厚生省廃棄物処理法担当】家庭で使っているものは、一廃になるので、市町村が収集する。市町村がどういう指示をするかによる。
−中略−
★シロアリ防除剤の規制
【質問】シロアリ駆除剤によって健康被害を受けている人がいるが、それに対してどう対応しているのか。
【建設省建築基準法担当】シロアリ駆除剤のクロルピリホスだが、アメリカでの動き、厚生省の検討会でクロルピリホスの指針値が決まるという情報も得て、社団法人日本しろあり対策協会と相談をして、自粛ができるかどうかということを検討してもらった。その結果、社団法人のしろあり対策協会が会員に使用自粛、製造自粛について要請をした。
【質問】日本しろあり対策協会(白対協)が自粛をするという話だが、まず、白対協に加盟している業者は四分の1しかいない。四分の3の業者は野放しになる。次に、法的規制ではない。一番問題になるのは二年間は使い続けるわけだ。まず製造輸入を止めて、販売をやめて最終的に使用を止めるという形になっているから、在庫を全部使い切った上で止める。一般の消費者は全然知らないわけなのでクロルデンの時と同じように駆け込み需要が起こるんじゃないかという懸念を持っている。
【建設省建築基準法担当】白対協に加盟している製造業者が61と聞いている。製造業者は大体入っています。社団法人から会員に要請したわけだから限界があるということはご指摘の通りだ。規制について研究していく他はないが、使用自粛というようなことを申し合わせれば、ある程度のことはできる。
【質問】建設省として薬剤に対する判断をしてこういう指導を出されたわけか。建設省がクロルピリホスについて業界に一歩踏み込んだ指導をしたということは、厚生省がこれは規制すべきだと考えるようになった場合には、建設省もそれなりの行動をするということか。
【建設省建築基準法担当】シックハウス問題に関しては、省庁連携で全体として取り組んでいる最中だ。それぞれの管轄省庁が持っている知見の中で事実が進んでくれば、自分たちのできる対応は検討していこうということになっている。
【質問】一般的に建築基準法で防蟻処理をする中の一つとして薬剤使用というのがある。使用する薬剤について規制をかけるつもりがあるか。
【建設省建築基準法担当】現時点では薬剤そのものについての取締を建築基準法はやっていない。
以上のようなやりとりがなされましたが、ここで明らかになったのは室内であろうと、庭であろうと、畑であろうと、田んぼであろうと、自分でやろうと、他人にされようと、化学物質によって健康被害を受けたとき、法律は何もしてくれないということです。加害者を罰することは出来ないし、その行為を止めさせることもできません。ま、このことは被害者は体験的に知っていましたが、今回、あからさまに国の法律担当者から、裁判か泣き寝入りしかないから、どちらかを選びなさいと言われたわけです。
★用途別規制の落とし穴
何故、こうなってしまうのか、いくつか原因が考えられます。
一つは、どの法律も用途別規制になっているからです。たとえば、農薬取締法は農作物、樹木などを害する病害虫を防除する薬剤を農薬と決めています。農地よりもずっと人の多い場所である室内に登録されている農薬を使用しても、農薬取締法は働きません。対象が人間を害するダニだとかゴキブリだからです。
農薬取締法は実に細かく農作物と適用病害虫を定めていますが、それ以外の使い方をした場合、たとえば、稲に登録のある農薬をキュウリに撒いては違反ですが、毒性の強い農薬を室内で高濃度で散布しても違反にはならないと言う奇妙な法律です。定められた場所以外で使用してはならないという規程がないからです。
また、室内で使用される殺虫剤の多くは医薬品ですが、これを管轄している薬事法は製造段階の規制であって、どう使用するかについては規制はありません。薬事法でもゴキブリ駆除剤で被害にあっても何もしてもらえません。
さらに薬事法は衛生害虫(ハエ、カ、ゴキブリなど人の病気を媒介するとされている虫)の殺虫剤はある程度の毒性評価はしていますが、不快害虫(アリ、ダンゴムシ、ユスリカなど人間に害は与えないが、不快だと感じさせる虫)に対しては一切規制はありません。ハエ、カなどを殺す殺虫剤は薬局でしか売れませんが、不快害虫用なら何の規制もありませんからスーパーでもどこででも売れますし、毒性評価は一切されていません。
用途別規制は必ずそこから漏れるものがでてきます。それらははざま商品となり、法律の規制を免れるわけです。その最たるものがシロアリ防除剤です。
★使用規制がない
農薬取締法でも、薬事法でも、化審法でも、化学物質を規制する多くの法律は、末端での使用規制がなきに等しいといえます。このことが、人の健康被害を生む一番大きな問題となっています。
薬剤の製品容器に使用に際しての注意書きがあったとしても、それは一般的な話であって、特に薬剤に敏感な弱者の保護は意図されていない上、使用法を守る法的義務はないので、人体被害がでても、散布者や製造業者は罰っせられることはないのです。
たとえば、農薬取締法では、樹木に使用する薬剤は農薬となっていますが、街路樹や学校の樹木などに使用する場合、一日立入禁止にすることなどの注意書きがありますが、じゃあ、それができない場合、散布を禁止できるのかというと、それは不可能です。ということは、一番被害が起こっている末端の使用現場での規制が日本にはないということになります。
★因果関係が証明されないと規制できない
このような状況の中で、化学物質による健康被害を受けて、補償を求めることになると大変です。
被害者は、苦しい体に鞭を打って、自分が生活しているk環境中に、その薬剤が高い濃度で見出されること、その薬剤が確実に体の中に取り込まれていること、その薬剤がどのようなメカニズムで作用し、自分の体にでているさまざまな症状を引き起こしているかなど、いわゆる「因果関係の証明」をせねばなりません。
国が登録したり、認可した薬剤ならば、それだけで安全だといわれ、被曝から時間がたって薬剤の環境濃度を測定しても、そんな低い濃度では症状は発現しないといわれ、後遺症を訴えても、年のせいだ・神経症だと一蹴されてしまいます。
ある化学物質が使用規制されることになるとすれば、それは、非常に多くの被害者がでて、しかも何年もかかって、はじめて、人に対する有害性が認められた後であることが、いままでの公害の事例からもわかります。
世界の化学物質の規制の趨勢は、因果関係が科学的に明確に証明されていなくても、環境を汚染しており、人をはじめとする地球上の生きものに悪影響を与えていると考えられるものは予防的に禁止するという「予防原則」の方向にあります。
予防原則に基づく規制は、後日、その結果が間違っていたとしても、メーカーの金銭的な損害ですみます。しかし、被害がでてからの規制は、取り返しがつかない人の命にかかわってしまうことを思えば、「因果関係の証明」が規制の絶対条件である日本の現状を憂わざるをえません。
最後に、私たちに対して、一筋の光を与えてくれるものとして、街なかでの農薬使用禁止条例を作ったカナダのハリファックス市を挙げておきたいと思います。詳しくは、下記のホームページを参照してください。
浜松医大渡部さんのホームページの中にある、カナダ・ハリファックス市の農薬使用禁止条例。
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作成:2000-12-20