環境汚染にもどる
t11502#FAO(世界食糧農業機関)が、途上国での廃・未使用農薬で警告−問われる国と輸出メーカーの責任#01-06
 4月に、日本の農薬メーカーによる海外での企業活動・農薬輸出問題と国内での廃・残農薬の回収問題について、要望署を送りましたが(てんとう虫情報113、114号参照)、その回答を催促しているうち、この両者にかかわる新たな問題が判明して、追加の要望をするはめになりました。
 FAOは、かねてから、先進国で生産・輸出された農薬が輸出相手の発展途上国において、環境を汚染したり、住民に健康被害をおよぼしていないかの調査を実施してきましたが、輸出された農薬が未使用のまま、放置されているケースが多々あることがわかりました。
 まずは、本年5月はじめに公表されたFAOホームページにある次のニュース報道をまとめてみました(010503-e010502-e)。

★未使用の農薬等が50万トン以上
 FAOの調査によれば、発展途上国には、先進国で禁止されていたり、既に有効期限がきれた、古い未使用の農薬が50万トン以上存在していました。内訳はアフリカ・近東諸国に10万トン以上、アジア及び東欧・旧ソ連諸国にそれぞれ20万トン程度で、ラテンアメリカについては、目下調査を準備中だということです。
 FAOの専門家は、使用されずに放置された農薬は、人々の健康に有害であるだけでなく、水や土を汚染し、漏れでた農薬で毒された土地では、もはや農作物の栽培ができなくなる恐れがあると警告しました。
 農薬投棄場所には、有機リン剤のほか、多くの国で禁止されているDDTやドリン剤などPOPs系農薬が保管されおり、なかにはラベルが消えて中味がわからないものもあるということです。古い農薬は分解し、もとのものよりも有害な代謝物が生成することも考慮する必要があります。農薬以外に、汚染された散布器具や空容器、大量の汚染土壌も見つかっています。

 多くの貯蔵場所は住宅や食料品店やマーケット、農地や井戸の近くにあり、管理状態が悪く、有害物質が地面の漏れ出て、頭痛や吐き気、咳の症状を訴える住民もいました。農薬廃棄物は、過去30年以上にわたり、貯め込まれ、いまだにその量は増えつつあるといいます。これらの農薬の中には、国際援助機関から善意で供与されたものの、機関間での相互連絡が充分でなく、過剰に供給されて、余ってしまったものもあったようです。

 農薬の主な製造国はヨーロッパ諸国、アメリカ、日本、中国、インドで、途上国への農薬メーカーの輸出額は年間3000万ドル以上に及び、その80%はアベエンテイス、BASF、バイエル、ダウ・アグロサイエンス、デュポン、モンサント、スミトモ、シンジェンタの8社で占められているということです。
 これらの廃棄農薬の処理やクリーンアップには1kgあたり3ドル、50万トンで15億ドルという多額の費用がかかります。政府や援助機関の手ではとても処理費用をまかないきれないため、FAOは世界農薬工業会(GCPF)傘下の化学会社に協力するよう求めています。

★エチオピアで始まったクリーンアップ−省略

★責任問われるフェニトロチオンメーカー住友化学
 FAOの調査には、有機リン剤フェニトロチオン(商品名スミチオン)の名とともに、Sumitomoの名がでてきます。この薬剤は、日本の住友化学が開発し、製造・販売している殺虫剤で、国内でも、農業用や家庭用、防疫用にひろく使われています。海外への輸出量も多く、同社は、農業用だけでなく、熱帯地方でのマラリア蚊退治に有効であると自慢気に宣伝していますが、相手国でどのようにして使用されていたかの実態は明らかになっていません。
 住友化学は、スミチオンの急性毒性が低いと安全性を強調していますが、日本での同剤による死者は年間41人(99年の統計、すべて自殺者)で、有機リン剤では最も多くなっています。また、分解代謝物のスミオキソンは、スミチオンそのものより毒性が強いことがわかっていますし、最近、環境ホルモン作用があることも判明しました(記事t11507参照)。日本国内よりも散布時の保護衣・保護具が整っておらず、管理状況も万全とは言い難い輸出相手国で、国内並の安全が保証されているとはとてもいえません。
 いままで、輸出しっぱなしにしてきた住友化学には、フェニトロチオン廃農薬が、どこの国にどの程度、どのような形で保管されているかを調査公表し、きちんと処理することが求められます。
 ちなみに、フェニトロチオンの過去における生産量と輸出量を以下の表に示しておきます。
表 フェニトロチオンの生産量と輸出量の推移(単位:トン)−省略

★業界指導を放棄した農水省
 現行の日本の農薬取締法は、海外への輸出には適用されないという適用除外条文があり、農水省は、輸出された農薬の使い方については、自分たちの関知するところではなく、問題があれば、相手国の法律で取り締まるべきだとしてきました。
 しかし、このような考えは、国際的に通用しないことは明かで、農薬公害輸出防止の観点に立つ環境保護団体から批判をあびたため、1980年に、農水省は、通達『農薬製造業の海外投資行動等について』を出して、業界の指導にのりだしました(下記資料参照)。
 先に、農水省にだした要望は(てんとう虫情報113号)、この通達について、その後、どのような報告がメーカーからあがってきているかを確認するためのものだったのですが、農水省の窓口は、通達の存在すら知らず、あげくは、通達には期限があり、80年のものは、もはや有効でないというのです。資料にある通り、この通達の内容に期限があるとはとても読み取れません。こんなことは、行政では当たり前のことで、反古同然の通達が、今も実施されているものと思い、質問した私たちが愚かだったというのでしょうか。
 農水省の担当者が2,3年で部署を交代することは知っていますが、一般的・普遍的な内容をもつ通達に期限があるなんて、思いもよらぬことです。通達通りのことを、その後もきちんと指導していないとすれば、行政の怠慢ということになりはしないのでしょうか。
 このような農水省の態度が、発展途上国へ農薬を輸出したり、ODA(政府開発援助)で農薬を供与した際、その後については、十分フォローもせず、FAOが指摘するような廃農薬問題につながったようにも思います。93年に、ODAによる食糧増産援助という名の下に、カンボジャに30トンの農薬が供与されましたが、この時、FAOや現地のNGOなどが農薬援助の必要はないと報告していましたから、送られた農薬はどのように使われたのでしょう。そこで、以下のような要望を農水省にだしました。

★農水省への要望事項
   1、FAO(世界食糧農業機関)の調査で、発展途上国内に、日本を含む先進国
     が輸出した古い未使用農薬が50万トン以上も存在していることがわかりま
     した。この件に関して、貴省はどのような対策をとるべきとお考えですか。

   2、海外で保管されている未使用農薬の中で、日本から輸出された農薬(防疫用
     薬剤を含む)がどの程度ありますか。国別農薬別の数量と保管場所や保管状
     況、周辺の状況、環境汚染の状況、人の健康被害の状況を調べて教えてくだ
     さい。

   3、ODA(政府開発援助)により、農薬(防疫用薬剤を含む)援助が行なわれ
     たケースがありましたら、年度別/国別/薬剤別の数量及び金額を、1980年
     から現在にいたる期間について明かにしてください。
     また、その中で、2に関連した廃薬剤がありましたら、その点も付記してく
     ださい。

   4、先に農薬の海外輸出と海外での農薬企業の活動に関して、貴省の通達『農薬
     製造業の海外投資行動等について』(55農蚕第1204号:昭和55年3
     月5日、)に関連した質問をしました。その際、同通達は、現在、効力がな
     いとの返事をいただきましたが、この通達は、何時まで有効であり、また、
     何時いかなる理由で廃止されたのですか。

   5、現在、先の通達の効力がないとすれば、同様の趣旨で行政指導を再度強化す
     る必要があると感じますが、貴省はどうお考えですか。
【資料】農薬製造業の海外投資行動等について
   (55農蚕第1204号:昭和55年3月5日、農薬製造業者あて、農林水産省農蚕園芸局長)

 東南アジア諸国をはじめとして開発途上国における病害虫や雑草による農作物の被害は極めて多く、これらの国々の農業生産の安定と向上を図る上で農薬は不可欠の資材と考えられます。このため、農薬の生産を現地で行なうために必要な技術・資本の提供、農薬の使用技術の普及等について、我が国が積極的な協力を行なうことは、国際協調の観点からみても有意義なことであります。
 このような情勢を反映し、近年、我が国の農薬製造業の海外投資、農薬輸出は漸次盛んとなっておりますが、このようのあ海外投資活動等を円滑に行なうためには、現地社会との協調及び調和並びに現地における自然環境及び農業生産の現状に対する十分な理解と配慮が必要と考えられます。
 このような海外投資活動等については、既に昭和48年6月には、社団法人経済団体連合会等5団体が「発達途上国に対する投資行動の指針」を作成しておりますが、農薬製造業の海外投資活動等についても、上記指針のほか、特に下記に留意の上、適正に行なわれるようる要請いたします。
                   記
1.現地投資先企業の農薬の生産状況及び公害防止対策の実態を確実に把握し、事故の未然防止に努めること。農薬の生産に際して環境保全上の事故が発生した場合には、速やかに、その原因、対策等の概要を当局植物防疫課に報告すること。

2.現地における農薬の安全使用に対する技術指導に注意されたいこと。また、農薬の使用に伴なって人畜、農作物、水産動植物に対する危被害等の事故が発生した場合には、速やかに、その原因、対策等の概要につき、当局植物防疫課に報告すること。

3.海外投資は、現在、貿易外取引の管理に関する省令(昭和38年大蔵省令第55号)により日本銀行への届出制となっているが、今後、農薬製造業に係る海外投資については、日本銀行に対する届出後に関係資料(公害防止施設の整備計画等)の写しを当局植物防疫課あてに送付すること。
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作成:2001-07-23