室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t11401#シックハウス検討会が室内汚染で新指針値案−ダイアジノンは低く、DEHPは現状無視の超高値#01-05
4月10日に、厚生労働省のシックハウス(室内空気汚染)に関する検討会が、4種の室内汚染化学物質について、指針値を提案したことは、速報で紹介しましたが、ここでは、それぞれの物質について、問題点を指摘しておきたいと思います。
★溶剤テトラデカン−高すぎる指針値
テトラデカンは、炭素数14個の飽和系炭化水素で、年間生産量は約8000トン(99年)、主に溶剤などに使用されています。検討会による毒性研究の評価で、テトラデカンは皮膚刺激性が問題視されましたが、発癌性に関しては、マウスにベンゾ(a)ピレンとともに皮下投与した実験で、「発癌補助活性及びプロモーター活性の双方を示したものの、これら両活性が直接関連するものであるかどうかは明確でない」とされました。結局、テトラデカンを含む炭化水素類の経口毒性試験から得た参照値0.1mg/kg/日をもとに、指針値が330μg/m3 (41ppb) 提案されました。
国立医薬品食品衛生研究所による99年の調査報告では、室内汚染濃度は最大11148μg/m3(平均12.2μg/m3)と、脂肪族炭化水素類では、最も高い数値を示していました(記事t09901)。今回の指針値で、高濃度汚染は規制されるものの、平均検出値の28倍もの濃度を許容せよとは、おそれいります。テトラデカンの指針値は、当然、TVOC(総揮発性有機化合物)の暫定目標値400μg/m3との整合性の下で検討される必要があると考えます。
★ノナナール−起源物質を明確にして規制すべき
ノナナールは、炭素数9個の脂肪族系のアルデヒド類の一種ですが、日常よく使用される化学商品の事典を調べても、物質名が記載されていません。しかし、前述の調査報告では、室内空気中に最大421.2μg/m3(平均10.9μg/m3)検出されているという実態があります。
香料や天然物由来のノナナールがそれほど高濃度とも思えず、室内空気を汚染しているのは、何か別の物質が化学変化するか、分解代謝してノナナールが生成していることをうかがわせます。
炭素数9の炭化水素系化合物では、アルコール類のノナノール(ノニルアルコールともいい、いくつかの異性体の混合物)が年間12万トン(99年)生産されています。ノナノールそのものは溶剤として使用されてるだけでなく、フタレート系可塑剤DNPやDNIP、界面活性剤の原料としての用途もありますから、これらが分解・酸化されて、ノナナールが生成しても不思議ではありません。
ノナナールの暫定指針値は41μg/m3(7.0ppb、当初案では230μg/m3だったが、5月の意見公募時に数値が改定された)ですが、この物質そのものの濃度規制をするよりも、ノナナールがどのようなルートで生成するかを調査し、発生原因になる化学物質を規制していくことが求められます。
私たちは、いままでも、室内で使用される化学物質の分解生成物(火気、熱、光、微生物・カビなどによる)も調査すべきだとしてきましたが、検討会には、この提案を真剣に考えてもらわねばなりません。
★塩ビ可塑剤DEHP−環境ホルモン規制は予防原則で
塩ビの可塑剤の中で、DBP(ジブチルフタレート=フタル酸ジブチル)とともに、室内汚染度の高いのは、同じフタル酸エステル系のDEHP(ジエチルヘキシルフタレート=フタル酸ジエチルヘキシル)です。DEHPは、年産26万8830トン(99年)で塩ビ用可塑剤として、もっとも多く使用されています。
99年度の環境庁による一般大気中濃度の測定では、18検体中17に最大34ng/m3で検出されています。また、99年公表された東京都衛生局調査は、下記のようで、DBP(フタル酸ジブチル)についで、高い値になっています。
場所 検体数 検出数 平均値
屋内 69 69 216.0 ng/m3
屋外 35 32 47.8
さらに、星薬科大学の中沢さんの調査では、29〜55℃以上になる夏季の自動車内空気中で2500ng/m3という高濃度のDEHPが見出だされたと報告されています。
DEHPは、 マウスやラットを用いた慢性毒性・発癌性試験で、肝細胞腫瘍が認められましたが、ヒトに対しては、作用機構が異なるため、発癌性があると分類できないとされています。
ラットやマウスの毒性試験では、精巣重量の低下、精細管萎縮、排卵阻害、出産回数や生出生率の低下、不妊などが認められ、造精子細胞であるセルトリ細胞に変化をあたえるとの報告もあります。
一方、可塑剤業界は、マーモセットという小型霊長類を40匹用いた、わずか13週の実験で、肝臓や精巣への影響は認められなかったから安全だと結論づけています。
検討会では、ラットの精巣毒性に重きをおき、無毒性量として3.7mg/kg体重/日を採用し、安全係数100分の一を乗じて、TDIをEU並の0.037mg/kg体重/日としました。DEHPの指針値は、120μg/m3(=12万ng/m3=7.6ppb)と提案されましたが、これは、すでに設定されたDBPの場合と同様、実測値と滅茶苦茶にかけ離れた値で、自動車内の高濃度汚染も心配するにあたらないということになってしまいます。
デンマークでは、DEHPのTDIを、日本より低い0.005mg/kg体重/日としていますが、仮にこの値を採用しても、指針値は、16μg/m3(1万6000ng/m3)となり、現実ばなれした高いものになります。
環境ホルモン作用が疑われるフタル酸エステル系可塑剤は、そのものの気体濃度の規制も重要ですが、ジエステルが分解して生ずるモノエステルや他の揮発性の低いフタル酸系可塑剤を含め、塩ビ製壁紙や電線被覆、合成皮革などの表面からどの程度浸出するか、浮遊微粒子として空気中にどの程度漂っているかなど、経口・経皮・経気の摂取経路を総合的に調査した結果をもとに、予防原則の観点から使用規制していくべきでしょう。
★殺虫剤ダイアジンノン−従来の約3分の一の指針値に
ダイアジノンは、神経毒性が顕著で、劇物指定された有機リン系殺虫剤です。農業用途で原体1474トン、単製剤6280、複合剤638トン(各99年)が生産されているほか、家庭用殺虫剤や防疫用にも使用されています。
てんとう情報111号で紹介したように、アメリカでは、一連の有機リン剤の使用規制策の一環として、クロルピリホスにつづき、昨年12月にダイアジノンを段階的に禁止していくことが決まりました。すでに、今年の3月から室内用の製品の規制が開始され、非農耕地用の屋外製品も2003年8月には、販売禁止になる予定です。しかし、環境保護団体だけでなく、いくつかの州の法務長官たちが、あと2年半も待てないとして、ただちに小売販売を止めるべきだと勧告しています。一方、イギリスでは、ダイアジノンを含む羊洗浄液が農民の健康に影響を与えるとして、使用中止の運動がおこっています。
日本では、農薬の空中散布による大気汚染に関連して、農林水産航空協会が、91年3月に、『航空散布地区周辺地域の生活環境における大気中の農薬安全性についての評価に関する指針』を公表しましたが、その中で、ダイアジノンの指針値は、2μg/m3(その後1μg/m3となる)と設定されていました。
検討会では、前述のアメリカの動きを踏まえ、同国でのラットの吸入毒性試験で認められたコリンエステラーゼ活性阻害をもとにした最小毒性量0.026mg/kg体重/日と安全係数300分の一からTDIとして、0.0000867mg/kg体重/日という値が採用されました。その結果、指針値は、空中散布の場合よりも約3分の一低い0.29μg/m3(0.023ppb)という値に設定されました。提案通りになったのは、アメリカでの規制開始の影響が大きかったように思えます。ダイアジノンについては、指針値を低くするだけでなく、生活環境での使用を禁止にすべきでしょう。
農産物への農薬残留基準を設定した際のダイアジノンのADIはFAO/WHOによる0.002mg/kg体重/日ですから、今後、ダイアジノンについては、農薬空中散布の指針値及び水道水監視項目、農産物残留基準を低くすることを求めていく必要もあります。
また、有機リン剤については、クロルピリホスとダイアジノンだけでなく、家庭用殺虫剤・畳用防虫剤・街路樹用殺虫剤・防疫用殺虫剤として使用の多い、MEP(スミチオン)、DDVP、MPP(フェンチオン)、DEP、マラチオンなどについても、規制を強化するとともに、これらを含めた有機リン剤の総量規制が望まれます。
★室内汚染物質による食品二次汚染調査を
前号で報告したように、未開栓のビールのショットボトルやビンで、室内空気を汚染していた衣料防虫剤ナフタリンが樹脂製の栓を透過して、ビール内に溶け込むことが判明しました(記事t11307)。
その後、サッポロビールに問い合わせたところ、問題のキャップは低密度ポリエチレンでできた厚さ1mmのもので、同社の実験では、2週間の放置で、ビール中に溶け込んだナフタリン濃度はショットボトルで4mg/L、ビンで0.01mg/Lだったということがわかりました。今後、ショットボトルとビンについて、灯油、ピレスロイド系殺虫剤、さらに、ペットボトルと缶製品についてナフタリンの透過試験を実施するともいっています。
わたしたちは、高濃度で室内汚染をしている化学物質のすべてについて、包装容器素材における透過性を測定し、食品への二次汚染、特に開栓して保存することの多い食用油脂類への溶解について調査すべきことを強く求めていきたいとい思います。
また、空気中にガス状で存在している物質だけでなく、微粒子状態で浮遊している物質、ホコリなどに吸着している化学物質も調査する必要があるでしょう。さらに、家具や建築素材の表面をなめたり、触れたりすることにより、経口・経皮的に体内に取り込まれる物質についても、きちんと調査してもらいたいと思います。
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作成:2001-05-23