農薬の毒性・健康被害にもどる
t11204#農薬毒性試験の内容が改訂される−『動物実験で発癌性あり』は使用中止すべき#01-03
 農水省は、2000年11月24日付けの通知12農産第8147号「農薬の登録申請に係る試験成績について」で、農薬登録に際して必要な毒性試験の内容が改められました。現在の実施されているものは、85年1月28日付けの59農蚕第4200号ですから、久ぶりの改訂です。これは、OECD(経済協力開発機構)の毒性試験ガイドラインや近年の毒性学の進歩を踏まえての指針見直したためだということです。新たな毒性試験は、2001年2月1日以降にあらたに登録申請される農薬について実施されるということで、既に登録されている農薬については、再登録時に新たな毒性試験が追加されることになります。今回の通達により農薬取締法による登録申請時に必要な試験は表1−省略−のようになります。まず、毒性試験の主な見直し点を紹介しておきます。

★追加された試験項目等
【神経毒性試験】
 人畜への安全性評価を充実させるということで、農薬原体(=活性成分)の急性神経毒性と反復経口投与神経毒性の試験が追加されました。これらの試験は、前者について、他の急性毒性試験の、また後者について他の90日間反復投与試験の結果、神経毒性を有するとおそれがある場合に実施するとなっています。
 いずれもラットを用い、急性の場合は対照群のほか、3つの投与群(雌雄各10匹)に農薬を1回投与したのち14日間、外観や行動の観察し、さらに機能の検査、病理学検査などが実施されます。反復試験の場合は、経口連続投与で90日間又は1年間、同様な試験が行なわれます。

【水中運命に関する試験】
 いままでは、放射性同位元素をもつ農薬原体を別途合成し、動物体内や植物体内さらに土壌中での挙動を追跡する試験が実施されてきましたが、新たに水中での農薬の分解経路と分解物を明かにするための試験が追加されました。加水分解によるものと光分解による二方法で実施され、前者では酸素や光を排除し、滅菌した酸性・中性・アルカリ性の3種の水中で、後者では自然水又は蒸留水を用い、人工光照射下で、農薬の消長が調べられます。

【水産動植物への影響に関する試験】
 いままで、農薬の原体と製剤で、魚類の急性毒性試験とミジンコ類急性遊泳阻害試験が実施されてきましたが、新たに原体及び製剤の藻類生長阻害試験と原体のミジンコ類繁殖試験が追加されました。魚類の急性毒性では、半数致死濃度の決定が48時間から96時間に延ばされましたが、さらに、繁殖への影響や腫瘍、背まがりなどの毒性も評価すべきだと思います。また水生動物に対する環境ホルモン作用をしらべる試験も確立してもらいたいものです。

【変異原性試験】
 従来の細菌を用いる復帰突然変異原性試験と哺乳類培養栽培を用いる染色体異常試験に加えて、ゲッ歯類の小核試験(生物体内での染色体異常誘発作用を調べる試験の一種)が追加されました。
 1群3匹以上のマウス又はラットを用い、3段階以上の毒性徴候が認められるような用量を投与し、小核を有する赤血球の数を調べます。

【その他】
 従来の試験で、その内容が改定された主なものとして、
@いままでの毒性試験では、従来の亜急性毒性にあたる試験で、神経系・免疫系・内分泌系に係わる検査項目が追加されました。
A慢性毒性試験は、1年間反復経口投与毒性試験として、ラットの場合の投与期間2年が1年に短縮されました。ほかに、重量測定の対象臓器として卵巣、脾臓、前立腺、下垂体等が追加されました。

★実験動物の数が減らされたが
 動物実験については、動物の権利を主張する立場から、むやみに実施すべきでないとの動物保護運動が高まりつつあります。その影響を受けて、欧米では、動物を使わない毒性試験の検討もなされています。今回の農水省の試験内容の改定は、このような流れに沿うもので、いくつかの項目で、実験に供試する動物数が減らされました。
 3種の急性毒性試験では、経口と吸入のゲッ歯類5投与群(雌雄各5匹)が3投与群(雌雄いずれか5匹、他性を1群)に、経皮の3投与群(雌雄各5匹)が3投与群(雌雄いずれか5匹、他性を1群)に改められました。
 また、眼と皮膚刺激性試験では、それぞれ供試する白色ウサギの数が6匹から3匹に減らされました。
 個々の毒性試験の実験動物数は減りましたが、新たな試験が加わりましたから、トータルなの動物数はかえって増加しました。動物を使わない毒性評価方法の開発をすすめることは、ひとつの道でしょうが、それよりも、毒性試験が必要な、新たな化学物質をこれ以上増やさないことの方が大切だと思います。

★試験成績提出の除外について
 今回の通達で『別表2−省略−に掲げる場合その他当該農薬の有効成分の種類、剤型、使用方法等からみて試験成績の一部につきその提出を必要としない合理的な理由がある場合には、当該理由を記載した書類等を当該試験成績に代えて提出することができる』との一文があり、別表には、さまざまな試験について提出が除外されるケースが記るされています。
 たとえば、気になる毒性試験では、1年間反復経口投与毒性試験(いわゆる慢性毒性試験のこと)、発ガン性試験、繁殖毒性試験については『@当該農薬の剤型、使用方法等からみて、人が当該農薬の成分物質等を長期にわたり摂取するおそれがないこと、摂取する量がきわめて微量であること等の理由により、安全と認められる場合。 A当該農薬の成分物質等の種類等からみて、その毒性がきわめて弱いこと等の理由により、安全と認められる場合。』となっています。
 慢性毒性の場合の除外のための合理的な理由とは、何でしょうか。少し、古くなりますが、80年に農水省へ問い合わせた結果、クロルピクリン、ロテノン、EDB、マシン油、硫酸ニコチンなど16種が天然物である、残留しないなどの理由で慢性毒性試験が免除されています。

 作物に残留しないとの理由で免除されていたEDBは、アメリカでの研究の結果発ガン性が確認され、しかも検疫くん蒸処理使用により、輸入果実や小麦の最終製品にまで残留していたことがわかりました。作物に残留しないから慢性・発ガン性毒性試験をやらないということは、散布する農民のことをどう考えているのかといいたくなります。農民は急性中毒で倒れさえしなければいいというのでしょうか。
 天然物や植物成分であるからといって、安全だとは限りません。パーキンソン病との関連が疑われるロテノンは、有機農業での使用も許されています(記事t11104参照)。
 補助剤として登録されている展着剤の中には魚をメス化する環境ホルモンの疑いがあるAPEもあります。一般に補助成分は、農薬製剤に成分未詳のまま添加されており、どのような化学物質がどの程度含有されているか公開を求めても、企業秘密の壁がそれを閉ざしています。除草剤グリホサート(ラウンドアップ)では、添加されている界面活性剤の急性毒性の方が活性成分より強いと報告されています。また、製剤の慢性毒性試験は実施されていませんから、補助成分による慢性的毒作用は不明なままということになります。

 微量長期にわたる人の健康への影響を予測するには、発ガン性だけでなく、内分泌系や神経系、免疫系、生殖系に対する影響も調べる必要があり、農作物への残留の視点だけでなく、もっとも農薬を被曝する機会の多い農家やその周辺に住んでいる人々のことを考えて毒性試験等を実施すべきで、試験の除外は最小限にすべきです。

★データ公開について
 毒性データ等の公開については『農薬の毒性に関する試験により得られた知見について、その登録後原則として、3年以内に専門の学会、学術雑誌等に公表するよう努めるものとする』とあるだけで、いままでとかわりません。
 メーカー以外の研究者や外国の行政機関が独自に実施した実験から、毒性が問題になり、登録が失効していった農薬が多々あることを思えば、『・・・公表を努めるものとする』というすべてメーカーまかせのことをなんべんいっても毒性に関する疑点を晴らすことは出来ません。
 だいたい農薬の毒性データ等については、登録する以前に公開して、これこれの毒性評価をしましたが、問題ないでしょうかと、パブリックコメントを求め、オーケーならば、さあ使ってくださいと、売りに出すのが、まっとうなメーカーだと思うのですが、毒性データを密室で論議して(しかも、毒性データは企業の財産だと主張するメーカーを擁護する農水省の下で)、登録農薬を売りだし、その後、3年もデータを公表しなくてもいいなんていうのは、納得できません。おまけに、公開する内容には標本などの生データは含まれませんから、投稿する論文は、メーカーに都合のいいところが強調されているという懸念を拭い去ることはできません。
 私たちは、あくまで登録申請時のデータを全面公開することを求めます。このことによって、メーカーの社会的自覚をうながし、毒性データの評価を公正に行なえるようになることは確実です。
 また、発ガン性などの毒性について相反する判する結果がある場合など、その農薬の使用を一時停止して、メーカーの息のかからないところで独自の毒性試験を実施することを視野にいれておく必要もあります。

★動物実験で発ガン性が判かった農薬は使用中止すべき
 農薬の場合、表1のように様々な毒性試験が実施されていますが、その試験の結果をどういう方法で評価するかも問題となります。
  現状では、たとえ、動物実験でガンがみつかっても、DNAの変異をひきおこす遺伝毒性がないとか、高濃度でしかみられないとか、動物とヒトは作用機構が異なるとか、都合のいい理屈をつけて、発ガン性なしといい逃れされてしまいます。慢性・発がん試験に供試された約四百匹のラットは、せっかくヒトのためにその物質が発ガン性であることを証明してくれても、メーカーの金儲けのためには無駄死にとなってしまいます。
 パラジクロロベンゼンの場合、厚生労働省内でも、旧労働省は吸入動物実験の結果、この物質を発ガン性物質として労働者保護に乗り出しましたが、旧厚生省はヒトに対して発ガン性はないとして、消費者保護にはつながりませんでした。
 アメリカでは、発ガン物質が食品中に検出されてはならないとするディラニー条項が廃止され、かわりに、公衆のッコンセンサスの下、100万人にひとりの割合で発ガンを認めて、残留基準が設定されるようになってきました。日本では、動物実験での発ガン性評価をどうするかで、公衆に意見が求められたことはなく、食品衛生調査会毒性・残留農薬合同部会の専門家の考えで、発ガン性の評価がなされているにすぎません。発ガン性の毒性評価について、きちんと国民のコンセンサスを得た上で、評価がなされるべきです。
 私たちは、予防原則の観点からも、なんらかの動物実験で、発ガン性がみつかった物質は、農薬に使用しないという原則をたてるべきだと思います。
 さらに、他の毒性、なかでも生殖毒性や胎仔毒性、内分泌系撹乱作用のある物質についても、ヒトへの影響がでるかどうかが判明するまでに長期間かかるものは予防原則の採用が望まれます。
購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2001-04-23