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t11003#JAS法で許可された農薬は問題だ−有機農業に水質汚濁性農薬を使用していいのか#01-01
てんとう虫情報106〜今号で触れているように、有機農産物圃場への空中散布による農薬飛来が問題となっています。これは、貰い公害に類するものですが、実は、2000年1月に告示された有機農産物の生産方法についての基準等を定めた改正JAS法には、例外的ですが、農薬の使用を認めている条項があるのです。
★有機農産物認証制度下でも使用が許されている農薬
第4条(生産の方法についての基準)をみてみると、<ほ場等における有害動植物の防除>という項があって、「耕種的防除(定義略)、物理的防除(定義略)及び生物的防除(病害の原因となる微生物の増殖を抑制する微生物、有害動植物を補食する動物又は有害動植物が忌避する植物の導入又はその生育に適するような環境の整備により有害動植物の防除を行なうことをいう。)又はこれらの適切に組み合わせた方法のみにより実施されていること(農産物に急迫した又は重大な危険がある場合であって、耕種的防除、物理的防除又は生物的防除を適切に組み合わせる方法のみによってはほ場等における有害動植物を効果的に防除することができない場合であっては、別表2掲げる農薬のみが使用されていること)。」となっています。
表 使用が許される農薬一覧−省略
★水質汚濁性農薬のデリスを使ってもいいとは
有機農産物といえば、農薬や化学肥料を全く使用しない農法かといえば、さにあらず、別表には前記の表−省略−のように使用可能な農薬が挙げられています(表には、登録されている農薬製剤の活性成分含有率も記載しました)。
リストをみると、天然物系の農薬、農作物に直接散布しない農薬などが選ばれているようですが、天然物だからといって安全だとは限りません。
殺虫剤であるデリス剤(別名ロテノン)は、デリスという植物の根などからとる殺虫成分を含む薬剤ですが、水質汚濁性農薬に指定されています。水質汚濁性農薬は、水産動植物に著しい被害が出たり、公共用水域の水質を汚染し、かつその水の利用により人畜に被害を生ずる恐れのある農薬で、都道府県知事が使用を規制できます。現在、登録されている農薬で水質汚濁性農薬に指定されているのは、デリス、ベンゾエピン、シマジン(CAT)の3種類のみです。通常の農業ですら使用を規制されている農薬が有機農業に使用していいとはいったいどのような理由があるのでしょうか。
さらに、デリスについては、アメリカ・エモリー大学のGreenamyreらの最近の毒性研究で、ラットに人のパーキンソン病に非常に良く似た症状を引き起こすことが明かになり、同病との関連が懸念されていますから、農作物への残留だけでなく、散布する人の健康も問題となるでしょう。
【参考】2005年1月7日の有機農産物の日本農林規格改訂案で、デリスは削除された。2005年10月27日改訂版と2006年10月27日改訂版。
★農薬の補助成分や不純物も不明
その他の天然物系農薬にしても、表に示した活性成分以外に、補助成分や不純物が含有されていますが、その内容は企業秘密とされています。
生物農薬もオーケーということですから、BT生菌や菌の毒素も使用してよいようですが、その人体への影響はないというものの、私たちにはデータが示されていません。
ボルドーや硫黄は昔から使用されている農薬ですが、活性成分の純度は不明ですし、残留基準はありません。マシン油には環境ホルモンのPAHが不純物として混入していないでしょうか。先の第4条にある<輸送、選別、調製、洗浄、貯蔵、包装その他の工程に係る管理>の項では「生産された有機農産物が農薬、洗浄剤、消毒剤その他の薬剤により汚染されないように管理されていること。」とありますから、当然、合成洗剤の類いの使用は認められないわけなのに、散布が許される農薬に素性がはっきりしない界面活性剤が乳化剤として含まれていることも考えられます。
たとえば、除虫菊乳剤(除虫菊抽出)はピレトリンが0.1〜3%含有されていますが、残りの99%に何が使われているか不明です。また、除虫菊から抽出したピレトリンなら使用していいということなのでしょうが、現在、日本で除虫菊から作られているピレトリンなどあるのでしょうか。
非常に不思議な基準ですが、かりに有機農産物の栽培に登録農薬の使用を認めるとしたら、いままで、企業秘密として明らかにされてこなかった、補助成分や不純物についての情報も公開すべきです。
★有機認証制度に必要なもの
従来、多くの有機農業の生産者は農薬の類は一切使用せず、完全無農薬でやってきました。しかし、JAS法の施行により上記のような許可された農薬を使用する有機農業の生産者も出てくるでしょう。これらの農薬を使用した農産物も有機農産物であれば、農薬を一切使用していない完全無農薬の有機農業との区別をどこでつけるのでしょうか。有機農産物の中にも格差があることになります。
有機農産物と農薬については偽表示も問題となります。たとえば、毎年とりあげている東京都衛生研究所の農作物の残留農薬調査では、減・無農薬をうたった農産物に慣行農法にみられると同じ農薬が検出されていることからもわかります(t10605参照)。
さらに、たとえ、許可された登録農薬以外使用していないとしても、生産者が自ら調合する物質の類い(たとえば、草木灰、タバコ)を病害虫駆除に用いるケースもあり得ます。
このような農薬違法使用や農薬もどきの使用は、消費者にはわかりません。結局、認証制度で規格を厳しくすることよりも、いいふるされたことですが、有機農業には、生産者と消費者の顔の見える有機的なつながりが一番必要であろうということでしょう。
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作成:2001-02-25